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たらこのエッセイ集

カウンター作品という地獄 ~チートスレイヤーの一件について思うこと~

「ぐわっはっは!」


 オークが高笑いする。眼前には炎に包まれる街。上空を飛び交うのは戦闘機。外壁を砲撃する戦車。突撃銃を乱射するオークとゴブリン。人々はなすすべもなく殺されていく。


「これで俺たちの天下だぁ! ざまぁみろ人間ども!」


 嬉しそうに高笑いするそのオークこそ、私が最初に書いた異世界テンプレ作品の主人公。

 人間に大勝利を収めた彼は魔族の王となり、捕虜にした女たちを侍らせ、酒池肉林を……。


 ううん……我ながら酷い。

 これは私が書いた最初の異世界テンプレ作品の冒頭だ。なんでこんなものを書いたのか今でも疑問に思う。


 この小説に出てくる蹂躙された街は、転生者たちが作った街だった。彼らは与えられたチートで人々を導き、健全に文明を発展させていた。そこへ、さらなる文明化チートを持った主人公が現れ、第二次世界大戦で使われていた兵器を用い、転生者たちが作った街を破壊しつくす。

 街を攻略したあと何をするのか、私は全く考えていなかった。しかしながら、一度火が付いたら止まらず、パトスに満たされた心に突き動かされ、思うままに駄文を書きなぐった。


 一応言っておくが、私は兵器に関して何の知識も持ち合わせていない。全くの無知だ。にもかかわらず、聞きかじったつけ刃の知識で、さも知った風に書きなぐり、最強の主人公を作った気になっていた。


 こんな作品を書くとは、なんて酷い人なんだろう。これを読んだらそう思うはずだ。

 当時の私はその作品を読んで他人がどう思うかなんて全く考えておらず、ただただ欲望の思うままに文章を書き記した。それはあたかも、作中の主人公のように、なんの後ろめたさも感じずに悪事を働く最低最悪の悪役そのものだった。


 幸いにも、その作品が世に公開されることはなく、未完かつ未公開のまま闇に葬られることになる。


 ……本当によかったと思う。


 当時の私は精神的に不安定で、自分の中にある混沌とした感情のはけ口を求めていたのかもしれない。今思うと、あの作品を書いた時の私は色んなものに追い詰められて、限界ギリギリの状態だった。あのような作品を書いてしまうのも、無理はなかったと思う。


 けれども、世間の方々は私の精神状態など知ったことではない。もしあれがあのまま公開に至っていたら、私は作品を読んだ人たちから糾弾されていたことだろう。


 とまぁ、こんな過去があったのだが。最近になって他人事とは思えないような炎上事件が発生する。

 そう……例のチートスレイヤーの件だ。


 知らない人のために一応解説しておくと、チートスレイヤーとは、既存の人気作品の主人公を模倣した登場人物を複数人登場させ、彼らに悪事を働かせて主人公に復讐させる内容の作品だ。模倣されたキャラクターは人気作品ばかりで、非なろう作品も含まれる。


 そんな作品を、素人一個人がどこかの小説投稿サイトにアップロードするのではなく、あろうことかK社系列の出版物から連載作品という形で発表されてしまった。

 そんなものを世に出して許されるはずがなく、方々からお叱りの声がかかったのか、あえなく一話打ち切りの憂き目にあう。


 あの漫画について思うことはいろいろあるが、間違いなく言えることが一つだけある。

 あれは新しい作品でもなんでもなく、ただ他人の作品を踏み台にしただけの、ありふれた異世界テンプレート作品であるということだ。


 噛ませ犬になるのは既存のキャラクターであり、それを倒すのはただのなろう系主人公。異世界に転生したクソガキがチートでイキり倒して現地民を蹂躙する作品と何が違うのか。


 私が最初に書いた異世界テンプレ作品もそうだが、誰かが誰かをやっつけるという話は、別に新しくもなんともないありふれた話だ。それこそ、紀元前に遡っても存在するような、使い古された陳腐な話。

 けれども人々は、誰かが誰かを倒す話を求める。異世界テンプレが流行ったのも、そういった類の話を人々が要求するからだろう。


 そんな陳腐な話にオリジナリティを付け加えるには、丁寧に設定と人間関係と心理描写を積み重ねるしかない。何事も一朝一夕にはいかず、コツコツと地道に作品を作り上げるのが一番の近道。

 しかしながら、なろうなどの小説投稿サイトとは違い、連載作品の漫画にはその猶予がない。すぐにでも耳目を集め、人々の意識をその作品へと向けさせる必要がある。人気が出なければ打ち切られ、作品そのものが終わってしまうのだ。あのような失敗をしてしまったのは、作家サイドが追い詰められた状況にあったからかもしれないと、個人的には解釈している。


 だからチートスレイヤーのような作品を許容しろとは、まったく思わない。あの作品に向けられた人々の感情は正当なものだ。

 これはテンプレートを用いてなろう系小説を書くのとは違う。他人の作品を模倣し、あまつさえ踏み台にするのは、創作者としてあるまじき行為だ。一話打ち切りは当然の結果だと思う。


 この一件は各所で話題になり、ネットニュースにもなった。それを目にした私は激しく憤る……のではなく。まるで炎上したのが自分のように感じていた。


 私が過去に書き上げた異世界テンプレート作品。

 その内容は既存のなろう系作品を下敷きにした模倣まがいの小説だった。あんなものを世に送り出していたら、今頃自分も同じようになっていたかもしれないと、戦々恐々と騒動の行く末を見守っていた。


 あの作品を書いた当時の私は、明らかに悪意にまみれていた。他人が作った物語や世界をぐちゃぐちゃに壊してやろうという悪意に突き動かされ、小説を書いてしまっていたのだ。もしタイムマシーンがあれば、当時の私に会いに行って「今すぐやめろ」と頭をひっぱたくだろう。あれは何の利益もない、ただただ不毛な創作活動だった。

 もう二度と同じ過ちは繰り返すまいと心に決めている。


 チートスレイヤーのような既存の作品に相対する作品のことを、カウンター作品と呼ぶらしい。ググっても言葉の定義を記したサイトは見つからなかったのだが、どこかでそのように表現されていた気がする。


 私自身がそうだったように、安易に他人の作り出した世界観やキャラクターにカウンターをぶちかまして、自らの作品が上を行ったように感じるのは、未熟な精神の表れだ。それは決して褒められるような行為ではない。

 しかしそれでも、他人の作品にカウンターして成功する人は多い。炎上もせずに成功するなんて、正直言ってすごいと思う。

 いや……私が知らないだけで炎上しているのかもしれない。それを乗り越えた上での成功だというのなら、なおさら尊敬する。


 しかし、同じ道は歩むまい。私自身、過去に決別するためにそう決めたのだ。もう、人の作品を否定して物語を作るのはやめよう。


 誰も傷つけない物語なんてものは、この世に存在しない。

 しかし、誰も傷つけないよう細心の注意を払って作られた作品、であれば別だ。

 きっと私にも書けるだろう。失敗はするかもしれないけど。


 願わくは、全ての作品がヘイトではなく愛をこめて作られますように。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分があるあるへのアンチヘイト作品みたいのを書いちゃってるので、他人事の様に感じられませんでした。 読む人の気持ちを考えて作品を作らないといけませんよね。 その点においてこのエッセイはとて…
[良い点] そんな作品があったんですね、知りませんでした。教えてくれてありがとうございます。 検索してみたら解説動画があってみてみました。 ごめんなさい、正直に言います。面白そう続きみてみたいって思い…
[一言] 正直、「アレ」は創作の技法としては、アリなんですよね。 他者の作品についてのツッコミを、自作で行う、なんて、普通に行われています。作者自身、「文句があるのなら自分で小説を書いてそれで示せば…
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