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093 弱点と首脳会議

 

 フェアリーもとい、リーベの変装問題も片付いて、街にも比較的自由に歩けるようになり、レベル上げも順調。



 ヴァンデミーア側のレオンハルトの近況だが、未だに湧き出る大量の魔物退治に奔走しているようだ。


 暗殺を狙う貴族側も、魔物は厄介だからと倒し終わって用済みになってから消す算段のようで、まだ動きは見られなかった。


「魔物退治がひと段落してからが貴族も民衆も本番って感じね……」



 それまでにレオンハルトと合流して逃がすなり保護するなりして死亡フラグを回避させたい。



 ヴァンデミーアという大きなうねりの中で、私たち個人が出来ることと言ったらそんなことしかなかった。



「何人かの貴族がリーベさんに会いたいとマーカチス領を訪ねていますが、病気と言って追い返してますね」


 リーベはこちらで保護させてもらったのでマーカチス侯爵家にはいないのだが、まだリーベを狙って来ているようだ。


 危険なので防犯システム的な魔道具を設置したいがカーグランドしかない技術の防犯システムだと内通を疑われかねないのでもどかしい。



「また賊が侵入したようですし、マーカチス家は未だ狙われている状態らしく、少々不安ですね」


 敵の目的は一番の足手まといで誘拐しやすいリーベだとしても、マーカチス侯爵夫妻だけ危ない場に残しているのは心配だ。



「レオンハルトのほうも心配だし、ああもうどうしたらいいのかしら……」


「そういえばそのレオンハルトですが、政敵からリーベさんが病気だと聞き、精神攻撃(ゆさぶり)をかけられていましたね」


「いきなり政敵から弟が病気って言われたらびっくりするか……」


 でももっとうまく隠せよ!


 まあ、あんな見た目も性格も良い、可愛い弟だったら気持ちはわかるけども!



 ゲーム上でも表情差分すらない立ち絵一枚と、一瞬だけの登場で死んでしまう『完璧超人』レオンハルト。


 レオンハルトに会ったことも設定も全く知らないので、未だに人物像が掴めない。


「一体どんな人なんだろう……」



「しかしその後その政敵から詳しく症状を聞き質して効力のある薬と症状に伴う対処法の手紙を送ってきてましたよ」


 対応も完璧ィ!!













 いわゆるサミット……主要国首脳会議は昔から国同士の間で取り決められていた。


『聖女勇者』の設定で『扱いが不当とされる場合、他国が保護しても問題ない』とか、主に貴族の間だけ適用されるような人権問題ではあるが立法されている。


 大陸全土の法律として、この限られた土地でひしめく数多の国が些細なことで揉めないよう律しられている。




 そんな首脳会議はやっと終わったようで、カーグランドから向かっていた団体が帰って来ていた。


「姫! ただいま戻りました」


「おかえりカムイ。そっちは何事も無かった?」


 犬の尻尾を振ったような幻が見えるように嬉しそうなカムイの様子だと、平穏無事そうだと安堵した。



「はい。詳しい事はギルヴィード様からお話があるかと思いますので、姫が宜しければ今からご案内させていただきたいのですが……」


「うん。行こう行こう」


 昔は首脳会議なんて極小国のカーグランドはほぼ頷くだけで、稀に多大に不利な法律が来たら反発するくらいの毒にも薬にもならない空気なイベントだったのだが、今回は主役級だ。


 一体どんな法案がきたのか……それによってベルドリクス家の方針も少し変えねばならない。



 ギルヴィードおじ様の部屋に入れば、いつものリルムとフィンスター本体も部屋に居た。


 一応奥方様になったので伯爵夫人用のお部屋も用意されたのだが全く使われておらず、ほぼドレスや宝石の物置場みたいになっていた。



「おかえりなさい、おじ様。帰りは転移使わなかったんですね」


 言ってくれれば軍ごと転移でサミットまで運んだのに、と言えばギルヴィードおじ様は行軍にも意味はあると席の上座へ座った。


「行軍は途中の通りがかる村や町に見せるモンでもあるからな。どれだけしっかりした軍を持っているか見せびらかす場でもある」


「へぇー」


 私とリルムの声が被る。リルムもおじ様の横に座りキチンと話を聞く体勢ではあるが、人間社会はサッパリのようだ。


 リルムの座る背後に控えるように立っているフィンスターが何やらまとめた紙を持っており、それに会議で出たいくつかの議題が書かれているんだろう。


 カムイも護衛として会議に参加していたので内容は全て知っているだろうが、あくまで護衛として発言するつもりはないようで今も私の後ろに控えていた。



「会議はやっぱりカーグランドの話題が中心でした」


「カーグランドの凱旋報告式典が終わってから急遽決まった首脳会議だもんね。そうなるよ」


 前回の凱旋報告式典は大陸に影響を与える内容が多岐にわたって含まれていた。



 サキュバスをカーグランドが手に入れた発言は堂々とポーションの生産国になったという市場がひっくり返る出来事であるし、


 保護して絶滅危惧種として大切にすると打ち出した件は、サキュバスが欲しいと喧嘩売ってくる国への宣誓でもある。


 カーグランド貴族とサキュバスが子を成したことでサキュバスが増え、愛し合えば他国にも嫁に出すという宣言はカーグランドは金を産む鶏になったということで敵になるより友好関係になることが望ましい。



「サキュバス問題だけでもこれだけあるもんね」


「時の人であるギルヴィードさんに擦り寄ってくる人が多すぎてゼルギウスさんにからかわれてましたよ」


 王の俺より目立つなよ〜とかゼルギウス陛下なら言いそうだ。


 フィンスターが面白かったと笑っているがギルヴィードおじ様は仏頂面だ。


 元々暗躍を得意とするクールな鬼畜軍人さまが盛大な結婚式を挙げた上、嫁ネタで首脳会議でまでいじられるなんて……確かに面白すぎる。



「え〜オレも行きたかった〜」


「やめろ」


 リルムも行きたい離れたくないとゴネたらしいが、折衷案でギルヴィードおじ様だけ行軍せず転移で向かうことになったんだとか。


 公式設定でも『馬鹿で愚かな女は嫌い』と言っていたギルヴィードおじ様が、人間社会のにの字もわからない嫁を娶って振り回されているキャラ崩壊を微笑ましく眺めた。



 口が上手いギルヴィードおじ様は神獣フィンスターの問題もあったと話題のすり替えを図ってきた。


「クレルモンフェランは宗教を信じる人間たちを束ねて出来た国だ。だから他国もお布施として幾ばくかの金を公表して渡していたんだが……」


「攻撃した神獣フィンスターが聖女に付き、本物の神獣である説が出てきてしまったわけですね」


 ギルヴィードおじ様はそういうことだとばかりに軽く頷き、ふぅと息を吐いて椅子の背にもたれかかった。



「元々聖女っつーのは呼び名みてえなモンで、他国は創造主が気に入った娘に戯れに力を与えてるみてえな認識だったんだが」


 言い伝えの聖女は異世界から呼び出される異世界人であって、決してどこぞの伯爵令嬢なわけではない。


 だからラフィちゃん様が私を気に入って回復魔法の能力をあげたみたいな『創造主の愛し子』という認識をされているらしい。


「へー、そんな考察されてるんですか」


「え? 違うのか?」


 リルムもそう解釈していたようで、不思議そうに私を見た。そういえばリルムは私とギルヴィードおじ様が血が繋がった伯父と姪だとおもっていたな。


 私は至って普通にその問いに答えた。


「うん。だって私ゼルギウス陛下とギルヴィードおじ様に森で拾われた異世界人だもの」



 そう言われ、リルムの時が止まったように固まった。


 そして私とギルヴィードおじ様の顔を何度も交互にみてやっと言葉が出てきた。


「え、ええ〜〜〜〜っ!? こんなに似てるのにか!?」


「ちょっと待ってこんなに似てるってどういうこと」



 自慢じゃないが私の顔はヒロインで慈愛に溢れた聖女フェイスなのだ。


 インテリヤクザな目つきが悪くて鬼畜軍人伯爵のギルヴィードおじ様とは似ても似つかぬ顔をしている。


 シグルドにだって血が繋がってるか疑われたほど似てないって言われたし!!



 ね!と基本的に私の味方となってくれるカムイの方を振り向けば、彼もまた驚いたような顔を手で抑えていた。


「…………カムイ?」


「い、いえ、姫。俺は聖女の伝承に疎く……異世界の記憶を持ち回復魔法が使える者が聖女と呼ばれるのだと思っておりました……」


 こんなに長年連れ添ってきたカムイでさえ私が本物の伯爵令嬢で本物の聖女と全部信じていたようだ。


「ま、マジか……」


「す、すみません、あまりにも似てらしたので」


 似てるか〜〜!? とツッコむ暇もなくフィンスターにも「似てますよね」と指摘された。


 ギルヴィードおじ様は私が憤ってるのが愉快なのか人の悪い顔でせせら笑っていた。


 こ、これと似てたまるか〜〜!!




 我聖女ぞ!? 我ヒロインぞ!? と暴れ出したい気持ちを持て余したまま、この話題は早々に前の話題に戻された。


「さっきの話に戻るが、神獣まで聖女についたとなっちゃあどっちが神聖な国かわかんなくなってきちまってるらしくてな」


 魔物の疑いをかけて追い出した獣が、生きていて聖女と呼ばれる創造主の愛し子の近くで神獣やってるなんて、宗教大国クレルモンフェランの株が大暴落だ。


 クレルモンフェラン内でも揉めているらしく、神獣に謝るべきという者と謝ったら国の終わりとばかりに偽物だと言ってやまない者と様々。



「未だ大国故クレルモンフェランにお布施を払う風習は無くならなかったが、疑問を投げかける国はいた」


 ザックベルとかな。と言われて脳筋熱血漢の多い真っ直ぐなお国柄のザックベルは言うだろうなと納得した。



 因みに魔人連邦ガノンはクレルモンフェランに一銭も払ってない。


 故にラフィエル教から追放され、魔人連邦ガノンは神の宿らない地と言われて創造主を崇める風習はない。


 そんなでもラフィエルはガノンを滅ぼさないのだから「神はこの大地をもう見捨ているんじゃないか?」と喧嘩を売っていた公式設定だったはず。



「確かに今ラフィエル様がカーグランドに住みついている状態でクレルモンフェランにお布施を送らず破門にされて「神が宿らない土地だ〜」って言われても説得力ないですよね」


「意味わかんねー国だな」


 リルムちゃんの意見はもっともだが、社交界で言っちゃダメだぞ。



「まあしかしこの大陸いちの大国であることには変わらねえし、今はまだ発言力もある。ショバ代だと思って渡しとくのが利口だろう」


 速攻打ち切ってガチギレして民に有る事無い事吹き込んで大暴走なんてなったら地獄である。


 宗教を舐めてはいけない。



「崇めてる創造主本人いるのにそっちの国の言う事信じるのか?」


「リルムちゃん、宗教っていうのは教えに救われる人もいるから……」


 長年信じてきたものが否定されることを恐れる人だっているのは当たり前だ。



「求心力が落ちるのはもうちっと時間がかかりそうだな」





 そこから聖女である私の議題になったらしく、私のあずかり知らぬところで私の話をされているかと思うとなんだか胃が痛い。


「おめえの専属の軍隊も作るべきだと各国の首脳会談で上がった」


「えぇ? 私のですか?」


 なんでまた……。



「大陸中でおめえさんを守りたい義勇兵が集まって軍が形成される『聖女様護衛隊』なんだと」


 前回のヴァンデミーア戦で「独りで戦う聖女様はおかしい! 聖女様は守られるものだ!」という各国からの意見があり、大陸から金が集金され『聖女様護衛隊』が結成されることとなったとか。


 聖女を矢面に立たせたことを相当叩かれたらしい。


「いや……前の策は私が立案者ですし、守られるものもなにも、ザックベル以外助けにこなかったじゃないですか」


 手のひらクルーがすぎる。



「他国がウチに攻めてきたら一番やられたくない手だろうからな。アレは」


「マリアさんがバリアを張ってそこからギルヴィードさんが魔法を放ちまくれば大体は撃退出来ますからね」


「ひえ」


 そこまでは考えたことなかったけど、考えてみるとエグい性能だ。


 奇策を弄する軍師が居たり魔法だけでは倒しきれない大軍となるとまた違うかもしれないが、数百単位のちょっとした軍ならこれで叩けるだろう。



「おめえがグロいモンに弱いと知られたら徹底的にそこ攻撃されるだろうからバレねえようにしとけよ」


「い、いやあ〜〜〜〜っ!!」


「姫! お気を確かに!」


 ヴァンデミーアのレオンハルトのように、とにかく弱点を狙われまくることを考えたら目眩がした。


 そう考えるとレオンハルトの気持ちも理解出来るような気がした。


 私がぐちゃぐちゃになった死体を見てショックを受けるのと、レオンハルトがリーベがぐちゃぐちゃになった死体を見せられるのはほぼ同じというわけだ。とても平静ではいられないだろう。


 ……こうみると私のほうが弱点大きいな……。



「でもマリアの護衛軍って護衛ならオレやカムイとか、レヴィンだっているじゃねえか」


 一応言っとくけどリルムちゃんはもうベルドリクス伯爵夫人だからね。


「今のままだとコイツと関われねえから、どうにかして聖女サマと関わるツテが欲しかったんだろうよ」


 鼻で嗤うように呆れた声を出すおじ様に私も同意するしかない。



「最初は軍隊の金出すから聖女が国中回復してまわれって言ってきたんだぞ」


「な、なんですかその押し売り~~!!」


 そう思ってゼルギウス陛下が強く断り、軍もいらないとも言ったのだが結局、聖女とお近づきになれる要素がある軍隊だけ設立することとなったらしい。


 ぜ、ゼルギウス陛下~~~~!! さすが我が王!



「んで、とんでもなく厄介な『聖女様護衛隊』がウチの近くに滞在することになったわけだ」


「ベルドリクス家周辺の土地も各国首脳の決定として国が買い取ることになりました」


 ジェラルドの時から近所迷惑だったし、ご近所さんには悪いことをしてるな……


 確かに今も静かにはなったが外はサキュバスを求めた人々がごった返している。動物園のパンダでも見に来たのか。



 買い取った土地にはベルドリクス家の屋敷も拡張し、その護衛軍が使う土地や家屋も近くに併設するようだ。


 護衛というからには近くに控えてないと意味がないとは思うが……


「そんなに量が多いんですか?」


 護衛隊っていうと普通カムイみたいに常に私の横で護衛してるもんだと思うんだけど、聞いている規模だと軽く三桁はいってそうだ。



「そりゃあ、聖女と繋がりたい男どもが片手で足りるわきゃねえだろ」


 聖女を誰から守るのかこれじゃわかんねえな。と言われ、私は身を固くした。


 私が怯えたのを察知したのか「だから近くの兵舎に全員ぶち込んでウチには入れねえから安心しろ」といつもの調子で言ってくれた。


 数年一緒にいて保護者が板についたギルヴィードおじ様はなんだかんだで頼り甲斐があり、もう私すらパパと呼びたい。




「サキュバスが生まれ続けるなら屋敷も手狭になるだろうし、ちょうど良かったですね」


 必要十分な物しかないベルドリクス伯爵家にはたくさんの子供を育てたりするスペースや贈り物を保管する場所がないのだ。


「本館は執務スペースとして現状のまま利用するにしても育児所や蔵、あと今のペースで子供が増えるなら学校みたいな授業スペースやダンスの練習所も必要だろうし〜……」


「おいちょっと待て」


「おじ様、高等教育は大切ですよ!」


 こんなノーテンキサキュバスが許されるのはリルムまでなんですから!


 ギルヴィードおじ様の様な男を全員が捕まえられるわけではないのだ。


 そう熱く説明すればギルヴィードおじ様も理解したようで「……ゼルに土地を多めに配分してもらう様言っておく」と返事が返ってきた。


 よしよし。




 護衛軍の兵舎の併設だが、フィンスターは少し心配したように注意を呼びかける。


「護衛軍隊はこちらからじゃ断れないようなツテを持った上流貴族がうじゃうじゃしてますから、マリアさん以外もリルムちゃんもリルムちゃんの子供もあんまり近寄らないようにして下さいね」


「とんだ爆弾じゃないの」


 面倒な事をしてくれたものだ。



「外交が弱いとこうなんだよ。わかったか」


 今回は外交が弱かったと言うより他国全域の利害が一致してこうなったとも言えるが……私が外交上手だったら防げたのだろうか。


「ストイックに軍を強くしてた時の方が楽だったよ……」



 力無く肩を落とせば、ギルヴィードおじ様はそれを上げるかのように朗報も伝えてきた。


「一応その隊の隊長はおめえの筆頭護衛のカムイを予定してる」


「わあ! よかった! それなら幾分か安心です!」


 知らない軍団に囲まれて暮らすなんてストレスヤバそうだから統率がカムイなら有難い。



 カムイを見れば微笑んで「お任せ下さい」と返事をしてくれた。


「軍に入れば皆ただの兵卒です。姫に近寄る為だけに来た腐った者共は性根から鍛え直しましょう」


 それは……別の意味で心配になってきました。


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