083 リーベの新生活
ヴァンデミーアのマーカチス侯爵家に会いに行き、レオンハルトを助ける話し合いをし、リーベが仲間になった!
「よろしくお願いします。聖女様」
「もう仲間なのだし、フランクにしてくれて構わないわ。私もリーベって呼んでいいかしら?」
「はい! あ、いえ、うん。よろしく」
侯爵貴族で王族ではないが、王子様スマイルと言う言葉がよく似合う。
ひとまず転移でベルドリクス家までひとっ飛びし、方向性が決まるまでベルドリクスの屋敷で大人しくしててもらうことにした。
マーカチスに工作をし終わっても凱旋報告式はまだ開かれない。
しかし着々と祭の用意の舞台などは建設されており、街もまだまだお祝いムードだ。
私は久しぶりにカムイにお茶を淹れて貰い、緑茶を楽しんだ。
もう貴族様になるからカムイに気安くこんな事は頼めなくなる。
カムイ……大きくなって……
くぅ〜〜感慨深いものが込み上げてくる。
「凱旋報告式はまだまとまらないのかな」
「ヴァンデミーア側の戦争賠償金が払えず何度か話し合いになっておりましたから、まだ報告がまとまっていないのでしょう」
先の戦での戦争賠償金をヴァンデミーア側に要求した際、金が無いとのことで、代わりに旧モノリス国と旧アリアーナ国、他滅ぼされた領土をカーグランドが所有することになった。
領土というのは目に見える国力であり、領土が増えるというのは国のステータスだ。
しかし、戦争で土地を手に入れると荒れ放題で復興が大変すぎる……。
普通は街はボロボロで土地も荒れ、復興が大変な領土をもらっても見栄だけで負担が増えるだけなのだが、
「人口が爆発的に増えていた土地の少ないカーグランドとしては、新しい土地はありがたいね」
「はい。極小国であったカーグランドが一気に中堅規模になれますね」
金に困っているヴァンデミーアでは復興も出来ないし、旧国の民達の為にもカーグランドがもらったほうが良いだろう。
あまりキツく締め上げて零番隊を出されても困る。これくらいが妥協案だろう。
私とカムイはニコニコとカーグランドの人口増加の対応策が出来たことに喜んだ。
これも凱旋報告式で報告する予定だが、それまでにどのような街政策をするかを提示出来るよう文官たちが奮闘しているらしい。
アリアーナやモノリスの難民たちが戻れるような場所にしつつ、カーグランドとして上手く取り込めれば良いんだけど。
勝利したのはみんな知ってるし、凱旋パレードとかもやったけど、凱旋報告式はどのようにして勝ったとか、今後カーグランドはどうするとか、公に宣言する式典である。
極小国カーグランドが三大大国の一つであるヴァンデミーアの侵攻を食い止めたのだ。
相当な大ニュースとなって大陸に広がってカーグランドの今後の動きをみんな待っているところだろう。
ちなみに軍が帰る際は自動的に凱旋パレードになってしまうので、転移で帰っていた私やリルムやギルヴィードおじ様も合流してみんな仲良く凱旋パレードの見世物になった。
フィンスターは名目上は従者だし隠密なので逃げました。
領地拡大の吉報を届けに来たギルヴィードおじ様は、サラリと私にどでかい仕事を投げてきた。
「戦で荒れた土の回復、おめえも手伝えよ」
完全に聖女を便利屋扱いしてらっしゃる。
「まあ……確かに荒れた土を自然回復させるとしたらかなり時間がかかりますから、私がいたら早いかもですけど……」
今後は土木事業にも参入するのか……。
「失礼します。今ならギルヴィード伯爵がいらっしゃると聞いたので……」
控えめにノックをし、入ってきたのはこの前ゲットした仲間のリーベだ。
その背後にはリーベの護衛兼案内役としてレヴィンが付いてきていた。
流石十数年護衛していただけあって、とても自然だ。
レヴィンはマーカチス侯爵家という暖かい貴族に拾われて育った身ではあるが、元はヴァンデミーアのストリートチルドレン。
人間に対して警戒心が強く、懐疑的だ。
今回のマーカチス侯爵家の救出に私のメリットが見当たらないところから私やベルドリクス家、そしてゲルベルグさんを疑いの目を向けている。
その中にのこのこ来てしまったリーベ=マーカチスが心配でたまらないようなので、素直にリーベの護衛として一緒に居させて、こちらに敵意はないと分かってもらうまで待つしかないだろう。
「話はマリアから聞いてる」
ギルヴィードおじ様は『強い仲間を集めて大陸を統一しないと世界が滅ぶからやる』という私の目的も知っている。
だから国を跨いででも強くなる素質のある人間を拾うことに関して文句は言わなかった。
が、流石にヴァンデミーア貴族となると外交問題もあるようで、マーカチス侯爵家については良く調べたようだ。
「またとんでもねえところから引っ張ってきたな」と言いながらリーベに向かい合い、握手をする。
地位的には伯爵と大国の侯爵子息なのでおじ様もリーベを雑に扱ったりはしないようだ。
「流石にヴァンデミーアと和解したのもついさっきだ。法的には問題ねえが身分を偽って暮したほうがいいだろうな」
「はい! 今はモノリスやアリアーナからの移民も多いですし、平民に紛れて暮らせば良いかなと」
「……その見た目でか」
キラキラなエフェクトさえ見える公式美少年のリーベは一目で平民じゃないことがわかるだろう。
「ぼ、坊ちゃんに平民の生活は……」
レヴィンも苦言を呈する。貴族思想の大国ヴァンデミーアの一流貴族の息子さんが平民暮らしは無理だ。
「そ、そうですか……」
レオンハルトが死ぬ前だからか、綿菓子のようなお花の国の王子様は、とんでもなく世間知らずで甘い。
「……勉強の一環として平民の生活やちょっと危ないところをレヴィンに案内して見せてもらうといいかもだね」
「えっ!? いやお嬢さん、そんなモンわざわざ坊ちゃんに見せなくても……」
そして護衛が超過保護。
ヴァンデミーアとは講和はしたが、まだ時期尚早、未だに戦後取引でゴタついてるくらいだ。
ザックベルの様に友好関係を築いているわけでは一切ない。
「姫、ベルドリクス家で匿うにしてもベルドリクス家は注目され過ぎております。隠れ棲むと言ったら難しいかと」
リルムを匿っていた頃よりもベルドリクス家の注目度は相当高くなっている。確かにこれではリーベがのびのびと秘密留学できる環境ではないか。
「うーん……なら、私がラフィちゃんの為に買った物件の一つをレヴィンの家として与えるから、そこに隠れ棲んでもらっていいかな」
今レヴィンはベルドリクス家の所有する兵舎に住んでいて、黒竜のジェノスの部屋も馬小屋の隣に仮設されていた。
先の戦で大戦果を挙げたレヴィンに雇い主のお嬢様がドドーンと屋敷をプレゼントしてもおかしくはないだろう。
「あっ元シグルド派貴族のお屋敷が手付かずで残ってたはず。そこにしましょう」
ジェノスもいるからそこそこ立派な屋敷にしても違和感もない。
持ってて良かった不動産!!
「リーベは対外的には使用人みたいなていにしてさ」
「ぼ、坊ちゃんが、俺の使用人……そんな……」
レヴィンは十数年守ってきた主が使用人になるという展開についていけていないが、まあポーズだけだから我慢してくれ。
美少年飼ってるって噂されるよりはマシだろう。
思い立ったが吉日。直ぐに屋敷の所有権をレヴィンに与え、民間人に即席で掃除の日雇いバイトを募集して綺麗にしてもらった。
お、お金持ってる人が経済回さないとダメなんだから! これは散財ではなく必要経費!
「ジェノス!」
「グルゥ〜〜」
屋敷に来たジェノスもリーベと感動の再会も果たし、御満悦のようだ。
竜視点の住み心地とかも聞きたいけども、今は屋敷よりリーベに夢中のようだから、追い追い住みやすいよう改造していこう。
そして次はレヴィンとリーベが今後どう行動するかを考えねばならない。
「本題のレオンハルトさんへの援護だけど……リーベはまだレベルも低いし、まずはレベルを上げておいた方がいいね」
「僕は殆どマーカチス領から出たことがなかったから……そうだね。頑張るよ」
マーカチス領は比較的魔物が少ない領だったようだ。
なのでリーベのレベルはかなり低い。
設定の『悪意で作られる魔物』と関係があるのならのどかなマーカチスに少ないのは納得はいく。
過保護護衛のレヴィンは『本当に坊ちゃんを戦わせるのか』という顔だが、これでも立派な攻略キャラクターだ。
今のリーベとほぼ同じ歳にカムイも地獄の特訓受け始めたし大丈夫大丈夫。
原作『聖女勇者』ではリーベが使っていたのは弓矢。
しかし身体強化は無く、武器に魔法を付属して攻撃する魔法剣士型のキャラになる。
実はリルムもその型だ。
この世界ではMPを使う代わりに魔法が強めに設定してあるので、身体強化がなくても魔法を付属して攻撃するのは同じくらい価値がある。
しかしながら、この魔法剣士型の欠点として魔法と腕力、両方強くないと強さを発揮できない。
リルムは接近戦キャラなので、そこそこの力はあるが、リーベはどちらかというと魔法使い寄りのステータスをしており(その為魔法剣士ではなく遠方から攻撃できる弓使いのチョイスなのだろう)純粋な筋力が少ない。
なのでゲームでの戦闘面はどうしても地味……幸運値が高く攻撃が当たらないという特性のほうが目立っていたくらいだ。
「しかし! ウチには天才魔導具師、シャルルがいるのです!」
原作ゲームのストーリーをぶち壊して進んでいる私にはもう怖いものはない。
私は二人を連れてシャルルの研究所へ転移で向かった。
シャルルの研究所には私の部屋やベルドリクス家の屋敷同様に私が標準をずらさずに転移出来る魔導具が設置されており、転移が楽々だ。
レヴィンの屋敷にも設置してもらおうと思案しつつ、転移が完了した。
「こ、ここが研究所なのかい? 花がいっぱいで、とても美しいね」
綺麗な庭園にところどころに花が飾られた、美しく華やかな廊下。
家主のシャルルをイメージして作らせた芸術性の高いお屋敷が、軍の最高機密が詰まりまくった危ない場所だとはとても思えないだろう。
「OH! マイエンジェル! この方が先ホド魔通信機にて仰っていた方なのですネ!」
とても美しい……と、美形好きなシャルルは上機嫌だが、リーベはちょっと困惑していた。
「シャルル、いっぱい頼んじゃっててごめんね。アレ出来てる?」
「先の戦で使ったバリア魔導具と構造は似ていマスから、大丈夫デス」
シャルルに頼んでいずれ仲間にするリーベ用の新武器を前々から作ってもらっていたのだ。
「これは……?」
「今度からこれで練習してみてもらえる?」
渡したのはライフル型の魔銃だ。
「各種用意してみまシタ。使って見て調整していきまショウね」
リーベが美少年故か優しくにっこりと微笑むシャルルはまるで良い研究者のようだ。
原作と比べると随分と扱いやすいキャラになったな……真面目に働いてる。
この世界にも一応銃はあるのだが、人間の基本スペックが高めなのと、科学が進歩していないので普通の銃くらいでは殺傷能力は低い。弓やクロスボウと同じくらいの性能になっている。
やっぱりファンタジー。ここは魔法が最強の世界なのだ。
リーベのキャラ案時に「力の弱めなリーベは弓じゃなくて、引き金を引くだけで勝手に高威力がでる銃に魔法を乗せられるようになったら最強じゃん!」と、案には出ていた。
のだが、キャラのイメージにあまりそぐわないという理由で弓を持ってもらった。
確かにキラキラ天然王子様が銃ぶっ放してたりしたら、ちょっとキャラ的に違うよね。
だけどここではもうそんな舐めプはしていられないので、原作を捨てて銃をもってもらうことにした。
「が、頑張るよ」
慣れない武器を持ち、的で練習をし始めるリーベ。
いつも弓の練習をしていたようなので狙うのは得意みたいだ。
「まずは付与せず慣れるために何発か撃ってみてくだサイ」
こっちもトリッキーな奇人変人キャラという原作設定をゴミ箱に捨てたシャルルがリーベに指示を出していた。
バン! と大きな音がなって見事命中する。
「しかし……銃に魔法付与は難しいと聞いていたが、出来たのか」
戦う者として、自分で扱うことはなくとも一通りの武器に詳しいレヴィンは魔銃の存在を興味深そうに眺めていた。
おっかなびっくりにリーベが魔法付与をすると、銃についている魔石が光り始めた。
ギュンッ! という音で的どころか壁にめり込んで貫通しかけていた。
「す、すごい……!」
「ワオ! さすがエンジェルが見つけてきた逸材なだけありマスね! 付与が相当上手いデス!」
そりゃあ魔法付与強化キャラクターですから。
思った以上の高火力にシャルルもにっこりのようだ。
リーベは驚いて固まっている。
銃はリーベのイメージにそぐわない為、弱いと設定されていた。
しかし大当たりして売れた後に、アプリ版や次作の新キャラでは「銃使いたい!!」と手のひらを返したのだ。
だって銃キャラかっこいいじゃん!!
公式が設定をサイレント修正なんて良くある話だ。
『銃は魔法付与が難しいだけでレアだけど作れる』『この銃は伝説の職人が作った云々』とか言い訳こいてキャラを作ろうとしていた。
そんなレア武器なら天才シャルルが作れないわけないだろう! って訳で作ってもらったわけだ。
シャルルは興奮気味に魔銃について説明した。
「エンジェルが持ってくる無理難題に見える依頼は完成してしまうコトばかりで驚きマス!」
出来るラインを知ってるからね。
「並の魔導士以上の火力は出せていますし、戦力としてかなり頼りになりますね」
弟子のビスタくんは結果の写真を撮影しながら威力の計算をし、ロクトくんはそれを解析しながら結果をメモしていた。
「気になった点はありまシタか?」
「いえ、凄く使いやすくて……あっでも、普通の魔法付与よりもMPを使う印象です」
「ふんふん、その辺は改良デスね」
改良したら連絡する。と、リーベに魔通信機を渡していた。
ヴァンデミーアからの留学の為、シャルル直通だけの通信機なのだが……
(あ、それ……ゲルベルグさんにあげたのと同じやつ……)
ゲルベルグさんと二人だけの通信機ではなかったようで、なんだか気まずい気持ちになった。
やっぱシャルルたん、謎のキャバみがある。
「ありがとうございます」
リーベは優しいおねえさん……いやおにいさんだとシャルルを認識したようで、純粋な笑顔で感謝をし、シャルルもそれに喜んだ。
シャルルは顔面で態度が如実に変わるメンクイなのだが、周りがイケメンだらけだからすっかり忘れていた。
美形しかいないヴァンデミーア貴族とかシャルル大好きだろうな。
「弓でもだが撃ってる最中は坊ちゃんは無防備になる、出来るだけ安全な場所を確保して撃つようにしてください」
「そうだね、気を付けるよ」
私は会話を聞きながら思惑通りの結果にご機嫌で頷いていた。
「今度一緒にパーティを組んで、その位置取りから考えましょ」
(今後の予定は凱旋報告の式準備と、聖女の政務とリーベの育成って感じかな)
順調順調。
今日の残りの時間は、流石にレヴィンの屋敷が最低限しかないとのことで、二人で必要な道具や家具を買い揃える為にレヴィンの屋敷までゲルベルグさんにご足労いただいた。
元ゴロツキのレヴィンだけだったらそのまま住んでたんだろうけど、リーベがいるのならちゃんとしなければならない。
「マリア神!! レヴィリーの二人暮らしなんて! なんて! なんてグッジョブなことを!!」
別に大商会の会長ゲルベルグさんご本人が来るような用件ではないのだが、レヴィンとリーベが二人暮らしすると聞いたら飛んできてしまった。
「落ち着いてゲルベルグさん」
「しかも二人が使う新生活の家具を売るモブになれるなんて……!!」
「落ち着いて」
「俺の寝床は今のままでも構いやしないが、リーベ坊ちゃんが埃くさいベッドじゃいけないだろう」
「こちらのキングサイズベッドなど如何でしょう!!!!!!」
「落ち着いて!!!!!!!」
今までに見たことのない興奮状態のゲルベルグさんの姿にレヴィンは若干戸惑いながらも、採算取れるのか?というレベルの良心的な値段でレヴィリーの新生活グッズを揃えていった。
「ベルグの旦那、こんなオマケしてもらっちまっていいのか?」
「はい。リーベ殿もジェノス殿もおられますし、色々入用でしょう」
確かに竜は大食いで食費も馬鹿にはならない。
リーベもマーカチス家から留学費用として幾ばくかのお金は渡されていたが、こんな大きな買い物をする予定で渡されてもいなかったので、とても助かるだろう。
「とても助かります。ありがとうございます」
どす黒い商人ゲルベルグさんを良い商人さんと認識したリーベはまたも清らかな笑顔でお礼を言った。
「おっふ……い、いえ……礼には及びませんぞ……」
ゲルベルグさんがダメージを受けている。
「カーグランドに来たはいいものの、右も左もわからず……大丈夫かと心配していたけれど、みんな良い人ばかりで……カーグランドは素敵な国なんだね」
そう混じりっけなし純度100%の笑顔で微笑むリーベに、私は「そ、そうだね……」と返すことしか出来なかった。




