第52話 都の暴動
拘束した賞金首たちはそのままに、カジノの外へ出た。
すぐ近くから騒ぐ声、悲鳴、怒号が聞こえてきた。
しかもあちこちから。
「向こうは、煙があがってるの」
エレナが指を差した。
宿の方角だった。
「向こうでも暴れてるヤツがいたのか?」
「いた。だから、そこを通るのが怖くて戻ってきたの」
それなら仕方ないか。
都のあちこちで、いっせいに暴れられると、いっきに捕まえるのは無理があるぜ。
全員が賞金首だとしても、いったいその目的はなんなんだ。
指揮ってるヤツでもいれば、そいつを叩けばいいが。
暴れはじめたら、賞金首どもが統率されて動くはずがない。
「君、さっきはありがとう。助かったよ。強いんだな」
人質に取られていたカジノの店員がヴェロニカに声をかけていた。
「い、いえ……元勇者として当然のことをしたまでです」
「君は勇者なのか。それじゃあ、もう中のヤツらも倒してくれたのか。ありがとう、ありがとう」
ヴェロニカは手を無理矢理握られて、感謝された。
「あわわ……い、いえ、私ではなく……」
困った視線を俺に向けてきた。
「元勇者さん、都のあちこちで騒ぎになっているみたいなんだ。都もなんとかしてくれよ」
「も、もちろんです……」
「ありがとう、頼んだよ、元勇者さん」
「ど、どうしましょう……都の全部は……」
ヴェロニカが困った顔を見せてきた。
「確かに……」
手分けするとしても、俺とヴェロニカで二手に分かれたとして、姫とアルスをどうするか。
一緒に連れて行くにしても、都全体を回るには時間がかかる。
それに、どんな賞金首がいるかもわからないしな。
「な、なんだ、やめろ」
男の驚いた声が聞こえてきた。
物が倒れたり、悲鳴が響いてくる。
「あの店か?」
店の前に行くと、中にいた客たちが慌てふためいて出てきた。
「なにがあった?」
「女が男を襲ってる」
「行きます」
出てきた男から聞いてるさなか、ヴェロニカが店の中に駆けこんでいく。
本当に勇ましいな。
「あぁー、イイ。さぁ、どんどん私を気持ちよくさせて」
中に入ると、肌をピンク色にさせた女が、男の上で馬乗りになって腰を前後に動かしていた。
男はがっちりと女に押さえこまれて、されるがままだった。
「ど、どうなってるだ。き、きつすぎる……俺のがつぶれちまう。助けてくれ」
「あんた、うちの人になにしてくれてんの?」
男の妻が馬乗りになっている女をひっぱたいた。
しかし、裸の女はまったく微動だにしない。
レッドエリクサーの効果か。
「同じ女とはいえ、無理矢理はよくありません」
ヴェロニカは剣をかまえた。
聖剣突き!
白い閃光が裸の女を突き抜けた。
裸の女は意識を失って、その場に倒れた。
「ヴェ、ヴェロニカ?」
「大丈夫です。殺してはいません。神経を突いて麻痺させました」
勢いあまってやっちまったのかと思ったぞ。
剣で器用なことをするとはな。
「大丈夫ですか」
下半身丸出しの男をちらっと見て、ヴェロニカが声をかけた。
「あっ、あぁ……助かったよ、ありがとう」
「あんた、大丈夫かい」
妻が男を抱き起こした。
バーンと、外で大きな爆発が起きた。
店の中が揺れるほどだった。
近い。
次から次へと……。
店の外に出ると、通りを挟んだ斜め向かいの建物が、まるまるひとつ吹き飛んでなくなっていた。
おいおい単なる爆発じゃないだろ、これ。
「あらら……失敗しちゃった。でも、ここにはたくさんの実験体がいるから、何度も試せるわ」
煙の中から赤黒いローブを羽織った女が歩き出てきた。
「さて、次はどれで魔法開発実験しようかしらぁ……あら、そこの素敵なお兄さんにしようかしら」
女が魔法のステッキの先を俺に向けてきた。
奇妙に見開いた目が、俺を見つめる。
こいつもすでにレッドエリクサーを?
「キール、この人は確か1,200万の賞金首デルマ・ベスターです。魔法の開発者だとか、人体実験を繰り返していると、聞きました」
ヴェロニカが言った。
「へー、いい金額じゃねーか」
「あら、あなたたちも私の魔法開発を手伝ってくれるのかしらぁ」
デルマがペロリと自分の唇をなめて、不適な笑みを浮かべた。
「これ以上、犠牲者を出させるわけにいきません」
ヴェロニカは剣をかまえて、デルマに向かって駆け出した。
「おい、待て」
魔法使い相手に真っ正面から突っこんで行くかよ。
地面を踏みこんで、俺も駆ける。
「いっきに2人、2つも試せるなんてね〜」
デルマは、ステッキをヴェロニカに。
もう片方の手を俺に向けてきた。
「唯・遊蛇炎
唯・雷蛇遊雷」
——同時に、違う魔法を発動させるとは。
ステッキからは、口を開けた蛇の炎が。
手からは、口を開けた蛇の雷が。
——間に合え。
——マナ・リヒトワンド
ヴェロニカと俺を覆うように、光の壁が出現する。
2つの魔法が、光の壁にぶつかって爆発する。
「ちぃ、これまた失敗ね……」
光の壁越しに、デルマが俺たちをにらみつけているのがわかった。
いったい、なんの実験なのか理解できないな。
「ヴェロニカ、真っ正面から突っこむんじゃない」
ヴェロニカを抱えって、サッと後方に飛び退いた。
「あわわ……ごめんなさい。いつも突っこんで、パーティーに迷惑を駆けてしまっていて……キールにも」
なるほど。
パーティーもいろいろ苦労してたんだろうな。
「ここはひとまず俺が相手をする」
「あ、はい」
ヴェロニカは剣をかまえつつ、後方にゆっくりと下がる。
爆発の大きさからして、相当の威力だ。
これでレッドエリクサーを使っていないなら、危険な魔法使いだ。
「ねぇ? また光の壁を出してちょうだいよ。あんな壊れない対象物があるのは、とても役に立ちそうよ。どうかしら、私と一緒に組まない? あなた、強そうだし」
「魔法で人を殺してるお前と組むわけないだろ。こっちは、賞金稼ぎだぜ」
黒剣をかまえる。
「あらそう……」
「自分の首には興味ないってか」
「魔法開発にはね、人の死はつきものよ。人の死なくして、今の魔法の存在はありえないの。そして、これから新しく開発される魔法もね。
混・雷炎閥破」
なにっ?
雷と炎が混ざり合ってデルマのステッキから発動される。
今度は、魔法を混ぜてくるとは。
マナ・リヒトワンド
光の壁にぶつかって、魔法が爆発する。
「本当に私と一緒にならない? 案外、本気で言ってるのよ。その光の壁がほしいわ」
「あいにく仲間の募集はしてないんでね」
デルマの背後に立つ。
「いつの間に?」
振り返るデルマに手をかざす。
「本当に魔法が好きなことだけはわかったよ。もっと人の役に立つことに使うべきだったな。——暗黒・拘束繭」
「なにっ、その魔ッ」
デルマは、見知らぬ魔法に目を輝かせたまま、黒い繭の光に包まれた。
「口だけでなく、思考も魔力も拘束させてもらった」
「あわわわ……なんという技ですか。キールは、多彩な技をお持ちなのですね」
ヴェロニカは安心したのか、剣を下ろした。
ハッ!
「ヴェロニカ、後ろっ」
「あわっ?」
振り返ったヴェロニカの背後で、鎖につながれた鉄球が振りおろされる。
「ヴェロニカーーー」
くそっ、無詠唱魔法でも間に合わないか……。
「ヴゴォーーー」
鉄球を振りおろしていた男は、馬に乗った真っ赤な鎧の騎士に突き飛ばされた。
「あわわ?」
「おぉ、戻ってきてくれたんだ」
「やっぱり、都の危機には駆けつけてくれる」
「紅蓮騎士団だ」
町の人々が、赤い騎士に向けて歓声をあげていた。
「おもしろかった!」
「キールたち、どうなるのっ……!」
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