第38話 中庭の宴
オーディスの手首にあった紋章を見つめていた。
突然、幼少の時の記憶がよみがえってきた。
村のいたる所で、人が殺されている中、物陰に隠れていた時だ。
村人を殺していたやつらの手首にあった紋章だ。
「キール?」
マオノが声をかけてきた。
「ん? なんだ?」
「ぼうっとしてたから……」
「そうだったか」
丸メガネの奥の目が細くなった。
「キール、全員、乗せ終わったぞ」
マレルダが、密猟者たちをドラゴンに縛り乗せてくれていた。
「おう。ひとまず、王都に帰る。マオノもな」
マレルダに手を振ってみせる。
「えぇ……」
マオノの返事は、仕方ないというように力がなかった。
急いでやりたいところだが、こっちも賞金首を連れて帰りたい。
谷を飛びたつと、子供の飛竜もなぜ着いてきてしまう。
マレルダが帰れと伝えても、結局、王都までやってきてしまった。
マレルダとドラゴンたちの協力で、賞金首とその密猟者たちを王都へ運ぶことができた。
王都に着いた頃には、まもなく日が沈むところだった。
そして、無事、オーディスたちは牢獄へ入れられた。
「キールよ、今回もよく密猟者たちをとらえてくれたな」
アルスとマオノとともに、国王にドラゴンの谷でのことを報告した。
「いえ。賞金稼ぎとしての仕事をしたまでです。あと、ドラゴンのうろこを探しにいくついででしたので」
「それで、探しものは見つかったのか?」
「はい」
「アルスの活躍もあったそうだな。魔道具師のよい腕を持っているようだな」
「いいいい、いえ、そ、そんなことを言ってもらえるほどのことではありません……」
アルスは深く深く頭を下げる。
「マオノよ」
「は、はい……」
「村の人々を思うと、苦しい状況だろう。キールが協力してくれるなら、きっと良い方向に運ぶことだろう。今日はゆっくり休んでいきなさい」
「あ、はい……ありがとうございます」
静かにマオノは頭を下げた。
「ということは、キール。ここを出るのだな?」
「はい。明日」
「そうか。お主のことだ。うまくやれるだろう」
「はい」
「あらためて、密猟者どもをとらえてくれたことに感謝する。礼としてはささやかであるが、食事をしていくがいい。中庭で、外の者たちにも味わっていてもらいたい」
「はい。ありがとうございます」
そういえば、城についてからエレナ姫の姿が見えなくなったが。
また、ひょっこり現れるんだろうが。
日の落ちた中庭に案内される。
いくつものたいまつが、中庭を灯していた。
マレルダとドラゴンたちは、中庭で待っていた。
そこにテーブルが用意され、料理が並べられていく。
「おぉ、どれもうまそうだな」
「キ、キール?」
アルスが神妙な顔つきで聞いてきた。
「なんだ? 好きに食べていいんだぞ」
「は、はい。あの、もう、明日にはここを出て行くんですか?」
「あぁ」
「あ、あの、わたしは、ど、どうしたら……」
「ん……アルスが自分でどうしたいか決めればいいさ。俺の家も自由に使っていいぞ。あ、剣だけは朝一で直してくれ」
「も、もちろん剣は直します。でも、わたしは自分でどうしたいとかなくて」
「…………旅は道連れともいうしな。一緒に来るか?」
それを聞いたアルスの表情は、花が開いたように明るくなった。
「はい。キールにお供します。いつでも剣が壊れたら、直しますから」
「いや、そうしょっちゅう壊れるような剣にしないでくれ」
「はい」
ググーと、アルスの腹の虫が鳴いた。
アルスも料理に手を伸ばしていく。
「キール。いいの? あんな子供を……これから先は密猟者たちレベル以上の……」
マオノが、アルスを連れて行くことに心配の様子だった。
「そんなことはわかってる。俺のごたごたに巻きこんじまうかもしれない。でも、アルスにもっと外の世界を見せてもやりたい」
「そう……」
「マオノも食べろ」
「いや。自分だけがこんなところで、ゆっくりと食事などしていていいのか……」
「あれから船に乗って大陸側に行こうとしても、あの時間からじゃ、早くても明日の出発かもしれない」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「なに、少しくらいいいんじゃないか?」
「キーーール」
背後からエレナに飛びつかれた。
「うわっ。どこに行ってたんだ?」
振り向くと、エレナはドレス姿だった。
「でべばびべ、ぎべび」
「アルス、口の中のものを飲みこんでから言え」
「ゴクリ。エレナ姫、きれいですぅぅぅ」
「本当にお姫様だったなんて……」
マオノもエレナのドレス姿を見て驚いていた。
「キール。あなた、本当にただの賞金稼ぎのつもり?」
「あぁ、そのつもりなんだが?」
「城のドラゴンに乗って、王女様と一緒で、国王にも普通に謁見して、町の人たちに受けいれられてる。これのどこが、ただの賞金稼ぎなの?」
「深いこと、気にするな」
「そう言われてもね……」
「さぁ、私も食べる〜。お腹すいたぁ〜」
エレナも料理を食べはじめる。
近くの侍従があわてて料理を皿によそり、エレナに渡そうとしていた。
ふん。もうドレス姿が窮屈そうに見えるな。
さて。
「食べて行かないのか?」
庭の隅で、ドラゴンに乗りかかっていたマレルダに近づいた。
「少しだけ食べた。ヒトの料理とは複雑だな」
「確かに、そうかもな」
「キール。かあ様の傷を癒してくれてありがとう。気持ちも体も楽になったようだ」
「それは良かった」
「私たちは戻る」
「シシシュによろしく」
「あぁ。ヒトは好かんが、キール、お前は特別だ」
「それはどうも」
「さぁ、行くぞ」
と、ドラゴンに乗ったマレルダ。
しかし、1匹だけ翼を広げないドラゴンがいた。
あの子供の飛竜だった。
「おい、お前の居場所はここじゃない。戻るぞ」
グーグゥ
飛竜はマレルダの声に反抗しているようだった。
飛竜は俺に顔をなすりつけてきた。
「えっ、なに? 俺、なつかれてる?」
「さっき会ったばかりで、そうそうヒトになつくわけがない」
「あぁ、いいなぁ〜。私もスリスリする」
と、エレナが抱きついてきて、俺に頬をこすりつけてきた。
ドラゴンと姫さまに頬ずりされている俺。
「この子もキールが好きなんじゃないの?」
グガァァァ
エレナの問いかけに答えるように、飛竜は翼を広げた。
そうだ、と言っている感じがした。
「お前も、一緒に旅に来るか」
グガァァァ
「そうかそうか」
顔をなでてやる。
「そんなことあるわけないだろ? お前は谷に戻るんだ」
ググ
飛竜は、プイッとマレルダから顔をそむけた。
「えっ、キール、旅って? リフレリアからいなくなっちゃうの?」
エレナの顔から笑顔が失われていく。
「あぁ。マオノの村の人のこともあるし。俺も探している人がいるからな」
「急だよ……じゃあ、私も行く」
エレナは真剣なまなざしで俺を見つめている。
半分、怒りもふくまれているようにも見えるが。
さすがに、王女様がどこぞの賞金稼ぎと島を出るなんて許されないだろう。
まるでとらえた獲物は逃がさない勢いで、宴の間、俺はエレナに腕をつかまれていた。
そして、その夜もエレナが家に着いてきてしまうのだった。
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