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洞窟の中の熊さんと覚醒した怪物

私たちは暗い洞窟の奥から出てきた熊と睨み合う、だが熊はそれ以上のことはせず直ぐに蒼の荷物に視界が移した。


(ん?もしかして……)


「蒼、あなたの荷物を熊に投げて」


「え!?でも……」


「いいから、私を信じて」


恐怖に震えてながらも蒼が自身の荷物を前に投げる、投げ方が上手いのか荷物は熊の鼻先に落ちた。


「よし、蒼はこっちにきて」


私の指示を聞いた蒼がこちらに駆け寄り私は熊から視線を外さずに抱き寄せる、幸い熊もこちらの考えを汲んでくれたのか私たちには見向きもせずに荷物に顔を突っ込んで漁り出した。


「やっぱり餌を探してる、これで一時は襲われない」


「でもこれからどうすれば……」


「隙を見て逃げ出すしかない、最悪荷物は置いていこう」


その言葉に蒼が小さく「えっ……」っと言ったが私はその言葉に返事する余裕はなく、目の前の脅威に攻撃されないよう気を配ることに全神経を注いでいた。


熊の様子が変わり何かを貪る動作になる、どうやら食糧を食べ始めたようだ。


「今のうちに荷物を……」


その時、洞窟の入り口から何やら物音が響く。


「あ!まだいたのか!?」


振り返ると先ほど戦闘をしていたであろう参加者の一人が入り口に立って私たちに銃を構えていた。


どこで見つけたのかゴーグルにヘルメット、そしておそらくこういったサバイバル環境で有効そうなジャケットを纏っており、その武装した姿に私は目を丸くして一瞬思考が停止してしまった。


「危ない!」


そんな私を蒼が押し倒し、私の視界を銃弾の軌道が横切る。


間一髪のところで銃撃を躱すことができたが、その流れ弾は最悪の結果をもたらした。


食事中の熊にその弾が命中してしまったのだ。


「グルォォォ!?」


思わぬ攻撃に驚いた熊が乱入者の男を睨む。


「わわ!!く、熊だと!?」


動揺した男は猛スピードで近づく熊に何度も発砲するがそれに怯む様子もなく男の目の前まで行くと前足で張り手のような動作をする。


……その攻撃を受けた男の頭部が吹き飛び、壁に鈍い音を立ててぶつかり地面を転がった。


残った胴体から噴き出す血が熊と私たちに降り注ぎ全身に血飛沫を浴びる、と同時に私の下半身に温かいものが触れた。


思わずそちらを見ると蒼が失禁しており、その液体が私の足を伝って地面を濡らしていた。


「はあっ……!ああ……!!」


あまりの非現実さにどこか客観的になっていた私とは対照的に蒼は恐慌してしまっており、体がガタガタと震えている。


「……え?はっ!ま、不味い!」


そんな風に悠長に構えていた私だったが、すぐに気を取り直して素早く立ち上がると武器に手を当てる。


どうやら熊は銃撃と血の匂いで興奮状態になったらしく、私たちを獲物と認識しているようで私と目が合うと素早く走って襲い掛かってきた。


「くっ!この!」


私はナイフとスタンガンを取り出し、スタンガンを熊の頭部に撃ち出す。


「グワァッ!」


スタンガンが命中し熊が怯むがそれでも動きが完全に止まらない。


(早く蒼から離れないと、巻き込んでしまう!)


そう考えダッシュで洞窟の奥へ進むと攻撃をした私を優先しているらしく目の前の蒼を無視して私を追いかけてくる。


「よし!あとは……どうしよう!?」


私が持っているのはナイフとスタンガンだけ、しかもスタンガンは撃ってしまってリロードが必要な上、あの様子では効果は期待できない。


「せめてライフルを!!」


私は倒れた拍子に下ろした荷物を見るが、腰を抜かした蒼がそばにいて取りに行くのを躊躇してしまう。


「グルォ!!」


「うわっ!」


既に近くまで来ていた熊の攻撃を寸前で咄嗟に躱し、その脇を上手く抜けて出口の方へと駆け出す。


「蒼!早く洞窟の外へ逃げて!」


私が叫ぶが蒼は男の亡骸がある方を向いたまま硬直しており、私の言葉が耳に入っていない様子だった。


「グルォォォ!!」


急に視界がぼやけたと同時に後ろから凄まじい気配を感じ振り返ると、既に真後ろまで来ていた熊が前足で引っ掻こうとしていた。


「なぁー!?」


思わずよくわからない悲鳴を上げ、ぼやける視界の中をスローモーションな動きで迫る熊の攻撃を寸前で躱す。


「あっぶな!」


体制を崩しながらもなんとか距離を取り、ナイフを構えてこの状況を打開出来ないか思考する。


(ここは一旦洞窟から熊を連れて出るべきかも……それからなんとか撒いて戻ってくれば……)


「こっちだよ!」


そう考えて熊を挑発しながら洞窟の入り口へと駆け出す。


「ガグウッ!?」


その時、熊の首筋に何かが衝突して熊が体制を崩す、そちらを見ると蒼が腰を抜かした状態で震える手でライフルを構えていた。


「あの子!まさか!」


ライフルの銃口からは煙が上がっており、それが発砲されたものだと私に伝えていた。


「グルォォォ!!」


「ひ、ひぃ!?」


熊がすぐさま標的を蒼に切り替え、そちらに襲いかかった。


「このっ!!」


私は咄嗟に熊の後ろ足にナイフを突き立て、蒼への攻撃を阻止しようとした。


が、それはリスキーな行為で真後ろにいた私は振り向いた熊と至近距離で目が会ってしまう。


「!?まずい!」


暴れる熊の力強い動きに振り回され私は弾き飛ばされてそのまま尻餅をつく。


「愛信和さん!」


「グルォォォ!!」


蒼の呼ぶ声を遮るように熊が雄叫びを上げて私に突進してくる、身動き出来ない私にはそれが死そのものに見えた。


(あ、私死ぬんだ……こんなところでなんて嫌だなぁ……)


そんなことを思い浮かべながら視界の奥にいる蒼に焦点を向ける、彼女は何かを叫びながら必死にライフルを構えようとしていた。


(馬鹿だなぁ……それじゃあ二人とも熊の餌じゃん……せめて蒼が逃げられる時間だけでも作ってあげようかな……)


そんなことを考えて立ちあがろうとしたその時、ずっとぼやけていた視界が急に普段以上にはっきりとし頭が冴え渡る。


「……あれ?」


ずっとスローモーションで景色が見えていたのは変わらないが今度は私だけが普段と同じスピードで動くことができ、何のこともなく立ち上がって悠々と熊の突進を横に逸れて躱すと急に止まれない熊はそのまま岩壁に頭から突っ込んだ。


「え!?愛信和さん今のは!?」


蒼の困惑に応える間もなく熊が振り返って前足で引っ掻いてきた。


(これならナイフで反撃できるかも……)


そう思いナイフを前足に向かって振り切るとズバァッ!という擬音と共に熊の前足が宙を回転した。


「ガガグゥ!?」


「あら?切り落としちゃった……」


前足を切り落とされ完全に怒り狂った熊が臆せず私に飛び掛かる。


「いいよ、もう終わらせてあげるね」


私はゆっくりとした動きの熊の懐に入ると喉にナイフを突き立てた。


「ゴブゥ!?」


そうして怯んだ熊の脳天にナイフを振り下ろし思いっきり突き立てる、その衝撃で熊が地面にへばりついた。


「もう抵抗しなくていいんだよ……」


ナイフが突き刺さったまま熊が暴れるがすぐに痙攣だけとなり、そのまま動かなくなった。


「ふぅ……終わったよ」


熊の頭からナイフを抜き取ると脳漿らしきものが刃に絡みついており、それを一振りしたあと袖で拭き取って蒼に近づく。


「愛信和さん!大丈夫ですか!?」


「うん大丈夫だよ、それより」


狼狽える蒼に大丈夫だと伝え、平手打ちをする。


「え……?」


「なんであんな危ない真似を勝手にしたの?」


「え?なんのこと……?」


「ライフルを撃って熊を引き寄せたでしょう?腰を抜かして動けないのにあんなことしたら自殺行為よ」


「でも、愛信和さんが危なかったから……」


「それでもあなたが危険なら意味ない、お互いがお互いを無闇に庇いあってたらそれこそ危険よ」


「…………」


「でも今回はそれのおかげで助かった、ありがとう」


叱りつけるようなことを言った後に感謝の気持ちを伝えると、しょんぼりと顔を下げていた蒼がハッとしたように顔を上げた。


「熊に勝てたのはあなたのおかげ、でもこれからは直前に合図を送ってほしいわ、じゃないと考えてたことが全部無駄になるから……それだけはお願いね?」


「……はいっ!」


私の頼みに蒼が顔を明るくして元気よく返事をした。


「さぁて、それじゃあ潰れた物資の代わりになる物を探さなきゃね」


そう言って私は蒼の荷物だったものを見る、乱入者の挑発を受けた熊が食べていた食糧ごと荷物を踏みつけてしまったのだ。


「うう……ごめんなさい……」


「あなたは何も悪くないわよ、これは私が考えた作戦だったんだから、とりあえず使えそうなものだけ出しましょう」


そうしてぐちゃぐちゃの荷物を漁るが潰れた水や食糧によって衣類やタオルもほとんど使えなくなっており、残っていたのは医療品や生理用品、一部の熊の体重を受けなかった水と食糧が少ししかなかった。


他にも熊にやられた乱入者の荷物を漁るが物資はほとんど残っておらず、めぼしいものはタオル代わりになりそうな男性用インナーと撃ち切ったピストルとそれのマニュアル、あとは乾燥した食糧が少々ある程度だった。


「これだけじゃ流石に二人で生きていくには足りない……やっぱり外に探しに行くしかないわね」


私はそう蒼に伝えて自分の荷物から食糧などを取り出す。


「え、今から行くんですか?」


「もちろん、今ここでは戦闘が起きたばっかりだし不用意に近づく人もいないでしょ」


「え……でもお兄ちゃんが言ってました、こういうバトルロワイヤルだと戦いが終わって漁夫の利を狙う奴がいるって、それに血の匂いで獣が寄ってくるかも」


なるほど、私はよくわからないが死んだ人たちの荷物を奪いに来る人がいても不思議じゃない、だがそれなら逆に利用できるかもしれない。


「それなら外にあるそれらは放置していればいいんじゃない?」


「え?なんでですか?」


「だって、そこでお目当てのものを見つけられたらこの洞窟までやってこないんじゃない?死体があるなら獣も同様にね」


「そういうものでしょうか……」


憶測を立てる私の言葉に蒼が不安そうな感想を述べる。


「少なくとも奥に隠れていれば入り口にある熊の死体を見てビビって逃げ出すはずよ、それにもう他に雨を凌げる隠れ場所は見当たらない」


「……そうですよね、わかりました……」


私の言葉を聞いた蒼が不安な気持ちを押し殺して返事をしてきた。


「大丈夫よすぐに戻ってくるから、あなたのライフルは置いていくし、何があったら躊躇わないで撃ってね」


「え……でも、愛信和さんは……?」


「私にはスタンガンとナイフがある、それに蒼ちゃんは既に熊にライフルを撃ってるじゃない、私より使い方が分かるはずよ」


自分でも酷なことを言っているとは思ってたけどそれでも無いよりマシと思いライフルを置いていく、私には使い慣れた武器があるし一応弾の無いピストルも持っていく。


「じゃあ行ってくるわね、なるべく音を立てちゃダメよ?」


「はい、愛信和さんも気をつけてください」


別れの挨拶をお互い言って私は洞窟の外に出た。

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