第80話 首都ボザーダイアの襲撃
「ちょ、ちょっと見せてください……」
カリンがちゅうちょすることなく、鎧を着た2人に近づいていく。
「本当に賞金首……生死問わず……確かに強いですけど、賞金首になるような人たちではありません」
手配書を直に見定めて、2人に訴えたカリン。
「俺たちに言われてもなぁ」
「カリン、かまうな」
「SSS級のヤツらと一緒にいてはダメよ、お嬢ちゃん」
カリンを俺たちから距離をとるように、女が背後へやった。
「えっ、でも、キールたちは別になにも悪いことは……」
カリンが戻ってこようとするが、止められてしまう。
「SSS級なのよ。悪いを通り越して、もう存在が悪なのよ。私たちは、ゾクラナ帝国で正式に認可を受けている賞金稼ぎデニーゼ・ガウアー、こっちがラグナー・ノメンゼン」
「大人しくつかまるなら、命は生かしてやるぞ」
ラグナーが言ってきた。
「争うつもりはない。カリンを返してくれ。俺たちは、首都ボザーダイアへ行くつもりでね」
「ハハハ……だったら、なおさら捕まるだろうよ。今、首都に兵士たちが集結しているぞ」
「それで、ここには兵士がいないのか」
「新しい暗黒騎士パーティーを編成するとかで、選抜されるらしいからな」
そうか。
ゾクラナ帝国は、八大騎士の1つ、暗黒騎士を編成しているんだったな。
でも、それだけで、兵士を町から全員引きあがらせるか?
新しい暗黒騎士を選抜するってことは、アイツらは死んだのか。
——まぁ、どうでもいいか。
「首都には行かせないぜ。ここでお前らは俺たちに捕まるんだよ。そうすれば、俺たちの名もあがるってもんだ」
ラグナーが剣を抜いてかまえてきた。
「えぇ」
デニーゼも剣を抜く。
「あ、あの……やめておいたほうがいいと思いますよ」
カリンが忠告した。
「かわいそうに……嬢ちゃん。そういうしかないよな。すぐに自由にしてやるからな。行くぞ」
ラグナーとデニーゼが駆け出す。
「はぁ……あまりこっちは騒がれたくないんでね」
2人に手をかざした。
——烈・暗黒拘束
「「ぐぁあ、あっ、あっ、あっ……」」
鎧を身につけた2人は、走った格好のまま固まり、その場に倒れた。
体をピクピクとさせて、動けない。
「カリン、大丈夫か?」
「あ、はい……私はぜんぜん……こ、この人たちは」
「ちょっとしびれさせただけだ。さっさとここから消えるぞ」
「一瞬で……ん? あれ? 詠唱してた?」
「ほら、カリン。おいてくぞ」
「あっ、待ってください」
闇にまぎれるように、その場から走り去った。
しっかり手配書で把握されているとなると、町に居続けるのは面倒だな。
宿には泊まらず、海岸で野宿する。
ローブ一枚あれば、十分過ごしやすかった。
リフィーに頭を寄りかからせるようにして寝る。
当然、俺の左右にはエレナとリーゼが引っつくように横たわってくる。
「えっ?」
カリンはその光景を見て、固まってしまった。
ましてや、なにか恥ずかしいものを見てしまったような表情を見せた。
「カリンはどこで寝たい?」
リーゼが聞いた。
「……どこでって?」
「ここか、ここか、それともこっち?」
リーゼは、最初に俺とエレナの間を差した。
次に、俺とリーゼの間。
最後に俺のいないリーゼの反対側を。
「選択肢はそれだけ……なんですね……そしたら、リーゼお姉さまの隣に……」
「よくできました」
と、リーゼはカリンの手を取り、引き寄せた。
俺とリーゼの間に。
「えっ、あっのっ、私はリーゼお姉さまの隣って……」
カリンは慌てふためく。
「ここも私の隣。端っこじゃ寂しいでしょ」
リーゼは、まるで子供をさとすように言った。
「そ、そんな……私は……」
「ちゃんと隣にいてあげるから、大丈夫……」
「ううっ……」
カリンはなにも言えなくなって、諦めたかのように大人しくリーゼと俺に挟まれて横になった。
「キ、キール? い、いつもこんな感じなんですか?」
恥ずかしそうにカリンが聞いてきた。
「あぁ、いつもこんな感じだ。寝返りできないのがアレだけどな」
「そ、そうなんですね……絶対、私、眠れないです……」
「すまんが、慣れてくれ」
「カリン、安心して寝てくれていいよ。ここはもうシックザールじゃないから……」
と、リーゼがカリンに腕を回す。
「えっ、あ、そういう意味じゃなくて……ううっ……」
カリンはため息をつくように、全身から力を抜いて抵抗をやめた。
「はい、おやすみ」
リーゼがやさしくささやいた。
「……はい……おやすみなさい……」
カリンも力なく言った。
それからしばらくして、隣からすやすやと寝息が聞こえてきた。
なんだかんだ、寝てるじゃねーか。
シックザールを抜けて、海を渡る旅。
疲れていたんだろう。
翌日、日の出とともに、ゴニカの町を出発した。
お昼前には、ゾクラナ帝国の首都ボザーダイアが見えてきた。
「なんだ?」
遠くからでもわかるように、あちこちから煙が昇っている。
「あきらかに、異常だな」
町に近づいていけばいくほど、獣が吠える声や人の悲鳴やなにかが壊れる音が響いてくる。
「いったいなにが起きてる?」
リフィーの首カゴからひょこっと顔を出しているカリンが、心配そうな顔を向けてきていた。
「キール、なんか黒いのがいっぱいいる。ほら、あそこ。あっちにも」
エレナが背後から指差してくる。
人の2倍、3倍はある四つ足の獣が町の路地を走り回っていた。
それらを捕まえようとする兵士は、黒い爪でやられてしまう。
「うぎゃーーー」
ひときわ大きな男の声が響いてきた。
「兄さん、人影が兵士を切っている」
「あぁ。間違いない、闇の騎士だ」
雪山で、カリンたちを教育していた司祭ヘルミーネが、召喚した闇の騎士と同じだった。
「それじゃあ……これは……」
「シックザールの仕業だろう」
だが、なぜ、今になって首都を襲う?
暗黒騎士がここを離れてから、ずいぶん時間がたっているのに……。
ロラストの都のように、マナ使いを殺すためか?
「うわー、助けてくれー」
広場の噴水に追いつめられた3人の兵士たちが、黒い獣に囲まれていた。
「先に行く。エレナ姫はリフィーと一緒にいるんだぞ」
「うん」
たづなをエレナに渡して、リフィーから飛び降りた。
黒剣をかまえる。
——暗黒連閃明斬り
落下の勢いをつけて、黒い獣らをいっきに蹴散らした。
「おぉ、助かったぁ……」
兵士たちが安堵の声をあげた。
「さぁ、どうだかな?」
傷を負っても、獣たちがふたたび立ちあがってくる。
闇の召喚じゃ、マナで浄化するしかないか……。
1匹2匹だけならいいが、数が多すぎる……。
一カ所に集めてやるか?
「兄さん」
リーゼとカリンが獣の背後からやってきた。
よし。リーゼがいれば2人でいっきに……。
「リーゼ、カリン、後ろ」
「リーゼお姉さま」
2人の背後からも獣と闇の騎士が現れて、2人は挟みこまれてしまった。
リーゼとカリンは背中を互いにあずけて、獣と騎士に相対する。
「太陽の檻」
オレンジ色の格子状の檻が、獣と騎士を囲いこんだ。
その檻に触れた獣は、熱で体から黒い煙をあげて檻から出ることができなかった。
「暴れ狂う獣たちよ。檻の中で、大人しくおるんだな」
オレンジ色の大きな獣にまたがり、これまたオレンジ色の鎧を身につけた騎士が現れた。
「おもしろかった!」
「キールたち、今後どうなるのっ……!」
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