表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/104

081-082 お忍び会談

 カムイとレヴィン、そしてリーベをお風呂へ送り出し、しばらく経つと一緒にマーカチス侯爵と夫人も着替えた上で応接室へやってきた。


 護衛は外で待機するように言い、扉を閉めると消音の魔道具を取り出した。


 ここだけの話としてくれるということだろう。


 まだバタバタとしている屋敷内でお時間を取らせてしまって申し訳ないが、このまま帰るわけにもいかない。



 フロレンツ侯爵を真ん中にミスティア夫人、リーベが座り、私とゲルベルグさんが座りカムイとレヴィンは背後に控えるといったかたちで雑談という名の交渉の場と相成った。


 私は変装を解き、再びきちんと礼をする。


「突然の訪問失礼いたしますわ。マリア=ベルドリクスと申します」



「私はここの領主をやっているフロレンツ=マーカチスだ。……先ほどは有難う。助かったよ」


 優雅に礼をしてフロレンツ侯爵は返してくれた。



 三人を待つ間、私たちはフロレンツ侯爵にマーカチス領へ来た由の説明をする。


「あの、先ほどの襲撃と私たちは関係なく……」


「わかっているよ。あれはヴァンデミーア貴族の誰かによるものだろう」


 変な誤解をされたらどうしようかと私とゲルベルグさんは怯えたがすぐに理解してもらえて安堵した。



「ヴァンデミーアの王都に息子のレオンハルトがいてね、こちらも少しは把握しているつもりだ」


 成る程、フィンスターがレオンハルトが家族たちを領に引きこもらせ遮断しているとは言っていたけど、フロレンツ侯爵も馬鹿ではない。


 不可解に思われたらフロレンツ侯爵はレオンハルトを助けに行くだろう。


 だからレオンハルトは不自然にならない程度には必要な情報などは共有しているようだ。



「それで、何故このマーカチス領へ?」


 フロレンツ侯爵からしてみたら我らカ―グランドは敵国も敵国。しかも争いの元になった聖女直々のお忍び訪問だ。



「レヴィンがこちらの侯爵家を心配しているようでしたので、お忍びで訪問してみたのです」


 私は出来るだけ明るく警戒心を持たれないように笑いかけた。



「……一介の兵に過ぎない彼の為に、なんの利益にもならない敵国のいち家族を心配して来たということですか」


「はい」


 今現在ヴァンデミーアが荒れていると聞いて心配になった。というのは本当のことなので、弱い理由ではあるがそれで押し通すしかない。


 穏やかな口調で「まあ」と上品に口元を抑えるミスティア夫人だが、メリットも何も無い不可思議な動きに内心は警戒しているだろう。



 しかしほぼマーカチス侯爵領で育った箱入りのリーベは「やはり聖女様は慈愛に溢れてらっしゃるのですね」と純粋な微笑みで私を褒めていた。


 そのおかげで場の空気は和やかに落ち着いたが、自分でいうのもなんだけど相当怪しいから。


 レヴィンですら苦言を呈したそうな顔してるぞ。


 リーベはもうちょっと世の中を知るべきだと思う。



「私はヴァンデミーアとの関係はともかく、マーカチス領の皆さまと仲良くしたいと思っておりますの」


「……講和したとはいえまだ日も浅い。明確な答えは控えさせていただくが、友好的な領が増えるのはやぶさかではないと考えているよ」


 フロレンツ侯爵はまだ警戒心はとれないが暗に友好的に対話をしてくれる姿勢を見せてくれた。


 私が神に愛されている聖女、というのも安心を与える一つなのだろう。聖女ブランド様様だ。




「……戦争を仕掛けた身で恐縮だが、ヴァンデミーアはその戦争の責任の押し付け合いで揉めていてね。確かに少し危険な状態だ」


 フロレンツ侯爵の話に妻のミスティア夫人も先の事件を思い出し、少し心配そうな顔をしていた。



 私はここに来た本題を早々にぶつけた。


「レヴィンから侯爵様たちのお話は聞き及んでおります。危険でしたら私が匿うことも可能なのですが……」


「いや、マーカチス領を任されている身として領を捨てることはできない。私たちはここに残るよ」


 ですよね。



 領に対して愛もある。マーカチス領と運命を共にするつもりだろう。


 ということはマーカチス領はなんとしても守らないとな……。




 幸か不幸か自己紹介やら現状の話などが思っていたよりもすんなりと話が進んで、第二の目的であるレオンハルトの死亡フラグ回避についても話を進められた。


「侯爵様はレオンハルト様から聞き及んでいないかもしれませんが……ヴァンデミーア首都では貴族内で殺し合いまで発展している凄惨な状態にあります」


「……すまないが、証拠を頂けると助かる」


 フロレンツ侯爵は動じずに証拠を求めてきた。さっきの今だ、レオンハルトが言わなくてもその可能性の真実味は伝わるだろう。



 ミスティア夫人とリーベは貴族同士の殺し合いという単語に顔を蒼褪めていた。


「そんな、首都にはハルト兄さんが……!」


 愛する家族が一人でそんな危険な場所にいるとつゆほども思っていなかったなら驚きもひとしおだろう。



 戦争に勝ち、ヴァンデミーアなど目に入らないほどに忙しいカーグランドが、そして聖女の私が嘘をつくメリットも少なく、私の狙いはなんなのかと侯爵はジッと見つめながら考えているようだった。


「勿論。私たちは便宜上敵となりますので簡単には信じられないかもしれません。ゲルベルグさんあれを」


「はい」


 ゲルベルグさんは持っていた鞄から束になった紙を取り出しフロレンツ侯爵に渡した。



「これは……!」


 フロレンツ侯爵は渡された紙の束を食い入るように眺め始める。



「私どもが把握しているヴァンデミーアの内情です。そちらの情報と示し合わせてみてください」


 情報は宝だが、信じてもらうにはこれくらいしか手がない。


 フロレンツ侯爵は知ってる内容もあったのだろう、徐々に顔色が悪くなっていく。



 内容としてはフィンスターに調べてもらったヴァンデミーアの内情の現状。


 誰が変死したとか暗殺されたとか……派閥が作られて内部で殺し合いのような喧嘩が起き始めている由など――


「そんな……こんなことが……」



 ウチの斥候が優秀すぎて、レオンハルトが知っている情報すら超えて詳細に記されているだろうその報告書。


 書かれている亡くなった方を知らない私もあまりの量に読んでいて悲惨さを感じ、悲しくなったのだから、貴族に知り合いがいるであろう侯爵の衝撃は計り知れない。



「……これが本当だとしたら、とても息子を王都に居させられない」


「あなた……」


 フロレンツ侯爵はミスティア夫人たちにはその報告書は見せなかった。


 ショッキングだし、もしかしたらお友達の夫人が殺されてたりしていたのかもしれない。



「偽物にしてはあまりにも詳細で――そして貴族間の仲も合致するところが多かった。とても作り物には思えない」


 カーグランドの貴族が作り話を書くにしてはヴァンデミーア貴族でしか知り得ない仲などもあっただろう。


 フロレンツ侯爵の瞳から信用に足るものだと返事をしてくれているように感じた。



「……恥ずかしながら、初耳だったよ」


 深くため息をつくフロレンツ侯爵は「マーカチスの領主であるのに、情けない」と願っていないところでの親孝行に複雑な表情をしていた。


 知らぬ間にマーカチス家も派閥争いに巻き込まれ、レオンハルトが一人で対処をしていた。



「……私はマーカチス家に関係もない、敵国の貴族ですがレヴィンを見ていればあなた方がどんな方だかわかります。私はあなた達家族を助けたい」


「聖女さま……」


 純粋なリーベは私の言葉にいたく感動したように祈りを捧げるように手を組んだ。


 知らない人に騙されないようにするんだぞ。




「…………」



 フロレンツ侯爵は黙ったままその後の進退について熟考しているようだった。


 いきなり敵国の聖女が現れて「ヴァンデミーア危ないから逃げて!」なんて言われたら確かに返事に困る。



 そうして熟考を重ねたフロレンツ侯爵の答えは意外なものであった。



「……リーベを。マリア=ベルドリクス嬢、君に預けられないか」



「えっ」


 リーベも驚いた顔をしているが私も驚いた顔をしている。



 確かにリーベを仲間にしたいからここに来たわけだけど、こんなピンポイントにもらえるとは。


「まさかリーベがカーグランドにいるとは思うまい。そして聖女である君は守ることが得意なのだろう。それにレヴィンもいる。君といればリーベは安全だ」


 成程。親心というわけか。


 奥様のミスティア夫人も「それがいいわ」と頷いていた。



「父さん! 母さんも! 僕だけがそんな……安全な場所にいるなんて」


「私たちだけならいざという時どうとでもなる。しかしお前まで守りきれるかはわからないのだ」


 遠まわしに足手まといと言われ、それが事実なことにリーベはショックを受けつつもその裏にある愛情と心配を受け取り、頷いた。



「……確かに僕は父さんや兄さんと比べて頼りないし、いざという時守る力もまだない」


 そう言ってリーベはレヴィンの方を向いた。


「あの、レヴィン。僕に戦いを教えてもらえないかな」


「坊ちゃんにですか!?」


 いや、それは……と、レヴィンの狼狽するところは初めてみる。なんだか新鮮な気持ちになりながら見守っていた。



「僕も、皆を助けられるくらいに強くなりたい」


「リーベ坊ちゃん……」


 原作ゲーム『聖女勇者』では遠距離戦闘キャラクターだったから戦うことに違和感は感じないのだが、そんなにダメだろうか?


 言い淀むレヴィンに私は口を挟む。



「ベリドリクス伯爵家は軍事に明るい家だから、軍隊に入って一から鍛えたらいいわ」


 まだ幼いし、何をやるにも身体づくりが必要だろう。



 そう言った私にレヴィンは「リーベ坊ちゃんに軍役は無理です!」とさっきよりも否定が強くなった。


 えっ ダメだった??



 よくわからずいると、ボソリとゲルベルグさんがフォローをくれる。


「マリア神……昨今の軍事情ですが容姿の綺麗な少年が女日照りの軍役に放り出されると大変危険なのです」


「え!? そうなの!?」


 私はビックリ仰天した。



「貴族であれば護衛もつくし、権力もある。一定の安全は確保できるのだが、其れを隠さなければならないリーベが軍役などしたら軍の中の異様な空間で何をされるかわからない」


 貴族であっても気を抜けば危ないこともあるらしい。


 前にも言った通り貴族主義を突き詰めたヴァンデミーア貴族のリーベは公式美形設定が付いている。


 しかも今はゲームより幼い、美少女と見紛うとびきりの美少年だ。


 確かに……むさ苦しい軍の中では際立って目立つだろう。



 私は息を飲んだ。私はなんて恐ろしいことを……


 当のリーベは何がダメなのかよくわからない顔だが。



「ひ、ひえ~~……」


 攻略キャラは殆ど貴族だったし、ウチの軍はみんなリルムに群がってたからわからなかったけど、いなかったら今の外見のフィンスターとかめちゃくちゃ危なかったんじゃないの。


 いや、人の気配に敏感なフィンスターが兵卒相手に遅れはとらないから絶対に大丈夫だっただろうけど……



「……か、カムイは大丈夫だったの……?」


 私は恐る恐る後ろを向いてカムイをみた。



「……俺は身体強化がありますので」



「ひ、ひえ~~~~~~!!!」



 ごめんねカムイ~~~~!!!!



 元々ヤマシロ領で培った人間に対しての危機感も手伝ったのか大丈夫だったみたいだけど、あんなお花の国の王子様みたいなリーベにそんな器用な真似できるわけない。


 軍人伯爵令嬢を気取ってはいたが、そんな内情があるなんて私一切知らなかったよ~~。



「……カーグランドも今爆発的に人口が増えて移民が沢山いるせいで治安も心許ないわ。リーベをお預かりするのに耐えるかしら……」


「そんな……」


 信頼して預けて下さる手前、万が一の事でもあれば親御さんに顔向けが出来ない。


 この世界の安全保障は現代日本よりも低い為、リーベがどうなろうと死ななければ問題はないだろうが、だからといって私が現代日本のモラルを捨てられるわけではなかった。



 いや乙女ゲーの攻略キャラクターで純潔失うって駄目すぎるでしょ!


(あっ シャルル……)


 そっと見なかったフリをして私は現実に戻った。



 見た目だけはほぼ同じ歳の私がリーベを心配する図というのも不思議だが、中身は歳上なわけだからどうしても保護者目線になってしまう。



「大丈夫ですマリア神!」


 そう明るく言ったのはゲルベルグさん。


「今レヴィン殿を私兵として雇っているのはマリア神なのですから、レヴィン殿にリーベ様の護衛をしてもらえば良いのです!」


「な、なるほど!」


「確かにレヴィが護衛につくなら」


 フロレンツ侯爵も頷いていた。



 頷いた後に一番危ないのはレヴィン×リーベ萌えのゲルベルグさんなのではと薄々気付いたが、まとまりかけた話を蒸し返すわけにもいかない。



 美味しいところはちゃっかりもらっていく、そんな手際はさすが商人としか言いようがなかった。









 話が一件落着し、私たちは人目につく前に帰ることになったのだが、フロレンツ侯爵から「折角久しぶりに会えたので少しレヴィと話させてほしい」と頼まれ、少し待つことになった。





 ◇





 ――レヴィ、今は彼女が雇い主だろうから無理なことは言わなくていい。と、フロレンツ侯爵は前置きした。


「しかし、良かったら聖女マリア=ベルドリクス嬢とは一体どんな人物なのか、教えてもらえないか」


 神から啓示でも受けたかのようなタイミングで、特に面識も旨味もない敵侯爵家を助けにきた。


 聖女は謎に満ち溢れていた。



「それは……正直、俺もまだ良くわかっていません……」


 すみません、と謝る。


 いつの間にやらレヴィンの過去を詳細に知っていたり、ジェノスの存在も看破した。更に言えば駆け出しの傭兵団を景気良く買い上げたのだ。


 レヴィンも聖女のマリアという存在を計りかねていた。



「渡された紙の内容は恐ろしいほどに、ヴァンデミーアの内情を把握されていた。備蓄の数も、改竄された内容も、全て真実の数が記されていた」


 もし担当の者が無能だったとしても、あれ程の内容をサラリと出せる程の斥候を抱えている事実。



「しかも、国が調べたものであればリーベとほぼ同じ歳の子供が持ち出せるわけもない。自分の手駒で調べたということだろう」


 そんなことは不可能に近い。聖女が謀っていることも見ている様子では感じられず、しかし騙されるような知恵浅い者にも見えず、不可解な違和感だけが残っていた。



「……聖女様を慕った神獣フィンスターがお嬢さんの願いを叶えています。なので、嘘でも裏切りのリークでもありません」


 フロレンツ侯爵は驚きで目を見開き、神獣……と呟きながらも納得がいった面持ちであった。


「なんと……しかし合点がいった」



「今回言ったことは全て本当のことであり、お嬢さんは心からこの侯爵家を助けたいと言っていました」


 繋がりはただのいち傭兵がお世話になった貴族家。それだけだ。



 フロレンツ侯爵は「……これこそが聖女様、と言うのだろうな」と呟くだけで胸がいっぱいだった。




 ◇




 マーカチス侯爵家は残すことになってしまったが、戦果としては上々だろう。


 ヴァンデミーアをあまり刺激しないよう、マーカチス領とはまだ素知らぬふりでいた方がよさそうだ。



 そして


「よろしく、レヴィ」


「坊ちゃん……無茶だけはしないでくれよ」


 私もゲルベルグさんも待望の、リーベが仲間になった!

※添削した際に81話と82話をまとめました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ