48話 実は目がぎょろぎょろしていてこの人怖いんだけどなぁ
あのデートの夜。ギルが我が家まで送ってくれた後に、突然の来客が訪れました。
ちょうどエントランスにいたリアが対応し、私は呼び出される形で来客の待たされている応接室に向かい、彼女が座って待っていました。
「どもどもでぇーす?」
青い髪に三白眼の女性。いつものメイド服とは違い、目立ちにくい暗い色のローブを羽織っています。
「フリーデリケさん? 何か?」
突然の来客は、ミシェーラ様のメイドであるフリーデリケさんでした。
メイド服を着ていない彼女を見るのは初めてですが、元々は諜報員とのことなので、案外こういう格好は着慣れているのかもしれない。
「ルビー・フリンの付き人やフリン侯爵は口を割るのが難しかったですけど、メリッサ・ボイド付き人が口を滑らせたのでご報告に。いないと思いますがご両親は?」
「社交シーズンではないので領地に」
「ですよね。現在ご在宅中の一番偉い方はマリーさんということですね。弟さんはまだお若いですし」
弟の話はしたことがありませんでしたが、特に隠している情報でもない為、知っていることには驚きませんでした。
弟も一応初等部に通っているため、一応屋敷にはいます。
「話を戻しますね。メリッサ・ボイドの付き人だったのは騎士伯の家系の三男坊。当然、今回の件で勘当されました。それでその彼なんですけど……人身売買に手を出していたみたいです」
「え?」
人身売買は、公国や周辺諸国でも重罪に指定されています。十年前までは隣国の一つでは合法でしたが、それも当時の暴君をリアが所属していた英雄の旅団が屈服させ、奴隷制度を撤廃させたはず。
「ルビー・フリンの付き人だった男もその可能性が高そうですし、おそらく彼らを手配したフリン侯爵も黒。あと少しで証拠を割り出せそうなんですけどね。口が堅い」
「後はオリーブ様の付き人がわかれば」
きっと上手く行く。
「そういえば軟禁されているルビー様やメリッサ様はどのように?」
「…………ああ、いましたね。確か王宮の壁掃除がすべて済めば、後は実行犯の彼らとどこまで関係性があったか次第ですね。ルビー・フリン自体は人身売買組織のことを本当に知らなそうでしたし。今回の件も少し脅すだけだと思っていたそうです」
フリン侯爵が黒よりだとして、ルビー様方は侯爵に頼み込んだ。
侯爵に用意された三人をそれぞれ付き人として夜会に出席して、私を軽く脅すだけのつもりだった。おそらくメリッサ様も同じ程度に考えていたのでしょう。
しかし、だとすると侯爵はやりすぎなのではないでしょうか。捕まったら人身売買組織との繋がりまで割れるリスクを犯すでしょうか?
フリン侯爵には他に目的があって彼らを呼んだ? あるいは、歯車が狂った?
そんな簡単に狂う歯車があるとすれば、それは、誰かが意図的に介入したとしか考えられない。
ルビー様? いえ、人身売買組織については把握されていなかったみたいですし、フリン侯爵と繋がりがある人身売買組織だとしたら、メリッサ様やオリーブ様の方はもっと知らないはず。
「あの? 付き人の方々を連れてきたのはフリン侯爵で間違いないのでしょうか?」
「ええ。それはメリッサ・ボイドが口を割りました」
「それが嘘だという可能性は?」
「ないですね。そのことをルビー・フリンに話したら、彼女もあっさり白状しました」
なるほど、つまりルビー様方はフリン侯爵にお願いしてお三方を付き人にした。つまり、人身売買組織に繋がりがある可能性があるのはフリン侯爵だけ。
あくまで繋がりがある可能性だけで、偶然選んだ二人が同じ組織に所属していた可能性もありますけど、だとしてもあのタイミングで脅しというよりは、捕縛から入りましたし、人身売買を目的として動いたという方が納得できる。
意図的に彼らを選んだというのなら、フリン侯爵は黒だ。
とにかく三人目。彼を割り出そう。もし既に始末されていたとしても、三人目は私とフリーデリケさんが覚えている。
だからきっとルアさんに頼んだ作戦で、オリーブ様の付き人があの三人目であると特定できるはずなんだ。
「それではそろそろ私は失礼します。また新しい情報が手に入ったら来ますね。それから作戦の件。成功をお祈りしてます」
彼女は公国式ではなく、帝国式の祈り方で手を組んでから、頭を下げて応接室から出ていきました。
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