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085 開催日決定

 


 暗躍を得意とする聖女。


 ……全然神聖みのない私、マリア=ベルドリクスは新しくカーグランドに入ってきた移民たちの求心力を高める政策に協力すべく、回復魔法で癒してまわっていた。


「ありがとうございます、ありがとうございます……!!」


「お大事にしてくださいね」


「俺たちカーグランドに来てよかった……!」



 他の国を見すぎてカーグランドを疎かにしていると思われては困る。


 地盤を固めて初めて安心して活動できる。


 そんな考えを腹に隠しつつ回復してまわっている聖女というのも申し訳ない話だが、私のやる気には繋がっていた。



「治しても治してもキリがない治療行為に真摯に取り組んでおられる姫はまさに聖女と言われるに相応しいです」


 拾われた恩義から私を神格化しているきらいがあるカムイだが、キリがないというのは的を得ていた。



「確かに人口が一気に増えて一人じゃ手が回らないね」


 領地も増えてカーグランドの国民の戸籍名簿などの処理も追いついていない。


「最初だけです、頑張りましょう。それにしても移民をこんなに受け入れて感染病が流行らないなんて――類をみません」


 回復と一緒に浄化魔法もやってるから私が診た人は体内ウィルスなどもなくなっている。


 感染が抑えられてるのはそれだろうな、と一手間かけた意味があって満足した。




「聖女さまが我等に施しを下さり、移民一同感謝しております」


「いいえ、これからカーグランドの民となる皆様の助けになれて嬉しく思います」


「なんと慈悲深い……!!」


 聖女を賛美する声に溢れる場内に居た堪れず、挨拶も程々に護衛のカムイとレヴィンを連れて控え室へ逃げ帰った。



 実はゼルギウス陛下から頼まれた政務なのだが『移民を哀れに思った聖女様が施しを下さった』くらい上からいかねば舐められるということで、名目上は自主的にとなっている。


 舐められた一例として、気軽にタダで治してしまっては何かあった時に『聖女が回復してくれれば助かったのに!』と言い出す遺族はどうしても出てくる。


 悲しさや憤りの矛先を聖女にされて、私が「もう回復しない」とか言い出し他国に亡命などしようものならカーグランドは一気に傾くだろう。


 だから私を崇める方向にさせたいとゼルギウス陛下は言っていた。


 実際問題、面と向かってそんな理不尽なこと言われたら絶対ショックだし、自分が頑張ってきたことにむなしさを覚えるだろう。



 だからあくまで『聖女様の慈悲深い心により情けをかけられているだけ』である、と同等の存在ではないと神聖視させた方が何かと収まりが良いわけだ。


 というわけで私の手伝いをしてくれている列整備などのスタッフさんたちは執拗に「聖女様はお優しい」「文句を言ったらもうしてくれなくなるかもしれない」など私を持ち上げつつ脅迫めいた話を移民にずっと言い聞かせる、一種の洗脳行為が行われている。



 しかし……


「なんだか胡散くさい宗教みたいになってる気が……」


「そうですか?」


 宗教に馴染みが浅い現代日本人の私とは違い、カムイ達は昔からラフィエル様を信仰してきた為あまり違和感はないようだ。



 宗教観が薄い、選民思想蔓延(はびこ)るヴァンデミーア生まれのレヴィンは私の言っている意味を何となく理解出来る様だった。


「旗頭にされてるマリアお嬢さんからしたら胡散くさいだろうが、宗教は意識統制として優秀だからな」


 回復をしてくれる聖女が素晴らしいと言われれば言われるほど、文句を言って聖女が「回復をしない」と言い出せば、原因になった民はこの国で暮らせなくなる。


 大陸唯一の回復持ちのご機嫌を損なうなど家族、一族、引いては出身国の括りで迫害されかねない大問題に発展するだろう。


 そう集団心理が働けば互いに牽制し合い、私には滅多な攻撃は飛んでこないというわけだ。



「他のことも聖女の望みと言えば従いやすくなる。貴族や王族と同じようなモンだが、聖女は唯一無二だから重要さが違う」


 なんだか腫れ物に触るような扱いに恐縮気味になるが、レヴィンに「マリアお嬢さんほどの力を持って横柄でないなんて逆に珍しい」と言われ、そんなもんかと庶民思考な私は思った。








 政務も終わりカムイと帰路につく。


 今後詰まっている予定を組みながら自分の部屋へ歩いていると、リルムにバッタリと会った。


 そういえばリルムの髪の毛はいつの間にか元に戻っていた。



「あれ? ギルヴィードおじ様は?」


「あぁ、今は王様ンとこ行ってるぜ」


 そういえばリルムが一人(……ではないか、メルフィアちゃんを抱えているし肩に子犬のフィンスター本体が乗ってる)でいるのは珍しい。


 なにかとおじ様と一緒にいるイメージが強かった。



 メルフィアちゃんと言えば、よくリルムが構っているので使用人の中ではおじ様とリルムの隠し子なのではと混乱しているとフィンスターから聞いた。


 というか、今までリルムはギルヴィードおじ様の部屋から殆ど出たことも無かったし、護衛用の使用人部屋もほぼ留守だった。


 なんでいきなりリルムがウチに住み始めたかもわからない使用人だっているだろう。



 なんていうか戦後ウチのベルドリクス家はガバガバだった。



「最近ギル忙しそーだな」


 跡継ぎのいないベルドリクス家で平民の愛人の子どもだとしたら、厄介この上ないだろう。


 リルムに対して思うところがある使用人とか出てくるんじゃないだろうか……。


 と思ったけど、一応使用人ということになっているフィンスターが上手く操っ……かじ取りしているのだろう。平穏無事にベルドリクス家はまわっていた。



「大国との調整とか難しいのかな」


「フィンもバレてるしなー」


 ストイックに軍事にしか関わってなかったベルドリクス家……と言うか私は、外交関係など他国の貴族との腹の探り合いなどはノータッチだった。



『聖女勇者』というシナリオを知っているから戦闘は危ない橋でも害意のない仲間を引き入れてやりくり出来てるが、ゲーム外の外交など未知すぎる。


 世渡り下手な典型的NOと言えない日本人な私は強い言葉で応戦するなどまるで無理。ひ、人には向き不向きがあるから……。


 カーグランドの前王に権力で頭を抑えつけられたのが未だにトラウマだ……。



 聖女というのもあり、あまり矢面に出なくて済むのは助かった。戦争で物理的な矢面には立ったけど。



 そんなわけで今の現状が私にはさっぱり入ってこない。


 フィンスターがなにも言ってこないということは、差し当たってマズい事態は起きていないんだろう。


 リルムの肩に乗ってすりすりしている子犬のフィンスター本体をジッと見やる。



「……なあマリア」


 子犬に視線を奪われていたらその飼い主?に話しかけられた。


「最近……ギルがやけに優しいんだけど……」


 困り顔で惚気をしてきてこっちが困惑する。


 優しいことに困惑されるって今までどんなことしてたんだよおじ様。



 確かに最近ギルヴィードおじ様はネジが飛んだように家では柔らかい気がする。


 他貴族の前ではいつもの迎撃笑顔だけど。



「もしかして……これって……」


 リルムはゴクリと私に顔を寄せてきた。


 まさかギルヴィードおじ様がリルム好きなのリルムに伝わっちゃったの?


 私もごくりとリルムを見る。


「……ご褒美かな」


 真顔で言ってくるリルムに私は気が抜けた。



「確かに今回頑張ったし、ご褒美くれてもいいと思うんだけどさー」


 リルムのしっぽがゆらゆらと揺れている。


「甘やかしてもらってはいるんだけど……なんかいつもと違うってゆーか」


 なんていうか、リルムは思考が完全に都合の良い女が板についてしまっている。


「あ!好きって言ってもらえてない!」とハッと違和感に気付いたらしい。


 好きなんてセリフはご褒美で貰うセリフではないと、毎回思うのだが、二人の関係が複雑すぎて口に出せない。



「……ここにいたのか」


 いつの間にかギルヴィードおじ様が帰ってきていたようだ。



「おかえりなさいギルヴィードおじ様」


「あぁ」


 私に挨拶しつつも目線はリルムになっている辺り、リルムを探していたんだろう。


「ギル帰ってきてたのかよー」


「転移だったからな」


 転移が出来るようになってからおじ様は結構好き勝手移動していて玄関から帰ってこないので、いつ居ていつ居ないのかがわからなくなってる。



 出迎えしたかったのだろうリルムが拗ねたようにギルヴィードおじ様に寄って行った。


 両手はメルフィアちゃんを抱えているので塞がっているがそのリルムの腰に自然に手をまわして寄せていた。


 んん?


 最近リルムがギルヴィードおじ様にベッタリだな~と思ってたんだけど……もしかしてコレ逆か?


 ギルヴィードおじ様がリルムにベッタリなのでは?



 私が不思議な顔をして二人を見ていたらリルムが「あっ!」とさっきの話を言った。


「なあギルー、オレ今回頑張ったと思うんだけど、好きって言ってもらえないのか?」


 好きっていってほしいな~……とメルフィアちゃんの髪をいじりながらもじもじと催促するリルムは完全に可愛い彼女だ。


 普通こんな可愛い彼女いたら大切にするだろうに。このおじ様は……。



「………………」


 ギルヴィードおじ様はジッとリルムを見て黙っていた。


「ぎ、ギル……?」


「……また今度な」


 そう言って誤魔化していた。


「えぇ~!? いつだよぉ」




「マリア。凱旋報告式の手筈がやっと整った。日にちも決まって今街では号外が出てるだろう」


「えっ! ホントですか? めでたいですね」


 つまりカーグランドの次の指針が決まった事になる。



「おめえに関わることは事前に説明する。荷物を置いたら部屋に来い」


「助かります。着替えてから行きます」


 そういえば回復魔法をかける政務の帰りなんだった。


 ゼルギウス陛下とギルヴィードおじ様がいるなら大丈夫だと思うけど、聖女の処遇をめちゃくちゃにされたら困るもんな。



「でも、随分と時間がかかりましたね」


 ゲルベルグさんにお願いした私のドレスももう部屋にきているのだ。


 人気の一流デザイナーさんが世に広めたいドレスデザインとかで、早く世に出してあげたいと思っていたから良かった。



 女の子だったらもっとこういう、ドレスとか化粧品とか、香水やら髪型や装飾に拘ったりお友達同士で話し合うべきなんだろうが、戦争乙女ゲーのせいでそんな友達作る暇も無かった。


 それでも流行りに乗り遅れなくて済んでるのは流行に敏感なゲルベルグさんのお陰だろう。


 むしろゲルベルグさんは一応女友達か。



「調整が長引いたのはしょうがねえ。今回は処理する問題が多過ぎたからな」


 確かに。


 零番隊にサキュバスがいるのが今度こそバレたし、

 ヴァンデミーアとの戦後の付き合い、

 クレルモンフェランや魔人連邦ガノンが圧力をかけてきたこと、

 神獣フィンスターの存在バレ、


 ……並べてみると結構外交問題が山積みだなぁ。



「勢いに乗って注目が集まっている今、初動をトチったらその分ナメられる」


「隙の無い政治体制を見せないとなんですね」


「そういうことだ」




 リルムも一緒に部屋に帰るようだ。


 このままおじ様の部屋まで歩いたら使用人もお察しすると思うんだけど、いいのかなぁ。


 ホームステイに来てるリーベとか「あの女性はベルドリクス卿の婚約者なのですか?」とか天然で地雷踏んじゃってたし!


 公式愛人にする布石なんだろうか。



 だったら協力したくないなあ~~


 などと家族甲斐のないセリフを心の中で呟いていた。


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