幸せの黄色いキッチンカー3
「コイツはいったいどういう事でぇ?」
デケェな。なんか強そうなアンチャンがが来ちまったぞと。しかし…… なんだろデジャブー? ビュー? どっかで見た顔だな。
「それがですね……」
「まさかそこの神官さんにいいようにあしらわれたんじゃねぇだろうな?」
「ひぃ!」「すんません!」と居住まいを正すチンピラーズ。
「と言ってやがすがね」じろりと睨み、じりと距離を詰めるおあにいさん。別にタイプとかではないが中々の面構えでイイ男だ。かなりの貫目に見える。
……どうすっかな?。
「なぁにツレ同士仲良く飲んでちょっとじゃれてただけさ。なぁそうだよなオマエラ?」
『……』
いや、そこは乗っとけよ。叱られんだろうが。
男は深くため息をつき。
「……姉さん。すんません。ですがうちらにも面子ありますけん」
「……だよなぁ。んっ?」
「………? …………!?」
顔を見合わせると互いに固まり一瞬だけ此方が出来た不思議な間に先に解答に行き着く。
「構えろよ」ぶっきら棒に俺が言い放つとおあにいさんは最初は怪訝にしかし次に喜色帯びて「お、応!」と答えてきた。
奇しくも同じ構え。手は開手で右手と左手を前後に互い違いに出す。足は左を後ろ。
仮に刀を持たせればそのまま中段の構えが成立する。
「同門……」
クラウ嬢が呟くかその通りだ。
「えっ?」と鳩豆なのは店主。
俺の技はほぼ我流の喧嘩殺法みたいなもんだがそれでも根っ子にあるモンがある。
ガキの頃近所に住んでた神社だか寺だかの住職だか
神主のじい様に教わった剣術が元だ。
あのじい様がこっちに来てるとは思えない。可能性は無くもないが。
となると一人だけ心辺りがあった。
「行くぜ!!」どう考えても守り固めて待った方が良さそうだがそれでも行った。
払い、受け、突き攻防が続く。
アカン。いやスゲーわ。デカい癖に小回り効くし兎に角重くて早くて間合いが遠い。要塞を相手にしてる気分になる。
「にゃろう!!」方針を変えた。
パァン!! 大きな音がする。
自分よりデカいのの攻略法は一つ! 末端から攻撃する! だ!!。さっきの応用で手足をひっぱたいてやった。
顔を顰める兄貴分。
「あ、そうか凄いアレ鞭打だ。鞭打。女子供の技だ。初めてみた」
店主が騒ぐ。
「べいだー?」
クラウ嬢が小首を傾げる。
いや多分違うから。どんな怪人だかモンスター想像してるか知らんが。
「〜♪」パシンパシンと痛そうな快音が走る。
「……っ、それ止めにしません? 無駄に痛いんですけど……」
「痛いか? 痛いか? 痛いんかぁ? ああ!? そうかそうか、ざまぁーみろ、ぐふふ」
「それ駄目! その笑みはアンタが浮かべちゃ駄目な奴! ……あ、くっそ痛ぇ! コンニャロ! 止めないなら自分も!?……」
「よし止めよう。男らしくないのは良くない!」
「いや、やはり自分も一回位お返ししとくべきでわ?……」
「やめろォ! 男らしく無いぞォ!! 男ならグーで来い! グーで!」
「女の子にグーも無いもんだと思いますけど…… そうも言ってられんか。よし行きますよ」
「応」
激しく組手争いというか攻防を繰り返す。投げてやろうと思ったが大樹が大地に根を張ったような安定感。気の所為だと思うが丹田から天地を貫く光の柱が見える。
勘弁してくれ。ちなみにチンピラに投げを打たなかったのは下が石畳なので受け身を知らんと文字通り“必殺”になっちまうからだ。コイツならいっかーとか思ったがそれ以前の問題だった。
とか思ったら勝機!
脇がガラ空き……。な訳ねぇ! ままよ!
誘わるようにいや結果から言うとまんまと誘われたんだが右の肝臓付近を狙って左拳を打ち込む。
何時もなら拳を傷めないように掌打なんだがリーチを惜しんで拳で行った。厚い筋肉を撃ち抜く為の徹甲弾の筈だったんだが……。
ミートの瞬間、筋肉が膨れ縮んだ。
筋肉の収縮だけで打点ズラされてかつ受け止められた!
背中に冷たいモンが流れる。バケモンめっ!?
こっちの動きが止まる。右膝! 躱せない! だから乗る! そこでヤツの体幹のインナーマッスルが唸りを上げてそこから二枚蹴りが飛び此方の胸部を打った。
派手にぶっ飛ばされる俺。
宙で良かった。地面にいて力のベクトル下方向だったアバラ全滅コースだ。蹴りはただの突き飛ばしで撃力は低い。勿論手加減されたのだ。
コノヤロ!
「ああっ! クッソ痛ぇ!」ヘッドスプリング気味跳ね起きる。
外野から
「揺れる!」
「暴れる……」
と声がするがお前らどこ見てやがる。ちょっと黙っとけ?
それはともかく相手の手強さに嬉しくなって更に攻撃する。軽く手技の後、渾身の右のハイキックをくれてやる。
「あれは天の道を征く者のライダーキック」
なんだそれわ。
同じく右のハイキックでブロックされた。柔らかい。受け止められた!? 本当にどういう体幹してやがる。イカン完全に勢い殺された。死に体になる! こなくそ! と切り返しそのまま右後ろ回し蹴りに移行する。
が向こうは此方の蹴り足を透かしてやはり左の後ろ回し蹴りで、あろうことか此方の蹴り足に合流制御不能なレベルに加速して俺は独楽のようにまたもぶっ飛ばされた。
ぎにゃー!!
か、勝てねー!! 一つ一つの技で二枚も三枚も上行かれてる。体格も筋肉量も遥か上。その癖、身のこなしに差がない。いや見栄を張った向こうが多分ちょい上。
解っちゃいたがとんでもねー!
地面に座り込み片膝をつき俺は悪態をつく。
「なんだ最後!! 教えてねーぞあんな隙だらけのアテにならん大技!」
俺が爺さんから教わった型に蹴り技はない。教わったのが初伝以下だから無いのか流派自体にそもそも無いのかは知らん。けど踏みつけは教えて貰ったな。そんなわけなので当然そんなん教えてない。あれはただのケンカ殺法だ。
「……切り札なのかと思ってました」
「……そうだっけ?」上段の蹴りは見覚えられる程そんな多用した覚えは無いんだが。まぁ面倒くさくなったら蹴ってたかな。そうかな。そうかもしれん。
頷かれた。
むぅ。
傍から見てそれなら当時の俺、結構苦戦してたんだな。わりとどうにもなんなくなった後の博打で蹴る事多いし。
「あー クソ。負けた負けたァー」髪を掻きむしりお手上げのポーズ。
「あんなチビだった癖に強くデッカくなりやがったなぁ。ヤガ」
俺は三十年ぶりに会った弟分に声を掛ける。
「ウス」
大樹のようなその男は男が惚れそうな笑顔で莞爾と笑った。
ウホッ。