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095 暗黒大陸と聖女伝説

 

「本当に私が乗っても大丈夫なの!?」


「大丈夫だよ。ジェノスは良い子だから」


 人三人は軽々乗せられる巨体をもった厳つい黒竜、ジェノスは甘えるようにリーベに顔をすり寄せていた。


 レヴィンと居るときはまさに相棒と言った威厳ある佇まいで他を圧倒させていたが……


「リーベの前だと犬か猫かのようだね」


「幼い頃からリーベ坊ちゃんが好きなんだアイツは」


 俺にはあんな風に懐いたこともないというレヴィンだが、同時にあんなに凛々しく共に戦場を駆けるのはレヴィンとだけだろう。



 現に竜騎士として共にいたレヴィンに付いて行ったわけだし、大好きなリーベのペットとして生きるより竜として戦いに生きたところは男気ある竜である。


「マリアお嬢さん、このネックレスをしとくといい。空気抵抗を減少させる魔導具だ」


「へー! こんなのあるんだ」


 確かにあんなに速い竜に乗ってどうして普通でいられるのかとは思ってたけど、文明の利器か。



 ネックレスをつけ、先に乗っていたリーベに手を伸ばされレヴィンに後ろから押してもらい、なんとかジェノスに乗ることができた。


 人間が乗れるように馬で言う鞍のようなものや手綱もあるが、空を飛ぶには心許無くない?大丈夫?


 私が怯えた様子でいると「ならレヴィの前に乗って一緒に手綱を握ればいいよ」と提案してくれて、レヴィンの前に座るが


「……逆に掴まれるところが無くて不安なので後ろが良いです!!」



 前にレヴィン、後ろにリーベというホールド体勢でジェノスは飛び立った。


「ひえ〜〜〜っ!!」


 一気に地上から足は離れ、ぐんぐんと高度が上がっていく。


 魔導具のおかげで風は車の窓から当たる風程度で爽やかで気持ちが良い。



「マリア、空が綺麗だよ」


 まるで物語の一枚かのような王子なセリフにも


「ちょ、ちょっとまだ見る勇気が……」


 ヒロイン力の足りない自分には答えられる度胸がなかった。


「大丈夫だお嬢さん。そのうち慣れる」




 今回のレベリングは転移ではなく黒竜ジェノスで行こうと決めていた。


 場所は遠い辺境な田舎や人の少ないところであれば騒ぎになることもないだろう。


 ジェノスが毎回お留守番であるのも可哀想だし、何より竜騎士としての戦い方なども見たいと思ったのだ。


 普段飛んでいる時よりも穏やかに飛ぶようにしているのか、いつも眺めていた荒々しい動きはしていない。


 私はつかまっているレヴィンの背後から顔を盗み見ながら考えた。



 レヴィンは私が金で雇っている傭兵というだけの関係で、今回のマーカチス侯爵家を助けるという私のメリットのない行動に疑心を抱いていた。


 だから敢えてリーベの護衛に付けて不信感を解いてもらおうと思っていたのだが、成功しているだろうか?



 レヴィンの人生の恩人マーカチス侯爵家は暖かくてキラキラした優しい家だったけど、ウチのベルドリクス伯爵家も……家主の目付きも性格も悪いし神獣は何考えてるかわからないし御用達商人は闇商人だし聖女は暗躍する気満々だけど……良い家だと思う。


 ので、出来ればレヴィンの信頼出来る貴族枠に滑り込ませていただきたい。





「……あ! こうやってみると大陸の外も少し見えるね」


 下は見れないが遠くは見れるようになってきた私はヴァンデミーアや魔人連邦ガノンより遥か先、暗黒大陸と呼ばれる地を見た。


『聖女勇者』の世界観というか、リスペクトは歴史シュミレーションゲームであった為、大陸全土は描かれていない。


 大陸の一部分に住む土地に国々がひしめき合い、外はまだ未開拓である。



「やっぱり暗くて見えないね」


 この世界でやりたかった戦争は国同士の小競り合いであり、地球儀丸々一つの戦争では大きすぎた。


 だからといってこれが世界の全てだ! とするのもあまりに小さく……なので、この周りは通れない黒い霧があり未開の地となっている。



「あの霧も魔物が溢れる元凶とかいう言い伝えで、この大陸が平定されればそれも消えるとか言われているが、そんな眉唾な話誰も信じちゃいないさ」


 歩み寄りに主要国会議やら交易やら色々やっているわけだが霧が晴れる気配はない。


 一応ゲームクリアしたら本当に霧が晴れる設定ではあったけど、大陸の先など作っていなかったのでどうなっているのか私にもわからない。



 アプリ版ではこの大陸編が終わってネタが切れたら新章として新大陸で新キャラ出そうかなどと話には出てたけど、アプリ版は始まったばっかりでそんな設定も全く決まっていなかった。


 ……ああ、そっちも考えないといけなかったな……と突然思い出し、外の私にエールを送った。





 手近な山岳に降り、三人でレベル上げを開始した。


「また俺は主に敵を引きつけて防御をするから、坊ちゃんは先ず敵を倒す練習のおさらいをしてから次に進みましょう」


「わかった。よろしくレヴィ」


 私の居ない間も今日と同じように二人でジェノスに乗りレベル上げに向かっていたようで、リーベの基礎的な射撃精度などは軒並み上がっていた。



「シャルルさんにまた新しく改良してもらったんだけど、前より魔力を込める時間が短縮されて慣れるまで少し危ないから……レヴィは魔物から出来るだけ離れるか、射線に気をつけて」


「わかりました」


 シャルルにどんどん改良してもらったり新しい片手銃や仕込銃なども貰いリーベがどんどん武装されてく……。



 魔法弓でもそうだけど魔法銃は銃弾を持ち歩かなくて済むのもリロードが必要ないのもかなり大きい。


 美しいもの好きなシャルルは勿論、パトロンのゲルベルグさんもリーベを猫可愛がりしているおかげでたくさんありすぎて逆にどの銃を使えばいいのかわからない状態になっている。


 近距離戦になった時や捕まった時用の武器は大切だけども、魔法銃は扱い難しいからリーベ以外に今のところまともに使える人がいないんだけどなあ。やっぱり可愛いって得だな。



 お気に入り武器は長距離ライフル型のようで、レヴィンが戦っている軌道をみながら長距離から急所をつく練習を主にしているようだ。


「でもまだ眼鏡をかけては難しいな」


「ここならヴァンデミーアからも遠いし、隠さなくても大丈夫じゃない?」


 ライフル系は精神力が強くないと使えないという話を聞くので土壇場に強いリーベにはピッタリだろう。



 遠く離れての射撃になるがその間のリーベの護衛はジェノスが担当しており、役割分担も完璧だ。


「今回はマリアお嬢さんがいるから守りはお嬢さんに任せて俺とジェノスで戦いましょう」


「うん。ジェノスは大きいから当てないように気をつけるよ」


 了解の合図のようにジェノスは大きく鳴き、レヴィンを乗せてレヴィン一人で戦っていたよりも大きめの魔物めがけて飛んでいった。



 私はリーベの横でバリアを張り、支援された時の動きの練習として魔法支援するだけで、眺めてるだけで安定したルーチンワークにも似たソレは終了した。


「はー……なんか後衛って後ろからピュンピュン飛ばしておけばいいと思ってたけど、レヴィン達の動きを予想しながら急所を撃たないといけないって、相当難しいね」


 味方撃ちというフレンドリーファイアーがおきそうでヒヤヒヤする。


 ウチに後衛と言えば私とギルヴィードおじ様しか居なかったので全然気付かなかったけども、周りが見渡せる洞察力と味方を撃ちかねない状態で撃つ精神力とかエグいものを試されてるな。


 おじ様が気付かせないほど安定感あったのか……とも思ったが諦めた時は私にバリア張らせてカムイごと撃ってたな……と思い出した。



「でも、レヴィが今ここに欲しいだろうなって時に撃てたら最高に気持ちが良いよ」


 魔法が強い『聖女勇者』では魔法銃の威力もなかなかで、一発当てれば大逆転も可能なくらいの重い一撃が撃てる。


 戦争フェイズでも長距離から敵の大将を正確に撃ち抜けたら敵の動揺も誘えるし、スナイパーは一人居ると便利だ。


 やり甲斐を感じているのかリーベはとても良い笑顔で微笑んだ。









 リーベのレベルは順調に上がっている。



 本当はフィンスターのレベルもどうにかしたいんだけど、MPも回復するたび減ってく為、リルムの側に居るのが本人としても優先なようだ。



「俺は解体して来ますんで坊ちゃん達は休んでてくれ」


「そんな、僕も手伝うよ。教えてもらえると嬉しい」


「なら――……」


 このパーティは空気感が穏やかというか、なんていうか、平和だ……。




 ◆





「あの、修行の為に来たのですが、獲りすぎてしまって……この肉、良かったら村の皆さんでどうぞ」


「なんと……!! ありがとうございます……助かります!」


 魔物の肉ばかりあっても仕方がないのでリーベとレヴィンは毎回まわった近隣の村に肉をおすそ分けして帰っているそうだ。



『聖女さまがお供を連れて手が回らないような山村の魔物を倒しに来てくれる』という伝説みたいなものが各地でまことしやかに語られているらしいけれど――



 私、このレベリングに来たの。初めてです。



 ただ今、村人たちに肉をお裾分けしているのはリーベなわけで……聖女と思われているのはつまり……




「……こんな厳つい竜騎士連れて綺麗な顔の高貴な美少年が来たらそう思うか……」


「すみませんお嬢さん……誤解されてたほうが何かと都合が良くて……」


「いや、良い判断だったと思うよ……」


 実際とても良い事をしていると思うし、むしろこれを聖女様の思し召しと解釈されてしまうと大変心苦しい……っ!



 口々にお礼を言う村の人に、穢れのない綺麗な笑顔で微笑むのは幼さを残した中性的な魅力あふれる天然王子。


「村の人々に喜んで貰えるのなら、とても嬉しいよ」


 その眩しいオーラが溢れ出そうな高貴な姿は、明らかに住む世界が違うと思われるだろうて。



「……村の女の子達、みんな顔赤くしちゃってるけど、村の男衆の結婚ハードル上がっちゃったらどうするの」


 なんなら男衆まで顔を赤くしている。


 今だけの危うい中性的な魅力ある年齢というのは実に罪深いものなのだな……。


「…………」


 レヴィンも頭を抱えているが、決してリーベは悪い事はしていないのだ。



 無自覚で罪深い子だな……。







「フロレンツ侯爵に見聞を広げた方がいいと言われたけど……」


 リーベは性善説気味というか、人が良すぎるきらいがある。


「今のうちに人を疑うことを教えといてあげた方がいいのかな」


 こういう村を助けるとかより、前のギルドだとか、ちょっと人の汚い部分だとかのショッキングな依頼をするべきなのだろうか。



 それを聞いてレヴィンは気まずそうに頭をかいた。


「まあ……一理はあるな……」


 あまりやりたくないようだ。当たり前か。



「昔はワルだったけど、心を入れ替えたという性善説の前例がいるからな〜〜」


「…………」


 その前例のレヴィンは耳が痛そうにしていた。



「……確かにリーベ坊ちゃんが、まだ目の届くうちに色んなことを学ばせるのが一番だとは思うが……」


 基本的に人を信じていないであろうレヴィンだが、顔は晴れない。乗り気ではないんだろう。



 一緒にパーティを組んでわかったのだが、この頼れる兄貴、リーベ坊ちゃんに死ぬほど過保護なのだ。


 10年護衛をやってたらこんなもんなのか、リーベが怪我したら一大事のように大慌て。無茶したらひたすら心配。


 これじゃ、リーベが親離れした意味殆どないでしょう……。



 原作では兄のレオンハルトが殺されて少し大人になった。


 リーベの成長の為だけにお兄さんは殺したりしたくない。



「俺も、ちゃんと箱入りを脱して欲しい気持ちもあるんだが……」


 レヴィンはモゴモゴとだがリーベの成長を施すような発言をしてきた。


 それとほぼ同時にリーベがこちらに駆けてくる。



「マリア! こちら、御婦人たちから頂いたんだ。みなさんとどうぞだって」


 ニコニコ笑顔で私とレヴィンに駆け寄り、頂いた果物やケーキを見せてきた。



「うっ!!」


 それを見て、それまでかの本人を成長の為に崖に突き落とす算段を立てていた罪悪感でいっぱいになる。


「……っ!! すまねえ、お嬢さん……っ!! こればっかりは……!!」


 俺が、俺が守りますから……っ!! と懇願してきた。



「わかる……っ レヴィンの気持ちは良くわかったから……!!」


 二人で胸を押さえた。



「このまま綺麗なままでいてほしい」って気持ちも!! すご〜〜く、わかる〜〜!!!!



 特にレヴィンはこの笑顔で人生やり直したんだから「守りたい、この笑顔」ってなるわな。



「?」


 リーベはいただいたお土産を持ちながら、良くわからないという顔のまま首を横に傾げた。


「ううん、なんでもないわ……そろそろ帰りましょう」


 私たちは良くしていただいた村のみなさんに笑顔でお礼をした後、またジェノスに乗った。


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