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7.来たよ王都

 六月初旬、レオンハルトとシャルロッテは王都へ向かう豪華な馬車の中、隣り合って景色を見ていた。向かいの席には侍女のハンナとゾーイが微笑ましそうに二人を見ている。


「お祖父様はホルストに乗ってビューンですね」

「ホルストに慣れてしまうと馬車は遅くて仕方ないみたいだね」

「お兄様も帰りはフランツに乗ってビューンなのですか」

「フランツはまだ九歳だから、十二歳になるまではシュテルン領には来ないと思うな。十六歳になったら王立学院に入学するから、その時にはまた二人で領地を離れて三年間王都で暮らすことになるね。はぁ、先のことだけどロッティと三年間も離れるなんて耐えられないよ……」

「学院ですか! はわわわ、ロッティも一緒に通いたいです!」

「はぅ! 何それ夢のような学院生活! お揃いの制服で並んで勉強なんて最高だよ! 宿題も全部やってあげるし、昼食は膝にのせてアーンしてあげるね! まるで天国だね……あぁでもロッティはその時まだ十一歳だから通えないんだよ……くっ」


 震える手で口元を押さえながら、レオンハルトが心底残念そうに言う。


「必ず……必ず飛び級して、すぐに卒業して戻るからね……!!」


 六年後の別れを今から想像して涙目になっている残念な次期公爵家当主に、ハンナとゾーイは『黙ってらしたら完璧なのに……』と遠い目になっていた。





 ◇◇◇





 ほぼ城のシュテルン本邸ほどではないものの、王都のシュテルン家の屋敷も他のどの貴族屋敷よりも巨大で美しい建物だった。昼間はゲオルグもレオンハルトも白騎士団へ行ってしまうため、シャルロッテはゾーイと屋敷を探検して過ごす毎日だ。最近は広大ないくつもの庭園を巡るのがお気に入りである。


「ねぇゾーイ。ここでキャッチボールをしたいの」

「きゃっちぼーるですか? なんでしょうかそれは」

「二人でボールを投げあうのよ。グローブっていう大きな手袋を片手につけて、そっちのおててでボールをとると痛くないの」

「はぁなるほど。大きな手袋ですか。お待ち下さいね」


 そう言ってゾーイが持ってきたのは庭師用の手袋だった。


「もっとふかふかで、中の部分はロッティのおててに合う大きさだといいの」

「すでにあるものだと鍋つかみくらいしか思いつきませんが、お嬢様のおててには大きいですねぇ。なんなら作りましょうか」

「すごい! ロッティも作りたい!」

「うふふ、いいですよ。こう見えても私裁縫は得意なんです」


 十四歳のゾーイはシャルロッテ専属侍女として勤め始めて二年。時折飛び出す聞いたことのない名称のものにも柔軟に対応し、大いにシャルロッテを喜ばせていた。


「うむむむ難しいの」

「お上手ですよ、お嬢様。色選びが素敵です」


 ざっくりと指で編んだ小さなニット何枚かを、編み棒で手袋型に繋いでいく。中には綿も入れてふかふかに仕上げた。パステルカラーのピンクと水色の二対のグローブもどきは、五歳が作ったにしては上出来だとゾーイは思う。ボールもニットで作ってみたが重さが足りないというので、中に乾燥した豆を入れてみた。


「すごい! ゾーイいい感じ!」


 どうやらご満足頂けたようだと安心しながら、テキパキ片づけをしているゾーイの耳には届いていなかった。


「お友達欲しいなぁ。一緒にキャッチボールしたいなぁ……」


 というシャルロッテの呟きは。





 エドガーと四人の叔父達の子供の頃の話や、レオンハルトと二人の実兄達の話を、シャルロッテはいつもワクワク楽しく聞いている。テレーゼも先王とは子供の頃よくいたずらをしたらしいし、クリスティアーナも従姉妹といつもおままごとをしていたらしい。


『いいなぁ』とシャルロッテはいつも思う。


 家族は皆自分を可愛がってくれるし、どんな遊びでも一緒にしてくれるけれど、同じ年頃の子と遊んだことはない。レオンハルトはやっぱり五歳上だから、自分の面倒をみてくれている感じで、一緒にいたずらしたり取っ組み合いしたりとはまた違う。訓練も楽しいけれど、たまには同じ目線で遊びたい。


 馬車から同じ年頃の子供達が一緒にいる場面を見かけると、その時だけ特別な感情が湧き上がってくる。


『自分はお友達が欲しいのだ』ということにシャルロッテは気が付いた。






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