29話 恥ずかしさになれないんだけどなぁ
マリー。マリー。マリー。あの人の言葉が私の脳内で何度も反響し、そのたびに赤くなる顔をなんとかごまかせないかと必死になりました。
お互いびしょ濡れでしたので、一度バルツァー様も我が家に上がってもらい、着替えなどをしてもらうことになりました。
私は現在湯浴み真っ只中です。
「お嬢様、やりましたね!」
「違いますから! あ、いえ違わないのかな?」
私の体を洗いながら、リアが私に話しかけ、私はそれに返事をします。
「良かったですねお嬢様」
ちなみに私とバルツァー様がびしょびしょになっているのは、私が川に落ちてバルツァー様に助けて貰ったと言うことにしてもらっています。
バルツァー様は何度か、本当のことは言わなくていいのかと仰いましたが、後からよりひどい報復を受けたくありませんでしたし、内緒にしてもらうことにしました。
バルツァー様は、せめて犯人だけでも教えてくれと言ってきましたが、私が絶対に言おうとしないところをみて、彼も諦めました。
そして何も知らないリアは、私の言葉を真に受けてくれたのでしょう。いつも通りの笑顔で湯上りの私の髪を拭いています。
「さ、お嬢様。バルツァー様がお待ちですよ」
「ええ、ありがとうございます」
普段なら湯浴み後はもう少しラフな服装ですが、今日は少しだけおしゃれをしています。
淡い水色の、装飾やフリルの少ないシンプルなワンピース。ラフな格好とはいえ、少しでも可愛いと思われそうなものを選んでしまいましたね。
私はバルツァー様がお待ちになっているサロンに向かいます。
「バルツァー様?」
「やはり女性の湯浴みは長いのだなマリー」
私が入ると、彼はすぐに私を抱きしめました。そんなにぐいぐい来られると、逃げ場がなくなって困ります。
「ふえ!? あ、えとあの!! ま、まだ私達! そういう関係じゃないですよね!?」
「じゃあ、ならないか?」
なりたい。本当はそう思っているけど、この幸せが一時的なものじゃないかと思うと、どうしても直ぐに返事ができなかった。
でも、バルツァー様は私のことがよくわかっているようで、震える肩をしっかりと抑えてくださりました。
「君が嫌じゃなければ、あと少しこのまま」
嫌ではない。ただものすごく恥ずかしくて、ただものすごく、多幸感に包まれる感覚は、危険なものに手を出してしまっているような気がしないでもない。
それでもいい。私は抱きしめられたまま、彼の体に腕を回します。
すると、そこで私たち以外の第三者に声をかけられます。
「あのー、そろそろ宜しいでしょうか?」
リアが、困ったように私たちをみつめていました。表情はいつもの笑顔。
「ふにゃあああああああああああああああああ!?」
「驚くなマリー。恥ずかしいのはわかったからもう少し大人しくてくれ」
バルツァー様が私の頭を撫で、大人しくさせようとしてきますが、私はもう恥ずかしさの限界です。
「バルツァー様、いつもお嬢様がお世話になっています。宜しければお嬢様とご一緒に夕食なんてどうでしょうか?」
恥ずかしさで限界の私を無視して、リアがバルツァー様に挨拶し、更に何か不思議なお誘いまでしています。
「では頂いていこうか」
「良いのですか? 我が家の夕食でお口に合うかどうか」
私がそういうと、バルツァー様はまた思い切り私の頭を撫でてきます。髪が崩れてしまいそうになり、必死で抑えますが、やはりこの人にはかないませんね。
「あの? 私は小動物ではないのですが?」
「可愛さなら似たようなものだろ?」
数秒だけ考えました。バルツァー様が子犬や子猫を可愛がるご様子を。
凄くいい。
今回もありがとうございました。




