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091 神回避と定例会

 


 リーベのレベル上げ初日も無事成功し、保険の為に付いて行った私も必須ではなさそうだったので、付きっ切りで毎回手伝わなくても大丈夫そうだ。



 昔やったカムイのレベル上げは効率を考えた結果、身体強化を得られるところまで私の支援で底上げして無理矢理に上げるやり方だった。


 けどリーベの場合はもう魔法付与は出来るしMPの関係で疲労回復魔法をかけて千本ノックとかも出来ないから、内容のある戦闘を経験しながらレベルを上げていくべきだろう。



 他にもやる事の多い私に気を遣ってレヴィンとリーベは合流出来る時に一緒にレベル上げをするという方向にしてくれた。


 原作ゲーム『聖女勇者』の良心とも呼べる常識人な二人に癒されながら、私はゲルベルグさんとの定例会へ向かった。




 ゲルベルグさんの屋敷にも私の転移着地点は用意しており、外へ出なくて済む為カムイやレヴィンといった護衛がいなくても大丈夫なのである。


 ……本当はちゃんと護衛をつけろって怒られてるけど。


 バリアで守られてる私の護衛をやるくらいならもっと有益なことしてて欲しいんだもの!



 転移魔法を発動し、光に包まれたらすぐにゲルベルグさんのお屋敷に到着。



 ――私と同じく外の世界の記憶を持ち、『聖女勇者』の悪役であるゲルベルグと融合した存在であるゲルベルグさんはメタ的な話も出来る稀少な友人だ。


『聖女勇者』の大ファンである()()は現在敵国であるヴァンデミーアを助ける計画にも協力的で、大変心強い。


 ……まあ、ゲルベルグさんの一番好きな推しカップリング(ジークベルトとノアストティ)の二人を狙っているとも言えるけども、利害の一致はしているので大丈夫。




「お邪魔しまーす。ってアレ? いない」


 いつも待ち合わせ場所に使っていた部屋に入るとそこにゲルベルグさんの姿は無かった。


 待機していたのであろうメイドさんが丁寧に私の疑問に答えてくれた。


「マリア様いらっしゃいませ。旦那様なら丁度お客人のお相手をしてらっしゃいます」



 ベルドリクス家の重大な秘密(サキュバス)を共有していた御用達商人であるゲルベルグさんの使用人たちはレヴィンの屋敷と同じく全員奴隷契約で縛られた使用人だという。


 この世界、奴隷は一般的ではなく奴隷だとハッキリわかって迫害されたりすることは少ない。……あることはあるが少なくともカーグランドにはそんな風習は無い。と思う。


 奴隷の印を消せば一般人と変わりないし、主人から命令さえ受けなかったらリルムみたいに自由に暮らせる。


 だからパッと見わからない奴隷が世界には沢山潜んでいるわけだ。闇が深い。



 そんな隠れた薄暗い存在だから奴隷ってそうポンポン買えるモンじゃないんだけど、そこは流石闇商人といったところか。


 そんなこといったら奴隷契約なんてヤバい契約魔法札をサラサラと描ける軍人伯爵様(ギルヴィードおじ様)のほうが恐ろしいな。



「お客さんの相手じゃ、出直して来た方が良いかな?」


「いいえ。マリア様もお知り合いの方ですので、マリア様が宜しければご一緒にと言付かっております」


 知り合いの方? 誰だろ。シャルルかな



 メイドさんに案内され、いつも私的な話をする場ではなく客を出迎える用の談話室へ向かう。


 どんな貴族が来ても良い様に豪華に作られているそれは商人とは言え平民の家だとは思えない。


 ポーションを主力とした大商会『ゲルベルグ商会』を始め、別名義で武器を売る『モブおじ商会』、更に漫画の祭典『コミックガーデン』などのイベンターまで幅広く展開している行動力の化身だ。


 下手な小国よりお金もあるだろうよ。



「お邪魔しまーす。ゲルベルグさーん……ってあれ? リーベ?」


「ああ、マリア。偶然だね」


 来るところ一緒だったんだ。といつもの王子スマイルで挨拶をしてくれるが、いつもの護衛が居ない。



「ゲルベルグさんのお屋敷でどうしたの? それにレヴィンは?」


「ええと、少し相談があってやってきたんだけど……」



 リーベがちらりと見る方向を私も見やると、絶望顔をしたシャルルとゲルベルグさんが座っていた。


「嗚呼……エンジェル……」


「シャ、シャルルまで……どうしたの?」


「その、ですな……実はリーベ殿が自身のお姿が目立つ事に悩んでおりまして」


 確かにリーベが目立つのはこの前の買い物や街探索で嫌という程わかった。


 極秘でこちらに退避してきている以上、リーベの身元が割れるのだけは避けたい。



「それでシャルルさんとゲルベルグさんになにか良い案はないかと相談させてもらってたんだ」


「え?」



 この二人に?



 私がそう思いや否やゲルベルグさんは思い出したようにワッ!と泣き出した。


「リーベ殿に似合うキャワイイアイドル服をご用意したのですが、サイズを間違えてしまい!!」


「なんてもん着させようとしてんの!!」


 リーベはそういえばこの二人を『良い人』として認識していた。



「美しいものを隠すなんテ、美の冒涜デス!!」


 美しいもの好きなシャルルは美しくなくしようとすることが耐えられず、「むしろ美しさを伸ばす方向で!」と振りきれたらしい。


「それで女装すれば逆にバレないんじゃないかってなったんですよね……」



 リーベは男だから女装すればバレない。


 ヴァンデミーア貴族だから女装しても美少女になるはず。


 アイドルにして一稼ぎ出来る!!



 そこまでの欲望が手に取るようにわかった。



 アイドルといえばリルムちゃんグッズだが、結婚して独占欲が出たのかおじ様に「もう隠れ蓑用のモンはいらねえだろ」とリルム関連のブロマイドや雑誌は生産終了とさせられた。


 次のブロマイドの主力になるようなものは見つかっていないらしく、ブロマイド部門の売上が落ち込んだとゲルベルグさんはへこんでいたな。



 そこにキラッキラな美少年、まさに金の卵がきたらどうにかして使いたいとなるのだろう。


 リルムも確かに隠れた存在だったのに大々的にアピールしたけど、今回はダメでしょ!!



 欲望に一直線なんだからこの二人はもー!と怒ろうとしたところを当のリーベに止められた。


「い、いや、マリア。落ち着いて。僕はお二人がこんなに真剣に考えてくれてとても嬉しく思ってるよ」


「リーベ……」


 未遂とはいえ、こんなことされても未だにお花畑の王子様を貫いているのはもはや貫禄すら感じる。



「こんなにお二人が一生懸命考えてくれたのだから、折角だから着てみたんだ」




 レヴィが。





 そう言うや否や、目の前の更衣室のカーテンがシャッと開けられ、キャワイイアイドル服を着たレヴィンが現れた。



「どうですか」



 護衛モードというか、モンペ(保護者)モードを発動しているであろうレヴィンの眼光は鋭く、キャワイイアイドル服とのギャップが非常に……なんというか、凄かった。



「………………わあ」



 何故かレヴィンのサイズにピッタリで~……と微笑むリーベと反比例するようにゲルベルグさんとシャルルは絶望で俯いたままだった。



 そんな姿を見て、私は原作ゲームを思い出した。



 幸運値が高く、攻撃に当たらない。そんな『幸運王子』リーベのことを……――




「やっぱり女装は難しそうだね」


「そうですね。坊ちゃん」















「シャルルなら、例えば瓶底眼鏡みたいな、眼鏡をかけたことで顔が曖昧になるとか、平凡に見える眼鏡とか作れるでしょう」


「ウッウッ……美しさを損なう発明なんて、なんて悲しいのデショウ……」


 二人に説教した後、シャルルの研究所に飛んで顔の印象が変わる幻惑眼鏡をシャルルに作らせている真っ最中だ。



 発明内容としてはあまり難しい部類ではないらしく、お茶でも飲んで待ってて下さいとロクトくんに客室に案内しようとしてくれる。


「ありがとう。私は元々ゲルベルグさんとお話があったから、そこで話させてもらうよ」



 約束していた定例会という名の世間話でもしようとしていたら、気を利かせたのかリーベはシャルルにお願いをしてきた。


「あの、待っていていいのなら庭園の方を見て来てもいいかな?」


 前から綺麗だと思ってたんだ。とリーベが微笑むとシャルルはあの庭園の良さがわかるとは! と、大喜びで承諾してくれた。



 レヴィンも一緒に行こうと言われれば護衛だから当たり前だが、はいと喜んで従っていた。(ちなみにレヴィンはちゃんと元の服に着替え直している)


 天然だがこういう時に空気を読んだり嫌われない立ち回りをさり気なく出来るところは素晴らしいな。教えられたというより天性のものだろう。



 お言葉に甘えて談話室でゲルベルグさんと定例会というメタ会議をしようとしていたら、ゲルベルグさんは勢いよく手を挙げた。


「なら私たちはその中庭のテーブルでカフェを致しましょう!! ね! マリア神!!」


 この人、レヴィリー中庭デート見たさに場所選びやがった……。






 私とゲルベルグさんはシャルルの屋敷の庭園にあるカフェテーブルに腰掛け、花を見て回るリーベとレヴィンを見ながら近況を語り合った。


「全く……なにしてるんですかもう」


「リーベの生女装姿が見られるかと思ったらつい……」


 てへへと頭に手を添えるゲルベルグさん。中の本人がやれば可愛いんだろうけど、今はおっさんだ。



「でもリーベを変態から守るレヴィンには、正直萌えました……」


 怒り顔、大変良かった……と当て馬なモブおじさんを体験できた喜びに震えていた。


「こりてください」






 はあ……と、ため息をした後、私はこの前レヴィンとリーベに協力を仰ぐことに成功したことを報告した。


 ゲルベルグさんはお茶に口を付けながらその話を聞いていたが、終わった後は形容し難い難しい表情をしている。



「カーグランドが波に乗り順風満帆……となってすぐ負かした敵国の救済とは、マリア神は毎回あえて難しいところへ飛び込みますなあ」


「しょうがないでしょ、次はヴァンデミーアが危ないんだから。ゲームの主要キャラまわりは助けないと寝覚めが悪いし……この世界も危ないもの」


 シャルルの屋敷らしい華やかなお菓子が並ぶティータイムだが色鮮やかな砂糖菓子はどうも合わず、近くの小切にしたサンドイッチを頬張った。うまい。



「難儀なものですなあ。『面白くないと消える』と言われても実際何が評価されるのかわかりませんぞ」


「最近、とりあえず主要キャラクターをどんな形でも幸せにすれば良いかなって思ってる」


 数々の悲劇が起きる『聖女勇者』に多くのユーザーが求めているのは『救済』だった。


 大変ではあるけど、シナリオ通りにゼルギウスさんやレオンハルト殺せって言われてなかっただけ良かった。



「そうですな!! ジーク隊長とノアたんも救い、ジクノアにしなければ!!」


 BLへの熱意が凄まじいゲルベルグさんが決意を新たにしているが、その零番隊が曲者なのである。


「今のところ零番隊を引き込む策がゼロですから、零番隊がヴァンデミーアから追い出されるイベントもあるし、とにかく彼等を生かすように影ながら支援するしかないですね」


「零番隊を懐柔出来たとしてもギルおじ殿とフィンスターがノアたんに激おこですからな……」


 ノアたん、なんでギルおじを敵にしてしまったんや……とゲルベルグさんも顔を覆って落ち込んでいた。まったくだよ。



 一緒に闇事業をやっているゲルベルグさんなら痛いほどわかっているだろうが、フィンスターの情報収集能力が使えないのはかなり手痛い。


 恐ろしいが味方になると頼りになるギルヴィードおじ様も、ノアストティを助けるなんて絶対しないだろう。



「百歩譲ってノアストティ無しなら零番隊は利用価値があるって助けそうではあるけども……」


「ノアたんがいない零番隊なんてジーク隊長が可哀想です!!」


 いや、ジーク隊長はノンケだし、どっちかというとノアストティが寂しいだけだ。




「私も実はこの為に爵位を頂くのを先延ばしにしていただいているのです」


「えっ!? ゲルベルグさんも貴族になるの!?」


 シグルド派閥が粛清されたことと、更に土地が一気に増えたことで貴族が足りないという事態には陥っていたカーグランドだが、まさかゲルベルグさんまで打診が来るとは。



「先日のサキュバス公表で闇市場でポーションを売っていたのは我が商会とほぼバレましたからな。それに国に幾ばくかの金も貸しています」


 ゲルベルグさんは様々な品を取り扱う『ゲルベルグ商会』を立ち上げており、ベルドリクス伯爵家の御用達商人として色々融通してもらっていた。


 最近ではサキュバス素材を裏で売らなくて良くなったので、大々的にゲルベルグ商会で取り扱ってもらうことになった。


 今回の件で闇市場でサキュバス素材を売っていたのはベルドリクス家御用達商人のゲルベルグ商会であることがバレてしまったし、闇市サキュバス素材の仲介料も無くなってしまい実は一番割りを食った人なのだが、その代わりの貴族昇格ということなのだろう。



「なので! まだ自由な商人として動けます故、ヴァンデミーア支援、協力致しますぞ!」


 全ては推しカプの為に!


「ゲルベルグさん……」


 腐女子に金と権力を持たすととんでもないことになるな。


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