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混乱

騒動の現場からある程度離れたことを確認して私は地面に腰を下ろした。


「ほら、あなたも休んで」


私は真横の地面を軽く叩く、すると少女が恐る恐る私と距離を置いて座った。


「あなた、なんで私の荷物を漁ってたの?」


「え?」


私にはこんな状況での会話の切り出し方が分からない、だから彼女の罪を問い詰めるような話になってしまった。


「そ、それは……ごめんなさい!私どうしたらいいか分からなくて……と、とにかく生き残らなくちゃって思って……」


少女は泣きそうな顔で弁明している、正直心苦しいけどさっきもこんな感じで接触してきた男は私を殺すつもりだった、流石にそんなことがあった以上簡単には信用できない。


(お願い、それが素直な態度であって……これ以上は人を殺したくない……)


私はそんなことを祈りながらもナイフに手を掛ける。先ほどまでこの子を守ることだけを考えて戦っていたのに、この子が悪人だったらと考えるとどうしてもナイフを手放せない。


(もし、この子が私を騙そうとしているのなら……この子を殺して私も死のう、もうこれ以上悲しみを感じたくない……)


「そうなんだ……まあ仕方ないよね、ところでお名前を聞いてもいいかな?」


「え、あ、はい……わたしは時宗 蒼(ときむね あお)と言います、漢字は草かんむりに倉のソウっていう文字です」


「私の名前は月呑 (つきのみ)愛信和(あのか)、漢字は愛であ、信じるの信での、平和の和でかって読むの」


「変わった名前ですね」


「フフ、そうでしょ?」


蒼の表情が少し和らぐ、私も彼女の顔を見て少し緊張を解く。


「これからどうすればいいんでしょう……あの動画では一人になるまで殺しあうって……」


「あんな言葉受け入れちゃ駄目よ、絶対に二人で脱出しましょう」


蒼を励ましている途中で私は思わず立ち上がる、来た道から何か物音がかすかに聞こえた気がして体が反応してしまったのだ。


「どうしたんですか?」


「……そろそろ移動しましょう、あんまり同じところにいるのは危険だと思うから」


そう言って蒼の手を取り荷物を背負って歩き出す。


少し進むとどこからか血の匂いがしてくる、私の中にあのトラウマが蘇ってきた。


(もしかして、ここってあの場所……)


空っぽの胃から何かが込み上げてくる感覚を私が思い出していると蒼が私を掴む手に力を入れてきた。


「な、なんか変な匂いしません?」


(やっぱり気のせいじゃない……とりあえず迂回してこの子に見せないようにしよう)


そう考えてなるべく遠くを確認しながら前に進んでいく。


すると森の中にちょっと開けた場所があり、その真ん中にバックパックが置かれていた。


「これってあの人の……」


そのバックパックに近づき思わず呟く、もう持ち主のいないバックはずっとここに放置されていたのだろう。


「バックがあるってことは近くに人がいるんじゃないですか……!?」


「大丈夫、そうとは限らないわ、もしかしたら良いものが入っているかもしれないから調べましょう」


慌てる蒼を静かに制止して私は中身を確認する、やっぱり全くと言っていいほど手付かずだ。


「よし、これで私の分の物資が手に入ったわ」


そう言ってそのバッグを背負い蒼のバッグは腕にかける。


「放置されてるなら持ち主が帰ってくる前に持っていけばいいだけよ」


私の発言に蒼がちょっと不安な顔をする。


「とにかくこれで色々手に入ったんだし早く安全な場所に隠れて傷を治療しないと」


そう言って再び歩き出す、私も蒼も何も喋らずにダメージを受けた体を休ませる場所はないか、それだけを考えながら彷徨っているがそれらしい場所は見つからない。


「このまま動き続けるのはまずいかもしれない……ひとまずここで治療した方がいいわね」


私はバッグを下ろして中からサバイバルマニュアルを出す。


「こんなところで大丈夫なんですか?」


「私にも分からないわ、でもずっと矢が刺さったままは危険な気がする、それに歩くたびにすごく痛いから……」


私はマニュアルを確認し鋭利なものが刺さった時の対処法が書かれたページを見つける。


「やっぱり無理に抜くのは危険みたいね、でも今は緊急事態だしこのバッグには触れた血液を瞬間で凝固させるガーゼがあるみたい、抜いたらすぐにそれを貼るわ」


「瞬間的に血液を固めるガーゼって、それって大丈夫なんですか……?」


「今はそれに頼るしかないわ」


私はすぐに傷口を確認するとタオルとそのガーゼを取り出してタオルの一つを矢を周囲を抑えるように当て、もう一つを口に咥えた。


「蒼ちゃんにお願いがあるの」


「は、はい」


「これを抜いて欲しいの、そしたら私が傷を拭ってガーゼを貼る」


「そんな強引なことしていいんですか?」


「他にも方法がないの、お願い」


それを聞いて恐る恐る蒼はボウガンの矢を握る。


「行きますよ」


「……お願い」


私の返事を聞くと蒼は全力で矢を引っ張る、凄まじい激痛が私を襲い、くぐもった悲鳴を上げながら口に咥えたタオルを思いっきり噛む。


永遠にも感じる苦痛の中で少しずつ矢が抜かれていってるのを見届ける、そして遂に抜けたのを確認すると素早く消毒用のウェットティッシュで拭き取るとガーゼを貼り付けた。


「はぁ……はぁ……これでもう大丈夫なはず……」


足を動かすと少しだけ痛むがそれでも先程よりははるかにマシだった。


「次は蒼ちゃんの番よ」


「……ッ!」


蒼は少し怯えたがすぐに腕を私に見せて来た。


「よし、噛むタオルは私が咥えたやつで我慢してね、傷口のタオルだけ抑えていて」


私の指示を蒼は大人しく受けてタオルを噛み、傷口のタオルを矢を包むように抑えている。


「よし、行くよ我慢してね」


私の合図に蒼は何度も頷く。


「3、2、1はいっ!」


私がなるべく丁寧にかつ素早く抜こうとするが中々抜けない、おそらく蒼も全力で抜いていたのだろうが人の身体に刺さったものは意外と抜けにくい。


「もうちょっと……我慢して……!」


蒼は涙を浮かべて堪えている、その視線はなるべく矢を見ないようにしていた。


「……よし!手を退けて!」


矢が完全に抜けたのを確認すると蒼の手ごとタオルを退けて消毒用のウェットティッシュで拭き取るとガーゼを貼った。


「はぁ……終わったよ、頑張ったね」


「ハァ……ハァ……ありがとうございます」


これで一応傷の手当てはできた、あとは安全な場所を探すだけ。


私がそんなことを考えながら周囲を観察していると奥の方に洞窟のような場所があった。


「あんなところに洞窟がある、もしかしたら拠点になるかもしれない」


「そんな、洞窟なんて猛獣がいるかもしれないですよ……」


「大丈夫、私たちには銃があるから最悪の場合にはそれを使うわ」


「え?銃なんて扱えるんですか?」


「いいえ、あなたのバッグに説明書があるはずだからそれを見せて」


蒼はそれを聞くと不安を隠さない表情となり、自分のバックを漁る。


「ほんとだ……」


彼女が驚きながらマニュアルを取り出す、実はさっきの男のバッグを漁ったとき例のスタンガンのマニュアルが入っていたのを確認していたのだ、それにしても……


(この子は自分の荷物を確認せずに他人の荷物を漁ってたのか……私と出会わなかったらとっくに死んでたんじゃないかな……)


そんなことを考えつつマニュアルを読んで銃の扱い方を確認していると、何か近づいてくる音が聞こえてきた。


「はっ!……気をつけて何かいる!」


私は蒼を守るように構えてそちらを見るとそこにいたのは狼の群れだった。


「狼!?それも複数!?」


思わず上げてしまった声に一部の狼が反応した様な仕草をしたがすぐに遠くから鳴る発砲音に注意が向いた。


どうやら他に狼に見つかった人たちがいるようで複数人の声と共に戦闘音がなり始めたのだ。


「ここにいたらやばい、早く隠れて!」


私は蒼を連れて洞窟に向かって走り出す。


走っている最中に私の頬を流れ弾が掠める、そこで本当に自分たちが窮地に立たされていることがわかった。


「くっ、もっと早く!」


すると視界がぼやけて景色が少しゆっくりになった気がした、私に向かってくる流れ弾もどこかスローでよく観察できるほどだ。


それを見た私は蒼を抱えて避けるようにステップを踏むとまた走りだす、自分でも何故こんなことができるのか不思議だが今はそれどころじゃない。


(もう少しで洞窟だ……!)


その思いを感じたのか足は自然と加速していく、運動が苦手で普段走らないためこんなに速く走れるのかと自分でも驚いた。


そしてその速度のまま洞窟に飛び込み、入り口から周囲を窺いなんとか窮地を脱したことを確認する。


「はぁ、はぁ、とりあえずここに隠れていましょう」


「愛信和さん……やっぱりいるみたいです……」


蒼が私の袖を引っ張り奥を指差す。


「最悪……」


そこにいたのは……2mはある巨大な熊だった。

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