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実験開始

――――嘘だ。


こんなの、ありえるわけがない。


私はさっきまで自室のベットに寝転びながら小動物たちの可愛い仕草を流す動画を見て日々の疲れを癒やしていたはずだ。


だから、こんな森の中にいるわけがない。


いきなり表示された謎のボタン一つでここに飛ばされたっていうの?


「……なんなのこれ、夢にしては質感がはっきりしてるっての……」


孤独に押し潰されそうになり、独り言をつぶやく。


いきなりスマホに「あなたは選ばれました。ボタンを押してください。」とかいう一方的なバナーが現れ、どうやっても消せないからとボタンを押した瞬間、仰向けに寝ていた時に見えていた自室の天井が、木々の間から青空が見える景色に変わった、そんなこと誰が予想できるだろうか?


私はあまりの状況に思わずふらつき、倒れそうになる体を地面に手をついて支える。


と、その手が何か硬いものに触れた、見るとそれは刃渡り30センチはありそうな大型のナイフが革製のケースに入ったものだった。そばには大きく膨らんだバッグも置いてある。


「さっきまでこんなの無かったのに……料理に使うもの……じゃないよね?もおぉ!なんなのよこれぇ!イタズラなら悪質すぎるってぇ!」


思わずヒステリーを起こし叫び声を上げる。するとどこからか音が鳴り出した。


音のする方を見ると、どうやらバッグのサイドポケットから鳴っているようで、そこを探るとスマホとは違う液晶のついた謎の端末が現れた。


「着信が来てる……?一体なんなの」


CALLと表示された画面を恐る恐るタッチすると顔の部分が影になってわからない謎の男の映像に画面が切り替わった。


「皆さん、我がプランダル社の究明実験に参加いただき感謝します」


画面の男が話し始めた。


「プランダル社……?実験……?そんな事よりここはどこなの!?」


「ここはどこだ……そうみなさんはお思いでしょう、ここは我が社の私有施設である人工島、アバス島です。ここで参加者の皆さんには我々の実験に協力してもらいます」


男は淡々とした口調で続ける。


「実験内容は、『皆さんにこの島で最後の一人になるまで生存競争を行なってもらう』というものです、物資に関しては心配はいりません全てバックパックに用意されています」


「な、なにを言ってるの……?生存競争?」


「ちなみに島の周囲10kmは監視されており、認証されていない物体は発見され次第処理されます、なので協力して脱出しようなどは考えない方が良いですよ」


男の放つ言葉は状況の不条理さを強めるだけだった、私は唖然としながら画面を眺める。


「ではルールの説明に移ります。この島には現在12人の被験者が各地に配置されており、それぞれランダムに殺傷能力のある物品が支給されています。支給されたもの次第では弾数などの制限がありますのでご注意を」


……男の発言は嘘や冗談の類いじゃない、そう私の勘が告げる。こんな非現実がありえるなんて考えたくない。


「あとこれは一番大事なことなのでしっかりとお聴きください、あなたたちの目には今『カデヌラーデ』という物質を仕込ませてもらいました。これは人のドーパミンに反応して周囲の分子に対して強い影響を与える特性を持っている……と仮説が立てられている物質で、今現在は非活性状態ですが強い高揚感を感じると超常的な力を発揮できます、是非ご活用ください」


ご活用ください、と言う割に言ってる意味が全くわからない。


噛み砕いた説明というより、抽象的でフワッとした物言いと言った方が正確な、その言葉を聞いてどうご活用しろと。


「て、ていうか、これって……私たちに殺し合いをしろっていうの……?ふざけないで!そんなこと出来るわけないじゃない!」


「ちなみにみなさんのいる島には危険生物が数多く生息しています、例え人との接触を避けていても長くは生き残れないでしょう、食糧などの消耗品もみなさんには一週間ほどを想定した量しか持たせていません」


ヤバイ、こいつら本気で私たちに殺し合いをさせる気だ。食糧はもって一週間と言ってるけど危険な生き物がいるっていうなら多分そんなに長く生き残れないよね。


それにしても、さっきから感じている一番の疑問が頭から離れず頭の中で話を整理できない、多分この疑問は今島にはいる人はみんな思っていると思う。


「さて、お答えしましょうか、おそらくみなさんが思っているであろう『なぜ自分が選ばれたのか』というその疑問の答えを」


「……ッ!」私は思わず息を呑んだ。


「簡潔に言いますと、先ほどの『カデヌラーデとの適合率が高い人物』というのが第一条件で、次に『知り合いの少ない人物』というのが第二条件となっております。みなさんはこの二つの条件を満たした方々なのです、なにせ命懸けの実験ですので心配する人間は少ないに越した事ないですからね」


歯に衣着せぬ物言いに怒りとも絶望ともわからぬ感情が湧き出す、しかしそこで私にある疑問が浮かぶ。


「あれ、でも私って来月結婚するのになんで選ばれたの?両親も弟も健在で友達だって……少ないけど普通に連絡取ってるし、明らかに二つ目の条件にあってないよね?」


私には彼氏がいる、それも将来を約束した人が。


こいつらは秘密裏に殺し合いをさせたいはず、なのに来月には花嫁になるような人物を選ぶなんてどういう事だろう?そんな人物が行方不明になれば騒ぎになるはずなのに。


「ですが一部の人物は第二の条件に当てまらないと不思議にお思いでしょう、その方々はカデヌラーデの適合率が極端に高い……言わば「特殊個体」の方々です、多少のリスク覚悟で集めさせてもらいましたよ。」


「なによそれ……」


あまりの身勝手さに言葉を失う、と同時に誰がこんな奴らの好きにさせるかという反骨精神が芽生え始めた。


この動画を見た人の中には私と同じ気持ちの人もいるはず、なら協力してこの島から脱出出来るかも……いや出来なかったとしても奴らの思惑を潰す事くらいできるかもしれない。


「では、説明はこれで終わりです。次はあなたたちにとって一番重要な生き残った方への褒賞の話をしましょうか」


男が姿勢を正す、するとどこからか様々な物品が乗った机が運ばれてきた。


「生き残ったものはプランダル社に対し特別権限を行使できるようになります、平たく言えば金銭、物品、地位、交友関係……現実に存在するものならば、おそらくあなた方が求めるあらゆるものを私たちは与えることができます。もちろん、我々に従うのが前提ですが。」


一気に血の気が引く感覚が襲ってきた、この男の言うことが嘘か真実(まこと)かは関係ない、この言葉を間に受けて殺し合いに参加する人間が少なからず出てくるかもしれない、考えてみたら連中は私たちに本気で命の取り合いをさせたいはず、そうなればそれ相応のものを用意するのは当然だ。


「やっぱりこいつら本気だ……ああもう!なんでこんな目に遭わなきゃなんないのよ!」


「これだけでも多くの人にとっては魅力的でしょうが、メインはここからです」


「え、まだあるの……?」


画面の前の男がその場を動かずにテーブルに手をかざす、するとテーブルがガタガタと揺れ始め、そのまま宙に浮かびはじめた!


驚きのあまり呆気にとられる私をよそにテーブルは私たちに映像を送っているカメラの前に着地した。


すると今度はテーブルの上に置かれているコップの中身が赤く染まり始め、皿に乗ったパンはグズグスに崩壊し、何故か置いてある弾丸ふわふわと浮かび、いつの間にかそばに立っている男に向かって銃もないのにドン!という耳をつんざく音を立てて発射された。


男は自分に向かって放たれた鉛玉を指で受け止めており、それを私たちに見せつけながら喋り出した。


「ご覧になってどうですか?これがあなたたちに与えられたカデヌラーデの力です。月並みな表現を使うなら……「神の御技」とでも言いましょうか」


「……大変なことに巻き込まれたんだ、私」


今になってその実感が全身に伝わる、あんな映像見せられても昔の私だったら信じてなかっただろう。


だけどいきなり島にテレポートしたり、ナイフと荷物がいつのまにか傍に置かれてたりと、これだけ立て続けに不思議なことが起こるのもあの力を連中が使ったと考えれば合点がいく。


と、突然男が咳込み始めた、よく見ると口に当てた手には血が付いている。


「ぐっ……しかし適性の低い者が使うとこのように使用者に強い負荷がかかってしまいます。だからこそ我々はあなた方が必要なのです、死線を超えて能力を十分に発揮した適合者が!」


男は両手を挙げ声を上げる。


「最後の一人になった時点で回収用の船が参ります。それまで皆さんが生き残れるよう祈ってますよ、ではご機嫌よう」


口をハンカチで抑えながら男が手を振って映像が終了した。


「……とりあえず、安全な場所を確保する必要があるわね」


私は端末から顔を離し、バックを背負って手に取ったナイフを見つめる。


「これで人を刺せっていうの……?そんなこと、できるわけない……!」


とその時、後ろの草むらで何かが動く音が聞こえた。

初めまして、作者です。

お試し的な投稿なのでネタが思いついた時だけの不定期更新となります、ご理解の程お願いします。

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