第29話 赤い女竜騎士マレルダ
崖の上の物陰からエレナとアルスとともに様子をうかがう。
「また、アイツですよ。赤い鎧の女」
密猟者の1人が、別の竜の頭に乗って現れた女を指差した。
「今回は気にするな。目の前の獲物だけに集中しろ。この機を逃したら2度とこんな獲物に出会えないと思え」
「ヘイ」
オーディスがそういうと、声をそろえて密猟者たちが暴れ狂う龍に視線を向け直した。
「私よ、マレルダよ。そんなに興奮しないで」
赤い鎧の女が興奮する龍の前に出た。
「だ、大丈夫なの?」
エレナが心配そうにつぶやいた。
「わからない……あまり、声を出すなよ」
エレナは静かにうなずいた。
パーン
辺りに散った密猟者たちが、龍の隙を見て、いっせいにライフルを撃ち、槍を投げた。
どれも硬いうろこの龍にはきかない。
「龍槍だ。龍槍をぶちかませ」
「オーディス、残りの本数が少ない。ムダ撃ちはできない」
「わかった。とにかく照準はずっと向けていろよ。マオノ、魔法で弱らせろ」
「は、はい……」
オーディスに指示されて、マオノが岩陰から出てきた。
「急・雷蛇束縛」
マオノは、指揮棒のような細く短い魔法のステッキを龍に振り向けた。
雷が龍の胴体を取り巻く。
しかし、うねうねと動いた胴体は、パリパリと雷を弱らせて消しさった。
「あんなでかい龍じゃ、外からの雷撃も効き目ないか。マオノ、炎だ」
「は、はい」
と、マオノはまたステッキを振りかざす。
「やめろー。ドラゴンに魔法を使うなー」
マレルダを乗せた龍がマオノに向かっていく。
そして、マレルダがマオノに飛びついた。
もみあいながら、地面を転がった。
「貴様ぁぁぁ、うちのドラゴンを攻撃するなぁぁぁ。そうやって、ドラゴンを殺してきたんだろ」
マレルダは、マオノに馬乗りして殴りかかった。
「マオノ、逃げろ」
理性を失っている龍が2人に向かっていた。
マレルダもその声に気づいて、サッと飛び退いた。
マオノも間一髪のところで、突撃してきた龍をかわした。
「さぁ、落ち着いて。マレルダよ、怖くないから……」
ふたたび自分の乗ってきた龍の頭に立ったマレルダは、暴れるドラゴンの前に出た。
グシァラララァァァ
まるで蛇のように威嚇されている。
あの赤い女は、なんなんだ?
暴れ狂う龍の怒りを沈めようとしているが……。
別の密猟者でも賞金稼ぎでもなさそうだな……。
バシューン
今までになく大きな爆発音がした。
太く長い槍が龍の胴体からわずかにズレて、反対側の崖をくだくように突き刺さった。
――あれか。飛竜の首に刺さっていた槍は。
密猟者の1人が、煙の吹いた筒を肩に乗せていた。
確かに命中していれば、あの勢いの槍ならドラゴンの硬い表皮を貫いちまうだろうな。
まぁ、お互いに暴れて疲弊してくれたほうが、捕まえやすい。
もう少し、様子を見させてもらおうか。
「外れたか。でかいわりにはちまちまと動き回る。タイミングを合わせてもう1度ねらえ」
「へい、うわぁ」
槍を放った男に龍が向かっていった。
男は筒を抱えたまま龍の突進から逃げる。
「表皮が硬いなら、やわらかいところを狙うまでだ」
オーディスが背後から龍の背に飛び乗った。
そして、頭部に向かって龍の背を駆けて行く。
へー。
身のこなしは悪くない。
まさか、顔を……目を狙うのか?
「やめろー。ドラゴンを傷つけるなー」
マレルダを乗せた龍がオーディスに向かっていく。
「お前は邪魔なんだよ」
オーディスが短剣を振りかぶった。
「うぐっ」
マレルダの腹部に短剣が突き刺さった。
なにっ?
鎧を貫いた?
「「ハッ!」」
エレナとアルスはとっさに口を押さえて声を押し、顔を伏せた。
「ふん。出てこなければよいものを……我らの邪魔をすればこうなる……」
オーディスは、べっとり血のついた短剣を握りしめたまま駆けて行く。
「なっ」
興奮する龍がまた暴れだした。
「ちっ」
オーディスはバランスを崩す前に、サッと龍の背から飛び降りて、龍から走り離れていく。
そして、龍は、マレルダに狙いを定めた。
――危ない。
「キャッ、ガハッ」
マレルダは、龍の尾に叩き飛ばされた。
地面を跳ね転がっていき、動かなくなってしまった。
グシァァァ
口を開けた龍が、倒れたマレルダにゆっくり近づいていく。
――これはまずいだろ。
「2人とも、俺が合図したら、この林を抜けて向こうの谷の奥へ来い」
「う、うん……キールはどうするの?」
エレナが聞いてきた。
「俺は、あの女を助けにいく」
「気をつけてよ」
「俺を誰だと思ってる」
と、俺は崖を斜め走り降りていく。
そして、龍がマレルダを食べる寸前に、彼女を抱きかかえて飛び退いた。
「おい、大丈夫か?」
「ぁ……ぅ……」
反応はある。が、目を覚まさないか……。
傷も治さないと……。
グシァラララァァァ
「かなり血走った目をしてるな、お前さん……」
はっきり言って、お前さんと争う気はない。
って、待ってはくれないか。
龍が勢いよく突っこんで来た。
龍の頭を飛んでかわし、龍の額をジャンプ台かわりに蹴って、谷の奥へ飛んで入った。
そして、エレナとアルスに、来いと手で合図を送った。
走りながら後ろを確認すると、龍は追いかけては来なかった。
龍は、また密猟者たちを狙っているようだ。
食べ殺さない程度に、密猟者たちの相手をしてやってくれ。
「おい、大丈夫か?」
まだダメか。
手当てをしないとな。
ん、水の流れる音が聞こえるな。
エレナとアルスと合流して、近くにあった沢へ降りた。
辺りにドラゴンがいないことを確認して、彼女を寝かせた。
「破・体組成福活性」
ケガした部分を柔らかな光が包みこむ。
みるみると傷口は癒えて、血も止まった。
「すごい、キール! でも、目が覚めないね」
「龍の尾に叩きつけられていたからな。でも、こんなところにいつまでもいるわけにはいかないし……」
辺りを見回すと、遠くからドラゴンらしき鳴き声がたびたび聞こえてくる。
「ほ、本当にドラゴンの谷なんですね……」
アルスは背筋を伸ばして緊張する。
「いつ襲ってくるかわからない」
――んっ?
――なんだ?
沢の先からだ。
何かを感じる。
――なにか、ある? いや、いる?
「キール?」
「ちょっと、そこにいろ」
沢の石の上の静かに歩きながら進む。
「こ、ここは……」
木々に囲まれた奥に大きな穴が空いていた。
ずっと見ていると、吸いこまれそうだな。
どんだけ深いんだ、ここは……。
――マレルダを助けた者よ、降りてくるがよい。
誰だ?
辺りを見回すが、人の気配はない。
頭に語りかけられた?
「誰だ?」
声が穴に吸いこまれていく。
反応なしか。
あの子、マレルダを知っているなら……。
いったんエレナたちの元に戻った。そして、マレルダを抱きかかえた。
「大きな穴があった。そこへ入る」
また、穴の縁にやってきた。
「すっごい大きな穴……」
「こ、ここを行くのですか?」
アルスの声は震えていた。
穴の壁に沿って、道が下へと続いている。
「こっちから降りられる」
辺りを警戒しながら、穴の縁をぐるぐると周りながら、降りていく。
エレナは、おびえるアルスと手をつないであとを着いてくる。
穴の中は風が吹きあげたり、吸いこむように落ちていったりする。
底が見えてきた。
なにかいる……。
「マレルダを助けてくれて感謝する」
年老いた龍か……。
さっき暴れていた龍よりさらに大きく見える。
谷の主か……。
「おもしろかった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「キールたちは、どうなるのっ……!」
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