第18話 魔道具師の少女アルス
テオの住み処に向かって山の中を歩いていた。
尾根に出て、反対の山側をくだる。
「あっ、山の中に海がある」
好奇心旺盛の声があがる。当然、エレナだ。
そんなはずはない。山の中に海はない。
「あれは湖だ」
俺は、すぐに答えを返す。
とても澄んだ水で青い湖だった。
「湖? へー、あっ、これが……湖。はじめて見た。もっと近くで見たいな」
エレナの顔を見ずとも、湖に向けて瞳をキラキラさせているのがわかる。
だが、今は寄り道している余裕はない。
ましてや、テオを連れているんだ。
「今度な」
「うん……そうだよね……」
はぁ。姫は城の中にいたらいたで、じっとしていられない。
城の外に出たら出たで、姫の好奇心が爆発する。
これは本当に観光させてやらないと、どこかでおさえこんだ興味爆弾が暴発してしまうだろうな。
「どんな理由で、彼女を連れているか知らんが、大変そうだな」
テオが同情するように言ってきた。
テオは、エレナがリフレリア王都の王女であることに気づいていた。
「賞金稼ぎの仕事よりもな」
「賞金稼ぎが、普通、王女を連れて歩くか? お前、いったい何者なんだ?」
「何度も言わせるな。普通の賞金稼ぎだ」
「俺には普通とは思えないがな……あそこだ」
テオが首で指し示した方向に、山小屋があった。
「山の反対側にあったとはな」
「そりゃあ、見つからない場所を選ぶだろ」
「ココじゃ、町の連中も見つけられないな。罠もあるしな。さて、中を物色させてもらうぜ」
小屋の中に入る。
中には人がいた。
「君は!」
水色髪の少女だった。
しかも、なぜか裸だった。
目の前に置かれた短剣に手をかざして魔法を発動させていた。
「ご主人様。申し訳ございません。まだ3つしか硬質化できておりません。この使えないアルスをののしってください」
――汗を垂らしながら、なにを言っているんだ?
「キール、この子……。昨日、山で会った……」
「あぁ……山を降りたはずだ。テオ、お前がさらったのか?」
「さらったというのならそうだな。だが、コイツが罠にかかっていたのも事実」
「結局、また罠にかかったのか。真っすぐ行けっていたのに」
極度の方向音痴か?
「魔道具師だって言うし、働かせてくれって懇願してくるもんだから、仕事を与えていただけだ」
アルスのもとに歩み寄って、しゃがんだ。
「アルスと言ったか?」
「はい。私はアルスです」
「もうその仕事はしなくていい」
「でも、ご主人様が」
「その仕事はよくない仕事だ。やめてもらって大丈夫だ。それより、服を着ろ」
「えっ、でも……」
「いいから」
アルスは静かにうなずいた。
かたわらに脱ぎ捨てられていたアルスのボロ布の服を手渡すと、アルスは頭からかぶった。
「なんで裸にさせた? そういう趣味か?」
「ち、違う。勝手にコイツが脱いだんだよっ……くっ……」
テオは足の痛みで、その場に崩れるように座りこんだ。
「仕事をするときは、服を脱ぐように前に職場で言われておりまして」
アルスは泣きそうな顔で言った。
「たく……どんな職場だよ。まだ子供をこんな姿までにして働かせるとは……ん、これ、アルス、君がやったのか?」
並べてあった短剣の1本を手に取った。
刃が硬質化されて、鋭さも増しているように光っていた。
「はい、そうですが……ダメでしょうか?」
へー、いい腕してるな。
「王都に行くって言ってたな」
「はい」
「あとで送っていってやる。俺たちも王都に戻るから、一緒に来い」
「はい、ありがとうございます。深く深く感謝いたします」
おでこを床面に押しつけるようにアルスは頭を下げた。
「あの、感謝してもしきれませんので、やはり脱いだほうがいいですか?」
と、言いながらアルスは、すでに服に手をかけている。
「おい、脱がなくていい。どこで教えられたんだ」
「い、いいのですか? 前のご主人様や職場では、当たり前だったのですが……」
「だから、どんな人間関係なんだよ。その職場も……」
はぁ……アルスと話していると、別の意味で疲れるな。
「ひとまずここにある奪い取ったものは、いったん町に持ち帰る。コルト、運んでくれ」
「へ、へい。旦那ぁ」
「すまないが、アルス。君も手伝ってくれるか。持てる物だけでいいからな」
「はい。もちろんでございます」
そういったそばから、両手を広げてやっと抱えられるほどの木箱を持ちあげようとする。
「んっんん……もっ、持ちあがりません……」
「だから、そういうのはいいって。こっちのこまごましたものを袋に入れて、持ってくれ」
「も、申し訳ございません。本当に私は役立たずで……脱いでお詫びいたします」
「それはいい。はっきり言って、いちいち謝らなくていい。できることをすればいいんだ、アルス」
「は、はい……うっ……うぐっ……ご、ごめんなさい……涙が……涙が止まりません」
「いったいどうした?」
「わたし、できることをすればいいなんて、はじめて言われて……急に胸が熱く……苦しくなって……」
「今まで大変だったんだ」
キールはアルスの頭をなでた。
「私も運ぶ」
アルスが持ちあげようとした木箱をエレナも持ちあげようとする。
しかし、持ちあげることはできない。
「キール、ごめんなさい」
「だから、無理するなって」
ポンとエレナの肩を軽く叩いた。
「私も頭がいい」
エレナが頭を俺に向けてくる。
はぁ? なに、どういうことだ?
とりあえず、なでておけばいいか。
「はいはい」
「ふふっ」
エレナは満面の笑みを浮かべて、アルスと一緒に物を集めはじめた。
さすがに全部は持って帰れないか。
場所はわかった。ギルドに伝えれば、誰か回収しに来るだろ。
持てるだけ持って、山を降りた。
谷に戻ってきて、荷車に物を乗せ、俺たちも乗る。
コルトはまた馬に乗って、荷車を引く。
ロマッサの町に戻った。
町人たちが賞金首である山賊テオが捕まったとわかると、俺たちは拍手で出迎えられた。
町の人々が口々に声をかけてきた。
「おお、これで王都へ売りに行ける。ありがとう!」
「町もこれで安心だ。助かったよ、兄ちゃん!」
「ありがとう! ありがとう!」
「よっ、賞金稼ぎやがって!」
「コルト、お前も捕まっちまえ。ハハハ……」
最後のひと言には、みんなのどっと笑い声があがった。
昨日よりも明るくなった雰囲気の町中を進み、パブ兼バウンティーハンターギルドに向かう。
そして、懸賞金200万セピーの山賊テオ・リュッカーをギルドに引き渡すことができた。
「おもしろかった!」
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