シビア母さん
四月○日
僕は、今日から社会人になる。
子供の頃からやんちゃしていた僕。しかしその僕が、見事東大に合格し立派に社会に出られるようにまでなったのは、他でもない母さんのおかげだ。
時には優しく、時には厳しく、いつ何時でも僕の事を気にかけ、育ててくれた。
……いや、まぁ確かに優しいというのは間違っていない。事実、いつもは母さんは微笑を絶やさない、にっこりほんわかした雰囲気を纏っている。
……そう、いつもは、だ。
母さんは、怒ると怖い。ただ、単純に怒ると表現するのは違う。
言うなれば、そう。
母さんは、怒るとシビアになる。
語源は、厳しい、過酷。母さんは僕を叱る時はいつもシビアになった。しかし、そんな母さんの教育が、いつのまにか僕に東大、のち就職という輝かしい道のりを歩ませていたのかもしれない。
思い起こせば、母さんのシビア教育が始まったのは、確か僕が小学生になってからの辺りだった。
その頃が一番ワンパク全開の頃だったから、母さんのシビア教育も比例して一番多く、一番厳しかったはずだ。
目を閉じると、思い出す。そう、あんなこともあったな――
*
ケース1 皿を割った
バリィン!!
「うわぁ! やっちゃった!」
「どうしたの、ナオキ?」
「ごめん母さん、お皿割っちゃった……」
「弁償しなさい」
ケース2 ニンジンが食べられない
「うぅ……ニンジン食べたくないよぉ……」
「ほら、ナオキ。早く食べないと、いつまでも片付かないわよ」
「だって……ニンジン嫌いなんだもん。美味しくないから」
「……そのニンジンいくらしたと思ってるの? 母さん奮発して、ちょっと高めのニンジン買ってきたのよ。ナオキにどうしてもニンジン食べてほしくて奮発したのに、それをナオキは食べられないと言うの? ねぇ、どうなの? 聞いてるのナオキ。どうなの? ちょっと聞いて……」
ケース3 ゲームのやり過ぎ
「ゲームはやっぱりおもしろいなぁ。ピコピコ……」
――二時間後――
「こら、ナオキ! ゲームは一日一時間の約束でしょ!?」
「うわぁ!? 見つかっちゃった!」
「罰としてセーブデータを消去します」
ケース4 テスト0点
「ただいまー」
「おかえりナオキ。算数のテスト、どうだったの?」
「ごめん、母さん……0点取っちゃった」
「あなた、そんな点数で東大受かると思ってるの?」
重ねて言うが、これは小学生の頃の話だ。
ケース5 ケンカに負けた
「ただいま……」
「おかえりナオ……ちょっと、どうしたのその傷?」
「友達とケンカしちゃった」
「友達はどうしたの?」
「えっ? どうしたって……」
「その傷の十倍位は、相手に返したんでしょうね?」
「ううん。どっちかって言ったら、僕が負……」
「十倍返しもできないような子は、家の子じゃないわね。不法侵入よ。親はどこ?」
*
……なんか、これだけ見ると普通に厳しい母親みたいだな。違うぞ!? 三時のおやつにケーキ買ってきてくれるような、優しい母さんだったぞ!? いつもは! ……何を言ってるんだ僕は。
とにかく、この5つのケースはほんの一握りの部分だ。まだまだ色々とシビアなエピソードはあるが……いかん、もう家を出ないと、初日から遅刻するな。
だから、最後に記しておこう。
母さん、今まで育ててくれてありがとう。
僕はこれから、社会人になりま
「ちょっとナオキ! あなたいつまでそんなもの書いてるの!?」
「うわぁ! 母さん!?」
「さっさと会社行きなさい! もし初日遅刻なんてしたら、鍵取り上げて一週間は家に入れないからね!!」
「い、行ってきま~す!」
最後にもう一度、言わせてください。
母さんは怒ると……いや。
母さんは、シビアです。
初投稿です。
拙作ですが、感想頂けるとうれしいです。