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第26話 暗黒騎士パーティー11:没落の底へ(スレッグ視点)

「無理しないで、戻ったらどう?」


 また、女の発光体が声をかけてくる。


 コイツ、いつまで着いてくるつもりだ。

 本当に生命の泉まで着いてくるのか?

 いや、無視だ無視。


「そんな体の状態で戦えるのかしら?」


 ふん。

 俺の体のしびれはともかく、フィリオの矢が刺さったくらいで、前に進めなくなるようなパーティーじゃねぇよ。


 他の3人は無言だが、しっかり俺のあとに着いてきている。


「あまり期待してないけど、せいぜい頑張ってね……」


 その声を最後に、女の声は途切れ、発光体も消えた。


 女の発光体だけでなく、森のあちこちに見えていた発光体もいなくなっていた。


 ただ暗く静かな森が広がっているだけだった。


 なんなんだ? 着いてくるのかと思えば、勝手にいなくなりやがった。

 まぁ、静かでいいか。


「あれは?」


 森が少し開けた先に、大きな影が見えた。


 谷に架けられた木の橋の上に、でっぷりとした黒い布のような塊。


「ボベベベ……」


 その得体の知れないものから、低い声が鳴り響いた。


「コイツが老婆の言っていたヤツか……死に神のようなアンデッドモンスター?」


 伏せられていたドクロの顔がのっそりと上がっていく。


「それにしては、縦にも横にでかい。醜いな……」


 ミレイアが目を細めた。


「橋の幅をはみ出して、通り抜けすらできねぇか」


「もしかして、アレって、鎌? モンスターの武器?」


 フィリオがモンスターの手前に指を指す。

 大きな鎌が落ちている。

 しかし、その体には合わないほど、小さい。


「鎌を持てないほど、自分が大きくなりすぎたってことだろ。両脇を見ろ。手らしきものがある」


「ははは……腹が太りすぎて、手を下に伸ばすこともできないでやんの」


 フィリオがからかうように言った。


「魂の食いすぎか」


 太りすぎてほとんど身動きとれないモンスターがなにをしてくるか。


 試しに近づいてみる。


「え、スレッグ?」


 アシルが心配するように声をかけてきた。


 俺は、振り向くことなく、手だけをあげて大丈夫だと伝えた。


 モンスターの手前に落ちた大鎌をつかむ。


「真下の俺が見えていないのかなっ」


 大鎌を振りかぶって、モンスターの腹に向かって投げ飛ばした。


 大きな回転をして、大鎌の刃がモンスターの腹に、グサリと深く刺さった。


「グガガガァァァ……」


 大鎌の刺さったところから、空気が抜けるように、光があふれ出した。


「コイツ、攻撃がきく。アシル、お前は左から。俺は右から。ミレイアとフィリオもぶち込め」


「あぁ」


 いっせいにモンスターに攻撃を仕掛ける。


 剣を振り降ろすと、肉を切り裂くような感触とともに切れ目が入る。


 そこから光が抜け出ていく。


「ヴガガガァァァ……」


「苦しんでるぞ。攻撃を止めずに、いっきにやるぞ」


 ヒュッヒュッと、フィリオの矢がモンスターの顔近くに続々と刺さっていく。


烈・氷柱氷杭レツ・アイスツァプフェン


 巨大なつららがモンスターの腹に3本突き刺さる。


 刺さったところから光があふれ出す。


「いいぞ。徐々に小さくなっているぞ。橋が通れるくらいになったら、渡るぞ」


「わかった」


 ミレイアがすぐに答えた。


烈・暗黒炎連弾レツ・ダークフレイムボール


 突き刺さったつららを貫くように、火炎弾が次々と衝突して爆発する。


 モンスターの腹に空いた大きな穴から、どんどん光が漏れだしていく。


「アシル、同時にやるぞ」


「うん」


「「暗黒(アンコク)」」


 俺とアシルの剣から暗黒の波動がモンスターを貫いた。


「ヴギャアアア……ヴバァァァァァ……」


 今まで以上に苦しい叫び声をあげた。


「なんて声だ……耳をつんざく気か?」


 両耳を強く押さえる。


 だが、見ろ。どんどん体が小さくなっていくじゃないか。


 さすが暗黒騎士パーティーだ。


 これだけの大波状攻撃でなければ、短時間でこうもダメージを与えることはできないだろう。


 もうひと息で、橋の横にすき間ができる。


「攻撃をやめるな」


 モンスターの声でかき消されたか。

 こうなれば、あと1発で……。


 モンスターの正面に出て、耳をふさぐメンバーに視線を送る。


 全員がうなずいた。


合技(ごうぎ)暗黒(アンコク)


 剣を振りかざすと、大きな暗黒の波動がモンスターの腹を切り裂くようにして爆発した。


 空いた大きな穴から大量の光があふれ出す。


 空気が抜けていく風船のようにモンスターがしぼんでいく。


「今だ。橋を渡れ!」


 モンスターの両脇にできたすき間を駆け抜けていく。


 ここはかなり高いのか。


 深い谷にかかった橋のずっと下に、川が流れているのが見えた。


 これで不死身になれるぞ。

 死霊の山を回避して、遠回りしてしまったが、そのかいはあった。


「えっ、あっ、ぬあぁぁぁーーー」


 突然、足がなにもない空を蹴っていた。


 当然、前には進まない。


「なにぃぃぃぃ、橋がぁぁぁ……」


 すぐ後ろから、叫び声が聞こえる。


「きゃぁぁぁ……」

「ふへっぬああああ……」

「うわっ」


 橋がくずれた?


 落下している。


 モンスターの叫び声にかわって、ゴーゴーと風を切る音が耳を通り過ぎていく。


 徐々に激流の川の音に変わっていく。


 なぜだ。

 橋が腐っていたのか?


 やっとの思いで視線を上に向けた。


 なにっ?

 なぜ、アイツは落ちてこない。

 なぜ、そこにいる。あんな巨体が。

 橋の崩れた残骸がない。


 まさか、あの橋は幻だったのか……。


「クッソォォォ……」


 なんの抵抗もできないまま、激流の川に落ちた。

 すぐに体が水に流れていく。


 泳ぐこともできないっ。

 なにかにつかまることができれば。


 必死に腕で水をかき、足で水を蹴る。


「ブバァ、ハァ、ハァ……」


 水の上に顔を出せたものの、川の両側は崖になっている。


 つかまるところもなく、崖にすら近づけない。


 ただただ川の勢いに流されていく。


「うぷっ……だっ、大丈夫か……」


 必死に顔を出してもがくミレイアとフィリオが見えた。


 しかし、流れが強すぎて、ただもがくのに精一杯のようだった。


「アシル?」


 アシルが見当たらない。

 鎧か?

 こんな激流の中じゃ、脱ぐこともままならないだろう。


 俺はたまたま上がれたから良かったものの、場合によっては……。


 ゴゴゴー


 激しい川の流れとは別の音が、どんどん近づいて来る。


 なんだ?


 正面に顔だけ向けると、わずかに川の水が消えているように見えた。


 まさかっ?


 滝か――?


「ま、まずい。お前ら、戻れ……」


 逆に泳ごうとしても水が抵抗する。


「クソッ、も、もう……ダメだ……」


 ――終わったな。

 ――こんなはずじゃなかったのに。


 なんの抵抗することもなく、川の水とともに空中へと放り出された。


 水しぶきで辺りはなにも見えない。


 まるでゆっくりと宙を漂っているようだった。


 俺のあとを追うように、ミレイア、フィリオ、アシルの姿だけが見えた。


 ふたたび、轟音が近づいてきて、一瞬の衝撃とともに俺の意識は真っ暗な世界に包まれていった。


「おもしろかった!」

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