ニンゲン・フォビア~Kei.ThaWest式精神糜爛人造恐怖譚~
AIに事故物件のイラストを描かせたら何故か毎回俺の部屋が出力される件
久しぶりにホラー短編書きました!
よろしくお願いします!
あと、本作を気に入って頂けましたら、タイトル上部のリンクを辿って他の作品も読んでみてくださいねー!
最近SNSで話題の、AIを用いたイラスト自動生成サービスを利用してみた。どうやら、描いて欲しいテーマを指定すればほんの一分足らずでAIがイラストを自動で作成してくれる優れものらしい。SNSには連日、驚くほど緻密なイラストが投稿され、それらはことごとく流行っていた。
SNSをやる以上、俺も一度くらいはバズってみたい。まぁ、やろうと思えば簡単にバズれるネタはあるのだが、せっかくなのでこの自動生成を使って最高にクールなイラストを仕上げることで流行に乗ることにしよう。
夏真っ盛りなので、ちょっとホラーっぽいテイストがいいかなと思った。SNSでバズっているイラストの多くが風景画などの“開けた空間”に関するものだったので俺はその逆を行き、敢えて“閉じた空間”で勝負したい。
お題は……事故物件。
これでどうだ。
とはいえ普通に“事故物件”などと指定してもなんとなく薄暗い建物の全景をアウトプットされそうだったのでもう少し具体的に内容を指定していく。
“過去に複数件の凄惨な殺人事件があったアパートの一室”
これならばどうか。実におどろおどろしいテーマだ。夏にぴったりだ。
意気揚々とイラスト自動生成サービスを立ち上げ、条件を指定する。ていうかこのサービス、何度も利用したければ課金しないとダメなのか。面倒だ。なになに、無料お試しは三回まで? ケチケチしている。
まぁいい。三回以内に俺の望む通りのイラストが出力されればそれでいい。
ネットの評判通り、AIは恐ろしいまでの速度でイラストを仕上げてきた。一分かかっていないのではないか。体感では三十秒ほどで、一枚のやや薄暗いイラストがモニターに表示された。
「……あ?」
俺は、出力されたイラストに奇妙な既視感を覚えた。
そのイラストはワンルームのアパートの室内を玄関に立って見たような構図になっていた。
玄関から伸びる細い通路、その先にある部屋は少し散らかっており、窓際に置かれたパソコン机に向かい作業をする男の背中が描かれている。
ネズミ色のシャツに黒の半ズボン。それは今、まさに俺が着ている服と全く同じだった。
しかも室内の間取りも、この部屋と全く同じに見えた。なんなら床に落ちているカップめんの空容器すら同じ。
そのイラストは、今現在の俺の部屋の様子と瓜二つなのだった。
「んだよ」
悪態をつく。そして条件指定が間違っていないことを確認。俺は確かに“過去に複数件の凄惨な殺人事件があったアパートの一室”と入力していた。
出力されたイラストは全体的に薄暗く不気味な雰囲気を漂わせているが、俺の部屋が薄暗くて不気味なのは隣に建てられた新築マンションのせいで日照時間が大幅に減ってしまったのと家主の陰気な性格のせいである。
てかこんなもの、SNSにアップしても面白味がない。俺がもし絵描きだったら、このイラストに悪霊の顔でも書き加えてやるのだが。
と、そこで俺はあることに気付く。てっきり玄関から部屋を覗いているのかと思ったが、それにしては妙に位置が近い。このイラストは玄関を上がり、少し廊下を進んだ位置からの視点なのだ。ということはちょうど、風呂のドアがあるあたりか。
「ちっ」
首筋にチリチリと厭な寒気を感じ、舌打ちをしながらゆっくり廊下の方を向く。もちろん、そこには何もない。ただ饐えた臭いのする、誰もいない廊下があるだけだ。
カチッ。
いきなり、エンターキーが音を立てる。
「は?」
驚く俺の目の前で、AIはまたしてもイラストを自動生成する。
俺の部屋。廊下を少し進んだ場所から室内を覗き込むかのような構図。そしてパソコン机の人物は、体を捻り廊下側を見ている。
人物の顔はまるで返り血でも浴びたかのように鮮烈な赤色でぐちゃぐちゃに塗りつぶされていて、判別不能。
“過去に複数件の凄惨な殺人事件があったアパートの一室”
AIはまたしても俺の部屋そっくりの構図を描いて寄越した。
「……嘘だろ。こんなことが」
俺は幽霊を信じない。あんなものは迷信か、あるいは気休めに過ぎない。死んだらそこで終わりだ。ずっとそう考えていた。
だがこれは一体、どういうことなのか。
俺は一度深呼吸をし、最後の自動生成に臨む。
“お前、幽霊か?”
そう入力した。
やがて現れたイラストは、パソコン机に座る俺の背中を至近距離から覗き込む構図。
「……は、ははは……」
さすがに、気分が悪い。俺はわざと乾いた笑い声を出し、そっと、そーっと後ろを振り向く。
「……」
そこに、誰の姿もなかった。
「まぁ、幽霊って目に見えないしな」
立ちあがり、廊下へ向かう。
風呂場のドアを開け、電気をつける。
タイルの上をちょろちょろと排水溝へと流れ込む幾筋もの赤。
浴槽いっぱいに満たされた血の海に浮かぶ、バラバラの人体。
ごぽり。
恨めしげな顔をした女の生首が水面から半分顔を覗かせ、俺を睨んできた。
「いや、バカにすんなお前。黙って死んどけや」
俺はムカついて、その生首を足で蹴飛ばした。
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夏なので何か一本くらいホラーを書いておきたいなと思っておりましたが、ここに無事投稿できたことを作者も嬉しく感じております。