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1. プロローグ
額を襲う激痛とドクドクという脈動、それに合わせて顔に流れる血液の熱さと血の匂い。
血を流す自分を覗き込むレクシーは、美しい紫色の瞳に涙をいっぱい溜めて、震えながら私の手を握っている。
きっと今の自分は目を背けたくなるような状態に違いない。
朦朧とする意識の中、『大切なレクシーを守れて本当に良かった』という安堵の後に、『これはさすがに家族にばれるかな』とぼんやり考えていると、レクシーが震える小さな手を私にかざした。
「うっ、ぐす。い、今すぐに治すからねロッティ……うぅっ」
『泣かないで……。泣かないでレクシー……』
その手から急に眩しい光が放たれて、優しく私の全身を覆う。すると額の痛みが嘘のようにすうっと消えていく。
暖かく優しい金色の光が消え去ると、意識を失いそうな程の痛みも脈動も、流れる血の熱さも感じなくなった。
「レクシー……これ魔法……?」
光の中見たレクシーの瞳は溢れる涙で揺れて虹色に見えた。
――――その瞬間、五歳の私は前世の記憶を完全に取り戻した。