地走り番外地9
「さてと。長物持った俺はちょっとつぇーゾ?」
刺股のバランス確認に軽く振り回し一気に打ち掛かる。
「ブッコロス!!」神官にあるまじき暴言を吐きながら暴れまわった。
周りが一歩引いたが見なかった事にする。
そこからは圧倒的だった。
上に下に足払い。倒して追撃とやりたい放題だ。
しかし決定的には程遠かった。
有利になったがぶっちゃけ火力不足は変わらねぇ。
ヤッパがありゃ一人でもヤれるんだが、刺股は捕縛用たからな…… 一応実践武器としてのトゲトゲもあるがそれが有効なのは対人であって対不死者ではない。だってあいつら痛いとか思ってくんねーんだもん。聖別すりゃ別だが。現に今は王国の強化が入って痛みはある筈だ。あるんだが嫌がらせにしかなってないな。例えるなら百万発殴る必要があったのが一万発におまけしてもらえた感じだが結局人間に可能とは思えん。無論それしかないなら殴るが。
王国の展開は長くは持たない。士気が落ちれば共通の目的が維持出来なくなるからだ。それはある程度信頼関係の醸成や訓練、なんなら国のプロパガンダが必要なものだ。急造のチームでやるもんじゃない。
本来は大規模儀式神術に属するモノだ。
短期決戦が必要。なら、此処!!
「くそぉ!」と黒が立ち上がる。不死者にしちゃ元気いいな! なんか良いことあったかよ小僧が!!
あ、今、俺ちょっと昔の爺ちゃんみてぇだな?
と昔世話になった近所の爺ちゃんを思い出す。宮司だか住職だか忘れたが剣のいろはを教えて貰ったのだ。よくこんな風に転がされてたから黒が昔の自分とダブる。
!? そのせいで手元が狂いかけた。が、黒の体勢の復旧に合わせてヤガの娘、衛士に声をかける。
「代われ!」一声かけて下がる女衛士を尻目に新しい真言を唱える。刺股持ってるから印は省略。
此処で決める!!
「ノウマク・サンマンダバザラダン・カン!!」
小咒あるいは一字咒と呼ばれる真言だ。ちなみに長い方は覚えてねえ!!
不動明王剣弍式!! 刺股を媒介に不動明王の倶利伽羅剣を召喚、纏わせる。普通のとの違いは芯があるかどうかでコレのおかげで実体を受けれる。逆に受けられもするようになるんだが、通常版の壱式はつい普通の武器持ってる感覚で使っちまうからぶっちゃけ危ないので弍式の方が使いやすい。
んだが……
劫! 劫! 劫!! 手元から大火柱が上がる。刺股の幅どころじゃねぇ、希臘の神殿の柱に使われそうな極太のだ。
「ふぁ!?」こんなの知らねぇ!?
思わず刺股式不動明王剣を取り落とす。や、だってね? あの炎、俺にも効きます…… んですよ?
いや、待って欲しい。人間生きてたら何かしら罪業、ヨゴレというかね? 穢は溜まっているもんでね? 焼かれない為には水垢離精進潔斎してね? 禊しないと駄目なのです? だからね俺も何もしないで食らうとこんがり焼けちゃうんだ?
一切の穢を灼き尽くす不動明王の剣だからね?
で魔力の話なんだが、王国展開で魔力つかってるけど支援もあるからそこら辺はまぁ今はプラマイゼロです。
つまり剣の維持は持って三十秒。
それを手元でびっくりファンブル。
……終わった。嘘でしょ? マジどうしよう。
ゆっくりと足元に落ち続ける刺股。脚で拾う? この炎の丸太と化した刺股を? 冗談、無理。
手で拾う? それしか無い。時間? 足らない。
解ってる。
詰、ん、だ!!
「あ」
炎の丸太は先端でブレて大きく前方周辺を薙ぎ払う。
たまたま。たまたま黒の半身を薙ぎ払った。
ヨッシャ!?
しかし前線から下がる女衛士も丸ごといった。
ぎにゃー!? やらかしたーー!!
ヤガ夫妻への土下座行脚が脳裏を過る。いや焼き土下座かな!?
「きゃー!!」
きゃー? 随分可愛い断末魔だな? おい。
起こったであろう惨劇を見たくなくてて戦闘員にはあるまじき思わず目を瞑ってしまったが、きゃー?意味がわからん。見たくない。そう見たくはないががそうもいかず女衛士を見やるそこには浄化炎に焼却された女の消し炭が…… 消し炭…… え?
無かった。
見たらそこには全裸の女衛士が。彼女はがしゃがみ込んで我が身を抱え羞恥の悲鳴をあげていた。
え? どゆこと? 無傷? は?
理解が追いつかない。
『おぉぉ!!』
突然の女神の降臨(背中超綺麗)に盛り上がる男性衛士と店主。おひ店主、今おまーは女の子だろがよ。このおっさんが!
喜びやがったガキ共に教育的指導をくれてやろうかと思ったがそれより彼女の保護が先。
手近な衛士から上着をかっぱごうとしたら年傘の衛士が彼女に上着を差し出した。俺の巫女服一枚布だから渡すと俺が裸になっちまうんだよね。下はズボンだ。蹴るから。
とりまナイスジェントル!
サムズアップで讃えておいた。あまり若い女に興味無い年傘の衛士が若いもんに教育的指導を行っている。頭はたかれたり拳骨だったり。店主は俺があとで叩こう
さて、黒である。
左半身が泡立つように焼け焦げ辺りが人の焼けるタンパク質の匂いが辺り一面に振りまかれる。
ということも無く。浄化炎だもんな。匂いの粒子まで綺麗に消えてるわ。
あれ、ほんと嫌な臭いなんだよな……
左腕と左脚に被弾しキレイに消し炭になって等の本人は何が起きたのか解らず地面を地虫のようにのたくってる。なんつーかすまん。締まりのない決着で。
あんまりにも咄嗟で避けきれなかったみたいで助かった。コイツの機動力を考えるとマトモに振ってもかわされたかもしれんし……
運が良かった。
神のご加護だな。
後でしっかり祈ろう。
既に炎の消えた刺股を拾い構え、黒傍らに寄り、不動明王真言を唱える。
「お前には恨みがないが、ここにいちゃいけねぇよ。子供を助けるという俺の誓いからは些か外れるが仕方なし。丁度よい説教が思いつかんのでな。素直に我が本尊地蔵菩薩の御手に委ねるとしよう。何、怖くはないさ。焼かれた身も本当は痛くないのだろう? 死者は死体は何も感じないし思わないものだ」
「チクショウ、ズルいズルいズルいズルい! なんでお前ばかり仲間を呼んでるだよ」
「悔しかったら呼びゃいいだろ」
それを待ってやる理由も無い。会話はもう十分だ。
大上段に構えた炎の刺股を振り下ろした。
振り下ろそうとした。
勘。ですらない。それは明確な神託だった。
“そこから離れろ!”
即座に刺股をを投げ捨て沈み込み低い軌道で前回り受け身をとりトンボを切る。
背中で発せられた。「聖女様!?」の、せの音が形作られる前に行動を終了する。
トンボを切る途中で背後に見えたのは、黒衣の剣士が先ほどまで俺がいた首の辺りを剣で薙ぐ瞬間だった。
嘘だろ! 気配も何も無かったぞ!? 一瞬で何処からかあの数の衛士の防壁と警戒かいくぐったってのか。
こいつ黒よりヤベー!?




