第88話 感謝と宴
シックザール魔教会の本拠地があったヤミワス山から首都ボザーダイアに戻る途中のこと。
森の中で太陽騎士団を乗せた獣たちの足が止まった。
——なんだ、どうした?
リフィーを空中でいったん止めて様子を見た。
「モンスターにでも襲われたか?」
「でも、森の中は静かよね」
リーゼが言った。
キャヒーン
少し離れた森の中から、悲痛な獣の鳴き声がしてきた。
「わっほーい。イイ肉、しとめたぜ」
ペピンの声だった。
また太陽騎士団を乗せた獣たちの足が動きはじめて、森から抜け出てきた。
ペピンの獣が、森の中でしとめた動物をくわえていた。
「アレを捕まえていたのか。太陽騎士団ってのは、野性味あふれてるな」
リフィーを追いかけてきたのを確認して、ふたたびリフィーを飛ばす。
首都ボザーダイアに到着した。
俺たちに気づいた町の人たちが手を振る。
町の中を通る太陽騎士団も拍手で迎えてくれた。
「新しい暗黒騎士、ありがとう〜」
「ボザーダイアを守ってくれてありがとう」
「町を襲った者たちを倒してくれたんだ」
と、町の人たちが感謝の言葉を口にしていた。
宮殿にリフィーを降ろす。
「帰ってきたってことは、やったんだな?」
若き暗黒騎士カミル、ザラ、アーモットが出迎えてくれた。
「あぁ、もちろんだ」
リフィーから降りて答えた。
「キール。あんたはタダ者じゃない。マナ使いで暗黒も、剣技にも長けている。なんで、スレッグさまはそんなあんたを追放したんだ?」
「さぁ? 俺にはわからないさ。まぁ、今さらどうでもいいけどな」
そう言いながら、エレナの手をとってリフィーから降ろしてやった。
「国王さまがお待ちだ。案内する」
カミルは振り返って、宮殿の中に向かって歩き出した。
俺たちと太陽騎士団は、王の間に案内された。
「キール、太陽騎士団、よくぞ帰ってきてくれた」
「はい」
俺に合わせて、エレナたちや太陽騎士団、暗黒騎士3人も軽く頭を下げた。
少し遅れて、カリンも慌てて真似る。
「皆の者、あらためて、ご苦労だった。このボザーダイアの襲撃から守ってくれたこと、民を代表して、深く感謝する。そして、襲撃をくわだてたシックザール魔教会を倒してくれたことに御礼申しあげる」
「いえ。できるだけのことをやったまでです」
「あぁ。あのままシックザール魔教会を野放しにしておくことはできなかった。我が国としても暗黒騎士を失った原因の1つやもしれん。隣国ゾンネだけでなく、聞けば、各国で闇の指輪が混乱を招いていると。その首謀者たちを壊滅に追いこんでくれたお主たちを誇りに思う」
「とてもありがたきお言葉です。ですが……」
「わかっておる。まだ指輪は残されておる。それを捨てに行くというのだろう」
「はい」
「わはははは、もちろんだ。こんなモノをこの世に存在させておけない。太陽騎士団、そして八大騎士がしっかり葬ってくれよう」
エルドウィンがいつもの調子で言った。
「うむ。すぐにでもお願いしたところだが、連戦のうえ、また長旅では疲れるだろう。しばし、休息してはどうだ。ボザーダイアを守ってくれた礼として、ささやかではあるが宴を用意しよう」
「はい。ありがとうございます」
「わっほーい、宴。イイ肉あるから、焼かせてくれよ」
「おい、ペピン。国王の前だぞ、申し訳ありません。かなり野性的なヤツでしてな」
エルドウィンがかばって言っているんだが、そのエルドウィンも軽いような気もするがな。
「そうか。では、その肉も一緒に出したらいい。では、宮殿の中庭に用意させる」
「わっほーい。なぁ? 言ってみるものだろう、な? な?」
他の太陽騎士団は、うんうんと軽くうなずいて、国王の様子をうかがっていた。
「なんとも明るい性格。太陽騎士団にふさわしいな」
国王はそういって、侍従に宴の用意をするよう伝えた。
宮殿の中庭で、宴がはじまった。
宴といっても、料理が並べられた立食形式だ。
庭の隅では、ペピンが森で狩ってきた動物を丸ごと火あぶりにしている。
「こ、こんな料理……私もいいの?」
カリンが戸惑っていた。
「あぁ。好きに食べればいい」
「でも、私はこれといって何かしたわけでもないし……」
「なに言ってる。カリンだって、町を救って教皇を一緒に倒したんだぞ」
「そ、そうだけど……それは、キールがいてくれたからで、私の力でもなんでもなくて」
「カリンがいるかいないかで、また戦況も大きく変わったさ」
「そ、そうキールに言ってもらえて、私は嬉しいかも……」
カリンは少し照れていた。
「あ、そうだ、カリン。これから俺たちは、闇の指輪を地獄の谷に捨てに行くことになる。できれば、カリンにも着いてきてほしいと思っているんだが、一緒に来てくれるか」
「も、もちろんです。こ、こんな私でよければお供します」
「それじゃあ、頼む」
「はい」
きゅっと唇を一文字にしたカリンは、力強くうなずいた。
「カリーン。食べないの? 冷めちゃうよ」
リーゼが呼んだ。
その隣で、すでにエレナはガツガツと食べている。
「あ、はーい。リーゼお姉さま」
カリンはリーゼのもとにかけていった。
「よう、キール。飲んでるかぁ?」
エルドウィンが俺の肩に腕を勢いよく回してきた。
そして、酒樽を抱えている。
うっ、酒くっさ……。
まだはじまったばっかだろ?
もうどんだけ飲んでるんだよ。
「お主、本当にいい腕をしている。一緒に戦ったからこそわかる」
「あぁ、それはどうも」
「いやー、もっと早く出会っておれば、太陽騎士団に入ってほしかったの。でも、今は暗黒騎士となったわけだ。いずれ、隣国同士、戦うことになるな、わはははは」
「いや、俺は戦わないっての」
「なに、水くさいことを八大騎士同士、仲良くしようじゃないか……」
「仲良くするなら戦わなくていいだろ」
この酔っ払いのオッサンが……。
「でも、あとは指輪を捨てさえすれば、脅威は消える」
エルドウィンが急に落ち着いた口調に戻った。
「それが最終的な目的だからな」
「もしかすると、地獄の谷で八大騎士全員と出くわすかもな。そうなれば、久方ぶりだ。腕試しもしてみたいのぉ」
「わざわざ、面倒くさいこと起こさないでくれ」
「なんだよぉ、新しい暗黒騎士はつれないなぁ」
「ふん。前の暗黒騎士と一緒にしないでくれ。俺は、俺だ」
「そうか。そうだよな……はぁ、こうやって時代は変わっていくのかぁ」
と、しみじみしながら、酒樽をあおるエルドウィンだった。
夜が更けるまで、中庭での宴はつづいた。
宴を解散し、寝る部屋も用意してもらえていた。
なぜか、俺たちは1室だけだった。
他に部屋がないわけじゃないだろ?
エレナ姫が前もって言っておいたのか?
「さぁ、寝よう、キール」
と、腕を引っ張られて、広いベッドの上へと連れていかれた。
「わ、私が隣でもイイですか?」
エレナと横たわる俺に、カリンが緊張気味に聞いてきた。
「あ、あぁ。好きにしろ」
「し、失礼します」
と、ベットの上を四つん這いで近寄ってくる。
「落ち着きます」
と、空いているもう片方の腕を抱きしめたカリン。
どうだかな……俺は。
そういえば、同じようなことを言っていたヤツもいたな。
そして、リーゼはカリンの隣に横たわった。
どうしてこうも毎回引っつくかれなきゃいけないんだ?
せっかく広いベッドなんだ。
もっと広く使えばいいだろうに……。
はぁ……。
でも、こうしてゆっくり寝られるのも、これが最後になるのか……。
夜中。
「もにょもにょ……ダメです。リフィーを食べないで……ペピン」
エレナ姫が苦しそうに寝言を言っているのを聞いた。
「おもしろかった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「キールたち、今後どうなるのっ……!」
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