第19話 感謝感謝
ドンと、賞金の入った大きくふくれた布袋がカウンターに置かれた。
「懸賞金200万セピーだ。うらやましいぜ」
パブ兼バウンティーハンターの店主は、悲しみまじりの笑顔だった。
「どれどれ」
袋の口を開けると、まばゆいばかりのカネの色がつまっていた。
「ほぉ、いい眺めだ。いい仕事をしたな」
といっても、賞金額にしては、たいしたヤツではなかったけどな。
まぁ、楽してこの額が入るなんていい仕事したぜ。
「あわわわ……こ、こんなたくさんのおカネ、見たことありません」
アルスは賞金を見て、卒倒しそうなほど目を丸くしていた。
「マスター。それじゃあ、賞金首はここに置いていっていいんだな」
袋の口を閉じて、肩に抱えあげた。
「あぁ、もちろんだ。あの足のケガでは動けない。王都には連絡したから、じきに兵士が運んでくれるだろう」
「王都に連れて行かれるのか」
「監獄は王都の城の裏手にあるとか聞いたことがある」
「へー。そうなのか?」
エレナに聞いて見た?
「ん? よく知らない」
「だよな」
「実際は知らないがな。まぁ、監獄に入ったヤツしかわからないかもな、ハハハ」
店主が冗談めかして笑って、俺も一緒に笑った。
「キールの旦那ぁ。俺、これからマジメに働きます」
コルトがかしこまった。
「あぁ、そうしてくれ」
「へい」
「さて、いくか」
パブを出る前に、店主に良さそうな服屋を教えてもらった。
アルスの服を買うためだ。
ボロ布をかぶった服ともいえない服のままでは、さすがにかわいそうだ。
詳しい境遇はわからんが、同情する。
教えてもらった服屋に入ると、アルスだけでなくエレナもさまざまな服に目を光らせた。
「好きな服を選べ」
「うわあっあっあ……滅相もございません。わたしなんかが選ぶわけには……」
と、この調子で自分を全否定するアルスに、なにを聞いてもらちがあかない。
チョイスは服屋の店員にまかせた。
さっそく着替えさせた。
「アルスちゃん、かわいい〜」
「きょ、きょうしゅくデス……」
アルスは顔を赤くして、うつむいている。でも、はにかんでもいた。
1着だけだと、アレか。
もういくつか、同じような服を店員に見つくろってもらった。
「ねぇ、キール。私もアルスちゃんみたいなかわいい服がほしい」
「姫さんがナニを言っている。もっと豪華な服が城にはあるだろ」
その服にいくらかかったと思ってる?
俺の最初の賞金が、いま着てる服で飛んだってのに。
「ドレスばっかだもん。こういう服着たことないから、私もほしいの、キール」
子供がねだるように、エレナが俺の腕をブンブンと引っぱる。
「あの、エレナさんは姫なのですか?」
アルスが聞いてきた。
「そうよ。リフレリア王の第3王女なの」
「えええーーー、大変失礼いたしました。わ、わたし程度の者が王女様と口を聞いていいわけがありませんでした。も、も、申し訳ございませんでした」
アルスは突然動揺して、エレナに何度も頭を下げる。
「いいっていいって」
「あぁ。アルス、そんなかしこまるほどでもねぇよ。この姫さんは」
「そ、そうなのですか?」
「キールとアルスちゃんなら全然いいよ。だから、私も服がほしい。これがイイ。すごくかわいい、ねっ! ねっ!」
「はぁ……仕方ねぇな……」
「やったぁ〜」
エレナは踊り跳ねるように喜んでいた。
今回は、たんまり賞金があるからいいか。
エレナにも服を買ってやった。
エレナはその場で着ることはなく、大事に持っていた。
リフレリア王都方面に向かって、ロマッサの町の中を歩いていく。
山賊のテオがいなくなったことで、いっきに町の商人たちが動き出していた。
荷車が次々と町を出て行く。
「うわー、すごい。ドラゴンが荷物を運んでる」
エレナが指差した方向に、荷物を下げたドラゴンが空を飛んでいる。
「もう山で襲われることがなくなったからな」
「キールのおかげだね」
「確かにな。俺もいい仕事をしたもんだ」
「だね!」
あの山を越えるのが、王都へ行くには1番近いんだろうな。
山と谷を迂回手して海側をまわると、その分、時間も料金もかかるんだろう。
「ドラゴンかぁ。便利そうだな」
ふと、俺はつぶやいていた。
ドラゴンがいれば、わざわざ歩く必要はなく、遠くまで楽に移動できる。
「キール、ドラゴン、ほしいの?」
「いたら、いいなと思っただけだ」
「城のドラゴン、あげようか」
「姫さんのじゃないだろ。城の、兵士のためのものだろ」
「そっか」
「勝手にもらうわけにはいかない」
「じゃあ、お父さまにお願いしてみようかな」
言ったらもらえそうだな。
ただ、財政的にどうかな。家とは違って、生き物だからな。
「そこのお三方!」
馬のたずなを握っていた商人の男に声をかけられた。
「キール殿。今回は本当に助かりましたぞ」
「賞金稼ぎとしての仕事をしたまでだ」
もちろん知らない男だ。
テオを捕まえたことで、俺の名前がいっきに広がったようだ。
「町と王都の商人は、あなたに感謝してもしきれない」
「それほどでもないさ」
「これから、王都に行かれるのですかな?」
「あぁ、そうだ」
「だったら、乗ってください。王都へ納品に向かいますんで」
「本当か、助かる」
「これもあなた方のおかけですから、このくらいさせてくださいよ」
布張りの屋根のついた荷車に乗せてもらった。
ちょうど3人乗りこめるスペースはあった。
ゴトゴトと揺られながら、夕方にはリフレリア王都に到着することができた。
王都に到着すると、兵士に出迎えられて、また王に呼ばれた。
「キールよ。山賊を捕まえてくれたこと、この通り感謝する」
「いえ、賞金首をただ捕まえただけのこと。賞金稼ぎとしての役目をただ果たしただけでございます」
王の御前、キールは片膝をついて頭を下げた。
ど緊張のアルスも体をこわばらせながら、頭を下げた。
そういえば、エレナ姫がいないな。どこ行ったんだ?
城に入るまでは一緒だったはずだ。
「これで、王都とロマッサの町がふたたびつながった。町がさらに潤うことだろう」
「はい」
「ゆっくり体を休めてくれ」
「はっ。あがたきお言葉」
「うむ。そして、アルスよ」
「は、はいっ……あわわわぁ……」
「その年で仕事を探していると?」
「は、はい……このリフレリア王都で働かせてもらえたらと……」
「そうか。あまり無理するでないぞ。もし、必要があれば話を通すぞ」
「うぎゃあわぁぁぁ……国王様にそんなお手をかけるわけにはいきません」
アルスは水色の髪が振り乱れるほど、首を左右に振った。
「私もアルスの仕事先については一緒に探すつもりです」
「そうか。キールがいれば安心だな。頼んだぞ、キール」
「はい」
「良かったな、アルスよ。頼もしい者と出会えて」
「あわわわ……は、はい……」
国王との面会を終えて、アルスと城を出ようとしたときだった。
「キール、待って。私も行く」
「どこ行ってたんだ? あっ」
「エレナ姫さまぁ、とてもかわいいですぅ」
エレナはロマッサの町で買ってやった服を着ていた。
町人服といえばそうだが、またエレナが着ると華やかさが出る。
「ふふー、そう?」
「あぁ、いいじゃないか」
「良かった! 私もすごくいいなって。ジルも素敵って言ってくれた。ありがとう、キール」
エレナが俺の腕にしがみついてきた。
その勢いままに、俺の腕はエレナの柔らかな胸の谷間に挟まれる。
「城に帰ってきたのに、また出ていっていいのか?」
「うん。だって、キールと一緒にいれば平気だから」
王女だってのに、どんな理屈だよ。
「さぁ、宴に行くか。ひと仕事したんだ。うまいものを食うぞ」
「あ、あの、わたしは……働き口がないので、一緒にはいけません」
アルスが歩き止まった。
「なに言ってるんだ。アルスも一緒に行くんだよ。カネの心配はいらない。たんまりと賞金があるから、好きなものを食え。それとお前に頼みたいこともある」
「また私、あのお肉食べたい」
エレナがグッと顔を下から見上げてきた。
「いや、アレは……ここにあるかな」
アルスは、涙をこぼしながら俺たちのあとを着いてきていた。
「おもしろかった!」
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