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残りの生存者

「ん、まぶし……あ、もう朝か……」


ぼやける視界の中、入り口から差し込む朝日に異様な眩しさを感じて目を開ける。


「起きて蒼、出発しなきゃ」


横で眠る蒼を起こし、忘れ物がないか確認して洞窟を出る。正直ここに閉じこもっていたいのはやまやまだけど、食料がなにもない以上ここにいても飢えてしまうだけ……だから何か私たちが食べられるものを探す必要がある。


私たちがと言ったのはサバイバル技術が必要なものはNGという意味だ、目の前の熊の死骸とか血抜きしてどーのこーのすれば食べられるのかもしれないけど、昨日削いだ肉に口を近づけたら血と獣臭さでとてもじゃないけど食べ物と認識できなかった。


「でも、行く宛とかあるんですか?」


「実は灯台の上から見た時に、この島の中心部に変なドーム状の建物があったんだよね、端末の地図でも確認したけど確かにあったし、そこまで行けば何かあるかも」


不安げに聞く蒼に、私は既に目星をつけていた場所のことを教える。それを聞いた蒼は、更に不安げな顔になっていく。


「そんな所、他の人が既に探しているんじゃ……それどころがそこを拠点にしてる可能性も……」


「最初に端末の男が言ってたでしょ、この場所には13人の被験者がいるって、私は既に死んでる人を5人把握してる。そして居場所が分かってる人を3人分かってるから私たち含めると5人の位置を把握してる。つまり、全く分かってないのは3人だけ」


残ってるのは私と蒼と刺青の男とスキンヘッドの男、そして灯台で見た単独行動の人影とまだ出会っていない3人……刺青とスキンヘッドは船着場にたむろってた、灯台の人影もあの辺りをうろついている様子だったし、中心部を根城にしているとは考えにくい。それに、もう午後を過ぎていたあの時間なら、中途半端な所で夜を過ごすのは危険と考えてあの場に留まるはず。


「中心部を根城にしているとしたらこの3人、その3人もまだ生きてるかわからないから、中心部には誰もいない可能性がある。場所を把握している他の3人も海沿いにいたから今から出発すれば先にその施設に入り込める」


危険な賭けだと自分で言ってて思ってしまう。3人なら一組になって行動してる確率より、死んでるか、別々になっている可能性の方が高いけど、例え一人でも危険なのは変わりない。それに二人組の男たちや灯台の人影が夜も行動してたならもう中心部に到着しているはずだ。


「でも……」


「不安なのはわかる、でも行かなきゃ助からない……灯台で見つけた銃を渡すから何かあったら迷わず撃ってね」


銃を受け取って「はい……」と小さく返事する蒼、無理をさせていることは重々承知で荷物の確認を済ませると、ライフルを持って洞窟を出る。


洞窟周辺の死屍累々は1日経っているせいか虫の羽音が聞こえる状態となっており、蒼が「うっ……」と声を漏らす。


「あまり見ないように進んでいこう、死体に気を取られて獣に襲われるかもしれない」


血の匂いに誘われて猛獣がいるかもしれない、それを理解した蒼が青ざめた顔で前を向いてライフルも持つ手に力を入れる。


「何かあったら絶対に言ってね、なんとしてでも二人で生き残るよ」


「……はい!」


自らを奮い立たせるような蒼の返事を確認して、私たちは森の中を中心部に向かってる進んで行った。


………………


「まだ……つきませんか……?」


もう何時間歩いただろうか、流石に疲れた声を出して蒼が立ち止まる。


「ごめんね、かなり距離があるのは分かってるからちょっと無理をしちゃった、少し休もうか」


近くの木陰に腰掛け、残り少ない水を二人で分け合う。すると、どこからか戦闘音のようなものが聞こえてきて、私たちは咄嗟に身を隠して周囲を確認する。

「残念だったな、どんな覚醒をしたのか知らないが、特殊な力を使えるのはお前だけじゃないんだ」


「こっちに誰かいる……」


声のする方をこっそりと覗く、すると二人組の男女とそれに対峙する一人の女性の姿があった。


「追い詰めたわ……!大人しくやられてよ……!」


一人でいる方の女性が二人組に対して、確かサブマシンガン?とかいうやつを構えてにじり寄る。どうやら仕掛けたのはこっちからのようだ。


「随分と焦燥してるわね、どうする藍人(あいと)?」


「どんな能力が覚醒したのか知らないが、そんな機関銃程度じゃ分が悪いぞ」


「うるさい!」


女性がサブマシンガンを乱射する。どうやら彼女自身使い方を分かっていないのか、あまり狙いが定まっておらず、使っているというより使われているような印象を受ける。


「アホね」「(れん)、右から回り込め」


既に打ち合わせでもしているかのように、二手に分かれて左右から大きく回り込む。


どちらかに狙いを定めなければならない状況に、焦った女性は男の方を追いかけるように発砲していく。しかし男のスピードは女性の狙いよりも早く、全く当たる様子はない。


「ッ!?弾が……!」


「マヌケね」


当然、弾丸には限りがあるのでサブマシンガンの弾が切れて、カチッカチッとトリガーだけが虚しく鳴る。そんな彼女の背後から女の方が飛び出す、その手には刀が握られており、使い慣れているのかのように素早く斬りかかった。


「くっ!」


素早く体を捻りなんとか斬撃を回避した女性は、すぐにポケットナイフを取り出して女に反撃を繰り出す。


女もそんな動きは読めていたらしく、ナイフを捌くと軽い身のこなしで女性の脚を後ろ回し蹴りで崩し、それを受けた女性はダメージで顔を顰めつつ、それでも女を捕まえて組み伏せようとする。


「目の前のことに必死になりすぎ、藍人!」


女の合図に合わせて、男がありえないスピードで近づき、手に持ったチェーンソーで斬りつけた。


「え、あ……?」


背中を割られ、呆気に取られる女性、そんな彼女に対して更に女の方が刀を逆手に持って女性の腹に突き立てる。


「ヒッ……!」


そんな凄惨な現場に、蒼が口を抑えながら小さな悲鳴を漏らす。


「ごふっ!?そ、そんな……」


口から血をこぼし、力の無くなった女性の腕を払って、女が男の方へと並ぶ。そんな二人の姿を恨めしく見ながら、女性は地面に倒れて動かなくなってしまった。


「あいつら……あんな動きが出来るって何者なの……?もしかして()()()()人たち……?」


私は今までの人生で武術だの軍隊だのといったに興味がなかった。だからこの人たちの動きがそういったものなのかはわからないけど、少なくとも今までの連中とは明らかに立ち回りが違うことは明白だった。


「行こう蒼、こいつらと関わるのはまずい……」


不明な三人の所在はわかったけど、その中の二人がこんな規格外だとは思わなかった。とにかくドームに向かってなんとか逃げ延びるしかない、後のことは後で考える。


「おい、そこにいる女二人!」


すると、最悪なことに男……相方が藍人と呼んでいた方が私たちの方へと声を掛けてきた。


「いるのは分かってんだ!!さっさと出てこい!でなければ敵とみなす!」


「ど、どうしましょう愛信和さん……」


「しっかりして、私がなんとかするわ」


蒼を励まし、仕方なく男たちの方を向いて恐る恐る顔を出す。すると二人揃って武器を構えながら私たちを睨んでいた。


「ま、待って!私たちはここを通り過ぎたいだけなの!」


「そうか、だがここがどういう場所が分かってるだろ!逃げるだけじゃ生き残れん!」


「だ、だとしても!あんたたちは戦ったばかりで体力消耗してるでしょ!これならお互い戦うのは不利益よ!」


「どうする、藍人」


「ふん、どうやら馬鹿ではないらしい。とはいえ、賢くもなく動きも素人だが……別に今戦っても問題はなさそうだ」


こ、こいつら、やっぱりなにかしらプロなんだ……なんのプロか知らないけど。


というか、なんであの二人の会話が聞こえたんだろう、どう見てもヒソヒソと耳打ちしててこの距離じゃ普通は聞こえないのに。


「……お前、今の俺たちの会話聞こえてたな」


「んえ!?い、いや聞こえてない!聞こえるわけないでしょ!!」


「どうやら……あの女はかなり変化が進んでいるみたいね」


「ああ、逃すと厄介だ、ここで始末する」


こ、こいつら……!なんの躊躇もなく私たちを殺すって言ってる……!ヤバイ、ほんとにヤバイ!


「蒼!逃げて!」「えっ……?」


二人組はあり得ない速度で私たちに近づく、それにハッとなった私は蒼をなるべく遠くに突き飛ばしてナイフを構える。すると、死角となる草陰から男が飛び出し、的確に私のいる場所にチェーンソーを振り下ろしてきた。


「くっ!」


なんとかナイフで防いで男と睨み合う、そうなれば……


「愛信和さん!後ろ!」


後ろから女が刀を構えて不意打ちを狙う、それに対し身を翻して男との鍔迫り合いを解きテーザーガンを女に向かって撃つ。


女はテーザーガンの弾を切って再び刀を構え直す。すると、それを見る私の視界がボヤけて全てが遅くなる。


スローモーションの女に私は素早く近づきナイフを構えた、するといきなり近づいたことに驚いた女は体術で私に抵抗するつもりのようだ。でも、ゆっくりとした動きは全然脅威ではなく、私はすぐに切り返すとそのまま女を拘束した。


「なっ!こいつやはり……!」


そんな私の動きをみた男が何かを確信しながら何かを私に投げつける。よくみればそれは、あの女性が所持していたポケットナイフだった。


私は思わず女の拘束を解いて顔面に蹴りを叩き込むと、飛んできたナイフを弾く為にナイフを構え、タイミングを合わせて打ち合わせる。すると、私のナイフの方が鋭いのか相手のポケットナイフの刃を両断してしまった。


「……ッ!?こいつ!こんな事まで出来るのかッ!?ここで仕留めないと不味い!」


男の表情に明らかに焦燥した様子が表れ、チェーンソーを構えて私を睨む。さっきから気になってだけどあの男はエンジンもかけずに刃を回転させている、どうやってそんな事をしているんだろう?


そんな事を考えていると、男はチェーンソーを構えてながら突進してくる。そのおそらくあの行動はブラフで、他に攻撃手段を隠している……そんな気がする。


私はそれを承知で突っ込み、男のチェーンソーが触れる瞬間に横に避けチェーンソーの刃を横から殴ってチェーンを外して故障させる。


どうやら私がチェーンソーに対してアクションを起こすのは想定内だったらしく、既に片手を外し、その手で懐からバタフライナイフを取り出していた。


私はそれを一瞥すると、重心が乗っている方の脚を蹴って男の体勢を崩す。これは相手がどう動いても切り返せると考えて、最初からこれを狙っていた。


すると、それでも抵抗しようとナイフを構える男の手を切りつけ、それで手の力が弱まったのを確認してナイフを取り上げる。


そして後ろに回るとそのまま肘打ちを背中に食らわせて男を怯ませ、そのコートを掴んで背負い投げの要領で男を地面に叩きつけた。


「藍人!この!」


すると、やっと起き上がった女が刀を構えて私に襲いかかる。とはいえ、先ほど戦ったおかげか動きはなんとなく分かって問題なく女の斬撃を躱すと、腹に拳を叩きつけそのまま下から打ち上げるように蹴りを顎に当てて女を吹っ飛ばす。


「ぐっ……!こいつ、こんなに変化が進んでいるのか!?」


「ねえ、その変化ってなんなの?それさえ教えてくれればもう手出しはしない、でもまだ抵抗するなら手加減はできない」


今までは最低限しかナイフを使わずになるべく殴る蹴るだけで済ましていた。でも流石に体力の消耗が激しいからこれ以上やるなら殺す気でやるしかない……


「……変化というのは、超常的な力が出せるようになる事を俺たちがそう呼んでるだけだ、視界が不明瞭になるのと同時に異常な力を引き出せることから、これはこの状況を作り出したプランダル社とかいう組織が目に埋め込んだ物質の所為だと、俺たちは考えている」


視界が不明瞭?そういや、あのビデオの男が言ってたな、私たちの目に何かを埋め込んだって。つまりあの視界がぼやけて次の瞬間には色々ありえないことが起こってたのって……


「お前とお前の相棒に敵意がなくとも、この島から出るには最後の一人になるまで戦うしかない。だがしかし、もっと変化すればもしかしたら……っ!?」


藍人が何かを言おうとした時、突然私たちの間の地面に銃弾が撃ち込まれる。


「敵!?蒼逃げるよ!」


「煉!何かいる!気をつけろ!」


すぐに蒼の手を引きその場を離れる。仮にあれが牽制や威嚇だとしても、あの場には敵しかいないのだから逃げるのが最善だ。


後ろを振り返ると、藍人と煉と呼ばれてた女が反対方向へと逃げていく。これで少なくともあの二人とはしばらく会わないはず……


「よし、このままあのドームまで一気に行くよ!」


あそこであれだけ暴れたなら剃り込み男とスキンヘッドはここらには近づかないはず……多分。だからここは突っ切って中央に向かった方がいい。


そうして、私と蒼は見上げるほどまで近づいたドーム型の施設へと道無き道を駆け抜けた。

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