6話 私は別に面白くないんだけどな
目の前でバルツァー様が怪し気に口角を上げたと思いましたら、口元を抑えて笑うことをこらえ始めました。
ええ、何ですか。眉間にしわ寄せたまま、そんな笑い方しないでください。
私が何かをしたと考えるのが普通でしょうか。
「あの? えと、帰っても宜しいでしょうか?」
「ダメだ。お前にはもう少しだけ付き合って貰う」
公爵家の方の機嫌を損ねてはいけない。私はおなかが痛くなる気持ちでそこに座り続けました。
バルツァー様がビップルームの使用人にお声がけをしますと、何やら招待状が用意されているように見えます。
何の招待状でしょうか。いえ、上の階級の方です。逆らってはいけません。本当なら昨日のように走って逃げだしたいところですが、公爵家の方と知った上でそれはできません。
ああ、同じ学び舎に通っていたと言いますのに、同じ授業で被ったことがないままでしたから、一切お顔を知りませんでした。
せめて、自分より上の階級の方だけでもお顔を覚えておけば、今頃こんなことにはならなかったかもしれない。
「コースフェルト嬢。お前は見ていて面白いな」
「え? ……え?」
見ていて面白い? 私はバルツァー様を見ていると、胸がドキドキしますよ。いつ私がやらかしてお父様を困らせてしまうか不安で仕方ありません。
バルツァー様は、処刑台に立たされている私を見て楽しんでおられるのでしょうか。ひぇ。
バルツァー様は使用人に用意させたものを確認すると、私に突き付けてきました。
「あの、これは」
「招待状だ。明日もこの時間にここに来い」
「え? い…………はい、わかりました」
一瞬、嫌ですと口に出しそうになったところ、なんとか踏みとどまりました。なぜ私がこんな怖い人と一緒にいなければいけないのでしょうか。権力に逆らえないからです。
「俺からの招待状を青い顔で受け取ったのはお前くらいだ」
「え? 顔に出ていましたか?」
また不快な思いをさせてしまったのでしょうか。どうしよう逃げないと。だめだ。さすがにもうすでに目の前にいる状況で逃げるなんて、更に不敬をしてしまうだけです。
でも、明日もここに来ると言うことだけは、ミシェーラ様に見つからないようにしなければ。
「あのですね。そのこの招待状の意図は?」
「俺がもう一度お前と逢いたいと思った。それだけだ」
ダメです。この人、完全に私を小動物か何かと勘違いしています。怖い。でも、逆らえない。
こうなりましたら、バルツァー様とは、お呼び出しされない限り逢わない。
バルツァー様とミシェーラ様のお二人の視界に絶対に入らない。
ミシェーラ様の恋が成就して、バルツァー様がミシェーラ様に夢中になってくださることを祈る。
私の高等部生活の目標が、勉学から逸れた瞬間でした。
大丈夫です、お父様。コースフェルト家は私が逃げて隠れて護ります。
「コースフェルト嬢、もうじき夜だ。送っていこう」
「え? いえ。その大丈夫です。全然大丈夫です。全然大丈夫大丈夫です。全然」
「…………むしろ大丈夫に見えないのだが」
二人でビップルームを退室し、馬車の停留所に向かう前に私はバルツァー様に声をかけて逃げ出そうと考えました。
「では私はそのお花を摘みに…………お先に帰ってくださっても大丈夫ですよ」
さすがに意味を察してくださったのか、バルツァー様はそのまま私が遠くに行くことを見つめていました。
これでバルツァー様がお帰りになられたころに戻れば完璧ですね。さすがに一伯爵令嬢のこと。面白いと思いましても待つなんてことあり得ないでしょう。
そろそろ大丈夫かな?
私は停留所の扉の方を覗き込むと、バルツァー様と目が逢いました。なんでまだいるんですか。
そっと顔を引き、隠れなおします。
バルツァー様の見間違いだったと言うことになりませんかね。なりませんよね。だって一歩一歩足音が大きくなっていますから。
ついにギルベルトに気に入られてしまったマリー。
そして隠れちゃダメでしょ。。。。。
今回もありがとうございました。
ごめんなさい。謝って同じ話を2回投稿していました。削除しました。本当にごめんなさい。