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地走り番外地3

「こちらです」

 と若い女の衛士に案内されて詰め所奥の地下留置所に爺さんと赴いた。


 先導する女の背中を見た。


「ふむ」


「若過ぎるが将来性のある尻じゃな」


「ぐーで殴るぞ」

 こっそり殴ったが止められた。ちっ、相変わらず無駄にいい聴勁ちょうけいしてやがる。存在を知覚されてる限りジジイに不意討ちは効かんか。


 女の衛士は少ないしこの娘がヤガの娘かね。妻のミッチ似でかわいい。かも知れない。そういや如何せんまだミッチに会って無いんだよな。どんなんなってるかね?


「ふふん?」

 ジジイが得意そうにチッチッと空いた手の指を振る。



「ジジイ、他所様の娘に変態は働くな。神殿の恥だ」


「やらんわ。相手ぐらい見とる」


「俺相手なら無罪ってワケじゃねぇからな?」

 一応釘は刺して置く。


 しかし中々鍛えられてるお嬢さんだ。歩いてて上体が欠片もブレない。頼もしい背中だな。

 歳の頃は十代後半か二十の頭くらいか。背丈は西洋系にしては小さい。百七十くらい。俺と変わらん。

 髪はセミロング? ってヤツかな。肩口でバッサリいって紐で先を括ってる。武器は腰の左右にトンファーを提げてる。扱いが難しい武器だが衛士向きのいい武器だ。リーチが短いのが玉に瑕かな。まぁ屋内の取り回しはいいから必要ならそん時持って行けばいいのでいいチョイスかな。普通は槍か棒だから特殊な装備が許されてる辺り実績もあるのだろう。


 ジジイみたいでイヤだがおっぱいは俺のが巨きい。

 が嬉しくはない。邪魔なんだよコレ。


「すけべ」


 一緒にすんなや。


 ジジイの暴言に無言、またも裏拳で突っ込んだが躱された。チッ。


 そこはともかく。


 番所に踏み込んだ時から感じてた違和感が自分の中でカタチになる。


 これは…… 瘴気。本来は山河、沢などに溜まる病気をもたらす悪い空気の事だが今ここでは意味が違う。


 仄かに香る。それは昏い闇から漂う腐った潮の香りだ。もっと有り体に言えば……。


「ジジイ」


「なんじゃ?」と怪訝に返された。


「え?」ジジイなら解ると思ってたから戸惑った。


「此処です」


 どうやら着いたらしい。牢の中を見た。中の誘拐犯はうだつの上がらない辛気臭い血の気のない青いツラしてやがる。


「う…… ん?」ジジイがようやく首を傾げた。

 おいおいマジかよ。


 今、気が付いたのか! あのジジイが!?


 ゾッとして牢を伺う。そして俺は嘲笑った。


 アッハハハ。青筋立てて内心でぶちギレる。


「そうかそういう事か。こりゃ喋れねーわ。鍵借りるぞ」


「あっ、ちょっと待って」


 衛士の静止を構わず鍵を開けて入る十字に貼り付けになってる誘拐犯に向かい頭、上から下まで見る。


 誘拐犯はあ゛あ゛あ゛っと呻きをあげる。怯えているのだ。知性は多分無いはずなんだが。


 冥府の門が開いている。あるいはそんな風に感じているのだろう。お散歩は終わり。なにそう怖いもんじゃないさ。


「胸? いや…… こっちか」

 俺は相手の顎を掴んで口に指を突っ込み目当ての物を引き当て引きずり出した。


「おい、酷いことをするな。噛まれ……」爺さんが忠告を言い切る前だった。


「蟲…… いや符の方か」丸まった邪教の符術の札が俺の手の中で青い炎をあげて燃え上がる。俺の持つ女神の加護に札の力が押し負けて焼き切れたのだ。当然俺にはノーダメージ。


「酷くねぇよ。酷えのはコイツをこんな風にしたヤツ」顎をシャクればそこにあるのは一匹の亡者。


 掛かっていた幻術も打ち破り正体を表した。

 辺りに濃密な死臭が漂う。


 ゾンビ、アンデット色々言い方はあるがコイツは……


僵尸キョンシーだな。大陸にいた時に相手をしたことあるわ。あんときゃ撃っても斬っても死なんから往生したよ」


 札を失いここにはいない道士の制御を離れた僵尸は生者の血だか肉だかを求めて暴れ始めた。常人には不可能な手枷を打ち付けた板から引き千切り此方に手を伸ばす。


 往生した。のは昔の話。女神の加護、聖女の力がある俺には、このモノはただの憐れな迷える魂でしかない。我が女神の威光の元、流転の旅に還すのみ。


「やれや……」れ。と最後まで言う暇もなく。


 ジジイが柏手を撃った。それだけだった。それだけでそれ一発で僵尸は浄化され土に戻った。臭いすら消えてる。


 曰くヒトの身体の構成は


 水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g。 イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素。だっけか。


 後は大量の術者の悪意で構成されていた亡者キョンシーは爺さんの祈りで見事に吹き飛んだ。


 サスジジ。


 祈りの所作が完璧だ。加護持ちの俺でもあんなに早く神と接続出来ん。単音節ぐらいの呼び掛けは実際に言葉にするしないはともかくいる。


 これが神殿長の実力か……。すけべジジイの癖に。

 なんか釈然としないものを感じつつ。


「なるほどな亡者あれでは喋れぬ」


「だな。……証拠まで浄化けさなくて良かったかと思うが」


「臭いが酷くてな。あんな臭いを纏って神殿に帰ったらカタリナ辺りにドヤサれる」


「現場仕事だと日常茶飯事なんだがな」


「いや、浄化使えてほっとくのが不味いじゃろ。それになんか出てくると思うか?」


「思わん。けど来てよかったこれで相手がだいぶ知れた」


「うむ。儂を惑わせる幻術の使い手と……」

 ぐぬぬとジジイがぐぬってる。


「僵尸を操る道士がいるな。或いは同一人物か」


「多分同一人物じゃろ」


「根拠は?」ちなみに同意見だったり。


「術が見事過ぎる」


「確かに。人間の届いていいレベルかどうか悩むな。なら二人じゃねーの? 人間には極められないぜ」

 まぁじじいみたいな半仙人みたいな例外はあるが。


「人間では無いのだろう」


「それが一番ありそうかな」ここまで死を操れるのだ。当然自分も僵尸化してるだろう。なら功夫を積む時間は山とあったろう。ちょっとしたリッチ並の可能性がある。いや大陸系ならもうちょい起原は古かろう。うっかり始皇帝の墳墓に踏み込んだ時の事を思い出して血の気が引く。あんときゃウチの遊撃隊全滅したんだよなー。桃太郎が来なきゃ死んでた。


 厄ネタが確定したが…… 困った職務上逃げられない。


「おい、ジジイ。これ下手すると竜害より厄ネタと違うか」あちゃーと顔を手で覆う。


「なんじゃ逃げても構わんぞ?」


「うるせー!! こちとら男の子!! 誰が逃げるかてやんでぃ」ま、逃げる時ゃ逃げるけどな。

 生き延びて最後に勝ちゃいい。


 取り敢えず力瘤作ってイキっておいた。


「とまぁこういう事だ。上にかけあって第一級の警戒態勢を頼むぞい」と衛士の娘に爺さんが促すと


「いえ、それならご案内しますから直接お願いいたします」と返される。


「あー そうかジジイが証拠砕いたから説得力のある物証ないのか」


 ジジイしまったという顔。


「むう、ギンよそなたが報告しても聖女なんだから説得力変わらんじゃろ?」


「今の俺見て聖女だって知ってるヤツほぼおらんだろ。こんなチンケな小娘の話を聞いてくれんのか?」


「やはり一度ちゃんと帰還のお披露目せんといかんな」


「止めとけよ。もう今代の聖女活動してんだろ? 紛らわしいから止せって」


「うむぅ。じゃがそなたが正当に評価されんのも儂、イヤなんじゃが?」


「気持ちは嬉しいがぶりっ子しても駄目だ。ほれ行くぞ」


「しょうがない案内してくれ」


「解りました」と手早くやり取り。なんか目が会っておや? なんか言いたげ。聖女に興味あるんだろうか。中身知らなきゃ聖女は女の子の憧れだもんな。実際は墓掘りなんだが。葬儀人だったり。

 




衛士のお偉いさんと合う道すがら。


「しかし凄いの。どうやって幻術破ったのじゃ?」

 儂判らんかった! とはしゃぐジジイ。


「ありゃ聖女の加護だか、すきる? だよ。俺は悪意のある誤魔化しや虚偽を有形無形見破れるんだよ」


 それは破邪顕正の力。


 聖女は一種の洞窟のカナリヤ。異常を発見し治癒する。そして自分の手に負えなきゃそれに対処出来る人間つまり勇者を呼ぶ呼び水でもある。


「なるほどのう」


「こっちも聞いて良いか?」


「なんじゃ?」


「なんでそんな接続早いんだ?」


「はぁ? なんじゃそんな事…… ふむ」


「なんだよどんなコツなんだ?」


「教えん」


「なんだそりゃ! 俺は教えたぞ!」


「何、大した事じゃない。考えたらすぐ解る。だからこれは課題じゃ。もし解ったら言え。褒美の一つもくれてやろう」とジジイは楽しそう。師匠ヅラ出来て嬉しいのだろう。


「むぅ……」簡単な事。考えれば解る事。


 なんだそりゃ。


「此処です」と衛士の声。


「よし行くか」


「ちょっとタンマ」と言って手鏡を出して軽く身嗜みを整える。


「なにやっとんじゃ急に色気付きよって」


「見ての通りだよ。カタリナに言われてんだよお偉方に合うときは身嗜みちゃんとしろ! って」

 苦虫を噛み潰したようなツラでジジイを見た。


「儂にも貸してくれ」マジ顔だった。


「いいけど要らんだろちゃんとハゲてる」


「なにをー!?」


 愉しいレクリエーションの後お話合いは始まった。

ぶるーどらごん二部はよ!はよ! まだ……待ってる!

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