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[5]隠された真実

中心都市(セントラル)にあるレストランを訪れた三人は、すぐに出せるものを聞いて注文した。

客は自分たち以外に誰もおらず、すぐ出すからねと店員に言われた。


初めて中心都市を訪れた真燐は、改めて店の窓から街並みを見たが、地面が雲のような白く柔らかい物体であることと、周りに浮いた建物があること以外は、そこまで中界と変わらないと感じた。


「中心都市の建物ってほとんど浮いてないんだな。浮いてるのは何の建物なんだ?」と真燐が聞いた。

「それくらいならあたしにも分かるのだ、浮いている建物の中はほとんどがお墓なのだ!」とルイカが答えた。


「墓?」

勇樹が頷いて補足した。

「天界、特に中心都市では死んだら転生すると伝えられていて、新たな命を受けて次の人生へ羽ばたけるように、墓を天に浮かばせるようにしてるんだって」


談笑していると程なくして出てきた料理は、見た目は野菜炒めとご飯と味噌汁の定食のようなものだった。


真燐は野菜炒めを口に運んだ。

「なにこれ、めちゃくちゃ旨い」

「ね、そうでしょ。天界で採れるものって何でも逸品なんだ」


ルイカは食事を口の中いっぱいに頬張った。

「あはひほ、ほほはへへはら、へんはいっておいひいほのはっはっへひっはほは…」

「口にあるもの飲み込んでからしゃべりなよ、ルイカ…」

「…保護されてから天界って美味しいものばっかって知った?」

「えっ今ので分かったの?!」

「そうなのだ、まりん様すごいのだ」ごくんと飲み込んだルイカが感心して言った。



夕食を済ませた一行は、10分ほどで城に到着した。

高層ビル程の高さがあり、外壁が全てステンドグラスでできた、美しい建物である。


城の周辺には天人がわらわらと集まっていた。

立って見る者、飛び回って見る者、人それぞれであるが、中に入っていく人は見受けられない。


「さて、どうしようか。王の間に行くなら、飛んで入った方が早いんだけどなぁ」

勇樹は城を見上げて言った。


「そもそも階段とかあるのか?天人には不要だよな」と真燐が勇樹に訊ねた。


「一応、妖獣契約者もいるしあるにはあるよ。でも勿論エレベーターはないし、大変だけど自力で行くしかないね」


「あの、上手くいくか分からないけど、筆の能力で大きな鳥を描いて、乗せてもらうはどうなのだ?」とルイカが言った。


「そんなことできるのか?」

「やったことはないのだ…」

「万が一飛び立てても途中で落ちたら終わりだぞ」

「むむぅ…そう言われると自信ないのだ…」


「というか天人に運んでもらえばいいのか」と気付いた真燐は、天人にお願いするよう勇樹に依頼した。

近くにいた城の警備兵に勇樹の顔見知りが複数いたようで、お願いをして運んでもらえることとなった。


道中で会った兵は細身ばかりであったが、依頼した兵は体の大きい人ばかりであった。

真燐が勇樹に訊ねると、ここにいる兵は城内外の警備がメインで力自慢が多く、道中の兵は中心都市の見回りがメインで速い人が多いとのことだった。


勇樹と真燐には二人の兵が、ルイカには一人がついて、脇を抱えて飛び立った。


勇樹は自分を運んでくれている兵に質問をした。

「城内の確認はしたのかい?」

「三人様子を見ると言って入っていったのですが、一向に戻ってこず、危険と判断して戦力が整うまでは入城しないようにしています」


同じ時、真燐もまた兵に訊ねていた。

「城内で王が捕らわれているのはどうやって把握をされたのです?」

「城から逃げられた人が証言したとのことだ。その後誰一人として外に出てこないからそうなのだろうと」

「でしたら中の様子も判明してるのでは?」

「皆が捕まった、と叫んでいた女性がいたそうだが、その者は行方不明になり、城内の様子は不明。疑って様子を見に城内に入った者もいたが、戻ってこなかったので、本当なのだろうと」


王の間に近い上層入口で三人をおろした兵たちに、ここで待っているよう勇樹は命じた。万が一襲撃があったら逃げてもいいとも話した。


「俺に着いてきて。そして、真燐に話さなきゃいけないことがある」

「話すこと?」

「向かいながら話すよ。王の間に行ったら多分分かってしまうことだけど…先に伝えておきたいんだ」


入口の大きなドアを開けて城内に入った。

入った先は廊下で、床の幅も天井も5mを超える広さであった。


そして三人は静かに歩きだし、勇樹は小声で話し始めた。

「天界には今、極秘事項があって。城の上層で働く人や、一部の兵長くらいしか、全容を知る人はいないんだけどね。

 実は、王様は既に亡くなっているんだ」

「…え?」


天界の王は体調が悪いからと城に籠っている話は聞いたことがあったが、まさか亡くなっているとは。


「それ、最近の話か?」

「いやそれが…、って、真燐、あれ見て!」


そう言われて見た先には、十字架にはりつけにされた天人たちの姿があった。

腕と脚を縄で縛られ、十字架にくくりつけられている。

十字架は高さがまばらで、人の身長程度のものから天井に届く程度のものまであった。


真燐は背の低い十字架にそっと近付き、天人に触れた。

「…生きてる。気を失っているだけか?大きな怪我もなさそう」


「どうするのだ?助けるのだ?」とルイカが言った。

「そうだな…まずは一人。勇樹、その剣で縄斬れそうか?」

「やってみる!」

「ルイカ、筆の能力でマットか何かを出せないか?受け止めたい」

「任せるのだ!」


勇樹はオーラを纏った剣をふるい、縛っている縄のみを丁寧に斬った。

十字架から落ちてきた天人をルイカが描いたマットで受け止めた。


「大丈夫か?」

真燐が声をかけたが、助けた天人は目を覚ます気配がない。

「何があったか聞きたかったが仕方ない…時間もないし助けるのは後回しで先に行くか…」


真燐が十字架の乱立する間を歩きながら、十字架を観察していると、近くに紙が落ちていることに気付いた。


気になって真燐が十字架の近くに歩み寄ると、天人がはりついていない十字架から縄が伸びてきた。

真燐は咄嗟にかわして十字架と距離をとった。縄はうねうねと動いている。


「危な…」

「真燐、大丈夫?!」と勇樹が慌てて駆け寄った。


「捕まえるまで動く罠みたいな能力なのだ」

「距離とれば大丈夫そうだな。誰かが操ってるのではなく、自力で動いてるのかこれ」

「これに捕まって誰も出てこれなくなったのかな。どうする?迂回ルート行ってみる?」


真燐は能力を封じられた状態で捕まったら終わりだと思い、

「なるべく安全な道を行こう」と賛成した。


迂回ルートには全く十字架は見られなかった。


「王の間へ向かいながら作ったっぽいな。いや、逃げながら作った可能性もなくはないか。いずれにしても最短ルートで王の間まで向かっていったということか」

真燐は歩きながらぶつぶつと呟いた。


「あの…」

勇樹はそう声をかけて、真燐の呟きを遮った。

「もし逃げていたとしても、多分、作ったのは王の間へ向かう途中だと思うよ。この城の窓は、入ることはできないけど出ることができる特殊なものなんだ。逃げるなら、窓から逃げると思う」


真燐は思考を巡らせた。

「それを知らない奴の犯行の可能性もあるが、逃げながらにしては天人を捕らえられ過ぎている気もするし、やはり行きに仕掛けた可能性が高いか。十字架の辺りに紙が落ちていたから、それを媒介として十字架を出現させたと見るか」


「王の間に向かいながら、だとしても、さっきの縄の動きぐらいならかわせる天人もいると思うんだけどな…」

勇樹の意見に、真燐は頷いた。

「不意を突かれない限りは難なく回避できると思う。となると、能力を封じられたタイミングで、十字架を紙から出現させる…なんてのが有力かと」


「ただこの説だと、能力を既に封じられており、警戒して入ったであろう天人が何故帰ってこれなかったのかが説明つかない。もし城に残っている犯人が何かしたのだとしたら、うちらに対しても攻撃など仕掛けてくると思うんだけどな」


「ルイカはどう思う?」

急に振られたルイカはびくっとした。

「えっ…分かんないのだ、けど、うーん。たとえばその紙が沢山散らばっていて、急に十字架が出現する場所があったら、捕まっちゃうかもしれないのだ」


「…どうなんだろうな」


真燐は前からとある仮説を立てていた。

今回の犯人もまた、皆と同様に能力が使えなくなっているのではないかということだ。

そうであれば、何もせず籠城している理由は分からなくはない。

とは言え、これを勇樹に知らせることは、相手が能力を使えないという誤解による油断を引き起こす可能性もあるので言えないでいた。



「ごめんさっきの続きだけど」

「…あぁ。王が亡くなったって」

「王様が亡くなったのは、今から大体16年前…最初は変化の能力で騙していたんだけど、王様の能力が見せられないことでバレるかもしれなかったから、途中から病ということにしたんだ」


真燐は険しい表情で勇樹を見つめた。

「そんなに前…?でもじゃあお前は…」


勇樹は意を決したような顔で真燐を見返した。

「ごめん真燐。俺、ずっと嘘をついてたんだ」


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