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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

女吸血鬼はパーティーから追放されたショタ勇者を拾う~メスガキ、包容力たっぷりお姉ちゃん、クール系、どれがお好み?おねショタゆるふわライフ~

作者: 心木真冬

 吸血鬼、あるいはヴァンパイアとも言うがそれは魔族の中でも高貴な存在とされている。

 人間からも闇夜に身を潜ませて血を奪うと恐れられている。

 強く冷徹でどこか儚さも感じる、それこそが吸血鬼の共通認識であろう。


 マナ・ロックも吸血鬼である。黒く長い髪に吸血鬼の特徴である青白い肌を隠すように黒い服で身を包んでいる。服のデザインは吸血鬼とは正反対の存在とも言える修道女のようだ。その上に白いフード付きのローブを着込んでいる。

 その姿で彼女は人間社会に溶け込み人間として活動をしている。

 活動と言っても他の冒険者達と変わりはしない、ギルドで冒険者として普通に過ごしているのだ。

 特に使命もなくただ当てのない冒険を続けている。


 彼女は今洞窟の最奥にいた魔物を討伐したところだ。

「ふう、さっさと引き上げないとね」

 マナは魔物の死体処理にとりかかる、頭に2本角の毛むくじゃらのシーダプルと呼ばれる羊のような魔物だ。

「このふわふわとした毛が鬱陶しいわね、いっそのこと丸焼きにした方がよかったかしら?」

 そう言いながら短剣で毛を刈っていく、丸焼きにしてしまえば「肉」にはなるが彼女の求める「食糧」にはならない。

 毛をきれいに刈り終わった後、マナはシーダプルの首筋に自らの持つ純白の牙を突き立てる。

「んっ、チュウウウゥゥ」

 牙は血管を破り、そこから漏れ出る血をシーダプルの死後もなお身体に残っていた生命力と共に吸い出していく。

「んっ、……ゴクン」

 としばらくしてシーダプルの血を飲み干した。

 吸血鬼は一般的に人間の血を食糧としているイメージを持たれるが、人間以外にも動物や魔物、果ては同じ魔族の血も食糧にすることができる。


 ただし

「ん~めぇ~。……はっ!」

 食糧としたモノの影響を受けてしまう。

「まあこんなところに誰もいるわけないんだけどね」

 こんな姿は人としても見られたいものではない。


 食事を終えたマナは洞窟を後にする。

 洞窟を出ると吸血鬼の最大の弱点とされる太陽に照らされる。

「酷い天気ね」

 マナは白いフードを深めに被って、速足で歩きだす。

 吸血鬼は自身の魔力を消費して太陽から身を守ることができる。当然雲一つなく直射日光に当てられては魔力の消費量は大きくなる。


 マナは今の主に拠点としている町にたどり着いた。

 冒険者ギルドのある建物に入った瞬間彼女は様々な感情の視線を感じる。

 正体を隠しているがマナのような姿の冒険者はかなり珍しいのだ。


 マナはもはやそう言った視線には慣れたので気にせずに受付のところまで進む。

「これ、シーダプルの角よ」

「近くのダンジョンをソロで攻略したんですね! やはりマナさんはすごいです!」

 受付嬢から恒例の賛辞が送られてくる。


「おいおい、あのダンジョンって確か中級者向けのだろ? しかもパーティーを組んでもかなりキツイって話じゃなかったのかよ……」

「どっかの教会から派遣されたはずなんだから回復術士のはずなんだけどな……」

「まあ今のところ偉そうぶらねえから別にいいが」

「だけどああいう美女を手にできたら思うと、へへへ……」

「何馬鹿なこと考えてんだ。むしろ返り討ちに合うだけだぜ?」


 そんな当人たちは聞かせる気はないがどんな内容か気になるくらいの囁き。それを鼻で笑い飛ばそうかとも考えたが面倒ごとを避けるのが彼女の偽りの身分としてもいいだろう。

 マナは先程の会話のように(架空の)教会から派遣されたという設定で冒険者をしている。

 教会から派遣されて冒険者として活動するのは珍しいことではない。加えそんな彼女がまさか吸血鬼だと疑われることはまずない。

 人間はそれっぽいことを言っておけば先入観によっていとも簡単に騙せる。

 マナは人間が嫌いではないが()()()()()程度。他の吸血鬼や魔族同様人間を見下していることに変わりはない。


 マナはギルドから依頼報酬と魔物の素材で換金した金を受け取って早く()()に帰ろうとした。しかし振り向いた時入口の扉が勢いよく開け放たれそこから冒険者パーティーが入ってきた。

 普段ならマナはそういう集団もすり抜けていくのだがパーディーの人間は見慣れない顔ばかりだったので少し様子を見ることにした。


「はあ、どんな町かと思ったらそこら辺の田舎の村が少しデカくなっただけじゃねえか」

「おいリク、もうギルドの中に入ってんだから口を閉じてろ」

「そうそう、リクちゃんは職業的にももう少し静かにしてもらいたいね」

「……」

「ん、よいしょ」

 入ってきたのは5人、男4人に女が1人。

 どちらかと言えば「子ども」に分類されるような背の低いのが扉を閉める。


「バジル町のギルドへようこそ」

「はいこれ」

 金髪の男が何枚かの書類を渡す。

 冒険者が拠点とするギルドの町を移る時に発行される書類だ。

「えー、パーティー名はワイルドビート。リーダーはそちらのビル・ジョウドンさんですね」

「そそ、大丈夫」

「では後はこちらの方で手続きを行いますので……」

「センキュ♪」

 受付の言葉を最後まで聞かず辺りを見渡し始める。


「ふーん、やっぱりこんな町だから冒険者のレベルもこんなものか……」

 金髪のビルと呼ばれた男はそうつぶやくのを聞き取る。

(ずいぶんな自身ね、確かにここにいる連中よりかは実力はあるようだけど……)

 と、そんなことを考えていると。

「お?」

(!? まさか、今……)

 マナの嫌な予感は的中した。ビルはこちらの席に近づいてくる。

「やあ!俺はビルっていうんだ。君は見るに教会から派遣された娘のようだね。こんなむさ苦しいギルドに君みたいな可憐なお姫様がいるなんて……。正しく砂漠に咲いた一輪の花……」

「吟遊詩人と語りたいなら別のところを当たる事ね。そもそも教会の人間を姫と呼ぶのは不適切よ。あなたのパーティーにはお姫様はもういるみたいだし」

 後からついてきたパーティーの女の方を見ながらビルの言葉を受け流す。

「あー、ミルクちゃんはあいにくと俺の右隣のザックとラブラブなんだよ。だから俺は君との愛に飢えているのさ……」

(そのまま餓死してしまえばいいのに)

 ため息と同時に出そうになった言葉を抑えながら

「教会の人間と愛を叫ぼうだなんて随分と自信があるようだけど、私はもう失礼するわ」

「そうだね。君とはこんな場所で酒を飲むのも良いけど、優雅にティータイムを……」

「おいビル、もう行ったぞ」

 ザックと呼ばれた茶髪の男が軽くビルの肩を叩く。

「え? 全くつれないなー」

「それにしてもあの女の言うように本気で堕とすのか?」

「当然。それにああいうのを落とすのがスリリングで楽しいわけよ」

「はあ、お前とは昔から組んでいたが未だによくわからんやつだな」

 黒髪のリクは呆れた声で言う。

「まあリクちゃんにはちょっと早いから」

「そんなもんかね」


 翌日の早朝、マナはギルドの前にある建物を見る。

「はあ、あんなのにこの力を使わないといけないなんてね」

 しかし目をつけられた以上は仕方ないと割り切って、マナは集中する。


 やがて時間が経って人の通りが多くなる。マナのいる場所は目立ちにくいが通行人達は棒立ちしているマナを特に気にしない、否、()()()()()()()

 マナの能力である透明化だ。

 そして昨日マナに絡んできたパーティーがギルドに入って行く。

 パーティーが出て町を出ていくのを確認してマナは透明化を解除してギルドの中に入っていた。


 そんな感じであのパーティーを上手く避けながら2週間が経った。

 とうとうマナは例のパーティーに遭遇した。

 依頼を終えてギルドの中に入った時に見かけてしまう。ただ待ち構えられていたというわけでもなさそうなので、話しかけられる前に素早く報告をしようと受付に向かう。


「それじゃあロビン、これが今日までの君の報酬ね」

「ま、待ってください! 僕はこれからどうすれば?」

「あのな、お前だって一応は成人して冒険者になったんだろ? いつまで俺達に依存してたってお前にとってもよろしくないぜ?」

「で、でも……」

「ザックの言う通り、君はもう用済みだよ。新しいとこで頑張りなよ」


 パーティーの会話が聞こえてくる。どうもあの少年がパーティーを追放されるようだ。

 メンバーたちは早々に席を立ってギルドを出ようとする。

「ん?」

 またしても嫌な予感がする。

「おーい!」

 先程の空気で何故こうも気軽に声をかけて来るのだろう?

「ちょうどよかった。君に会いたかったんだよ」

「何か御用で?」

「実はさ君を僕のパーティーのメンバーに加えたいんだけど」

「あら、さっきメンバーを切ったのに?」

「ロビンはミルクちゃんと役割が被ってたんだよ。それでより強いミルクちゃんが選ばれたわけさ」

「それで私を選ぶのは?」

「君、かなり強いよね? ずっとソロでやってたみたいだし、そんな人材が僕のパーティーに入ってくれたらかなり心強いと」

「そこまで言うならわかるでしょ? 私みたいなニンゲンがいればいずれはパーティー全員を食いかねない」

「心配ないさ、この僕の力をもってすれば……」

 自意識過剰、マナからしてみればそうとしか思えない。

「まあ、すぐに返事しなくても大丈夫だよ。その気になってくれたらいつでも引き受けるからさ」

 ウインクして立ち去るビルに呆れながらついていくメンバー達。


 嵐が過ぎ去った後、タイミングを見計らったように受付が金を持ってきた。

「今の話本当に受けるんですか?」

 タイミングを見計らっていたらしい。

「まさか、逆にあんなのについていくメンバーに同情するわよ」

「まあビルさんは悪い人じゃないんですけど……」

 ビルは今までこれといった問題行動は起こしていらしいがそれもいつまで続くのか。

 ふとビルから渡された手切れ金を見ながらため息をついている少年に視線を移す。


 銀髪に端正な顔立ち、マナはより集中をして少年の能力を視る。

(!? これは……)

 彼女が視た少年の能力はビルから聞いた話とは全く違うものだった。

(ふーん、面白そうね)


 マナは少年に近づき、彼の前の席に座った。

「? あの何か?」

「ねえあなた、私と組まない?」

 彼を育てれば面白いことになりそうだと予感したマナはそう話しかけた。

(……それにしてもあの子を見た時、胸がざわついた気がするけど……)

 彼女はまだ知らない、その少年に一目ぼれしていたことに。




 バジル町から少し離れた森の中に一軒の大きな屋敷があった。

 これこそがマナが現在の拠点として使っている場所である。宿屋に泊まってもいいがこういった物件があればマナはそこに泊まることにしている。


「それでまだ名前を聞いていなかったわね」

「あ、はい。ロビン・ウィーテです」

「あのビルって男の話を聞く限りじゃパーティー内で役割が被ったから追放されたそうだけど」

「はい、僕もミルクさんも回復術士です。でも僕は何故かどんなに戦っても全然成長しなかったんです。いつまで経っても最初に覚えた回復技だけ……」

「回復魔法以外には?」

「一応攻撃魔法も覚えることができたんですけど普通の魔法使いが使うよりも全然弱かったらしくて……」

「……一応確認だけど剣を握ったことは?」

「ぜんぜん」

「なるほど分かったわ」

「あの、僕って弱いんでしょうか?」

「当り前じゃない」

「そ、そうですよね」

 マナの即答に気丈にふるまいつつも涙目になってしまうロビン。

(か、かわいい……、はっ!? 一体何を?)


「んん。あなたが弱いと言うのは回復術士としての話、つまり別の役割であれば多少ましにはなるわよ」

 多少どころではないのだがそういったことに関してマナはうそを言っていく。

 彼女が視たロビンの本当の能力、それは成長すれば勇者になる可能性があるという事だった。

 勇者、それは魔物達を蹂躙し魔王とも互角に戦える。

 マナは魔族ではあるが()()()()()()()()()()()()()()()魔王のためにロビンをどうこうする気はない。

 あくまで自分の眷属にできたらいいだけなのだ。

「さっき剣を握った経験を尋ねたのもあなたに剣の才能があるかもしれないからね」

「でもそれで本当に上手くいくんでしょうか?」

「はあ、それがいけないのよ。あなたが弱いのはあなたの才能を見抜けなかったビルじゃないわ。何もできないと思い込んでいるあなた自身に問題があるの」

「!! そ、そうですね。何事もやってみないと!」


 翌朝より森にてマナはロビンに稽古をつけ始める。

「とりあえず適当に使えそうな木の枝を持ちなさい。当然自分が扱えるものを」

 マナもよさそうな枝を拾い手にする。

「まずは素振り、真似事でいいからやってみなさい」

 その後マナと打ち合いをしてみたが、

(うーん、どうにもいまいちね。勇者なんていうくらいだから剣を使いそうだが)

 初日だという事を差し引いてもロビンに剣の才能があるとは思えない。

 とりあえずマナはその後1週間ロビンの基礎体力を上げて再び試してみたがこれといった変化は見られなかった。


(仕方ないはね、次は魔法方面を試してみようかしら)

 翌朝、ロビンが素振りをしているとそこにマナが現れる。

「あれ?」

 しかしマナの姿は大きく変わっていた。

 髪型は変わらないもののその髪色はピンクに変化している。服装も修道女のようなものから黒の胸元の大きく開いたドレスである。胸といえば普段はあるにはあったが今は明らかに大きくなっている。

 おおよそ森を歩くのに似つかわしくないがマナはこの状態だと魔力が大幅に強まる。

「あの、マナさんは?」

 しかしロビンは流石にマナの変化に気づいていないようだった。

「私はえ~とマナの旧友よ、気軽にボニーお姉さんと呼んでね~」

 マナの口調もどこかゆっくりとした包容力のあるものだ。この状態だと性格もかなり穏やかになる。

「今日からは~、私が魔法の訓練をしてあげることになったの~」

「そうなんですね! よろしくお願いしますボニーさん」

「ボニーお姉さん、ちゃ~んと呼ぶのよ~」

「ぼ、ボニーお姉さん……」

 戸惑いながらもロビンがそう呼ぶとマナ、否、ボニーは満足そうにする。

(こうやってロビンちゃんを甘やかして溶かすのもいいかも~。……あれ? でもそれが目的じゃないわよね……)


 それからまた1週間訓練を行った。

 その過程で分かったことはロビンは少なくとも剣よりかは魔法方面に秀でているという事だった。

「回復術士として長くやっていたせいか知ら~。いずれにしてもお姉さんマナに自慢できちゃうかも~」

 マナは同一人物だが形態を長く変えているとボニーが主人格となる。

「あの、氷魔法についても教えてほしいんですけど」

「こ、氷!? も、申し訳ないんだけど私氷にはあまりいい思い出がないの~」

「そうなんですか?」

「え~、だから氷魔法はせいぜいあの忌々しいジジイにでも! はっ、ん~。氷魔法は教わらなくても大丈夫よ~。魔法使いだって全部の魔法を使えないといけないわけではないし~」

「なるほど……」

 ロビンはボニーの態度の急変に特に気にしないことにした。まだ幼いと言ってもいいくらいだがそんな彼にも超えてはいけない一線を察した。

「それでまた明日からはまた別の娘が教えに来るの~」

「攻撃魔法だったから次は回復魔法ですか?」

「いえ~、どちらかというと体術ね~」


 そして翌日、ロビンの前に現れたマナの姿はまた変化していた。

 髪は金髪になりいわゆるツインテール、白いワンピースというやはり森に来るには似合わない服装だ。

「あんたがロビンね? あたしはベルよ」

「ベルさんですね!」

「さ・ま! 雑魚ガキのくせに調子乗らないでくれるぅ?」

 ベルになると性格はかなりきつくなる。

「は、はい! すみません!」

(うふふ、私には敵わないってことしっかりわからせてあげないとね?)


 ベルの戦法は至って単純、敵を煽って攻撃を振らせる。そして自身の体格を生かしてカウンターを決めるというもの。

「ふふ、あれれぇ。よわよわロビンはもう疲れちゃったのぉ?」

「ま、まだまだ!」

 ただ純粋なロビンにはそういった言葉責めは効果が薄いようだ。


 1週間はあっという間に過ぎた。

 3週間を通してマナは何となくロビンがどのように戦えばいいか見えてきた。

「3週間お疲れ様。まあざ……、あなたにしてはよく頑張ったみたいね」

 性格は早々簡単に戻せるものではない。

 マナはロビンとテーブルをはさんで向き合っている。

 基本的に食事は簡易なもので済ませており最終日も例外ではない。

「あの、僕本当に強くなれたんでしょうか?」

「まあ多少ましにはなった程度ね、後は実戦を積み重ねない事には成長できないでしょうし」


 次の日は流石に休ませてその次の日、久しぶりにマナとロビンはギルドを訪れていた。

「マナさん! お久しぶりです」

「久しぶりね、今日はちょっと手続きをしに来たのだけど……」

 マナはロビンと組む旨を伝えて手続きを行う。

「パーティー名はいかがいたしましょう?」

(そういえば決めないといけなかったのよね)

 しかしこれといって考えていなかったマナは悩む。

「そうね……エスレットでいいかしら?」

「エスレットでよろしいですね? ではこの名前で登録いたします」

 その後マナは適当に選んだ依頼を引き受けてギルドを後にする。


 二人はバジル町の近くにあるバジル草原に来ていた。

「じゃあこれからバッキーナグルを討伐してもらうわ」

「ば、バッキーナグルってあの?」

 バッキーナグル、正確にはこの後にリザードと付くのだが長いのでそう呼ばれている。

 トカゲの魔物であるリザード、バッキーナグルは素早さと圧倒的な格闘能力が特徴である。

「そう、目標は3匹よ」

 ロビンは震えた、バッキーナグルは中級者でも苦戦する魔物だ。それを3匹ともなると自身の体力と相談しながら戦っていかないといけない。


 ロビンはまず潜みながらバッキーナグルを探す。

(い、いたけど……)

 魔物はよほどの個体でない限りは基本的に群れで行動する。ロビンが見つけたのも2匹、最低数ではあるもののどう対処するかを考える。

「まずは魔法で奇襲かな……」

「それが一番ね」

「ま、マナさん。ついてきてくれるんですね」

「何もしないのではパーティーと呼べないからね。気づかれたら自身を強化して戦う。それでやってみなさい」

「はい」


 ロビンは杖をかざして詠唱を始める。

「【フレイムボール】!」

 魔法使いが放つのよりも少し小さい火球が放たれバッキーナグルの背中に命中した。

「バルギィ!?」

 しかしあまり効果はなかったようだ。

「うう、【スピード】!」

 草むらから飛び出して短剣を取り出す、マナがそちらの方が扱いやすいだろうと持たせたものだ。

「バギィ!!」

 バッキーナグルはすでに臨戦態勢に入っている。

「はあ!」

 カキン!

 ロビンの一振りは固い鱗で覆われた手の甲によって弾かれる。

「一応の流れは完璧ね。まあダメージを与えれてないのが一番の課題だけど」

 マナもロビンに続いてロビンの後方に回り込んだもう一匹のバッキーナグルと向かい合う。

 マナは首にぶら下げていた()()()を握りしめる。するとマナの手にはやや細身の剣が握られていた。


 バッキーナグルの攻撃が始まる、その動きの速さにロビンはかわすので精一杯だ。

「ロビン、さっき言ったことをやりなさい」

「は、はい! 【ディフェンド】!」

 防御力を高めてかわすのではなく攻撃を受けきる。

「うぐぅ!」

 なんとか受けきったもののその後の反撃にまで思考が回らない。

(よしきた!)

 マナは自身が相手にしているバッキーナグルの後方に素早く回り込む。

「チェンジ!」

 そう叫ぶとマナの手にはロビンの握っていた短剣、そしてロビンの手にはマナの持っていた剣が握られていた。

(【アサシンカット】)

 そのまま短剣でバッキーナグルの首を切り落とす。

「しゃ、【シャインブラスト】!」

 ロビンは剣先をバッキーナグルの腹にあて光の力を加えてそのまま貫いた。

 バッキーナグルは2匹とも絶命してその場に倒れこむ。

「はあはあ……」

「上出来ね」

「こ、こんなんで本当にいいでしょうか?」

「良いのよ、私と組むのだからこれくらいできないと困るわ。さっきだってあのトカゲの攻撃を防御魔法1つで受けきるなんて中級者でもなかなかできないのよ」

 3週間の訓練の中でマナはロビンが魔法を他人にかけるのと自分にかけるのでは大きな差がある事を発見した。

 どういう仕組みかは知らないがロビンは自分にバフをかけながら戦うのに向いている。そして今実践した通りマナの仮説は証明された。

「仲間にバフをかけても効果が薄いのも回復術士としては役立たず扱いされてもおかしくないからね」

「でもあそこまで力が出たのは訓練でもなかったんですよね。この剣もすごいですよ」

「まあそれは()()だから……」

 剣を返してもらい再び十字架に戻す。吸血鬼の弱点たる十字架を身につけれているのは単にマナが魔力で包み込んで効果を無くしているからだ。

 この十字架を手に入れた時マナは身につけていれば十字架に対してある程度耐性ができるのではないかと考えた。その結果触れた瞬間に右腕が弾け飛んだのは鮮明な記憶として残っている。

(まあだからこういう格好をすれば正体がばれないと考えたんだけど)

 結局マナは十字架耐性をつけることはできずにこの十字架を使い続けている。

 ロビンが使いこなせているのは相性の問題もあるのだろうとマナは思った。


 依頼を終えるため二人はバッキーナグルを探して倒した。3匹だったが同じような戦法で打ち勝ってギルドに戻る。

 するとそこには見たことのない人種がいた。

(獣人族?)

 この辺りでは珍しい獣人族、真っ赤に燃えるような毛のライオン。

「ではまた来よう……」

 ライオンは受付にそう言ってこちら、正確には入口に向かってくる。

(強いけど何かしらこの違和感?)

 もっと観察したいがばれるのも面倒なので静かに横を通る。


 受付まで行くと何やら複雑な顔をされる。

「あのロビンさん、ビルさんとはもう会っていませんよね?」

「え? 会ってませんけど……」

「何かあったの? まさかロビンを連れ戻そうと?」

「そ、そういう訳ではなくて先程の方がビルさん達を探していたみたいなんです」

 聞けばあのライオンはバジルの町でも最近有名になってきたチリという集団のリーダーらしい。

「何その集団」

「近くの町を散々荒らしまわってた集団なんですよ、それがこの町にも来たらしくて……」

 何故そのリーダーがビル達を探していたのかは教えてくれなかったそうだが少し気になる。

「それでそのご本人たちはどうしているの?」

「今日は見ていませんが昨日も依頼を受けていましたし普通に活動しているかと……」

(なるほど、探ってみてもよさそうね)




 マナはボニーに変化してビル達と接触は計ってみることにした。

 ギルドにいるとビル達が入って来る。

「あの~」

「ん? 君誰?」

「私ボニーっていうんですけど~。あなた達の噂を聞いて仲間にしてほしいんです~」

「ほお? でも流石にいきなり仲間にしてほしいて言われてもそう安請け合いはできないね」

「へっ、よく言うぜあの女の時は勧誘してた癖に」

「こらこらリクちゃん前も言ったけど少し静かにした方がいいよ。んん、ごめんね女心の分からないやつで」

「それでどうしたら仲間にしていただけるでしょうか~?」

「そうだね、とりあえず簡単なテストをしてみよう」

 ボニーの職業を(魔法使いだと答えた)聞いたビルはギルドの試験用のマジシャンキラーに勝てばパーティーに加えると言った。

 マジシャンキラーはその名の通り魔法使いに対して強く、魔法を防ぐ装甲をまとったゴーレムである。

 だがボニーはマジシャンキラーに難なく勝利を収めたためビルも彼女の実力を認める事となった。


 それから3日経ったある日ビル達の前にあのライオンが現れた。

「お前がビルだな」

「そ、そうだけど何か用?」

 流石にビルもライオンの威圧感に汗をかいている。

「お前たちと話がしたい。だがここで話すのは駄目だ。()()()

「はいヘキライ様」

 誰が彼に答えたのか、ボニーは分かっていても反応することはできなかった。

 一瞬にして視界が真っ白になる。

「う、うわ!?」

 突然空中に投げ出されたような感覚、そして縄によって縛られてしまう。

「あま~い味で、お眠りなさい」

 そこまで聞こえたがボニーの意識は途絶えた。


(寒い、どうしていつもこんな思いをしないといけないの……)

「おい、おい起きろ」

「んん、ここは……」

「ようこそわが家へ、ボニー」

 ボニーは縛られたまま、どこかの建物内にいた。すぐ近くにベッドがあるが声の主の言いようを聞くに屋敷ないだろう。

「まだ状況が呑み込めないようだね」

 声の主はあのライオンだ。

「いえ~、な~んとなくわかりましたよ~」

「そうか、私の名前はヘキライ。チリという()()()のリーダをしている」

 自警団、随分と響きのいい言葉だ。

「それで~、こんなことをしてまで一体私達になにか御用かしら~?」

「我々が用があるのは君達にではない。正確には君達のパーティーに所属していたロビン・ウィーテという男だ」

 ボニーは予想外の名前を出されて思わず反応しそうになる。

「あら~、その子は確か私がパーティーに入る前に追い出されたそうだけど~」

「そうらしいな。だから今リーダーにその後の行方を調べさせている。私がまた出向くよりは角が立たないだろう」

「でも追放されたのに何故?」

「なに、ちょっと興味があるくらいだ」

 恐らくロビンの本当の能力が見抜かれたのだろう。

「さて、ボニー。君も私達の仲間にならないか?」

「も、という事は他の方達はなったんですね~」

「まあ本当に屈したのはビルくらいなものだがな」

 ボニーは今一度改めてこの状況及びヘキライを観察する。

 強いが油断はしている。この状態ならばなんとか脱出はできるだろう。

「あら~、それなら私もお断りするわ~」

「ほう? やはり冒険者とはちっぽけなプライドのために自身の立場も考えない大馬鹿者の集まりか」

「少なくともあなたよりかはましですよ~」

 ボニーは意識を集中させる。

「無駄だ。その縄は力技では抜けない」

「それは~、どうかしらぁざぁこさん?」

 ベルとなった彼女にとってボニーを縛っていた縄は無効だ。

「ほぉら!」

 そのままスライディング、ヘキライの足を思いっきり蹴って態勢を崩す。

「なっ!?」

 予想外の事にヘキライは顔面からこける。

「ははっ、ライオンさんなのにころんじゃうんだぁ?」

 ベルの状態だと人を煽り倒さないと気が済まないのか地味に逃げる時間をロスしてしまう。

「じゃあねぇ」

 面倒そうなのでマナの姿に戻って走り出す。


 ヘキライの屋敷は予想よりかなり静かだった、警備も団員のようなものもいない。

(一体どうなってるの? あいつなりの余裕ってやつかしら……)

 しばらく走っていると曲道の角から微かな気配を感じて立ち止まる。

「いるのは分かっているわ、出てきなさい」

「ちっ、ばれてるか。ってお前は!?」

 現れたのは見覚えのある黒髪の男、リクであった。

「お前なんでここに?」

「ちょっとね、あなたこそこんな所でサボってていいの?」

「ああ? 俺達の事聞いたのか。ヘキライの誘いなら俺もザックも断ったよ、ビルだけはしたがってリーダー権限とやらで自動的に傘下にさせられたが。なあこんな頼みあんたにするのもなんだがザックを助けてやってくれねえか?」

「ザック? 彼がどうかしたの?」

「どうもミルクのやつはヘキライと繋がっていたらしくてな、それで俺達が目をつけられたんだが……。ザックはそのミルクに操られたんだよ」

「操られた?」

「ミルクはどうも催眠術とかそういう技をひそかに覚えていたらしくてな。いつまでも従わないザックにそれを使っているんだ」

「言いたい事は分かるけどあなたはどうする気?」

「俺はビルの野郎が戻ってきたら一発殴ってやるんだよ」

「生かす保証はないけどそれでも構わないなら」

 その返事にリクは頷いた。


 一方マナによって屋敷待機命令が下されていたロビンはマナの帰りが遅かったために心配してギルドまで来ていた。

「え?」

 しかしギルドの建物の周りは武装をした兵士たちによって囲まれている。

「あ、あの何かあったんですか?」

 恐る恐る近くにいた冒険者に尋ねてみる。

「ん? お前確かビルの、いや今はあの女のところにいたガキか。それがビルの事を聞きまわっていたやつがなんかしたみたいでよ」

「え?」

 ミルクによってビル達はヘキライの屋敷に飛ばされたがギルドも流石にこれを見過ごさずに何か問題が起きたのだと感じてバジル町の警備隊に連絡したようだ。

「連れ去られた……」

 ロビンはそれを聞いて不安になった。それはつまり……、

「ロビン? ロビンじゃないか!」

 そう声をかけてきたのは他でもない今回の重要人物であるビルだった。


「び、ビル?」

「おい、なんであいつがここに?」

 野次馬と化した冒険者たちも突然現れたビルに驚いている。

「び、ビルさん攫われたんじゃ?」

「いやまあ結構簡単に抜け出せたんだよ。それでさロビン、俺のパーティーに戻ってくれないか?」

「い、一体何を……?」

 戸惑うロビン、何か危険だと感じた冒険者の1人がロビンの前に立つ。

「ビルさん、あなたの今置かれている状況が分からないわけでもないでしょう? 我々としてもお話を聞きたいのですが」

 そう言ってギルドの職員も出て来る。

「はあ、全く面倒だよ!」

 ビルは勢いよく走りだして一瞬にしてロビンの腕をつかむ。

「させるか!」

 ロビンの前にいた冒険者が引き離そうとするが遅かった。

 ビルは地面に何かを叩きつけるとビルとロビンだけが消えてしまう。

「しまった!」

「今のは、バトルキューブ!?」


 ビルとロビンはバジルの町に似ている場所にいた。違いといえば周りどころかこの空間内に人の気配がしない事である。

「うう、ここは……」

「バトルキューブ、ロビンも知ってるでしょ?()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()

「ビルさん、一体どうしちゃったんですか!?」

「どうもこうもお前の事を探しているやつのためさ。さて一応説明しておくがこの空間で戦って勝った方が負けた方を従わせることができる。これは当然()()()()()()()()()だ」

 ロビンは短剣を構える。もはや今のビルをどうにかするには自身が勝つしかないと。

「はは、いいねぇ。お前なんかが僕に勝てるわけないのにさ!」

 ビルは小振りの片手でも扱えるような大きさのハンマーを出す。

「……【スピード】!」

 ロビンは素早さを上げてビルの後ろに回り込む。

「【フレイムボール】!」

 次に火球を投げてビルの背後に直撃、

「うぐぅ!生意気なんだよ!」

 ビルはハンマーを振り下ろすが素早さを上げたロビンは簡単にかわした。

「くっそ!」

 ビルは完全にロビンをなめていた、何もできない回復術士。

 しかし今の一連の攻撃で認めたくない事実を受け入れるしかない。

「【シェイクインパクト】!」

 ハンマーを地面にたたきつけて周囲の地面を揺らす。ロビンは若干体制を崩したもののなんとか踏ん張る。

「ふん!所詮は無能だ!【ストロングドリル】!」

 ビルは周囲にドリルを召喚してそれをハンマーで打ち出す。これこそがビルの奥の手であり、リーチの短いハンマー使いが遠距離攻撃を使う意表をついた技。

「ん? ふ、【フレイムスマッシュ】」

 その弱点はあまりにも多いが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが大きな1つであろう。打ち返されたドリル達からビルは逃げ惑うしかなく、目の前に来たロビンの攻撃をかわすことはできなかった。


 リクは先程までボニーが捕らえられていた部屋の前にいた。気配を押し殺して中の様子をうかがう、そこには椅子に座っているヘキライがいた。

「なんだ、戻ってきたのか」

「!! ばれてたか」

「その顔、俺に従うために戻ってきた訳ではなさそうだな」

「当り前だ! ビルはビビったが俺は違う」

「ふん、俺に勝てるとでも?」

「勝てないだろうな……」

「なるほど。それでも挑もうとするのは褒めてやろう、だから、死なないうちに逃げてみる事だな」

 リクは走り出す、窓をたたき割って外に飛び出す。

 幸いにも2階からだったので受け身を取るくらいで済む。

 リクに続いてヘキライも飛び降りてきた。

「屋敷でやりあうにはちと狭かったしな。まあ弁償分はビルにでも請求しとくよ」

 リクは一瞬にしてヘキライの横に回る、その手にはすでに槍が握られヘキライの顔を狙って突く。

 しかしヘキライは動じずにリクの突きをはじいた。

「やはりどいつもこいつも弱っちいのばかりだ」

 呆れたように呟いたヘキライは拳を振るう。

 その拳は恐ろしく速く、リクは咄嗟に後ろに引こうとしたもののすでにその時には拳は彼の体を貫いていた。

「うごほっ!」


 マナは何か嫌な気配を感じる。彼女はザックとそれを操ろうとしていたミルクを見つけた。リクの姿に変化してミルクをだまして彼女を倒したのだ。

 マナはその後ザックを起こして屋敷から逃げようとしていたところだった。

「何、今の?」

「どうかしたのか?」

「いえ、気のせいだと良いのだけれど……」

 マナは扉を開けて外の様子を見る。するとそこには窓から飛び降りてきたヘキライとその足元に倒れているリクの姿が見える。

「り、リク!!」

 ザックの目にもとまったらしく彼は叫ぶ。

「ミルクのやつ、しくじったな……」

 そうつぶやくとヘキライはマナ達の方を向く。

「よくもリクを!」

「落ち着きなさい」

 ザックを抑えようとするが振り切られる。マナも仕方なく戦闘態勢に入る。

「お前たちもこいつと変わらない大馬鹿だな」

 動かなくなったリクを蹴り飛ばす。

「う! 覚悟しろよ!」

 ザックは勢いよく飛び出し、マナもそれに続く。

 まずはザックがヘキライの腹を殴る、彼の得物はその鍛えられた拳、硬い手甲のあるグローブによってその拳の威力はかなりある。

 ヘキライはこれを受け止めきる。

 後ろにマナが回り込んで十字架の剣を振るう、その狙いは首元、マナは初めから殺す気でいる。

 ヘキライはしゃがんで攻撃をかわし、ザックを殴り飛ばした。ザックは防御こそしたもののかなりの距離を飛ばされる。

「くそ!」

「【フレイムボール】!」

 ボニーとなってヘキライの背中に火球を当てる。

「ぐう!?」

 流石によけれなかったヘキライは倒れる。

「す、すげえ」

 だがこれくらいではヘキライは完全にやられることはない。

「やはりその形態変化、貴様吸血鬼か?」

「ええ~、そうよ~」

「それはさすがに、本気を出さねばなるまいな」

 ヘキライの気迫が変わる。

「【ライトニングバースト】!」

 雄たけびと共に大量の雷が放たれる。

「うわわ1」

「受けては駄目よ! 避けなさい雑魚!」

 ベルとなってヘキライの懐に入り込む。

「はあ!」

 恐ろしく速く雷をまとった拳、

「あたんないよぉだ!」

 実際はかなりぎりぎりの回避だが反撃まで決める。

「フンそんな攻撃では私を倒せないぞ?」

 確かにこれ程の猛撃を放つヘキライにはほぼ隙がない。攻撃を当てるのにも一苦労だろう。

「それならぁ! ちょっと吸ってあげましょうか~?」

 再びボニーに変化して雷の球を出す。

「ほう、雷の勝負とは」

「そんなのするわけないじゃない~」

 ボニーの放った雷球はヘキライから雷を吸い出す。

「なっ!? く、力が……」

「ザックさ~ん」

「うおお! こいつは助かるぜ!」

 ザックはヘキライの頭上、そこに浮かび上がっている雷球の上まで飛び上がる。

「使わせてもらうぜ! 【ヂュッパイボンバー】!」

 両拳を思い切り振り下ろす。雷球の力をまとったその拳はヘキライの脳天に轟いた。




 ビルに勝利を収めたロビンはバジルの町に戻ってきた。

「はっ! マナさんのところに行かないと!」

 ロビンはもしもの時のためにとマナから渡されていた方位磁石を見る。マナの気を察知して大方どっちの方角にいるのか教えてくれるのだ。


 少ししてビル達の行方を追っていた警備団の者がロビンと一緒に出てきたビルを発見して捕らえる事になる。


「うう……」

 ヘキライはかなりしぶとくまだ生きていたがもはや虫の息だった。

「おのれ、()()()()こんなにも弱いとは……」

「あ? 何なんだよこいつは……」

「弱い、弱い、弱い者が憎い。強い、強い、強いものが欲しい。私がなぜ弱いのだ? 違うこれが弱いのだ。もっともっと力を!』

「様子が変ね、離れましょう」

 ウグワアアアアアアアア!!!!!

 ヘキライから発せられたとはとても思えない嘆き声。

 次の瞬間ヘキライの口から何かが飛び出す。

『弱きモノ、我は強きモノ求める。強きモノ、だが、今は仕方なくさらに弱きモノを借りよう』

 ソレは赤く燃えるような存在。

「な、何が……?」

「まさかヘキライの正体は……」

 ソレはヘキライから離れて彼によって蹴り飛ばされたリクの元に漂って行った。

「ザック、今からアレを倒すわ。私の力で、だからあなたは逃げなさい」

「た、倒すのになんで逃げないといけないんだよ?」

「危ないからよ! この場に居続けてはあなたも死にかねないわよ」

 ザックは思わずつばを飲み込む、マナの覚悟は本物らしくザックは大人しくその場から逃げる事にした。


 ソレはリクの中に入り込んだ。リクは禍々しい姿に変化し始める。

 右手が魔物の持つかぎづめのようになりだしている。

「ふう、落ち着きなさい。()()()()は歌っていたはずよ。……」

 ゆっくりとマナはソレに近づいていく。

 彼女の手には氷の短剣が握られている。

『邪魔をするな!』

 ソレがかぎ爪を振るったがマナは避けて短剣でソレの背中を刺した。

「う、う、」

 うわああああああああああああ!!!!!!

 そんな彼女の絶叫が町中にこだまする。


「おい、ロビン! 本気かよ!」

「ザックさんごめんなさい! 僕どうしても行かないと!」

 ロビンはマナの元に向かっている中でザックと会った。ザックからおおよその説明を聞いたもののますます不安になったロビンはマナの元に向かうとザックに言ったのだ。

「ああもう! 分かったよ俺も行く!」

 ザックは元パーティーメンバーを見捨てたくはなかった。それもあまりいい別れ方をしなかったロビンは特に。

 二人がマナの元に戻るとマナはおらずそこには()()()()()があった。

「な、何だよこれ?」

「!! ザックさんこの中にマナさんがいます!」

「なんだって! となるとあの気色の悪いのを倒そうとしてこうなったっていうのか?」

「とにかく助け出さないと」

「おい待てよ、そうは言うがどうやって……」

 氷塊はかなり大きく町の端からでもその頂上を確認できそうなほどである。

「あ! あそこに穴があります!」

 ロビンの指した場所には確かに穴があった。

「しかし高いな……」

「ザックさん僕を打ち上げてください!」

「はあ!?」


「じゃあいくぞ?」

「はい!」

 ロビンはザックのもとに走る、そのままジャンプして彼の突き上げた拳を踏み台に更に跳躍して穴の中に入って行った。

「あいつあんな感じになったのか?」


 ロビンは氷の回廊を進んでいく、そしてマナの元にたどり着いた。

「マナさん!」

 マナはその場にうずくまるような態勢で何かを呟いている。

「こ……は……。あ……た……」

「歌っている?」

 一定のリズム、ロビンはどうしていいかわからず自分も歌ってみる事にした。

「はわわわあああ!」

 しかしロビンはとんでもない音痴だった。そんなロビンが歌い続けていると。

「ぷ、くすくす、あはははは!」

 マナが笑った。

「貴方、それじゃただ叫んでいるだけよ」

 目を開いてロビンを見つめる。

「ご、ごめんなさい」

「いいえ、私の方こそ心配をかけたわ。もう大丈夫……」


 数十分後後、ギルド及び警備隊がヘキライの屋敷に駆け付けた。

 その時には残骸こそ残っていたが氷塊は消え去り、マナ、ロビン、ザックの3人は保護された。


 ギルドによってチリの件は表沙汰にすることは控えられた。

 ヘキライは冒険者によって討伐されたとし、ビル達ワイルドビートには無期限の活動停止、ギルドの許可なくば再び冒険者活動をできないようにされた。

「ビルもミルクもどこかの町の訓練所で叩き直されるらしい、俺は運がいいよ」

 そう言うザックも観察処分となり今までのように自由には行動できないだろう。

「ビルにはリクの事言ったの?」

「いや、なんだかんだ言いつつもリクの事気にかけてたのはビルだったからな」


 マナとロビンは一応の被害者として扱われた。彼女が吸血鬼だという事はザックが口外しなかったのでばれずに済んだのだ。

 そして屋敷にてマナとロビンは紅茶を飲んでいた。

「結局あなたのいたパーティーは残念なことになったわね」

「もういいんです。マナさんの言うようにパーティーを追放されたのは僕のせいでもあったんだし、恨んでもいませんでしたし」

「優しいので」

「それにしても結局ヘキライって何だったんです?」

 マナもギルドもヘキライがロビンを狙っていたことについては教えなかった。

「まあ通り過ぎた嵐のようなものよ。私の知る限りじゃあれは炎汽といってどこかの国から強さを求めてきた亡霊のようなものよ」

「だからマナさんやビルさんが襲われたんですね」

「はあ、それにしてもまた明日から働かないとそろそろ食糧が尽きそうね」

「あ、マナさん。そろそろ僕食べられるんですか?」

 思わず固まる、まさかっそっちの方だろうか。いやいやと首を振る。

「まさかあなたの事を襲うほどじゃないわ、そもそもあなたを仲間にしたのだって気まぐれみたいなものだし……」

「でも僕もいずれ吸血鬼の眷属みたいなのになるんじゃないんですか?」

 思わず口から紅茶を吹き出すという古典的な事をやってしまう。どうやらロビンは()()()の方の意味で聞いたらしい。

「な、何の事? 私聖職者よ?」

「でもマナさん、ボニーお姉さんやベルさんの時普通に元の姿に戻らないで僕と食事とかしてましたよね?」

(しまった!)

 どうやら変わるのをめんどくさがって忘れたようだ。

「ば、ばれたらしょうがないわね。というよりはそもそもあなたはそれでいいの?」

「別に僕はどこにいくあてもないですし。その、痛くしないでいてくれたら……」

(うっ!?)

 襲いたい衝動に駆られる、()()()()()()()()

 ロビンはまだ彼の純粋さによって自身の色々な部分が危険だという事に気づいていなかった。

この作品はとあるユーチューバーさんの企画で書いたものです。

一応の加筆修正はするかもしれませんがしない可能性の方が高いです。

いかにも続編がありそうな雰囲気ですが作られるかは作者の気分次第です。

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