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6.王都に行きたい

 王都の王国騎士団、通称白騎士団で稽古をつけてもらう目的で、三ヵ月もシュテルン領を離れることになったレオンハルトは深く溜息をついていた。


「ロッティと三ヵ月も離れるなんて……」

「レオと主従関係になる御使い(みつかい)と初めて対面するのだから、行かないわけにはいかないな」


 心底行きたくなさそうなレオンハルトをエドガーが窘める。


「お父様、お兄様! お兄様にもホルストみたいな御使い(みつかい)がいるのですか!」

「そうだよロッティ。強い魔法使いが生まれると、必ずすぐ後からその魔法使いと主従になる御使い(みつかい)が後を追うように生まれてくるんだ。先に生まれた魔法使いは自分の御使い(みつかい)が生まれ落ちた瞬間にそれが分かる。成長するにつれ、離れていても心と心が繋がったように念が通じるんだよ」


 大興奮するシャルロッテにエドガーは優しく説明した。エドガーも風魔法を使えるが御使い(みつかい)はいない。現在王国で二人目となる御使い(みつかい)は、何よりも優先される存在であるとレオンハルトに諭す。


「はわわわ、すごいです! ロッティも欲しいです!」

「ロッティは魔力がないからねぇ。残念ながら私も風の魔法使いだが、魔力が強くないから御使い(みつかい)は現れなかった。強い魔法使いだけが御使い(みつかい)を持てるんだよ。だから数は魔法使いよりずっと少ない希少な存在だね」

「お兄様も御使い(みつかい)と念が通じているのですか!」


 そんなに貴重な存在が自分の兄にもいる事実に、シャルロッテのワクワクは止まらない。


「生まれているのはずっと知っていたんだけど、昨年くらいから少しずつ通じるようになったんだよ。初めて会話が成立したときは感動したな」

「はわわわわ、すごいです! なんて方なのですか!」

「フランツといって王都の宮中伯の次男だよ。白馬なんだ」

「はわわわわわ、かっこいいです! ホルストの鷲さんもかっこいいですが、白馬さんもかっこいいです!」


 むきゃーーと興奮しているシャルロッテに一同目を細めていると、シャルロッテが珍しくお願いをしてきた。


「ロッティもお兄様と一緒に王都へ行ってみたいです! 白馬さんに会いたいです!」

「やった!! それがいいそうしよう! 一緒に行こうロッティ!」

「今やったって言ったなレオ! 私は領主として領地を離れられないのに! ロッティと三ヵ月も離れるなんて嫌だ!」

「父上! さっき僕には仕方ないねみたいな感じだったのに!」

「「だったら私も参ります!」」


 父と息子で言い争っていると、黙ってられないとばかりに女性陣も参戦してきた。しかしレオンハルトがコホンと一つ咳ばらいをし、諭すように言葉を発する。


「お祖母様が王都に行ったら先王陛下にも国王陛下にもお会いすることになりますよ! 必ずロッティを連れてくるようお願いされるでしょう。お分かりですか」

「うぐぐ、オスカー王子か……」


 テレーゼが黙る。


「母上が王都に行っても、連日王都中の貴族から夜会やお茶会に招かれますよ。そしてまたしてもシュテルンの奇跡の公女に会いたいと懇願されるのです。お分かりですか」

「うぐぐぐ、回りまわってオスカー王子か……」


 クリスティアーナも黙る。


「だったら儂が行くしかあるまいなぁ。王国騎士団の指導をしてやる名目で行けば、パーティに呼ぶ者もおるまいて。カッカッカ」

「「「…………(ギリィ)」」」


 結局ゲオルグが孫二人の付き添い兼白騎士団の指南役として同行することになった。




 テレーゼとクリスティアーナが懸念しているオスカー王子とは、ヴェールハイト王国ただ一人の王子である。第一側妃の息子ではあるが、王妃に息子がいないため唯一の後継者なのだ。


 シャルロッテより数ヶ月先に生まれていたため、五年前シュテルン家にまさかの公女が生まれたと知るや、第一側妃から婚約打診の連絡がきたのだった。


 シャルロッテを溺愛しているシュテルン家一同、『家訓があるので無理』と不敬にも即お断りしたところ、英雄ゲオルグと実の叔母テレーゼに頭の上がらない国王は、『残念です』と一旦諦めた素振りを見せてそれきりだ。


 シュテルン家は筆頭公爵家であるため、シャルロッテ以上の高位貴族令嬢はいない。政略結婚ならば王子程釣り合う相手はいないだろう。王家にとっても国民に圧倒的影響力を持つ英雄ゲオルグ・シュテルンの孫娘との婚姻は、更なる王家の繁栄に繋がる願ってもないものなのだ。


 しかしシュテルン家の恋愛結婚至上主義はもはや伝統であるため、オスカー王子とシャルロッテが恋愛関係にならない限り、この婚姻が無理筋であるのは第一側妃もよく理解していた。そのため何とかしてオスカー王子とシャルロッテを対面させることから始めたいと、第一側妃が画策している気配を家族一同察知していたのだ。


 そんな家族の不安をよそに、シャルロッテは初めての王都と白馬の御使い(みつかい)に胸を躍らせていた。





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