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21.お父様は錬金術師

 半月もしない間に、伸びる包帯の生地についても解決した。デザイナーの先生が取引先の工房に相談したら、ノアのアドバイス通り編む方法で作ってくれたのだ。


「いい感じに伸びますね!」

「ご満足頂けましたかしら?」

「是非これで量産して欲しいです!」

「そう思って編み機の設計をしてもらいました」


 手渡された設計図には、綿の糸をニット生地のように編むための、丁寧な設計図が描かれていた。本当にうちの領地には、いい仕事をする腕の良い専門家ばかりが居てくれて感動すら覚える。


「アイゼンにお願いして作ってもらいます!」

「よろしくお願いしますお嬢様。ところで例のモノ、ご準備出来ましたよ」

「え?」


 謎の相談役エンジェルの衣装が出来上がってきた。





「可愛いわ、ロッティ! 騎士団感が出ていていいわ!」

「別人みたいだね! ダークブラウンの髪も似合っているよ!」


 執務中だった筈のお父様までいつの間にかやってきてお母様と騒いでいる。


 今私はダークブラウンのウィッグに、女騎士の子供服を着せられて、鏡の中の自分を見ている。これはなかなか自然でいいのではないかと自分でも思う。騎士の娘のように見えるのではないだろうか。


「絵師を呼んだのに忙しいらしくって」

「ロッティのこの瞬間を絵に残したいのになぁ」

「お父様、お母様。絵師さんはロッティがお仕事をお願いしてるので忙しいのです」


 絵師の代わりに手持ちの紙に絵を描くお父様の脇から、お母様がチラリと覗き見している。見た途端お母様の額に一瞬青筋が浮かんだのだけど、どんな仕上がりなのか怖い。


 コンコンコンとノックが聞こえてドアが開く。


「父上、母上。ロッティの新しい服が出来たと聞きま……」


 お兄様までやってきてしまった。


「あぁ、なんて凛々しくも愛らしいんだ!」


 始まった。こうなるとうちの家族は長い。


「父上、今描いてらっしゃるのはまさか………………モグラ?」

「なんでだよ。今モグラいないよ。想像で突然モグラ描いたりしないよ」


 お兄様がお父様から紙とペンを借りると、サラサラと何か描きだした。


「「おぉ~っ!」」


 見ると絵師顔負けの美麗なタッチで私の姿絵が描かれている。なんという才能。こんなに上手いならトレーニングマシンとストレッチの説明書は図解付きでお兄様に書いてもらおう。


 その後も謎の相談役エンジェルの別衣装に着替える度、お父様とお兄様が姿絵を描き続け、お兄様の超絶技巧の姿絵と、お父様の謎モグラ絵が量産されていくのだった。





 ◇◇◇





 アイゼンに編み機も問題なく製作してもらい、伸びる包帯が大量に出来上がってきた。あとはノアを待つだけだ。


「お父様、お話があります」

「おぉ、ロッティ。どうしたんだい?」


 お父様の執務室に行くと執務机の上には大量の書類が積まれており、一目見て忙しいことが分かる。


「お忙しそうなので、お時間できるまで待っています」


 執務室のソファにちょこんと座ると、家令のコンラートがすぐに紅茶と焼き菓子を出してくれた。コンラートの淹れる紅茶は世界一美味しい。


 視線を感じてふとお父様の方を見ると、バッチリ目が合った。


「可愛い我が娘が執務室にいてくれたら仕事が捗るなぁ~」


 ずっとこっちを見ていた気がするのだが本当だろうか。


 大量にあった書類がスイスイと減っていくが、コンラートが次から次へと足していく。


「減らない」


 お父様が涙目で訴えると、コンラートが『こんなに進んで書類仕事をこなす旦那様は初めてなのでつい……』と言って足した書類を戻し、お父様の分の紅茶を淹れた。


「さてお願いとは何かな?」


 満面の笑顔で私をお膝に乗せ、お菓子をアーンしてくれる。


「トレーニングマシンは領内の黒騎士団駐屯地全てに設置したいです。食事もプロテインメニューにするのに今までの何倍も牛乳が必要になると思います。輸送を考えると、各駐屯地近くに乳牛農家があればいいのですが。仕入れも塩と砂糖と果物は増えますし、各料理人には共通のレシピが必要です。定期的にマシンの使い方やストレッチの仕方、テーピングの仕方が正しいかチェックすることも大切かと思います。伸びない包帯も伸びる包帯も、常時量産するための体制を整えたいです」


 今は本邸敷地内に詰所のある第一・第二騎士団の改革を進めているが、ゆくゆくは領地全ての黒騎士団にも行わなければいけない。その時にどれだけの費用がかかるか考えて不安になり、今日お父様に相談にきたのだ。


「なるほどなるほど。イザークと共に各騎士団長と連携をとって設置と指導について予定を組もう。アイゼンには領内の鍛冶職人を集めて指導してもらって、駐屯地全てにマシンを急ぎ納品できるよう声掛けしておくよ。レシピは料理長に作ってもらって、製本して全ての料理人に配布するとしよう。仕入れは常に安定して供給されるように複数取引先を増やし、生産者にも優遇措置をとるとしよう。乳牛農家は誘致して支援金を出すことで解決出来るのではないかな。包帯の製造工房も新たに大きいものを各地に作らせよう」


 あっさりと対応策を思い付くお父様に、やっぱり領主でいらっしゃるんだなぁと尊敬の念が浮かぶ。


「お父様、費用がすごい額になるのではないかと心配です」

「えぇっ! そんなの大丈夫だよ!」


 前世だったら数百億とか軽く超えるのではないだろうか。何せ領地が広大なのだ。


 本来なら辺境伯が治めるこの国境を含む領地は、三十年前の戦争と魔獣討伐の際に荒れに荒れ、無敵のお祖父様しか治められない土地となってしまった。


 筆頭公爵家でありながら、王都から離れたこの地まで領地を広げたのには理由がある。


 国境で食い止められなかった魔獣が王都になだれ込んで来るのを防ぐため、先々代の国王陛下がお祖父様に盾としてこの土地を託したからだ。


 今ではそんな過去が嘘のように平和で栄えている。栄えてはいるが数百億超えでも大丈夫だなんてことあるのだろうか。


「我が領は幸い災害も少なく、領民も多く、経済も発展して潤っているんだよ」

「そうなのですか」

「こう見えてお父様は魔力は少ないけど経営の才能はあったんだよ」


 キョトンとしているとコンラートが補足してくれる。


「お嬢様、旦那様は西部と南部に貿易港を作り、他国との貿易業を行ってらっしゃいますし、王都と領地内の各都市には大きな商会やレストラン、貴族専用のホテルを幾つもお持ちです。この王国一の資産家でいらっしゃるのですよ」

「えぇっ!」


 知らなかった。それはフランツの言う通り、こんな私でも狙われるだろう。


「シュテルン家の収入はそこらの国の国家予算より多いですから、ご心配いりませんよ」


 と言って新しく紅茶を淹れ直してくれた。


「だから腕の良い職人さん達ばかりなのですか」

「ロッティにも分かったかい? そうだよ、腕を見込んでいい条件で来てもらった人達ばかりなんだ。報酬以上の素晴らしい仕事をしてくれる我が領の財産だよ」


 その方達のおかげで私の計画がどんどん進んでいく。プロの力、本当にありがたい。皆さんを我が領に引き抜いてくれていたお父様にも感謝だ。私も皆さんのご協力に恥じない仕事をしたい。


「ロッティの計画で、この領地に更に雇用が生まれるんだよ。これも経済を回すことになるからね」


 何だか私が思っていた以上に大きな話で、身が引き締まる思いがした。






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