090 美少年とレベリング
リーベ、レヴィンと瓦解しかけているヴァンデミーア国を救う――……までは無理でも、貴族と民の全面戦争を避ける為に「なにかできたらいいな」みたいなフワフワの協力関係を結んだ。
そんな私たちは次の日、リーベのレベルを上げる為、戦闘用の服などを見繕いに来ていた。
リーベの武器はシャルルの作った魔銃があるのだが、年頃の男子の戦闘用装備は……あったとしてもカムイのお下がりくらい。
しかも借金の担保として人質にされていた時代のものだから、防御が高いカムイならまだしも紙防御なリーベが着るような装備では無かった。
なので防備を買いつつ、レベルを上げに魔物狩りへ出ようってわけだ。
一応バレないように変装をしたわけだが、レヴィンのお屋敷から街に出てみると相当に見られる。
「……変装はしてますが、マリアお嬢さんもリーベ坊ちゃんも、正直浮いてます」
「そ、そうかな」
うん。なんとなくそんな雰囲気はまわりから感じてた。
リーベは勿論、私も美少女であるのだ。
『ベルドリクス伯爵家の令嬢でありカーグランドの聖女様がブスではいけない』とケアなど一切はメイドさん達が頑張ってくれているお姫様待遇の為、髪や肌のハリツヤは私の功績では一切ないのだが……。
しかし、私一人の時は私は元々平民の出みたいなものだから平民に紛れることも出来たのだが、リーベはなんかもう……滲み出る高貴オーラが凄いのだ。
その横にプラスして私の様な者も居たら更に目立つし何者だってなるだろうよ。
開き直って今回はカーグランドに観光に来た貴族の兄妹……姉弟?として物見遊山のお土産グッズ的なノリでリーベの服を選ぶことにした。
しかしやっぱり私とリーベが一緒だと目立つのか、二度見三度見する人たちの視線がどうにも気になった。レヴィンが睨めば直ぐに去ってったけど。
「……急場しのぎだが二人共これを上から羽織っておいてください」
事態を重く見たレヴィンが特売品で少し古ぼけたフード付きの上着を二つほど買って来たのを二人でお揃いで羽織る。
人目が無くなったところで裾をほつれさせたり皺を作ったりして上等な服でない演出をした。
「外出た時にもうちょっと汚しておきましょう」
「なんでこんなことを?」
身なりが新品で小綺麗な者は外では狙われやすいと聞いてリーベはなにやら感心してワザとボロくさせた上着を羽織った。
フードを被れば少しはそれなりに見え……るか?
「やっぱりゲルベルグさん屋敷に呼んで買い物すべきだったかな〜」
「今は商人を呼んでいる間も歯がゆく感じてしまっていたと思うから……僕にとっては良かった。店で買うと直ぐに買えて便利だね」
買った戦闘用の装備を店で着替えたその足で私たちは近くの魔物出現地帯に向かっていた。
まずはリーベのレベル上げからだ。
とりあえず目下の目標は未だに溢れ続けている、ヴァンデミーアの魔物問題。
「今は戦争でほぼ無傷だった零番隊と国の守りをしていたレオンハルト隊で掃討にあたっているけど、キリがないから流石に疲弊し始めちゃってるでしょう」
「兄さんもそうだけど、ノアストティ様やジークベルトさん達も心配だな……」
辺りを警戒しながらも森を進んでいたところで、ふいに出てきた零番隊の名前に私は聞き返した。
「リーベは零番隊と親交があったの?」
「うん。ハルト兄さんとノアストティ様は同じ歳なんだ。爵位も同じだし、若くしてどちらも優秀だったから『ヴァンデミーアの双翼』なんて言われてたんだよ」
どちらもお互いに興味は無かったけど、似てるからなんだかセットにされてしまうアレだ。
レオンハルトの設定が無かったからというのもあるがコミカライズでもノアストティはレオンハルトに一言も言及をしていないから、いわゆるビジネスフレンドに近い関係だろう。
その二人がビジネスとしてだとしても友達ごっこをやっていたのなら、リーベが紹介されていてもおかしくはないのか。
原作ゲームでヴァンデミーアスタート時、弟のリーベが零番隊と共にパーティを自然に組んでいたのも頷ける。
ガバ部分を綺麗に補完され、そこだけでもこの世界、結構有用じゃんと感心した。
違った目線で物語を見ると色んな発見が出来るものだ。
「ノアストティ様は理知的で聡明な方なんだ。ジークベルトさんもとてもお強いから大丈夫だと思うけれど……心配だな」
零番隊を思って胸を痛めているリーベに『カーグランドに戦争仕掛けてきた黒幕、多分ノアストティだよ』なんて言えない……。
カーグランド上層部でも陛下とおじ様しか知らない話ではあるが、サキュバス誘拐未遂もやらかした男だ。
ノアストティがとても頭が良いのは骨身に沁みて実感してる。
私としては零番隊もどうにか仲間にしたいところではあるのだが、どうやっても引き入れるビジョンが見えない。
優秀な工作員であるフィンスターが最愛のリルムちゃんを苦しめた張本人をまだ生かしてる時点で奇跡なのだ。
いや、もう何回かバトって殺せていないだけかもしれない……。純粋な戦闘力ならノアストティの方が上だし、計略に嵌めるにしてもそう簡単にひっかかるような人でもなさそう。
ノアストティの話題を出す時はフィンスターもギルヴィードおじ様もつとめて真顔で、少なくとも好きでないのだけは伝わってくる。
敵国で敵対心もある御し難い相手を仲間に引き入れたいなんて相談できる雰囲気じゃない。
「ノアストティ様たちも助けて差し上げられたらいいね」
「う、うん…………」
今回のレベリングだが前衛に攻守バランス型の大剣レヴィン、遠距離攻撃のリーベ、後方支援の私という今までで一番バランスのとれたパーティ編成となった。
と言っても試運転であり、リーベがパーティ戦に慣れるところから始めてリーベがすべき立ちまわりをなどを考えながら何度も身体に叩き込むように三人で魔物を狩りにいく。
「マリアお嬢さん、支援魔法を消すことも出来るか?」
「OK、出来るよ」
私はリーベに支援を付けたり、逆につけなかったりして強化された時の感覚とそうでない感覚を覚えさせていっていた。
レヴィンの相棒でもある竜のジェノスはこの上ない程目立つし、竜騎士などなかなかいないのでレヴィンの、そして私たちの変装の意味がなくなってしまう。のでお留守番だ。
今度は竜に乗って遠出のレベリングなんかもいいかもしれない。
指導員がレヴィンということもあるが、鬼畜教官ギルヴィードおじ様にしごかれていたカムイの強制レベリングに比べると随分とキチンとしたレベル上げだ。
原作ゲームでも頼れる兄貴キャラなだけあって、放っておけない性格なのか面倒見は良かった。
ちょい悪ヤンキーな見た目で常識人枠というか、ツッコミ役というか……何やらせても安定する有難い存在である。
おじ様の育て方は急激に強くはなるだろうけども、とにかく効率を重視するタイプで説明も面倒だと省くしカムイの精神状態とか全く考慮に入れていなかった。教え方でも性格出るもんだな……。
身体強化のレヴィンとカムイ、魔法特化のリーベとギルヴィードおじ様。
師事するなら絶対逆がいいとは思うんだけど、この組み合わせでよかったなとも思う。
「坊ちゃん、あと何発くらい撃てそうですか」
「うーん……五発くらいかな」
「なら撃ち切った後MPポーションを飲んで何回撃てそうかまた教えてくれる?」
威力や何発撃てるかなど、とにかく試行回数を重ねる。
今のうちにリーベは色々覚えて安全に立ち回れるようになってほしい。
魔法使い寄りのステータスをしてるだけあってリーベは紙装甲。
ギルヴィードおじ様のような至近距離爆撃の一撃で瀕死みたいな悲劇が繰り返されたら大変だ。
「それにしても……」
支援職として一番安全な立ち位置から二人の様子を眺めていると、あることに気付く。
前衛だから当たり前ではあるのだが、どの魔物もリーベを攻撃せず、レヴィンに向かっていっている。
リーベに経験を積ませる為、レヴィンはひたすら防御に徹してリーベが攻撃しているのに、全くヘイトがリーベにいかない。
動物に好かれやすいというリーベの特性はやはり適用されているようで、低確率の攻撃が向かってきた時の受け身の練習があまりできないところが心配だが、当たらなければどうということはないを地で行っている……。
「モンスターテイムも、わりかしガチで出来るのでは?」
今度竜の生息地調べてみるか。
「魔銃の試し撃ちも出来て良かったよ。気になった点をまとめたから今度シャルルさんに連絡してみる」
初日であるし根を詰めすぎてもいけないと今日は早めに切り上げることにした。
「一応倒した魔物が冒険者ギルドで討伐依頼出されてないか見ておきますか」
「そうね。もし私たちが倒しちゃったりしてたら困るものね」
「冒険者ギルド……話には聞いたことがあるけれど、実際に行くのは初めてだ」
一応今は冒険者のフリをしてレベル上げをしているが、リーベは冒険者登録をしておらず、どのような施設なのか興味があるようだった。
私とレヴィンはもう登録していたし、私たちがクエストを受ければいいだけなのだが、リーベが登録してみたいというので付き合った。
『社会勉強』というやつだ。
冒険者ギルドに入ると前よりも治安が悪く感じる。
「…………」
街よりも不躾に視線を感じる。前に来た時はこんなことなかったぞ。
最近のカーグランドへ移民が集中したことにより貧民層が増えたせいだろう。戦争の余波などもあるかもしれない。
土地が増えたので今後少しは緩和するかとは思うが、やはりこういうスラム的な場所はわかりやすく治安の悪さが目立った。
フードを被っているというのに背恰好的に弱そうな私やリーベの顔をいきなり覗き込んではヒュー!と口笛を鳴らしてくる。
「ひえ……っ」
「これは……」
異質な世界に踏み込んでしまった気がして近くにいたリーベと身を寄せ合った。
治安がーーー悪い!!
冒険者と私たちの間にレヴィンが割って入るように押し入った。
「俺の弟と妹に何の用だ」
「な、なんだ片方男なのかよ。どっちが弟なんだ?」
もう一度私たちの顔を見ようと近付く男の、レヴィンが今度は肩を掴むとその男は痛い痛いと叫び始めた。
強化が上手いレヴィンの身体強化で力を入れて掴んだらそりゃあ痛いだろう。
「何の用だって聞いてんだよ」
元ヤンが現役に戻ったかのようなレヴィンにも若干驚いていたら、どさくさに紛れてリーベが私を背後に隠してくれた。
正体を隠さないといけないのはどちらかというとリーベなのだが、まだ子供なのに立派な紳士だなあ。
「そんな顔の綺麗な子供連れて来てたらちょっかいかけたくなっちまうだろ! な?」
ナンパ! ナンパだって~と言い訳する男であるが、
直訳するとレヴィンが弱かったら攫って喰おうという腹だったわけで、周りで見ていた男たちもレヴィンが集団でボコれそうならやろうと思っていたのかもしれない。
今は旗色が悪そうな為、みんな目を逸らし始めている。
「悪い! 悪かったって!」
レヴィンが手を離すとその男は去るようにギルドから出て行った。
私たちも足早にギルドから出て、出来るだけ人通りの多い、安全な道を歩いて一等地にある屋敷へ向かった。
「レヴィンがいなかったら危ないところだったよ。ありがとう」
「いえ、俺がもっと警戒して入るべきでした」
レヴィンに改めて礼を言えば、レヴィンは危ない目に遭わせた事を悔やんでいた。
「私が昔行った時はここまでじゃなかったわ。随分と治安が悪化してたね……」
「俺もこれほどとは思っていませんでした」
一見華々しいカーグランドだが移民問題などで原住民とのトラブルなどからどんどんギスギスしていっている場所はあるようだ。
とんだ社会科見学となったがリーベは初めての経験で多くを学んだようだ。
「経済や時代に合わせて政治を執り行わなければ、あのような民が出来てしまう。身が引き締まる思いだよ」
政治の歪みは末端からじわじわと被害が出てくるもの。
怒るでも怯えるでもなく、リーベは無力な民を憂いていた。
……私と聖女役交換した方がいいんじゃないかな。
「……坊ちゃん、政も良いですが自分の身の心配もして下さい」
「あっ、そうだね。今度はレヴィに守られるだけではない様、強くならなくちゃ」
そうじゃない……と若干参ったような過保護護衛のレヴィンを笑いながら見ていたら、リーベは私の方を向いた。
「女の子一人守れないようじゃ格好がつかないからね」
爽やかな王子様スマイルに突然の女の子扱いを添えられ、ひたすら照れながらも「いや、その、庇ってもらったし」とオドオドと返事をした。
……返事下手くそか。
ど直球な甘い言葉を投げてくるのは非常に尻の座りが悪くなる。
リーベは将来絶対女泣かせになるよ!
甘い言葉を囁いて金を貢がせていたノアストティみたいになるんじゃないぞ……。
「……でも、ヴァンデミーアのスパイがリーベに気付いて近付いてきたって感じではなくて良かったよ」
話題も変えつつ心配点を振り返りつつ、私は今安全な地で胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべた。
レヴィンも同じ警戒をしていたようで、私の言葉に賛同する。
「あの言葉の抑揚はサンドール周辺の喋り方によく似ていた。その辺りの地域から来た奴でしょう」
雇われ傭兵なんて仕事をしたら様々な人間に会うだろう、イントネーションの違いもそこで覚えたのだろうが、人に対する警戒心が強い……。
「サンドールとヴァンデミーアのつながりは薄いし、ますます線は薄そうだね」
サンドール国と言えばカーグランドの隣接国だ。移民が移動してきていてもおかしくはない。
クレルモンフェランの友好国で、派閥としてはクレルモンフェラン寄りで宗教が盛んな国である。
ヴァンデミーア派閥とクレルモンフェラン派閥は遠方であることと思想と利害関係の一致により仲も悪くはないが、だからといってヴァンデミーアに手を貸すほど良いわけでもない。
つまり無害に等しいはずである。
「三大国は良いバランスで成り立っていたから、クレルモンフェランとしても崩したくはないはずだよ」
「聖女とサキュバスを有してるカーグランドがヴァンデミーアを全部制圧したら、見た目の土地から国力はひっくり返るもんね」
どこから見てもカーグランドがヴァンデミーアをとることだけは嫌だろう。
「……でも、逆にリーベが売国奴としてカーグランドに来てるとか思われたらヤバいから、どの国のスパイにも気をつけるべきだわ」
そうなった場合、他国がカーグランドに取られる前にヴァンデミーアに攻め込む、カーグランドの出る杭を打つ為に攻め込む……などが起きる可能性がある。
リーベも下手したら居場所が無くなるし、なによりそうなったら他に攻撃される前にカーグランドがヴァンデミーアを奪い取り、力で恭順させるしかなくなる。
「…………」
リーベの見た目をどうにかしないといつかバレそうでヒヤヒヤする……
計画失敗の原因が『美少年すぎたせい』なんてなったら笑えないよ。
「顔に傷でもつけようか?」
「「それは駄目!!」だ!!」
私とレヴィンの声が綺麗にハモった。




