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9.妖精姫との出会い

 プラチナブロンドの腰まである長い髪。長い睫毛に縁どられた紫色の大きな瞳。陶器のように滑らかで透き通るような真っ白な肌。木陰からシャルロッテを驚きの表情で見ていたのは、妖精姫のように美しい少女だった。


「ふ、ふわぁーー! 綺麗! 妖精のお姫様ですかー!!」

「え、いや、ちが……」

「ロッティです! 元気ですかー! ロッティは元気!!」

「あの、こんな所に子供が一人で来たらいけない」

「声もすてきです! お友達になってください!!」

「いや、ならないし、あのね、森は危ないから……」

「何をして遊びましょうか! クフフフ!」

「ぜ、全然話聞かない……」

「お友達嬉しいです! 初めてのお友達ですよ!!」

「いや、あのならないし、危ないから帰った方がいい」

「鳥さんがたくさんお山に帰るのが見えたら帰るのです! だからそれまでロッティと遊びましょう!!」


 うきゃきゃと楽しそうにクローバーにまみれ、ニッコニコのシャルロッテの圧の強さに身じろぎながらも、少女はもう一度シャルロッテの目を見て毅然と言った。


「森を出るまで半刻はかかるから、ここはもっと早く出た方がいいよ」

「じゃああとどれくらいで帰ったらいいですか!」

「あと一刻もないよ。というか私は遊べないし、道だけ教えてあげるから今すぐ帰るといい」

「じゃあちょっとだけ! ちょっとだけ遊びましょう!!」


 シャルロッテは風呂敷のように背負っていた布から自作のグローブもどきとボールを取り出し、グローブもどきのピンクの方を少女に渡した。


「これ! こうやっておててにはめて下さい!!」

「遊べないってば……」

「ではボールを投げるので、こっちのおててで受け止めて下さい! いきますよ!!」

「えええ……」


 少し離れたところまで走っていったシャルロッテは、振りかぶってボールを投げた。五歳児にしてはなかなかの投球である。


 パフッと音をさせて少女のグローブの中にボールが納まった。


「はわわわわわ、すごいです! 一発で使いこなすなんて名捕手なのです!! もしやロッティの恋女房なのでは!!」

「ちょっと何言ってるか分からない」

「ロッティにも投げて下さい! 捕って見せますよ!!」

「えええ……」


 瞳をキラキラと輝かせて大興奮しているシャルロッテに、少女はしぶしぶボールを投げ返す。


 シャルロッテのブルーのグローブにふんわりとした投球がしっかり納まると、ますます瞳をウルウルキラキラさせている。


「キャッチボールです! 嬉しい! 嬉しいなぁ!」


 そう言ってあんまり嬉しそうに笑うので、少女はつい何球か相手をしてしまった。


「ねぇ、本当にそろそろ帰ろう。途中まで送っていくから」

「ありがとうございます! おてて繋ぎましょう! お友達!!」


 すごいスピードで手を繋がれてしまった少女は、見るからに警戒心のないシャルロッテに溜息をつきつつ森の出口まで案内する。


「友達じゃない」

「何回遊んだらお友達ですか! ロッティは明日も来るので遊びましょう!!」

「もう来ちゃダメだよ」

「同じ時間に来るのでよろしくお願いします! グローブは預けておきますね!!」

「本当にこの子は……」


 森の出口手前で「じゃあここで」と別れを告げる少女にグローブを押し付け、何度も何度も振り返っては腕ごと手をぶんぶんと振る。そんなシャルロッテを『厄介な招かれざる客』だと思いながらも、その小さな背中が見えなくなるまで少女は見守っていた。





 毎日夕方頃に公爵邸へやって来る大きな雑貨店の馬車に忍び込み、高揚した気持ちで木箱の奥で揺られて帰る。またしても誰にも見つからずに上手く降りられて、シャルロッテはタイミングのコツを掴んだ気がした。


 薔薇園の植え込みに隠しておいた木箱に乗って、部屋の窓からよいしょよいしょと中へ入ると、部屋は出て行った時と全く同じ状態だった。作戦は完遂されたとホッとする。


『うまくできたのです! 明日もキャッチボールできるかなぁ。お友達になってくれるかなぁ』


 頭にクローバーを付けたままシャルロッテはベッドに入り込み、ぬいぐるみを抱いてクフフフと笑う。そしてそのままくぅくぅと眠ってしまった。





 ◇◇◇





「ゲオルグ様、コマドリによると本日偶然ご対面なされたようです」

「ほぉ、面白い。やはりあそこに入れたか。何度会いたいと試みても会えぬ者もいるというのに、何も意図せず出会うとはなぁ」

「影達はかの森には入れないため、鳥達からの情報のみです。詳細は分かりかねますが、今後は如何になさいますか」

「助かるホルスト。このままでよい。引き続き頼む」

「は。承知致しました」



「予想以上に早く縁が繋がったかもしれんなぁ」


 ゲオルグは窓から夜の帳が降りた王都と、その先の森の方向を見つめながら呟いた。






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