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第23話 暗黒騎士パーティー8:デッドウィスパーの森(スレッグ視点)

 森に突然現れた家のドアを開く。

 中にいたのは、しわくちゃの老婆だった。


 ――うわっ!


 しわくちゃすぎてビビった。

 こんな森の中の家だ。ぞっとしないわけがない。


「ちょっ、ちょっとたずねたい。ここは……」


「宿屋だよ」


 老婆のしわがれた声が不気味だった。


「宿屋……か」


 しかし、そう聞いてなんだか、少しホッとしてしまった。


 俺だけじゃない。


 他の3人も気がゆるんだようで、表情が柔らかくなっていた。


「宿屋かぁ……ちょっとここでゆっくりしていこうよ、スレッグ」


 フィリオが安心してその場にへたりこんだ。


「泊まっていくなら、1人2万セピーだよ」

「えっ? 1人2万セピー?」


 いくらなんでも高すぎだろう。こんな森の中だぞ……。

 宿の中は、激安の宿とさして変わらんぞ。


「そうだよ。こんな森の中だ。そうそう人が来るわけじゃない。あるだけ助かるだろ?」


 そう言われればそうだが……。


 またわけのわからない森に出るよりは、安全に休息できるだけましか。


 ここで休まないと言ったら、フィリオが発狂しかねない。


「あぁ、そうだな。それじゃあ、4人で」


「4人で8万セピーだ」


 銭袋からカネを取り出す。


 こんなに払うのが億劫になったのは初めてだ。


「あぁ……飯はどうする? 飯代は入ってないよ」


 老婆はシワひとつ動かさず聞いてきた。


 おい、またぼったくろうってんじゃねーだろうな。


「飯はどうする?」


「俺、食欲ない……」


 すぐにフィリオが答えた。


 ミレイアも静かに顔を左右に振った。

 アシルもただうなずくだけだった。


「飯はなしで」


 もし、飯を頼んだらぼったくられるだけでなく、どんなまずいモノが出てくるのか想像つかん。


 ちょっとばかりの日差しで育てられた老婆の肌のようなしなびた野菜煮込みとか?

 ドロドロの色味の悪い鍋か?


「じゃあ、8万セピー。確かに。部屋は2人部屋を2つだ。その角を曲がったすぐの部屋だ」


 老婆は案内もせず、その場にたたずんでいる。


「これからどうするの、スレッグ……」


 部屋に向かいながら、ミレイアが聞いてきた。


「ここか。とりあえず、腰を落ち着かせよう」


 ただベッドが2つある部屋に、4人が入った。


「まずココがどこなのか」


 ベッドに腰を降ろして、疑問に思ったことを口にした。


「わかるわけないでしょ」


 即座にミレイアが答えた。


「もうココってあの世なんじゃあ?」


 泣きわめくように、フィリオはベッドに倒れた。


「バカが。あの世でカネを取ると思うか。あの世にカネは持っていけないだろ」


「あっ、そうか……」


 ハッとしたフィリオ。


 すると、ミレイアがマップを開いた。


 死霊の山を迂回した道を指でなぞり、道が途切れたところで指が止まる。


 そこから何もない部分をさらに進めて円を描く。


「歩いた距離からしてこのあたり?」


「フィリオが戻ったとき、1本道にもかかわらず、森からは抜けられなかった。距離感も違うのかもな」


「ここは安全なのかな」


 アシルがつぶやいた。


「そうとも言いきれないな。森の中なのは変わりない。森を抜けないことには、本当の意味で安全はない」


「俺、森の養分になんてなりたくないよ〜」


 フィリオが泣き言のように言う。


「だから、せっせとまっすぐ道を進めば良かったんだ」


「……」


 フィリオは黙ってしまった。


「森の養分とて、我らは暗黒を宿した者。養分の形が違えど、気を許せば、暗黒に飲みこまれるのと、たいした差はないだろう」


 それは、みんなわかっていることだ。


 フィリオも俺にあらためて言われたことで、ガクンと肩を落とした。


 ギギーッ――


 部屋の扉が突然開いた。


 ドクンと、心臓が跳ねあがった。


「ちょっと言い忘れてたんだが……」


 はぁ……なんだババーか。


「な、なんだ?」


 驚いた表情を冷静に戻しつつ聞き返した。


「風呂はどうする?」


 どうする? ってことは……


「もし、入ると言ったら?」


「1人1000セピーだ」


「風呂もなしだ」


「そうかい……ごゆっくりとぉ……」


「あ、待て」


「なんじゃ」


「この森の……発光体や声が聞こえるのは、なんなんだ?」


「ここは、デッドウィスパーの森。死声の森とも言われておる」


「デッドウィスパーの森?」


 死声の森……聞いたことはない。


 他の3人も頭を小さく左右に振った。


「なんだい、あんたたち……生命の泉に来たんじゃないのかい?」


 老婆は驚いたのか、やっとシワとも見分けのつかない細い目を開いた。


「生命の泉? それはいったい……」


 生命の泉……漠然とすぎる言葉に頭が回らない。

 その言葉から連想されることといえば……。


「森の奥に泉があるんだ。あんたたちはそこへ行く途中じゃなかったのか?」


「あ、いや、まぁ……で、その泉は?」


「生命の泉はな、その泉の水を飲むなり、浴びるなりすれば、不老不死の体を手に入れらるんだぁ」


「不老不死……」


 不死身になれるってことか。

 パラディンになるより、こっちのほうが良さそうだな。


「泉にたどり着いた者がいるかどうかは、定かではないけどね」


「生命の泉は、ここから遠いのか?」


「あんたたちくらいの足なら、数時間ってところだろ」


「行けなくもないか……」


「道もほとんど1本道だ。2個所、分かれ道があるけど、どちらも左だ」


 なんだ、楽に泉にたどり着けそうだぞ。


「ただしだ」


 意味あり気に、老婆がゆっくりと前置きを取った。


「最後に川を渡る。谷に橋がかかってる。その橋には、なにかがいるってよう聞く。なにがいるかまでは知らんよ。ふへへへ……」


 ギギーッ――


 老婆が扉を閉めていなくなった。


「うわ〜、最後の最後に変なこと言い残していったよぉ」


 フィリオが震えるように言った。

 ミレイアも苦い顔をしている。


「えっ、ねぇ、スレッグ。まさか、生命の泉に行くとか言わないよね?」


 フィリオが念を押すように確認してきた。


「あぁ、もちろん……生命の泉に行こうと思う」


「えぇーーーー、なんでわざわざ、本当かどうかもわからないところへ行くのさ。最短で森を抜けよーよ」


 フィリオはまた泣きそうだった。


「これは千載一遇のチャンスだ。死霊の山を迂回することになったのも、我々、暗黒騎士パーティーが生命の泉に行くための導きだったんだよ」


 フィリオはうだうだとなにかを言っているが、もう関係ない。


「確かめに行こうじゃないか、生命の泉を。不死身になりさえすれば、パラディンにならずとも、どんな騎士よりも強くいられるんだ。ふははは……」


 高い宿代を払ったんだ。

 しっかり休息して、本気で生命の泉に行く。

 そして、不死身になってやる。


 ふふふ……。


「おもしろかった!」

「暗黒騎士パーティーはどうなる?」

「続きが気になる!」


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