第31話 鎮静剤の精製
俺の手を借りて立ちあがったマレルダは、すぐに俺の手を払った。
「大丈夫なのか?」
「もう平気だ」
強がりなのはすぐにわかる。
まだ体がふらついている。しかし、それもだんだんおさまっていく。
痛みに耐える。なんて、強い体だ。
フィーーー
マレルダは、小さな笛を吹いた。
穴の上から、ドラゴンの鳴く声が聞こえてきた。
「な、なにか来ますぅ……」
アルスとエレナが体を寄せてくる。
見あげると、降りてくるそれ。
「ドラゴンだな」
「な、なんでドラゴンが」
エレナがぎゅっと俺の服をつかんだ。
「心配するな。私が呼び寄せた。ドラゴンの笛だ」
現れた龍は、マレルダの乗っていた龍だった。
マレルダは、自分は大丈夫だというように龍の鼻先をさわった。
「ドラゴンの笛?」
エレナが聞いた。
「ドラゴンのうろこで作られている。ドラゴンを呼ぶ笛だ」
「そういえば、お城でも聞いたことのある音だった。兵士が使っていた」
「薬草をとりに行くぞ。人手は多いほうがいい。そこの2人も来い。たくさん必要になる」
龍の頭にひょいっと飛び乗ったマレルダ。
「えっ、こ、これに、の、乗るの、ですか?」
アルスの声は震えている。
「恐れることはない。私の言うことを聞いてくれる。急ぐぞ、早くしろ」
「さぁ、2人とも行くぞ」
アルスとエレナを両手に抱えて飛びあがった。
「「うわっ、きゃあああーーー」」
穴の中に2人の悲鳴が反響する。
「待たせた。いいぞ」
「しっかり座っていろ。振り落とされるなよ」
「「は、はいー」」
エレナとアルスは、龍の頭にへばりついた。
すぐに龍が穴の中を昇っていく。
この龍の頭でも思ったより安定しているな。
やっぱり、ドラゴンがそばにいるのはいいな。
あっという間に、穴を入り口に到着して外へ出た。
谷の合間を進んでいく。
龍の体は狭い崖の間もくねくねと動いて、ぶつかることはなかった。
「あの辺りなら、たくさん取れるだろう」
辺り一面に草の生えた一帯に、龍が頭を降ろした。
「少し待っていてくれ」
ググォ
マレルダが飛び降りてくると、草を見て、ひとつ握ってむしり取った。
「これと同じものを取ってくれ」
「それ、貸してもらっても?」
エレナが聞くと、マレルダは薬草を手渡した。
「その形の草ですね」
アルスはエレナの持った草を見て、すぐに探しはじめた。
エレナは手に持った草と生えている草を見比べはじめた。
さて、俺も。
コレだな。
「キール、お前は、本当はなに者なんだ?」
隣に現れたマレルダが、薬草を取りながら聞いてきた。
「さっきも言っただろ。ただの賞金稼ぎだ」
「ただの賞金稼ぎが、カネにもならない私を助けた。それに……」
「それに?」
「かあ様が身を隠しているところに、わざわざヒトを呼ぶことはない」
「俺が、あんたを助けたからじゃないのか?」
「それだけで、正体のわからないヒトに声は使わない。お前はなにかを隠している」
「隠したいことはいくらでもあるさ。人なんだから」
「そういうざれ言を聞いてるんじゃない。かあ様は、ドラゴンの中では神の領域の方だ。昨日今日、谷に現れた者に姿をさらすことはない」
「そう言われてもなぁ。実際に会ったしなぁ」
「だから、お前がただの賞金稼ぎじゃないってことだ。かあ様はお前に力を使ってくれないかと言っていた。その力に秘密があるのか?」
「秘密なんてない。単なる魔法のことだろう」
「ふん、どんな魔法なのか、とくと見せてもらうからな。どうして、こんな者をかあ様は……」
そう吐き捨てたマレルダは、さらにガツガツと薬草をむしり取っていく。
なんで俺がそんなに突っかかれなきゃいけないんだ?
短時間で、1人では抱えこめないほどの薬草が集まった。
「まさか、これをそのまま飲ます気ではないだろうな」
マレルダが聞いてきた。
「このまま飲ませてもすぐに効果は出ないだろ。それに理性を失った状態で、口にもしてくれない。考えがある。アルス」
「は、はい?」
「この薬草を液体にして、薄い膜で包めるか?」
「キール、お前がやるんじゃないのか? しかもこんな子供になにができる? この谷は散歩するお気楽な場所じゃないんだぞ。なぜ、子供のヒトが……」
マレルダは腕を組んで冷たい目をしていた。
「ひっ、こ、こんな子供で、も、申し訳ございません。もっと大人のイイ女になれるように努力しますぅぅぅ……」
アルスはその場にしゃがんで頭を下げる。
「子供かどうかは、結果を見てから言ってくれ。で、どうだ、アルス。できそうか?」
「え、あ、はい」
「それじゃあ、頼む」
「は、はい」
アルスは薬草の前に立ち、服に手をかける。
「おい、アルス。脱がなくていいから」
「でも、前の職場では――」
「ここは前の職場じゃない。服を脱ぐ必要はないし、脱がずにできるだろ?」
「は、はい」
アルスはその場に正座して、薬草の山に両手をかざした。
服を脱ぐ、正座するのは、ある意味職業病ってやつなのかね……。
薬草の山が淡い光に包まれて、葉が光の中でみるみると溶けて液体になっていく。
「あの、大きさはどのくらいにしますか?」
目の前の光を真剣に見つめながらアルスが聞いてくる。
「そうだな。手で持てるくらいにできるか」
「はい、もちろんです」
薬草に伸ばしているアルスの腕に一瞬、力がこめられた。
液体を包みこんでいる光が、徐々に縮まっていった。
「も、もう少しお待ちください。今、膜を固めていますので……」
「あぁ。でも、あまり硬くしすぎないでくれ。龍の口の中で割れなきゃ意味がないから」
「わ、わかりました……それではこのくらいで」
ついさっきまで薬草の山だった場所に、丸い球がひとつできあがった。
「アルス、すごい」
と、エレナが拍手をする。
「い、いかがでしょうか?」
「どれ」
手を広げて、球をわしづかみして持ちあげた。
ずっしりと液体の重みを感じる。
薬液が凝縮されているな。
「よし、いいじゃないか、アルス。ありがとう」
「い、いえ。このくらいで褒めていただけるようなことは……」
「そんなことないさ」
「そうだよ、アルス。すごいよ」
エレナはアルスに抱きついた。
「きょ、恐縮でございます」
「これで少しは龍の口に放りこみやすくなった。液体にしたことで、効き目も薬草そのままよりは早く効きはじめるだろ」
「こ、こんな子供がそれを」
マレルダが信じられないというように、薬草の球を見つめた。
「アルスはいい腕の魔道具師なのさ」
「ふん。薬草を球にしたからって、龍の理性が戻るわけじゃない。それを飲みこませてからの話だ。貸せ、私が龍の口に入れる」
マレルダが薬草の球を取ろうとしたが、サッとかわす。
「万全でない君を暴れ龍の前に出させるわけにはいかない」
「また私がお前に助けられるとでも」
「そうなっても困るだろ」
「くっ……鎮静剤はできたんだ。さっさと龍のところまで行くぞ。乗れ」
待たせていたマレルダの龍にふたたび乗った。
そして、理性を失った龍のもとへ向かった。
「キールたちは、どうなるのっ……!」
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