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第69話 少女の黒い暴走

 ニーナの黒いオーラは、瞬く間にどんどん大きくなっていく。


 ホールの天井にも届くほどだ。

 辺りは嵐のごとく、風が打ちつける。


 ニーナの目を見ると、闇にそまって、ニーナの意思を感じられない。


 どうする?

 ブラックエリクサーを飲まされた悪意のない少女を傷つけるわけにはいかない。


 相手が賞金首とかシックザールなら、まだしも。

 ブラックエリクサーを飲んでいるから、回復力は申し分ないんだろうが、だからといってむやみに攻撃はできない。


「キール、どうする?」


 フレデリックたちも武器をかまえたまま、どうしようもなかった。


「ハハハ……、そうか。貴様らには手も足も出ないのか……」


 ニーナの黒いオーラの向こうでロスワルドが笑っている。


「なにっ?」


 ニーナがくるっと振り返り、ロスワルドとリーゼに手をかざした。


 ニーナのオーラがその手に沿うように伸びて、2人に勢いよく向かっていく。


 2人が飛びよけると、踊り場が粉々に砕け散った。

 踊り場につながっていた左右の階段は崩落した。


 なんだ?

 ニーナに意識があるのか?


「キール、教会のときのように、マナで正気に戻したらいいんじゃないか?」


 フレデリックが言った。


 確かに、その手もあると思う。

 だが……。


「いや、彼女はブラックエリクサーを飲まされている。改良されているブラックエリクサーとはいえ、正気に戻ったとき、闇の指輪になってしまう可能性もある」


「そうか。でも、少女は敵がわかっているようだぞ。シックザールを狙っている?」


 と、フレデリックが言ったとき、ニーナがこちらに振り返った。


 そして、手を振りおろすと、黒く巨大なオーラがハンマーのごとく降りてくる。


「くっ」


 石の床を蹴って、その場から飛び退く。

 紫苑騎士団とヴェロニカも後方へ飛び退いた。


 ニーナのオーラが、床の石を砕き、大きなクレーターを作った。


「あのオーラに捕まったら、終わりだぞ」


 フレデリックが気合いをこめて、声を張った。


 ニーナの意識はないってことか。

 ますます、打つ手がない。


 ニーナが辺りの瓦礫を掃除するように、手を払った。

 オーラが瓦礫をなぎ払う。


 くそっ。


 吹き飛んでくる瓦礫を、ヴェロニカとともによける。


「あわわっ、ど、どうしましょ——あわわわわ」


 突然、ヴェロニカの足元の床が崩落する。


「ヴェロニカッ」


 手を伸ばして、ヴェロニカの手をつかむも、すでに引き上げられる体勢ではなかった。


 ヴェロニカとともに落下してしまった。


「いたたたたた……」


「大丈夫か、ヴェロニカ」


「あわわ、はい」


 ホールの階下よりも下か?


 上を見あげると、複数階をつらぬくように天井が崩れていた。


 だいぶ、建物のも古くなっていたか。

 それで、さっきの衝撃でさらに……。


「あわっ、キール。コレ!」


「ブラックエリクサーか……」


 ここは……。


 黒い小瓶が無造作にいくつも並べられてあった。

 赤い小瓶やさまざまな容器があった。


「エリクサーを作るところのようだな」


 これは……。


 水の入った大きな筒に、闇の指輪が沈んでいた。

 指輪が黒い光を発して、液体を黒くしている。


 これがブラックエリクサーを作っているのか……。


 ガシャーン


 背後を振り返る。


「あっ、おい、気をつけろ」

「わりー」


「あわわっ、あなたたち……」


 ヴェロニカが驚いた。

 そこには3人の女たちがいた。

 ヴェロニカの元勇者パーティーだった。

 その手には、ブラックエリクサーを抱えている。


 なんで、コイツらがここに……。


「あら、ヴェロニカ。奇遇ね。モーゼスの秘宝を盗みに来たのかしら?」


 戦士の女が言った。


「そんなことより、あなたたち、ここからすぐに逃げて。それも置いていくのよ」


「あ? 元勇者さまにそんなこと言われる筋合いはないね。秘宝島のくせになにもない。不思議な薬があったから、これを高く売りつける」


「それは、絶対にダメよ」


 ヴェロニカが言った直後、ドガーンと天井が瓦礫と化して落下してくる。


 土埃の中に、黒いオーラもあった。


 ニーナ!

 上は?

 フレデリックたちは大丈夫なんだろうな?


「おいおい、なんだよ、その黒い嬢ちゃんは……この城の守護神か?」


 と、ニーナは元勇者パーティーを振り払うように手をかざした。


 元勇者パーティーの3人は、黒いオーラに弾かれて壁にぶつかり、床を転がった。


「ぐはっ、なんなんだよ、コイツ……あっ、私たちの黒い薬が……」


 3人が持っていたブラックエリクサーは、衝撃で割れて砕け散っていた。


 すると、ニーナは上を見あげて、飛びあがっていなくなった。


 行動が読めないな……。


「まだ、あるぞ」


 戦士の女は、テーブルの上のブラックエリクサーを取ろうとした。


「やめておけ。これを間違って飲めば、さっきの少女のようになる。人としていられなくなるぞ」


 俺は女をさえぎった。


「ちっ。いったい、なんなんだよ。眠れる布の手がかりはねーし、秘宝島にくればこの有り様だ。ヴェロニカを追い出してから、いっさいいいことがない」


「ここに来て、命があっただけでも喜べ。まぁ、ここから抜け出せたらの話だが。ヴェロニカ」


「あわっ、はい」


 俺は、テーブルの上にあったブラックエリクサーを1つヴェロニカに手渡した。


「えっ?」


「これを持って、そいつらと一緒に外へ出ろ。そして、アルスにブラックエリクサーの解析を頼んでくれ。ニーナを救う方法を探りたい」


「わかりました」


「頼んだ」


 ドバーンと、ふたたびなにかが落下してきた。


「くそっ、あのガキ」


 ロスワルドが立ちあがった。


「おやおや、まだ生きていたのか。てっきり姿が見えなくなったから、死んだと思ったぜ」


 ロスワルドが不適な笑みを浮かべる。


「行け、ヴェロニカ」


「あわっ、はい。あなたたちも逃げますよ……」


 ヴェロニカは奥の通路へ入っていった。

 元勇者パーティーの3人も、イヤイヤながらもヴェロニカのあとを追っていった。


「見張りもいなくなって、ネズミも入ってきてか……」


「手下がいないとなにもできないのか、四天王さまよ」


 黒剣をかまえた。


 すぐにはニーナを助けることはできない。

 1人になったシックザールを片付けたほうが良さそうだ。


「まったく、ガキどもはう使えねーな。とくに暴走したクソガキはな……結局、自分でやったほうが早いか……」


 ロスワルドがステッキをかまえた。


「ロラストの都のときのようにやれると思うなよ。貴様がマナ徒だとわかった以上、容赦はしない。シックザール四天王の力で、ねじ伏せてやる」


「マナを、人を傷つけることに使うヤツらに負けるわけがない」


「その口、2度と聞けないようにしてやる」


 ロスワルドのステッキの先が光る。

 エリクサーの砕けた瓶の破片が、次々と宙に浮いていく。

 不気味に破片が光ると、いっせいに飛んできた。


 ——魔法とマナが通用しないと思って、ここに来てまさかの物理攻撃とはね。


「おもしろかった!」

「このあと、キールはどうなるのっ……!」

「続きが気になる、読みたい!」


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