第70話 ホワイトエリクサー
ロスワルドが魔法であやつった瓶の破片が、いっせいに飛びかかってきた。
ふん。
眼前で、いくつもの破片がポロポロと床に落ちていった。
「なに?」
ロスワルドは眉をひそめた。
「俺に魔法やマナが効かないからって、魔法で物をあやつったところで同じだ」
「どうかな」
ニヤリと笑みを浮かべたロスワルド。
クイッとステッキを振る。
本当の狙いはそれか?
俺の背後から、黒い液体が覆いかぶさるように襲ってきた。
元勇者パーティーが盗もうとしたが、落として床に広がったブラックエリクサーだ。
バシャーンとブラックエリクサーを浴びる。
「クソッ」
ロスワルドの表情がくもった。
俺を包みこんだ光の幕の上を黒い液体が流れ落ちていく。
「おいおい、俺がこれを飲んだら、お前らが俺を止められなくなるぜ」
「貴様が、ブラックエリクサーの闇に飲まれてしまえば、こっちのものだ。おのずと闇の指輪になるのだから、それまで俺が逃げ切れれば勝ちだ」
「四天王と聞いてあきれる発言だなっ」
床を踏みこんで、一瞬でロスワルドとの間合いをつめる。
その勢いのまま、黒剣でロスワルドの腹部を貫いた。
「ぐふっ……速っ……貴様はいったい何者だ……」
「ただの賞金稼ぎだ」
黒剣を素早く抜いて、今度は振りおろす。
「グァアアアア……」
ロスワルドの両腕が床にボトリと落ちた。
腕の切り口からは、ボタボタと鮮血がしたたり落ちつづける。
「悪いが、お前は生かしておけない」
「リーゼもそうする気か?」
「リーゼは、もちろん救ってみせる」
「ハハハハ……とんだお気楽なお兄さまだ。シックザールの四天王にのぼりつめたリーゼが貴様を兄と認めるわけがない。そして、シックザールから助け出すことも不可能だ」
「それはやってみるまで、わからないぜ」
コイツ、なぜ、回復魔法を自分にかけようとしない?
ロラストの都のときはそうしていたのに……。
「不可能なんだよ」
「……」
「なぜなら、俺がお前を殺すからだよ……」
ロスワルドは、不気味な笑顔を絶やさないまま、ゆっくりと横へ移動していく。
どうする気だ?
ロスワルドは、黒い液体がポタポタと落ちるところに、口を開けて顔を突っこんだ。
ブラックエリクサーを——。
闇の指輪が液体を染めている大きな筒から、流れ出ているものだった。
「お前、ついさっき俺に言ったこと忘れたのかよ。貴様ら、ブラックエリクサーの効果とその後のことを知ってるんだろ……」
「俺はブラックエリクサーを飲んでも、死ぬことはない。このホワイトエリクサーがあるからな」
——ホワイトエリクサー?
シューッと腕の切り口から黒い煙が吹き出して、黒い腕が生えた。
ロスワルドは、ふところから白い液体の小瓶を取り出して見せてきた。
「闇の指輪になる前にホワイトエリクサーを飲めば、ブラックエリクサーの影響は消えるんだよ」
ふたたび、ホワイトエリクサーをふところにしまうロスワルド。
その直後、ロスワルドを包みこむように黒いオーラが嵐のごとく発生した。
一瞬で、腹の傷も回復したか。
だから、わざわざ自分の魔力を使わなかったのか。
「あぁ、この力……死ぬ気がしない。それに見える、見えるぞ、貴様の死が」
ロスワルドが黒い腕をかざしてきた。
俺との間に、ドス黒い炎がどんどん巨大化して弾になる。
まったくブラックエリクサーってのは、人を狂わせるとんでもないアイテムだ。
「死ね、賞金稼ぎ」
巨大な黒炎弾が辺りのものを吸いこみ溶かして向かってくる。
——暗黒閃明斬り
黒炎弾を真っ二つにして突っこむ。
「チッ」
ロスワルドがすぐさま回避体勢になった。
黒剣を振りおろす。
スパーンと、黒い腕だけを切り落とす。
腕だけか。
ブラックエリクサーのせいで、アイツの動きも速くなったか。
ロスワルドの腕は、すぐに再生される。
「今度は逃がさないぜ」
——暗黒龍牙乱斬
黒い閃光が、ロスワルドの体を何度も貫いた。
「ぐぶぅ……ムダなことを」
傷だらけでフラフラだったロスワルドの体から黒い煙がのぼって、みるみると回復していく。
「お次は、お返しさせてもらう」
今度は両手を向けてくるロスワルド。
黒い風の刃が高速で回転している。
「受けとれ」
黒い刃の塊が、空気すらも切り裂くように向かってきた。
「ハハハハ……よけることもできなかったか……なっ?」
俺を包みこんだ黒い風の刃は、たちどころに消えていく。
そろそろだと思うんだが……。
「そんな程度か? 次はどうする?」
相手を小馬鹿にするように俺は言った。
「コイツ、ブラックエリクサーを飲んだ俺の力でも……なめやがって……」
ロスワルドがもう一度、両手を俺に向けてきた。
その黒い腕から煙がのぼる。
「なんだ? はっ、まずい、ホワイトエリクサーをっ、くっ」
ロスワルドは両手を突き出したまま、動かない。
そして、全身から黒い煙がのぼる。
「クソ、体が動かない。早くホワイトエリクサーを、あっ、くそっ、どうして……」
まずい。ホワイトエリクサーを——。
ロスワルドに近づいて、ふところに手を入れようとした瞬間、ロスワルドの黒いオーラが爆発した。
——クソッ。遅かったか。
広がった黒いオーラは、縮んでいき人の姿へと変わる。
ロスワルドではない。
弓矢を持った小柄な男性のようだった。
全身は黒く発光していて、よくわからない。
——あぁ、見たことのあるシルエットだ。
——教会のときは、アシルだった。
——弓を持っているということは。
その黒いシルエットが、弓矢を俺に向けてくる。
矢を引きためる間もなく、放ってきた。
チッ。
闇の矢を寸前で、飛び退いてかわす。
矢は、壁一面を一瞬で破壊。
外の景色があらわになる。
いっきに外の空気が流れこんできた。
——やっぱり、フィリオか……。
——なんで暗黒騎士パーティーが……。
——どんな作用でお前になったかは知らないが、鎮まってくれな。
投擲ナイフを投げつける。
闇の体に弾かれる。
すぐに、散らばったナイフから白い光が、闇のフィリオを縛りあげる。
——マナ・エクソルツィスムス
闇のフィリオから、闇が剥がされ、溶けていく。
苦悶の表情のロスワルドが見えてきた。
「無事であってくれよ……」
ロスワルドのふところに手を差しこみ、ホワイトエリクサーをつかみ取った。
ホワイトエリクサーは、闇を弾いているかのように、瓶の中で光を発していた。
そして、ロスワルドは黒い煙を発しながら、縮んでいく。
最後は、闇の指輪へと姿を変えた。
これで2つ目か。
指輪を拾いあげた。
ホワイトエリクサーと指輪を見比べる。
もし、アイツがホワイトエリクサーを持ったままブラックエリクサーに飲みこみまれていたら、ホワイトエリクサーの効き目はあったのか……。
今となっては、確かめようもない。
でも、コレで、ニーナが救えるかもしれない。
見あげると、なにかが崩れるような激しい音が聞こえてきていた。
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