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087 新生児と今後の方針

 

「ウチの息子を! よろしくお願いします!」


「是非一度お会いしたくー!!」


 ベルドリクス家の門前は今日も騒がしい。



「……なんだか昔を思い出すね」


 昔私が聖女とバレた時同様、ベルドリクス家門前に馬車が群がっていた。



 今回は私の時と違い、サキュバスが気に入れば平民でも婚約OKということで、凄い熱気だ。



 流石にワーワーと煩いと思ったらしいフィンスターがいつもと同じく軽い口調で口を開く。


「この前、獣姿の僕を外に配置したら大人しくなりましたから、そこに影一体見張りさせておきますね」


 庭に影から神獣フィンスターが現れたら途端に静かになった。さすがだ……




 ベルドリクス家の使用人たちは神獣とサキュバスの話を聞いてひたすら驚いていたが、私という聖女がいることにより、ちょっとは耐性が付いていた。


 それに使用人たちも同じ使用人として暮らしていたフィンスターとはもう三年ほどの付き合いだ。


 彼は盗みや嫌がらせなど屋敷のあらゆる事件を解決し、使用人たちに頼りにされる存在となっていた。



 更に神獣の力で屋敷の侵入者などから影ながらみんなを守っていたと聞き、使用人たちは『正しい行いをしていれば絶対に安心して働ける職場』としてベルドリクス家に改めて忠誠を誓ったようだ。


「僕、結構世渡り上手ですから」


 それは世渡り上手というより、結構神獣らしいなと思うんだ。





 式典が終わってすぐリルムは第二子を産んでいた。


 サキュバスは気に入った男とこんなにちゃんと愛し合うことなど稀らしく、相当なハイペースでこれからも産めるみたいだ。


 ……ハッピー苗床ライフとかいう凄いパワーワードが浮かんでしまった。



 MPを使い切ったリルムはベッドに寝そべって話を聞いているが、そのベッドにはギルヴィードおじ様が腰かけていた。


 結婚してから前が嘘の様にギルヴィードおじ様はリルムにベッタリだ。


 メルフィアちゃんはパパにベッタリのようで、ギルヴィードおじ様の膝で眠っている。



 まるで幸せな家族のようだ……。


 やっぱり愛の力が大正義の乙女ゲームの世界、不可能を可能にするのはいつも愛なのね。



「二人が結婚したってことは僕が長男ですよね!」


 そんな中にニコニコと割って入る二人の子供になる宣言をしてきたフィンスター。おい最年長。



「おめえが一番年上だろうが」


 ギルヴィードおじ様も同じことを思ったのかツッコんでいた。


 三人の中では意外にもギルヴィードおじ様が一番年下なのだ。種族差ってすごい。




「フィンはもともと可愛い弟みたいな存在だったし……オレは息子でもなんでもフィンがいいならそれで」


 リルムはフィンスターのことを家族と思っているので、定義はどっちでも良さそうだ。



「やったー! リルムちゃーん! いや、お母さん~!」


 神に作られたフィンスターも家族なんて概念よくわかっていないわけだが、人間たちを見守っていて真似したくなったんだろうか。



 リルムの前でだけ可愛い弟になる神獣フィンスターは子犬姿に変身し、リルムとギルヴィードおじ様のいるベッドの方に飛び込んでぐるんぐるんと二人に甘えていた。


 私が計画したスキルトライアングルだけど、最終的に親子……いやペット?になってしまった。



 ベルドリクス家がまとまったのは良い事だけども、のけもの感があったのが悔しかったので


「私は長女でお願いします!」


「お前は姪だろ」


 と二人の子供に挙手したが却下されてしまった。


 しっかり家族カウントしてくれたので良しとしよう。





 そんな他愛もないことで騒ぎながら私は門前を見た。


「それで、この中から婿養子で跡取り候補を探していくってわけですか」


 まだ片付いていなかったベルドリクス跡取り問題だ。



 今のサキュバスの人気なら婿養子はより取り見取りだろう。


 そういう感じで婿養子を選んでいく特殊な家にするつもりなのか。



「………………」


 ギルヴィードおじ様がなんとも言えない顔で言い含んでいたら、リルムが満開の笑顔で契約書を見せてきた。


「それはな……これだ!」


「あ! それって」


 原作ゲーム『聖女勇者』では色んな種族の男性と付き合うことができる。


 そのときにフィーネ国の攻略キャラ、長寿種であるエルフのエスカトーレなどがいるのだが「ヒロインと相手の寿命差があるとちょっと幸せになった気がしない」というシナリオの為に存在する、寿命を分け与える契約書だ。


 長命の者が短命の者に命を分け与える、完全にお互いが合意していないと出来ない契約書。



 魔族と人間が結婚するときなどに使われるが、魔族側は自分の寿命がかなり減ってしまうのでかなりリスキーになる。


 後先考えない馬鹿か本当に愛がないと出来ない契約だ。


 エスカトーレルートでは彼はこの契約で長命を捨てヒロインと共に生きることを選ぶ。



 命を削って自分を愛してくれている確かな実感を感じられる、ロマンチックな話だろう。


 しかし現実問題だと事故でもなんでも「死ぬときは一緒」という、どっちかというと呪いの書だ。



「ギルがいなくなったらどうせオレは餓死するだけだし。むしろ寿命が増えるようなモンだろ」


 確かに二度も死ぬ気特攻を見せた漢らしいリルムを見ていると、ギルヴィードおじ様が死んだ瞬間に自らも死ぬだろう。


 リルムの腕からもそもそっと這い出てきた子犬姿のフィンスターも、その会話に入ってきた。


「それに僕も署名しました」



「フィンスターも!?」


「はい。リルムちゃんの居ない世界を見守っても仕方がありませんから」


 子犬だからあまり表情はわからないが満面の笑顔なのは容易く想像できる。


 長寿な攻略キャラの一人のフィンスターだが『彼は共に生きるのではなく共に死ぬだろう』とヤンデレ的なキャラ付けをされ、こんな契約はしなかった。



 その神獣の寿命っていつまであるの!? エルフどころじゃなくない!?


 っていうか三人でって出来るんだ!? 桃園の誓いか?



「……これは、ギルヴィードおじ様の寿命、相当延びましたね……」


 ギルヴィードおじ様はフィンスターまでは考えていなかったんだろう。ため息だ。



「これでギルヴィードさんの寿命が尽きる前にカーグランドがなくなってるかもしれませんし、跡継ぎはいりませんね」


「おい縁起でもねえこと言うな」



 ゼルギウス陛下には自分が同じ寿命で生きられなくなることも含めて謝ったらしいが「これからずっとカーグランドを見守ってくれ」と笑顔で許してくれたらしい。


 カーグランドを見守る長命の伯爵として君臨することになるんだろう。



 こんなことになるとは夢にも思わなかったけど……おじ様、本当になんとかしてしまったな……。











「それにしても……貴族の女の子はお金がかかるから増えまくるとメチャクチャ大変な気がしてたんですけど……」


「なんとかなりそうだよな」


 今から大量のベビー用品から女児用のドレスが多方面の貴族から贈られてきて、メルフィアちゃんは選びたい放題だ。


 今送られてきても大きくなる頃にはドレスのデザインが古くなってそうだけども、そしたら別の人がまた送ってくるだろう。



「やっと立ち始めたメルフィアちゃんに婚約の申し込みがとんでもないことになってますよ」


 もぞもぞとベッドの中からそういえばとフィンスターが話しかけてきた。



 そうなのだ。今世界中から大量に届く求婚のお手紙に我が家の文官は大忙し。


 カーグランドの新体制でそっちも忙しくなるぞというタイミングで飛んだ仕事の追加である。


 報告式典が押してたのはわかりますがおじ様……これじゃあベルドリクス家がまわりません。


「これからもサキュバスが増えるんだし、お手紙事業部を作らなければいけないかもしれないね……」














 色んなことが片付いた我がカーグランドは、新しいステージに立つことになった。


 沢山の手紙の山を眺めながら、私はギルヴィードおじ様と今後のベルドリクス家の方針を話していた。



「大国に大勝利したカーグランドがこれから求められるのは高い外交力だろう」


「たかいがいこうりょく……」


 私がかなぐり捨ててたやつだ。



「軍事に全振りしてたムキムキな私たちも外交するんですか!?」


「てめえは代えのきかない聖女なんだから否が応でも外交を求められるだろう」


 そもそも聖女が軍事と金に執心してるほうがおかしいとつっこまれてしまった。


 それを言ったら聖女ってなんていうかこう、もっと民の安寧というか、そういうものを祈って外交も軍事も商売も口出ししない神聖な存在なんじゃないだろうか。



「うえ~~~そんな~~~無茶ですよお~~~」


「平和的に大陸平定したいんなら一番にそこを頑張れよ」


 私たちはまず山のように来る友好のお手紙に、ちびちびと目を通す外交仕事から始まるのであった。



 平和の道は遠い……。













「それと、志願した女魔導士も軍列に加えようと思ってる」


「おっ、軍事の話ですか」


「喜ぶな」


 政治的思惑もある。と一言付け足される。これも外交の一手というわけか。



「サキュバスを絶滅危惧種として保護することには各国賛同気味ではあるが、サキュバスたちが他国に行ったとしても安心して暮らせる地盤はまだねえ」


 大切にしますからウチにサキュバスを下さいと言われても口約束だけでは裏で奴隷扱いする男だってありえるわけだ。



「だからといって他国に出さないなんて言ったら利益の独占だってキレられそうですよね」


 カーグランドが聖女とサキュバスを有した豊かな土地となったとしても、『サキュバスを量産し輩出してくれる、自国にも恩恵がある国』という宣言があるから攻められないという側面がある。



「ああ。だから他国にもサキュバスを大切に保護する法律を作らせる必要がある」


 こういうものは法を作る者が一番有利だ。


 サキュバスの配給元として合法的に他国の法律にカーグランドが介入出来るだけでなく、一方的に有利な条件で外交もしやすくなる。


 ギルヴィードおじ様のやっている事は娘は宝という法律を全国に作らせるという親馬鹿の皮を被ったヤクザだ。



「サキュバスに人権が出来たところで女性の社会的地位が低いから『宝』として扱わせないと、舐めてかかる国はいそうですもんね」


 聖女である私が異例だっただけで、基本的に女性の社会的立場は低い。


 現代でも問題に上がっている根深い問題ではあるが、戦国時代であるこの世界は更に女性の立場は低くなっている。


 カーグランドではあからさまな差別はないし働けないというわけではないが、男女平等とまでは流石にいっていないようだ。



 元は乙女ゲームだというのに世知辛い話であるが…いや、乙女向けアダルトゲームだからこそ主人公や女性の地位が低い方が無理矢理エッチな展開に持っていきやすい。


 主人公はめちゃくちゃ運が良く無理矢理される相手がイケメンでカッコいい攻略キャラばかりだっただけ。


 現実的な目でみれば男が女を無理矢理犯すことに寛容な戦国の世界など女性の地位なんてそりゃあ低いだろう。



 貴族に生まれたとしても女の子達の話は美容や着飾るものや……そして男の経済力の話が多かった。


(少し外れて趣味の話をすれば、お菓子や好みのタイプとかの話もしたけれども……)


 ひたすらに未来の旦那様に気に入ってもらう為に美を追求し、男性を気を引くような口ぶりを教えられ、玉の輿が勝ち組で結婚出来なきゃそれだけで価値が無いとされてしまう。



 そんな界隈だから私は上手く馴染めなかったのもあるだろう。聖女で良かった……。


 聖女でないときに仲良くしてくれたのがゼルギウス過激派のソフィア妃だけだったのも頷ける。



(ソフィア妃は私以外を相手をする時はシグルド派閥の愚痴じゃなくてちゃんと女子会話をしていたんだろうな……)


 他の令嬢にあんな政治話していたらドン引きものだろう。



「サキュバスの地位向上に伴って、カーグランドでは女自体の社会進出向上を目指す方針で今後政策を進めていくことになった」


「それで戦争での女性魔導士の導入に繋がるんですね」



 ギルヴィードおじ様は「ああ」と頷きつつ、長話に飽きてか出産後のMP切れかフィンスターを抱えて寝てしまっていたリルムをちらりと見た。


「コイツとおめえが戦場にでているのは異常だ」


 この世界では女性は戦に出させてもらえない。



「根本的な問題として男所帯で女がいると安全が確保できないのもある」


 リーベですら危険視されたのに女性なんていたら更に危ないだろう。



「たしかに、私はバリアが張れるし地位もそれなりにあったので見張りもいたし、フィンスターもいるし……リルムも私も何不自由なく軍の中にいられましたね……」


 そこでギルヴィードおじ様は私の目を見つめた。


「そんな聖女がいるウチなら女の魔術師を戦場に持っていくのも可能ってわけだ」


 女性騎士はまだ検討中なようだが、女性魔導士部隊。いいんじゃないだろうか。


 魔術士は貴重だし、替えが聞かない存在だ。増えることはありがたい。



「カーグランドは他国より女の露出が高い。聖女がいることも相まって女には住みやすい街になっているし、現在今も女が住み着く率が高い」


 マスコット的なアイドル、リルムちゃんが将軍として男を従えていたのも大きいだろう。


 戦国時代、力の無い女性に安全な地などはなかなかない。


 私とリルムという女の扱いが良いカーグランドは確かに女性視点からしたら安寧の地に見えるかもしれない。






「内陸部の目立った名産もないカーグランドにとって他国への外交の強みとして使えますね!」


 女性にも選択出来る幅が広がるのはいいことだ。


 私のように仕事人間みたいな人だっているわけだし……その代わり結婚率や出生率には気をつけていかないとだけども。



 そんな話をすればギルヴィードおじ様は「他国への強みか……」と呟いた後、爆弾を投下した。


「他国に使える外交の強みとしたら……ゲルベルグが主体でやってる催し物も盛況みてえで芸術性も売りには出来るが……内容が内容だからな」



 バレてらっしゃるーーーーっ!!



 顔を引きつらせた私にギルヴィードおじ様は呆れた目を送る。



「毎年おかしい数の人間が出入りする祭がコンスタントに開かれてたら国が把握すんのは当たり前だろ」


「で、ですよね……」


 ゲルベルグさんはポーション販売や別名義での武器商人までやっておきながら、漫画の祭典まで開催していた。


 とてつもない熱量だ……。



「あのイベントが開催される月はいつも祭りかのように人がごった返す。それに合わせて警備兵も増やしてんだぞ」


「…………」


 なんだか私が居た堪れない気持ちになってしまっている。



 しかし えっ、リルムちゃん本とか、ゼルギウス陛下とギルヴィードおじ様の本とか大丈夫? 作者殺されてない?



「……まあ、観光客が良く金も落とすし迷惑かけねえ程度なら見ないでおいてやる」


 オタクカルチャーは他国に広め辛い文化ではあるけれど、経済効果はバッチリなのは同じなんだな……。



 芸術は男も女も関係なく評価出来るところもあって、女性の活躍も目覚ましい。


「と、とにかく、色んな仕事に女性を増やして女性の選択の場を拡げる政策ってわけですね!」


「これが有益となって広まれば政策に成功した国として外交でも大きな顔が出来る」


 女性先進国、いいじゃないか。



「その女性魔導士隊を私と一緒に守るだけだったら特に手間も増えませんし、いいですよ」


 後ろに私が見てるってだけでちょっと士気が上がったりしてたし、女性が見てるっていうのは単純な人にはかなりやる気が出るだろう。


 協力しますと頷けば、ギルヴィードおじ様も頷いた。



「そうか。そうゼルにも伝えておこう。助かる」


 最近ギルヴィードおじ様は全体的に少し柔らかくなった気がする。


 結婚すると丸くなるって本当なんだなあ~。

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