第16話 追走
突然、逃げ出したコルトを追いかける。
――ほんと、こういうヤツは、勘だけはいいんだよな。
コルトは裏路地を抜けて、少し人の多い通りに出た。
コルトの背中を見失わないように追いかけながら、ふり返る。
「大丈夫か?」
「このくらい大丈夫よ。兵士に追い回されるより全然いい。追いかけるほうが楽しいね」
しっかりエレナも走り着いてきていた。
「あまり楽しまれちゃ困るんだが……もう少し速く走れるか」
「まかせて」
と、エレナはグンと俺の前に走り出た。
じっとしていられないだけあって、走れるじゃないか、姫さん。
俺もおいていかれないように速度をあげる。
コルトもこっちを察して、さらにスピードをあげた。
そして、さらに人通りの多い露店が並ぶ通りに入っていった。
食事を出す露店も多く、夕食どきと重なって人々が行き交っていた。
「エレナ姫はこのまま真っすぐヤツを追いかけてくれ」
「うん」
「俺が先回りして、挟みうちにする」
「わかった」
エレナは今の状況を楽しんでるのか、笑顔で答えた。
俺は、1本となりの露店の通りを走り、スピードをあげた。
すぐにコルトを追い抜いた。
だが、俺が先回りすることに勘づいた。
「チッ」
コルトは人を壁にして、迫ってくるエレナを待ちかまえていた。
「止まれ、エレナ」
慌てて叫んだ。
「キャッ」
エレナはコルトに捕まってしまった。
「キール、ごめんなさい。捕まっちゃった。助けて」
「騒ぐんじゃねえよ」
「助けて〜、キール」
しかし、首を腕で押さえこまれているエレナの声は嬉しそうに聞こえる。
「お前、捕まってんのになんでそんな笑顔なんだよ」
コルトはエレナの奇妙さに表情がくもった。
「えっ、だって、キールが必ず助けてくれるから。ほら!」
俺は速度を落とすことなく、コルトに走り向かっていく。
「話を聞こうじゃないの。コイツがどうなっても? って、おい、待て待て待て」
コルトの発言にかまわず、コルトの顔面に拳をぶち込んだ。
「まさか、こんなに強い賞金稼ぎさんだとは思わず、相棒の女性に手荒な真似をしてしまい申し訳ございませんでした」
コルトの顔はボコボコ。
顔をパンパンに腫らしたコルトは、しゃべりにくそうだった。
俺がやったわけだが、少しやり過ぎたか。
でも、こういうヤツには、1回染みこませておいたほうがいい。
「ざまーねーな」
「もっとボコボコにしてやってくれよ」
「バチが当たったんだね」
「いい気味だ」
コルトが俺に殴られて誰も止めようとはせず、むしろ俺は感謝すらされた。
「だいぶ町の人たちに迷惑かけているみたいだな」
「あ、いやっ、もう殴らないで。も、もう、しませんから。この通り。なんでも話しますから痛いのは……」
「じゃあ、なんでも話してもらおうか」
「はい……なんでしょうか……」
「テオ・リュッカーのことについて、知っていること全部だ」
「いや、それだけは……」
コルトの胸ぐらをつかんで、拳を振りあげる。
「まっ、待ってくれ……話すから話すから」
「早く話せ。テオはどこにいる? お前との関係は?」
拳は下げたが、胸ぐらはつかんだままにしておく。
「テオは谷の近くの山の中。具体的な場所は俺も知らない。本当だ。俺は、商人の荷車が谷に向かったのを連絡しているだけだ」
「どうやって」
「ハトだ。テオがそうしろって、ハトをあずかった。なぁ、テオをつかまえるのか?」
「そうだ」
「も、もう少し待ってくれないか」
「なぜだ」
「俺の食いぶちがなくなっちまう。収穫があったら、テオから分け前をもらえるんだ」
「知らねぇよ。たいした額にはならないが、このままお前を賞金首として差し出すか」
「そ、それだけは……監獄には入りたくねぇよ。も、もうしねぇから見逃してくれよ。ゆるしてよ。旦那ぁ〜」
――だから、こういうヤツは……軽いんだよ。
「旦那ぁ〜、なんでもするからぁ〜」
「なんでもする?」
「あぁ、なんでもする。もう町には迷惑かけないからさ」
「じゃあ、ちょっと用意してもらいたいものがある」
「な、なんでしょう」
コルトが息を飲んだのがわかった。
俺は耳元でささやいた。
「よ、用意はするが、俺がそれをするのはちょっと勘弁してくれよ、旦那ぁ」
「ただとは言わねぇよ。少し分け前を出してやる」
「ほ、本当か? でも、本当にテオの旦那に勝てるのか?」
コルトの胸ぐらを引っぱって、ギルドに引きづり連れて行こうとする。
「わかったわかった。するよする。するから、勘弁してくれ」
「明日の朝までに用意しておけ」
「はい」
「逃げられると困るから」
俺はコルトの片方の手首を握った。
「うぎゃぁーーー旦那ぁ、なにを?」
手首を握った指の間から黒い煙をわずかにあがった。
手をはなしてやると、コルトの手首には黒い魔法印が描かれていた。
「ちょっと、これは……」
「暗黒印だ。俺の命令に逆らえば、暗黒がお前を苦しめる」
「わかったよ、旦那ぁ」
「それじゃ、また、明日な」
肩を落としたコルトをそのままにして、エレナと飯を食べに行った。
露店の飯も悪くなかった。
エレナにとっては、食べたことないものばかりで大口を開いて食べていた。
バクバクと肉をほおばる姿を王と王妃が見たら卒倒するだろうな。
「部屋は一緒がいい」
宿屋で、個室を2つ頼もうとした。
そう言われて、それもそうだと思った。まさか、王都の姫になにかあったら……。
とはいえ、エレナはそういう不安で言ったんじゃない。
たぶん、そんなこと微塵も思ってもいないだろうな。
結局、同じ部屋にした。
歩き疲れて、早く寝てほしいところだ。
「私にも、あの暗黒印をつけて」
部屋に入るやいなや、エレナがねだるように言ってきた。
「あれは、簡単につけるモノじゃない」
「私もちゃんとキールのモノになりたい」
なんだよ、俺のモノになりたいって。
「モノにするための魔法じゃない。相手を縛る魔法だ」
「キールがイヤなことをしないように、私、ちゃんと縛られたいの」
言っている意味がよくわからん。
エレナは真剣に見つめてくる。
どうしてそんなに真剣なんだよ……。
「はぁ……わかったよ。腕を出せ」
「やったぁ!」
エレナは喜んで片手を差し出してきた。
――さすがに暗黒印はつけられない。でも、ちょうどいい機会だ。
エレナの白く細い手首を握った。
黒い煙が指の間からあがった。
手をはなすと、エレナの内側の手首に黒い魔法印が描かれていた。
「ふふっ。これで私はキールのモノ」
見た目は、暗黒印にしてある。
それで満足したのか、ベッドに倒れこんだエレナは、案の定、早く寝てくれた。
ベッドも1つでいいとか言い出したときは困ったが、寝てくれてよかったよ。
1日中動き回って、疲れたようだな。
俺ももう1つのベッドに寝そべった。
さて、コルト。上手くやっておいてくれよ。
「おもしろかった!」
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