第50話 カジノの暴動
「あわわわ……ごめんなさい……あわわわ……」
朝には、ヴェロニカは正気を取り戻した。
夜中、ヴェロニカが水と思って飲んだそれは、レッドエリクサーの興奮を呼び起こす液だった。
アルスが成分を分類したことで、液単体ではそれほど強く作用するものではなかった。
アルスの機転で水をたくさん飲ませた。
それで興奮作用が薄れていくこともわかった。
ただ、レッドエリクサーの飲んでしまった者に、水を飲ませてどれほど効果があるのかはわからない。
「まぁ、飲んでしまったものは仕方ない。次からは気をつけてくれ」
「はい……」
レッドエリクサーがしょっちゅう手元にあっても困るけどな。
ひとまず、ヴェロニカがもう飲むことはないだろう。
「朝食に行くか」
朝食を食べに宿の外へ出た。
朝市で、屋台が並び、歩きながら食べた。
「あっ、リフィーにも朝食あげないと」
エレナが言った。
「ドラゴン貸しがエサをあげてくれているはずだが、見に行くか」
「うん」
「はいですぅ」
「あの、リフィーとは、お仲間ですか?」
ヴェロニカが聞いてきた。
「リフィーは、ドラゴンだよ」
エレナが答えた。
「ドラゴンもいるんですか? 稼いでいらっしゃるんですね」
「いや、ドラゴンを買ったわけじゃない」
「着いてきちゃったんだよね」
エレナがそう言うと、ヴェロニカは首をかしげた。
「いろいろあってな」
「はぁ」
クアァァァ クアァァァ
俺たちの姿が見えると、リフィーは嬉しそうに鳴いていた。
エレナとアルスと一緒にヴェロニカもリフィーにエサをやった。
それからなにかをやることもなく、町に潜んでいるだろう賞金首を探しつつ、ロラストの都を歩いた。
ただ都を観光して、夕方になった。
「そろそろ帰るか」
なにも起こらないか。
これは単なるうわさ話で、本当はそんなことないんじゃないか……。
「うん。いろいろ見たね」
「はいですぅ」
「そうですね」
ちょうどカジノの前を通ったときだった。
カジノの中から、たくさんの人たちが慌てて出てきた。
「なんだ?」
「あわわ……ど、どうかしたんですか?」
ヴェロニカは、目の前を駆け逃げる男に聞いた。
「中で、突然、暴れだしたヤツがいて、それどころじゃないんだ。あんたたちもここから離れたほうがいい」
男はそう言い残して、去って行った。
「もしかして……」
ヴェロニカが俺を見てきた。
「あぁ」
賞金首たちの暴動か?
「姫とアルスは、このまま宿へ戻ってろ」
「キールは?」
エレナが聞いてきた。
「中を確認してくる」
「う、うん……わかった」
「ヴェロニカ、行こう」
「はい!」
カジノの中に入ると、奥のほうで暴れている様子だった。
すでに人質にとられて、壁側に並んでいる。
「許せません」
ヴェロニカは剣を抜いて、駆けていく。
「お、おい、ヴェロニカ」
どんな状況かもわからず、よく突っこんで行く気になれるな。
すぐにヴェロニカのあとを追う。
「人質を解放しなさい」
ヴェロニカは、人質を取っている男たちに斬りかかる。
「なんだ、お前はっ、うわっ」
「ウギャッ」
「グハッ」
ヴェロニカは、次々と男たちを切りつけた。
へー、なかなかやるね。
女勇者を名乗っていただけはあるな。
おっとりした性格の持ち主とは思えないな。
「さぁ、今のうちに逃げてください」
人質たちは、戸惑いながらも出口へと駆けていく。
「へっへー、奥にはたんまりとカネがあるぜ。いくら奪っても奪いきれねーぜ、これは……」
奥の部屋から、カネをつめこんでパンパンにふくらんだ袋を抱えた男が現れた。
「そのおカネは、あなたのモノではありませんっ」
剣をかまえて、またヴェロニカはカネを抱えた男に駆けていく。
「ああ? なんだ、おまえ?」
「あなたの首をおカネにする者です」
ヴェロニカが剣を振りかざす。
キーンと、金属と金属のぶつかる音が響いた。
「キャーーー」
ヴェロニカが壁にぶつかったように跳ね返り、はじき飛ばされた。
「なに?」
テーブルをひっくり返し、イスを弾いて、床に転がった。
「ヴェロニカ、大丈夫か」
「は、はい……大丈夫です」
ずれた兜の位置を直して、起きあがった。
「あわわ……いったいなにが起きたのでしょう」
「突然、現れたヤツにはじき飛ばされたみたいだ」
カネを抱えていた男の前に、剣を持った別の男が立っていた。
アイツ……、どこかで……。
「ここのカネは、俺たちの上乗せの報酬だ。渡すわけにはいかないんでね」
細身だが筋肉質の男。
剣を持っているにもかかわらず、短剣を腰に差し、小型ナイフをいくつも仕込んでいる。
「思ったより衛兵が来るのが早いじゃん」
「衛兵ではありません。賞金稼ぎです」
ヴェロニカは立ちあがって、ふたたび剣をかまえる。
「おい、ヴェロニカ……」
「女が賞金稼ぎとは、どんなご時世だ」
「あなた方ですか? 都で暴れようとしているのは」
「さぁ、どうでしょう。私はただ頼まれているだけなのでね。私の仕事を邪魔する者は殺すだけ」
「させません」
また、ヴェロニカは剣を振りかざす。
男も剣を振りかざす。
「キャーッ」
金属の弾ける音とともに、ヴェロニカもはじき飛ばされる。
「死ね」
男は、小型ナイフをヴェロニカに投げつける。
——させるか。
投擲ナイフを投げつける。
床に小型ナイフと投擲ナイフが落ちる。
小型ナイフじゃ、殺せるほどじゃない。
毒つきだろうな。
「お前は、女の仲間か?」
「そんなところだ」
「ということは、お前も賞金稼ぎだな」
「そういうことになるな……」
「賞金稼ぎは、手当たりしだい殺すことにしている。弟が、どこぞの賞金稼ぎに捕まえられたんでな」
はっ、そうか。
コイツがファルコ・ダフネルの兄か。
殺し屋のダフネル兄弟。
「なにをニヤついている」
「賞金首が目の前にいるなぁーと」
「私は弟のように遊ぶのが好きではないのですよ。そんな余裕を見せていると意識飛びますよ」
ダフネルが突っこんできて、剣を振り下ろしてきた。
黒剣で受け止める。
ダフネルは、懐から引き抜いた小型ナイフを指だけで投げてくる。
すかさず、放たれたナイフを指に挟んで止める。
——弟のファルコとは、本当に戦闘タイプが違うんだな。
「大胆な殺し屋かと思えば、小技ばかり繰り出すな」
「どう殺そうと、死ねば同じことだ」
互いに剣を押し合って、飛び退く。
「俺の動きを見抜くとは、そこそこやれるようだな」
ダフネルが剣をかまえる。
「そこそこか……もう少しできると思うぞ」
黒剣をかまえる。
一瞬の間を置いて、互いにいっきに間合いをつめ、剣を振り払う。
「くっ、貴様……この俺の動きを……」
お互いに通り過ぎて、俺の背後でダフネルが倒れた。
「俺がお前を殺すとでも?」
「賞金稼ぎ……」
投擲ナイフをダフネルの体にいくつも刺して、軽い麻痺状態にした。
「クソッ……俺以上に小技を繰り出しやがって……」
そうりゃそうだ。
殺してしまったら、カネにはならないからな。
無論、命を問わないヤツなら別だが。
「だが、俺を殺さなかったことを後悔するぞ」
ガリンッ
ダフネルの口元から瓶をかみ砕くような音がした。
まさか……。
「おもしろかった!」
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「キールたち、どうなるのっ……!」
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