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第53話 紅蓮騎士団

「大丈夫か?」


 赤い鎧の男がヴェロニカに声をかけた。


「あわわ……は、はい……ありがとうございます」


「どうも都中に暴動者があふれているようだ」


 あの赤い鎧……。

 紅蓮騎士団……。

 八大騎士の紅蓮騎士か。


「グォラーーー」


 今さっき紅蓮騎士に突き飛された男が、ふたたび起きあがって鉄球を振り回してきた。


 すでに服は引きちぎれていて裸だった。


 レッドエリクサーを飲んでいたか。


「しぶといヤツらだ」


「ダメだ。コイツらは、気絶させてもすぐに目を覚ます」


 鉄球を振り回す男との間合いをいっきにつめた。

 そして、その勢いのまま男に手をかざす。


急・暗黒拘束キュー・ダークホールド


「うぐががが……」


 男は黒い蛇に縛られたかのように、体を硬直させてその場に倒れた。


「レッドエリクサーを飲んでいたら、効き目がきれるまで、魔法で動けなくしておく必要がある」


「これがレッドエリクサー効果か……」


 赤い鎧の男が倒れている裸の男をマジマジと見ていた。


「能力をアップさせる効果は、一定時間だったあと、強烈な性的興奮を呼び起こす。そうなると、本人の意識ではどうにもならない」


「そうだったのか。貴重な情報をありがとう。俺は、紅蓮騎士のレオン・ギレスベルガーだ」


 レオンは馬から下りて、握手してきた。


「俺はキール・ハインド。たまたまここに居合わせた賞金稼ぎだ」


「賞金稼ぎ? まさか。あれもキールの魔法だろ。ただの魔法ではないはずだ」


 レオンは黒い繭を指差した。

 ついさっきとらえた魔法使いのデルマだ。


「まぁ、賞金首を無傷でとらえるための魔法だ」


「いや、動きといい、ただの賞金稼ぎには思えんが……」


「それよりこの騒ぎはなんなんだ?」


 レオンに聞いた。


「私にもわからない。我々、紅蓮騎士団はとある理由で、ロラストの城から離れていた。旅先で、都で暴動が起こる噂を聞きつけて、戻ってきたところだ」


「とにかく暴れているヤツらを鎮めないと」


「ひとまず、ほかの紅蓮騎士団4人が都中に散って対処している。機動力があるから、押さえこめるだろう」


「そうか」


 それなら、なんとかなるか……。


 カーン カーン カーン


 突然、鐘の音が響いてきた。


「なんだ?」


「城からだ。城でなにかあったようだ」


「レオン」


 シルバーがかった大きなオオカミが、民家の屋根から飛び降りてきた。


 そのオオカミにまたがるようにして、仮面をつけ、弓矢を持っていた女がいた。


「ウルスラ。どうした?」


 レオンが聞き返した。


「城の兵士から聞いた。アレクサンダーが牢を破壊して、城内で暴れているガオ」


「アレクサンダーが?」


「ガオ。そう言ってた。ねー」


 ウルスラと呼ばれる狩人の女は、またがっているオオカミの頭をなでた。


「あの人が? それはまずいぞ。ウルスラ。紅蓮騎士団に、周囲を鎮めしだい、城へ向かえと伝えろ」


「わかったガオ」


 ウルスラを乗せたオオカミは、軽々と飛びあがって民家を超えて、すぐに見えなくなってしまった。


「なにかあったのか」


 俺が聞くと、レオンが赤い兜の隙間からジッと俺を見つめてきた。


「あの力を有したまま目覚めたのなら、我々だけでは手に負えないかもしれない。我の目に狂いがなければ……」


 あの力?


「キール」


「ん?」


「率直に、手を貸してくれないか?」


 ……。


「ただの賞金稼ぎと言っていたが、八大騎士並みの力を有しているように思う。今、城で起きていることは、場合によっては一国を揺るがしかねない」


 一国をって……。

 どれほどの力を持っている……。


「キール。力を貸してくれ、頼む」


 レオンは兜をとって、頭を下げてきた。


 どうも、なにか勘づかれているみたいだな。

 さすが八大騎士の1人。

 それが、プライドを堅持することなく……。

 それだけの危機を感じているってことか。


「事情はよくわからないが、いいぜ。これ以上、やっかいなことになるのはごめんだ」


「助かる。さぁ、乗ってくれ」


 レオンは馬に乗った。


「ほんの少しだけ、待ってくれ」


 俺はヴェロニカに振り返る。


「ヴェロニカ。エレナ姫とアルスをリフィーのところへ連れて行ってくれ。ドラゴンで空に退避すれば、この場をしのげるはずだ」


「キールは?」


「ちょっと手を貸してくる。俺は大丈夫だ。姫たちを頼む。勇者ヴェロニカ」


「わかりました。キールも気をつけて」


 俺はレオンの馬の後ろに飛び乗った。




 レオンの馬で、レオンとともに城へ向かう。


「レオン。八大騎士の1人のあんたでも状況がかんばしくないと思わせる相手って……」


「元紅蓮騎士団の魔法騎士だった人だ」


「魔法騎士か……。やっかいだな」


「ふん。優秀だからなおさらだよ。まさか俺たちが城を離れている間に目を覚ますなんて」


「眠っていたのか?」


「いや……。苦労して眠らせたというのが正解だ。強力な魔法で封じた。それが解けるとは……」


 話を聞いているだけで、そうとう状況はよくなさそうだ。


「それほどの力を持った魔法騎士か」


「いや、もともと有していなかった力だ。いや、その力に飲まれたといえばいいか……」


「他言しにくいようだな」


「見てもらったほうが早いだろ。とくにキールなら……」


 俺なら?

 どういう意味だ。


 それに、都の暴動に合わせて、封じた魔法騎士の目覚め。


 これは、ただの偶然か?

 それとも……。


 城へ通じる大きく長い階段を馬で駆けあがっていく。


 階段を上りきる辺りで、兵士たちが団子になって戦っていた。


「あれか?」


「そのようだ」


 黒いオーラをまとう騎士に、兵士たちが束になって向かっていく。


 しかし、魔法騎士がひと振りするだけで、兵士たちは紙のように吹き飛ばされていく。


「まずは私が出る。キールは少し見ておくといい」


「一緒に止めなくていいのか?」


「同時に私たちがやられてしまっては意味がない。アレクサンダーの動きを見ておくといい」


 アレクサンダーは剣をかまえ、兵士たちに振りかざす。


 剣から黒い波動が空気を切って進み、刃のごとく兵士たちを切りつけた。


「まさか、レオン」


「キールの思った通りだよ。あの方、アレクサンダーは、()に飲まれたのだ」


 ——闇……。どうして。


「闇の指輪だ」


「えっ?」


 ——なぜ、闇の指輪が?

 ——あれは、ひとつじゃなかったのか?


 レオンは馬から飛びあがって兵士たちの前に立った。

 剣をかまえる。

 レオンの周囲を取り巻くように紅蓮のオーラが現出する。


「1年前、突如、闇の指輪が現れ、すぐにアレクサンダーが闇に飲まれた。我々、紅蓮騎士団は、闇の指輪を捨てに行こうとしていたところだった」


 紅蓮騎士団を都から離すため、か。

 闇の指輪……。

 どうも、なにか仕組まれてる気がするぜ。


 アレクサンダーは、レオンたち兵士に向かって、ふたたび剣を振りかざして暗黒を放った。


 レオンは微動だにしない。


 向かってくる暗黒の波動に剣を振りおろす。


 赤い閃光が暗黒を絶ち消した。


「どうか静まってください、アレクサンダー」


「おもしろかった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「キールたち、どうなるのっ……!」


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