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099 友好国ザックベルへ

 


「カーグランドの聖女様には毎度驚かされる」


 そう豪快に笑うのは見た目も笑い声と同じくワイルドで、筋肉隆々なザックベル王。





 私は今、自国カーグランドの隣国であり、今一番の友好国であるザックベルへ来ていた。


 カーグランドは『聖女がザックベルの病院をまわって前回の援軍のお礼とする』と式典で発表し、その公約を果たすべく聖女と呼ばれる唯一の回復魔法の持ち主の私が御大層な数の兵を引き連れザックベルへ病院巡りに来たわけだ。


 先の戦、敗戦濃厚と噂されていたカーグランドに味方し援軍を送ってくれた恩に報いる為に頑張っちゃうよ!



 そして、それだけではなく同時に公務であるからザックベル国王とも会ってお話し、互いの国の友好を他国にアピールする為、今こうして対談をしているわけだ。



「まさか竜を何処ぞから大量に連れてくるとはな」


 ザックベル王がいの一番に話題にしてきたのはこの前拾ってきた野良竜たちの話だ。



 私は先日レヴィンと共にリーベのレベル上げに付き合い遠征した際、たまたま発見した傷付いた竜達を保護した。



 60匹ほど。



 ……自分でも実在に竜がいた事にテンションが上がってしまっていた。


 竜は一匹一匹が人を軽々三人乗せて戦えるくらいには大きい。


 そして力は能力の無い人間百人以上の力を持ち、人間語を理解出来る人間より優れた知能を持っている。


 原作ゲーム『聖女勇者』では竜騎士レヴィンの相棒、ジェノス以外竜は登場しないので結構能力を盛っても問題なかった。


 しかし今回それが60匹である。



 強さを正義とする熱血国ザックベル国王は竜の強さをよく知っているようで、あれを操れるならとんでもない戦力になるだろうと土地が増え、隣接国も増えたカーグランドの更なる軍の増強を褒め称えている。


 やっぱり竜をザックベル隣接のベルドリクス領に送らなくて良かった……。



「誇り高い種族である竜を従えるとは、一体如何様にしたのだ? なんでも傷付いた竜たちを癒し心服させたとか」


「竜に慣れてる者がいたので、僥倖でした。私の行いはオマケみたいなものです」



 レヴィンがジェノスを動物としてでは無く、『個』として、相棒として扱っていたのを見ていたのもあって、竜たちを「たかが動物」などと色眼鏡で見る事なく知能のある存在として対応出来たのがラッキーだった。


 それとリーベが超怖い興奮状態の竜たちを鎮めてくれたのも大きい。


 私が回復させるにしてもあれじゃ怖くて近寄れなかったよ。



 そんな本音を言っても謙遜するなと笑われるのだから、聖女というだけで持ち上げられるようで、若干の罪悪感……。



 旧モノリスのシャルルが所有する土地に突然転移した時は大騒ぎにはなった。


 が、戦場跡ということと、ヴァンデミーア国から溢れ出る負のオーラにより大量発生していた魔物を退治してくれることで、思ってたより歓迎された。


 それどころか旧アリアーナの土地方面にも竜を配置出来ないかと即相談を持ちかけられるレベルである。


 やっぱり現場を見ないと現状がどうなっているか把握が朧げになってしまうというか……机上だけで政をしちゃいけないな。


 事件は会議室で起きてるわけじゃないんだよなあ。



 心配していた現住民たちとの関係だが、人間の感情に聡い竜に「人間と一言で言っても色んな人がいる。合う合わないがあるから、合わない個体からは離れて。逃げて」と教えたことで良い距離感を保てている気はする。


 物珍しい竜を見に来る観光客も来るだろうし、逆に負のオーラで出来る魔物と自然界の動物である竜を混同し、身内の仇などと恨みをぶつけてくるような人もいかねない。


 竜は一応『伯爵令嬢(わたし)の所有物』となってるから、万が一竜が粘着してきた平民を殺してしまっても罪にはならない……いや殺さないのが一番だけどね!?




 そんなことを考え少し意識が飛んでいた私を現実に引き戻すように明るいエリウッドの声が響いた。


「流石姫様だよ。ねぇ、竜ってめちゃくちゃ強いんだよね? 戦ってみたいなあ〜」


「エリウッド! 姫が保護した竜に攻撃しようとするなよ! 国際問題だぞ!!」


「だから姫様にお伺い立ててるんじゃん〜」


 両軍が誇る将軍二人は相変わらず仲が良いようで、今もホコタテな会話を楽しんでいた。



 エリウッドは子爵で、身分としてはそんなに高く無いのだが、並外れた強さにより王の横に控える事を許されていた。


 これも強国を自負するザックベルのお国柄を感じる。



 長子優先のカーグランドとは逆に、ザックベルでは身体強化が付かなかったら貴族であっても負け組確定の実力主義みたいな風潮がある。


 貴族間では長子、実子より身体強化を持つ末子や養子の方が贔屓されたりと、問題は国それぞれみたいだ。


 色んな国がひしめき合ってはいるが、其々の文化を尊重し合いながら今回の竜と人のように共存していけたら良いと思う。



 共存といえば、今の政治事の話題はもっぱらサキュバスの新生児。


 今一番ホットな話題であるし、今回の友好訪問でも勿論その話題は触れられた。



「今一番の友好国であるザックベルにサキュバスの恩恵はあると思っていいわけだな?」


 戦乱では女子供は道具のように使われる。


 ザックベル王がもっと強欲で女子供を道具として見ていたら「援軍を出した感謝の証にサキュバスの子供を寄越せ」と言ってきたかもしれない。


 サキュバスのリルムはカーグランド国の非常に重要なポジションにいるギルヴィートおじ様と結婚し伯爵夫人となり、注目の二人の子供は『伯爵の娘』に分類される。


 そんな存在に「寄越せ」などと言ってきたら今まで積み上げてきた両国の信頼関係がおじゃんだ。


 それに、大陸首脳会議でも話題の中心だった存在だから、そんな無茶ぶりしたら大陸中から敵視されると考えるのが普通ではあるが、欲が出ると人間素が出るものである。



 強さ至上主義の脳筋扱いされるザックベル王だが、非常に理知的に、今の一般的な貴族女性感でサキュバスを得ようと聞いてきているように思えた。


 貴族令嬢と家畜だったサキュバスが混ざった地位の女性に対しての質問としたら理性的で紳士な方だろう。


 私は欲に流されず国の友好関係を保つ選択をしてくれたことに安堵しながらザックベル王とにこやかに会話した。


 元々熱血漢で正義感の強い真っ直ぐな国という設定だったこともあり、気持ちいい国で助かる。



「まだハイハイしてる状態なので何とも言えませんが、メルフィアちゃんの気に入る男子がちゃんと娘を守れるんだったら嫁に出すとは言ってましたよ」


「はっはっはっ! 強さならザックベルはどの国にも負けん!!」


 勝ったな。と勝利宣言するザックベル王に、恋愛ってそういうものだろうか……と内心ツッコむ。


 ザックベルでは『強さこそが社会の勝ち組』で金も名声も権力も手に入ると考えたら、モテるのは強い男なんだろうな。


 政治的には最初に結婚するならザックベル男子とくっついてほしいから、メルフィアちゃんが強い男が好きなことを祈るばかりである。



 どの社交界でも話題はサキュバスの子供のお相手の話ばかり。


 サキュバスの素材の魅力は私が思っていたより人々を惹きつけてやまないようだ。


 メルフィアちゃんという次世代のサキュバスがいることで、リルムとおじ様の仲を引き裂こうとしていないのは有難い。


 むしろ二人が破局でもしたら子供が産まれなくなってしまうから、二人の邪魔をしようもんなら大陸中が止めるだろうよ。





 ◆




「ザックベルの怪我人全員治すくらいの勢いで来たけど、色々制約があるのね」


「はい。姫の能力が必要以上に魅力的だと思われては欲が出た者に狙われかねません」


 王との謁見が終わり、ザックベル城から出た私とカムイは馬車に乗り公務を遂行すべく主要な病院に向かうところだった。



 確かに、私の能力はゲームマスター権限もあるため規格外だ。


 この世界でたった一人の回復魔法の使い手の他に、MP使いたい放題ときて、使い勝手が良すぎて「カーグランドを滅ぼしてでも欲しい」と思う者もいかねない。そうなったら本末転倒である。



「姫の能力は素晴らし過ぎるが故、中毒性も高いのです。ザックベル国民が心酔仕切らない程度の、友好関係が守られるほどの治療が良いと思われます」


 確かに今まで悩んでいた病気が一瞬で治るインパクトは大きいし、簡単に治してもらえるのなら「また治してもらえばいいや」と命を粗末にしかねない。


 エリウッドも「明日姫様がくるっていうから好きなだけ戦っていいかなって」とボロボロでやって来たりしていて、私の心配の種の一つとなっている。


 怒って説教してもにこにこと笑うだけで効き目がないし、戦闘狂は相変わらずのようだ。



 エリウッドは隣接国なのもあって、良くカーグランドに来てはゲルベルグさんに頼まれ、カムイとブロマイドを撮らせてくれたり、貴族にしてはフレンドリーで付き合いやすい。


 ザックベルとの友好関係が一番高いのは地味にエリウッドのおかげな気がしている。



 ちなみにエリウッドに「サキュバスは興味ないの?」と聞いたら、「自分でポーション作れるわけじゃないからサキュバスとしての種族で付き合えって言われたらキョーミない」と答えてきた。


 好きになったコがサキュバスだったら?と聞いたら「関係ないじゃん」と言うあたり、心がイケメンである。


 攻略キャラだったらサキュバスでも大切にしてくれそう~。



 そうニコニコとしていたらエリウッドは私の方にスーッと私に顔を寄せて


「でも俺は姫様の方がキョーミあるな~」


 などと言ってきたところでカムイに殴られていた。



「あはは……」


 もはや二人の定番の漫才みたいになっている。



 ザックベルとの会談中に「カムイも良い年齢だし、サキュバスの嫁とかどうよ?」とか軽く薦めてみたんだけど、丁寧に辞退されてしまった。


「可哀想だからもう薦めないであげて」とエリウッドにまで止められてしまった。


 そんなにギルヴィードおじ様に恐縮しなくてもいいのに……。


 もう死にかけたこととか気にしてないと思うよ。




 そんな私の脳内を無視してカムイは紙の束を見ながら秘書よろしく予定を読み上げた。


「一番に民を診たいところですが……まずお忍びで主要な上位貴族の重篤患者を回復魔法で治します。これは大々的なものではなく、ザックベル王から頼まれた患者です」



 何処を重点的に治してまわるか、非常に悩ましくゼルギウス陛下も頭を抱えていたが『先の戦争に志願して共に戦ってくれた兵の村や町』を優先することとなった。


 お礼に来たのだから当たり前だね。


 カーグランドに援軍に来た志願兵達がより良い待遇を受けることで「カーグランドに味方するとこんな美味しい思いが出来ますよ!」とアピール出来るし、何より平等だ。



 なので、それ以外は治さない為にまた私の護衛は増量の五十名体制の大所帯での軽い行軍みたいになる。


 慈悲を求めて治してもらおうとやってくる人は後を絶たないし、私が断っては心象も悪いという政治的判断だ。


 しかしそこの治療枠に何とか入ろうとザックベル王に金や圧力をかけて頼み込む上位貴族も多かったようで、間をとってそこだけはお忍び治癒をすることとなった。



 ザックベルには前回治癒にまわったこともあるのだが……いや、聖女の能力を知っているからこそ無理矢理にでも治して欲しいと手段を選ばないんだろう。


 カムイが言いたい『中毒性』というのはそういうことなんだろうな。



 回復魔法の力を眼前で見るものが増えれば増えるほど、その有用性にすがりつく者は増えていく。


 今は護衛五十人だが、最終的に五百人……他国に巡業に出られなくなる可能性も否定は出来なかった。


 私は頼まれれば全然治すんだけど、そうも出来ないのが人間の業というか……過ぎたる力は戦争を呼ぶのだから、平和の為に私はバランスを取ることが大事なのだ。



 制約のないゲームマスターのチート能力を持ってても人と共に生きてくとなると結局制約がつきものだなぁ。



「志願兵一名につき十名程度の枠を、死亡した志願兵には五十名程の枠を設けています」


「感謝にはなるけど……そのやり方、次援軍にくる志願兵が町から無理矢理出されて「死んで来い」って命令されないか心配ね」


「そうですね……姫が存命のうちにまたザックベルに援軍を頼むようなことが無ければ良いのですが……」



 どんなカタチでも良いから今後も援軍を引き出したいということではなく『カーグランドは今後絶対に戦争しない』というゼルギウス陛下の強気な姿勢である。


 戦争が起きないように陛下やおじ様は色々手を回しているのだから、その政策に自信を持つのは当たり前か。なんとも支え甲斐のある王だ。


「今後は物理じゃなく話し合いでなんとかしていけるよう、私も外交頑張らなきゃな」


 そう決意したように呟くと、カムイは「ご立派です」と微笑んだ。



「奇襲隊に志願した者はプラス十名、貴族は更に十名と加算方式で治す人数を絞っていきました」


 一人ひとりの枠いっぱいに名前が書かれているリストを渡される。


 聞いているとかなり絞ったようなのに、かなりの量になっていた。


 当たり前か。援軍は数千人単位だったし、それの十倍以上。


 ザックベルはカーグランドより大分広いのだから万人治してもまだ足りないだろう。



「姫のMPが無限ということがバレてはいけませんので、ちょうど良い辺りで区切ってまわって行くことになります」


 これが終わる頃にはベルドリクス家の屋敷の改修工事は終わっていそうですねとカムイは大仕事に息を吐く。



「昼は巡業、夕方から自由行動って感じね」


 転移がある私はザックベルにずっといるつもりはなく、ザックベル拠点の屋敷に転移装置を置き通勤する気満々だった。


 もちろん周りにはバレないようにするつもりだし拠点屋敷も兵に守ってもらう。


 聖女が他国にいて住処がわかりやすいところにあるというのは絶好の誘拐、すり寄り日和であるし、指定の場所に私がいないことは陛下にしても願ったりだろう。


 MP切れで寝ているということにしておけばお茶会にも無理には誘われない。


 なんといっても回復魔法の為に来ていて精魂尽きるまで魔法を使ってるなんて、なんと良い聖女様だ。お茶会を断っても失礼じゃない。うんうん。



「では巡業後、夕方からはヴァンデミーア方面へ?」


 私の考えていること先読みしたカムイはその後の予定も尋ねてきた。


 ヴァンデミーアに蔓延る大量の魔物掃討に駆り出されているリーベの兄、レオンハルトとコンタクトを取り、安全を確保するのが目的だ。



「ええ。ここならおじ様達の目が無いし、思いっきり動けるわ」


 敵国の援助などカーグランドの為になるどころか若干不利益になるような内容の為、上層部の陛下やギルヴィートおじ様に見つかれば邪魔されてしまうだろうそれをする機会としてはまさに好機。


「お供致します」


 私の無茶ぶりにも慣れたもので、カムイは平常運転で協力を申し出ててくれた。


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