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第60話 写本師タビタ

 道具屋が爆発した。

 騒ぎに駆けつけた人々が、水をかけて火を消していた。


「許せません」


 これは完全に気持ちが入っちゃったか、ヴェロニカ。


 爆発したのは、店舗部分のようだった。


「ふぇー、今度はルッツ道具店?」


 息を切らして、駆けつけてきたロングスカートの女が言った。


「おう、タビタ。そうなんだよ。近くだったから、ビックリしたよ」


 パブの店主が声をかけた。


「店主のルッツは……」


「店はちょうど閉めたところだったみたいで、ルッツはたまたま奥の住まいにいた。大きな怪我はなかったようだ」


「そう……良かった……。はぁ、これで7件目……」


 タビタは胸をなで下ろしたが、ため息も吐いた。


「そうだ、タビタ。その話、この人たちに話してみたらどうだ? 爆弾魔を捕まえてくれるって」


 いや、そこまでは言ったつもりはないぞ。

 賞金首でもないんだ。


「はい、もちろんです」


 ヴェロニカの語気は強かった。


「えっと……どなたたち?」


「通りがかりの元勇者です」




 アルスが疲れたと言い、エレナがおなかが減ったという嘆きを聞いたタビタが、夕食に誘ってくれた。


「これから、ササッと作りますねって、具材が少ないかも。ちょっと畑に行ってきますね。すぐに戻ってきますから、ゆっくりしていてください」


 タビタの家に案内されたと思えば、バタバタと家を出て行ってしまったタビタ。


 こんな傾斜のある場所に畑があるのか。


「おなか減った」


 エレナがテーブルに突っ伏している。


「はいですぅ……」


 同じようにアルスも脱力してしまっていた。


 窓辺に向かいながら、部屋を見回すと、紙や本、筆記する道具が多く見受けられる。


 いったい彼女は……。


 さて、変な気配が家の外にあるが……。


 辺りは暗くて、よく見えない。


 タビタはすぐに戻ってきて、調理をはじめた。

 そして、テーブルに鍋が運ばれてきて、夕食となった。


「夕食を用意していただき、ありがとうございます」


 ヴェロニカが言った。


「いえ。困ったときはお互い様ですから」


 タビタはニコリと笑った。


 いやいや、こっちはたいして困ってない。

 なにか困っているのは、そっちのはずじゃあ?


 食事をしながら、自己紹介を済ませ、ここまで来た経緯をやんわり伝えた。


「実は、私、孤児で修道院で暮らしていたんです。そんな環境で育ったこともあって、困っている人がいると、手助けしたくなっちゃって」


「これ、すごい美味しい」


 バクバクと食べ、スープを飲み干そうとしているエレナ。


「まだあるから、おかわりしてね」


「うん」


「それで、爆弾魔について、なにか気になっていることがあったんじゃないのか?」


 タビタに聞いた。


「あ、はい。そうなんですよ。私が請けおった仕事を納品したお店が、爆発してしまうんですよ。今日で7件目」


 俺とヴェロニカがタビタを見つめていると、


「あっ、私が自分で、お店を爆破なんてしてまんせよ」


 タビタは、両手を振って全否定する。


「いや、疑っちゃいない。ただ、どうも、アンタが狙われているみたいな気がしてな」


「えっ、私が、ですか? どうして?」


 あっけらかんと、タビタは首をかしげた。


「理由はわからない。さっきも家の外に人の気配があった。それに、次々と納品先が爆破されているなら、アンタに関係があるんじゃないかと」


「んー、……別に、私が狙われる理由なんてないですよ」


 額に指を当てて考えたタビタ。


「ちなみに、どんなお仕事をされているんですか?」


 ヴェロニカが聞いた。


「私、写本師をしているんです」


「写本師?」


 写本師か。

 それで、紙や本、筆記道具か……。


「基本は、本を書き写す仕事です。古い本の薄れた字を浮かび上がらせたりしながら。紙に呪文を書いて、魔法として効力を発動させたり、ということもできます」


「魔道具士みたいですぅ」


 おなかを満たして、満足した表情のアルスが言った。


「そうね。でも、そういう仕事はほとんどなくて、書き写す仕事が多いです。あとは、お店に掲示するものとか。ルッツ道具店にも、依頼された掲示物を昼間に届けたばかりで……」


「みんな、狙われると思って、依頼しているのか?」


「どうでしょうか……最初は規模は小さかったんですが、今回みたいにあんな大きな爆発は初めて。まだ、誰かが死んだことはないから、狙いは人じゃないと思ってたんですけど……」


「いつ、人が巻きこまれてしまうかわかりません。すぐに捕まえましょう」


 ヴェロニカが、誓うように拳を胸の前で握った。


「こういう場合、どうやって捕まえたらいいんでしょう……あわわわ……」


 ヴェロニカが俺に困った顔を見せてきた。


 おいおい……。


「爆弾なんでしょう? 爆弾持ってて、投げそうな人を捕まればいいんじゃない?」


 エレナが言った。


「なるほど、そうですね」


「そうではないんです。爆発したとき、誰も人はいないんです」


「じゃあ、どうやって爆発させるの? キールだってあの化け物を倒すとき、爆弾投げてたし……」


 エレナは、レッドエリクサーの化け物との戦闘を思い出していたようだ。


「たぶん時限式の爆弾ですぅ」


「時限式の爆弾?」


 ヴェロニカがアルスに聞き直す。


「爆弾に魔力を一定の割合で吸収する仕組みを組みこんで、魔力が上限に達したとき爆発するようにできます。前の前の職場で作ってました」


 へー、そんなことができるのか。

 って、またしても前の職場……。

 子供になんてモノを作らせてるんだよ、そこは。


「バレないように爆弾を仕掛けて、店が終わる頃に爆発するように魔力を調整しておけば、犯人がそこにいる必要がなくなる」


「この町に、魔道具士はたくさんいますから、作れる人がいるのかも?」


 タビタは天井を見つめて、該当する人を探っているようだ。


「1人1人探して、爆弾を作っているか聞きますか?」


 と、またヴェロニカが俺に聞いてきた。


 そんな面倒なことしたかねぇーよ。


「それで、はい私です、って答えるヤツがいるか。とっくに爆弾魔は捕まってるだろうよ」


 この町で、あまり時間はかけたくないんだがな……。

 はぁ……、仕方ない。

 少し手間はかかるが……。


「おびき出し作戦だ」




 早速、タビタは掲示物や配布物の作成にとりかかる。

 机に向かって、カリカリと紙に文字や絵を描いていった。


 アルスは、タビタの家にあった置物やガラクタを魔法で金ピカに磨く。

 パブの店主にも協力してもらい、グラスや置物を借りてきた。


 その作業は、明け方までつづいた。


 俺とヴェロニカは、作戦と監視する配置を確認した。


 エレナは途中で、寝落ちしてしまっていた。


 明日、姫さんには、ひと仕事してもらうぜ。


「おもしろかった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「キールたち、どうするのっ……!」


と思ったら


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