幸せの黄色いキッチンカー2
「ちょっと待て」
自分も立ち上がる。
「なんでぇテメェは!!」
「通りすがり…… でもないか。ここの客だよ。せっかく気持ちよく飲んでんだから邪魔せんでくれるかなー」
「テメェこそ邪魔すんなこのスベタ…… ってなんだよ中々いい女じゃないか」
へへへと笑う若衆。あーもうガチのどチンピラだよ。どうしよう面倒くせぇ!?。
「そりゃどうもこの面が気に入ったならさっきの店主の条件に加えて俺が酌をしてやっから大人しく、ご馳走になって帰れよ。子供苛めて楽しいか?」
「ああ愉しいね! 弱いやつを嬲るのはサイコーだッ!! ガキなんかに舐められてたまるかッ!!」
ん?。
ん。んんんー? アレなんかヤケクソっぽい?。
本意じゃない。とか?。
さてどう引っ込みつかせるかだが……。
「あーもうメンドクサイ。どうにでもなれー」
トコトコ前に出て行き通りまで歩いた。
手をパタバタ振って
「来いよ上下ハッキリさせた方がスッキリすんだろ? お互いよ」野良犬の作法なら俺はよーくご存知だ。
神官である今やる所業じゃないから自重しようと思ったが三つ子の魂なんたら。
「テメェ!?」
「だからさっさと来いよ。女に舐められてテメェの男が立つのかよ?」
まぁ女に手を出してもメンツ丸潰れだと思うから恨み買うだけの駄目なやり方だなーと思いつつ思考誘導すべく言葉を重ねる。
我ながらちと好戦的だな。地味に呑みを邪魔されて
気が立ってるかもしれん。
「なんだ玉無しか」ここまでやったら負けたら犯されても仕方ないレベルだな。
「テメェ!!」
鶏冠に来すぎて一人掴み掛かってくる。あーあ、二人同時にくりゃまだ芽があったもんを。
大振りに来た右を左手で打ち払い崩す。
おいおい女の子に
「グーは止せグーは」
右下に流れた上体に上から鞭のような平手のハエ叩きを力いっぱい叩き込んだ。この時撃ち抜かないのがコツだ。当てたら引く。
背中を押さえようとして悶絶するチンピラA君。
痛そう、けど悲しいかな体が硬すぎて背中に手が回りきらない。膝をついて倒れる。止め刺すならここで顎を蹴りでカチ上げるんだが……。
路上の喧嘩ならいや喧嘩だけどこれはクンロク気味の教育だから後々障害になりそうな追撃は控えた。
暴力のプロだから加減も解る。ただ感情のまま振るえばいいってもんじゃない。痛撃は与えても怪我をさせないってのかプロってもんだ。その辺りのドチンピラとは違うのですよ、どチンピラとわ。
結局、腹を蹴るフリをして腹に蹴り足をちょこんと当てた。
手加減したと伝わりゃいいんだが。
「おら、そっちも来い」
「……」しかし来ない。いやジリジリ距離を詰めて来ている。こりゃまた慎重な事で。
ならと無造作に間合に入り相手の行動の誘発を狙ってみる。
チンピラBは一瞬の躊躇の後、勢いを利用されないために敢えてゆっくり手が伸ばされる。
ならと思い切り頬を叩いてやるべく右手をオーバースイングで引き勢いをつける。
チンピラBは「勝った!!」と笑い両手で受け止め此方を捕らえようとする。うんまぁ、お前さん鈍臭そうだけどさっきの奴より力持ちみたいだから勝ち筋として悪くない。受けて捕まえたらそっちの勝ちだ。
けど。
パキャっとしてはならない音がする。
音源は男の股間。そこなの俺の俺達の御用達、十八番のノーモーション ヤクザ☆キックが大事なトコにめりこんでいる。
あ、オーバーキル。やべ。
実戦から暫く離れてたから目算が狂った。
声を出さすずに断末魔ならぬ男末魔の悲鳴を上げるチンピラB。
「あ、あちゃー」暴力のプ☆ロ失格。気軽に蹴り上げていい場所ではやはり無かったね。うん。それはともかくまだやるかい?」
「ヒッ……」
復活して立ち上がったチンピラAが内股になる。
うん。俺も無い玉金がヒュンってした。
「ヒィ……」店主が巻き添え食ってる。正直所々多方面に悪かった。
ああ、うん解るよ。すっごく。あら血の泡噴いて股間に赤い染みが……。
「すまん。やり過ぎた」こうしないために出張ってきたのに阿呆か俺は。
ギリッと唇をかみしめて抑えられない復讐心にギラつきこっちを睨むチンピラA。
「治してやりたい。一旦納めてくんねーかな」
「な、治るのかッ!?」
「くぴぃ!!」潰れた豚みたいに鳴くチンピラB。
「神様に縋るよ」
俺が治すわけじゃない。治すのはあくまで俺の神様。俺は人と神の仲立ちをするだけだ。
別に喧嘩したまま片手間に祈れない訳じゃない。
が今回は俺のやらかしの後始末。神様にケツ持って貰うカタチだ。これは大変バツが体裁がよろしくない。子どもの喧嘩に親が出張るようなもんだ。
そこはせめてキチンと形式整えて御祈りするのが筋ってもんだろう。
「解った…… 相棒をビリエリを助けてくれ……」
「納めてくれてありがとさん」
チンピラB、もうBでいいや。の傍らに片膝を付き右手を極部の上に翳し祈る。
「いと高きにおわす我が女神、転生の女神よ。願わくばその僕に御身の輝く御手をお貸し下さい。昏い道を往く巡礼者に立ち上がる為の暖かみを目印となる灯火をお与え下さい」
結印する。背中が熱くなり光る。
「オン カカカ ビサンマエイ ソワカ」
自分の守護神として転生前から信仰する御仏の真言を唱えて力ある言葉にする。こっちの神ではなく自分が帰依する仏に祈念する。権現ってやつだそうだが俺もよくわからん。こっちの神様が俺に解りやすいようにして顕れてくれてる? らしい。
癒やしの力が手に宿る。本当は接触した方がいいが
…… 止めとこ。痴女じゃあるまいし。
「うし! 治ったぞ!!」
「本当か!? 良かったな!!」
「エンリケェェ!!」
涙目で二人抱き合うが怪我して無い方エンリケが血塗れのビリエリ? に 「うわ、汚えっ!? いや、いいや、良かった! 良かった!」とか言いつつもう一度抱きあった。
そんな悪い奴でもないか。まぁこの手の連中は身内にはまま甘かったりするもんで不良! 雨! 犬! 傘! 良い奴! みたいなもんだが。
「あー 治った? じゃあ続きすっか」
屈伸して立ちあがり一歩下がって自然体で構えた。
あ…… 困ってる。いや、そこで困られると俺も困るんたが。
「テメェらそこで何してやがる?」
「あ、兄貴!」「若頭ぁ!」
お? 話しつけられるのが来たかな。