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008 王子兄弟

 次の日私は王宮に挨拶に来ていた。


 まだマナーが完璧ではないので礼以外は殆ど喋らせられず、笑顔を作るだけで終わった。



「ほんとに伯爵令嬢にしちまうとはなあ」


「私も驚きました」


「時々、ヴィードになんとか出来ないことなんてないんじゃないかって思う時があるよ」


 ゼルギウスさんが面白そうに笑っている。


 この人はいつも楽しそうだな。



「能力はまだ内密にしていく予定なので……」


「わかってる。ブリザベイト伯爵からも密書もらった」


 お祖父様……流石早い……。



「ヴィードの見る目はスゲーな、やっぱアイツといると面白えや」


 ケラケラと笑うゼルギウスさんと中庭で和やかな雰囲気で会話をしていると奥の廊下から剣呑な足音が聞こえてくる。



「ゼルギウス。見知らぬ令嬢だが、まさかソフィア嬢を差し置いて他の令嬢にツバでもつけているのか」


「兄上」


 ゼルギウスの兄、シグルド=カーグランドだ。



「このご令嬢はギルヴィードの姪のマリア=ベルドリクスです」


 ツバをつけるもなにも、私まだ9歳くらいなんだけど……。



「お初にお目にかかりますわ。殿下」


 礼だけはなんとか練習しといて良かった。


「誰かと思えばお前の腰巾着の姪子か。似てないな。本当に血が繋がっているのか?」


 王族と言えどそこそこの地位にいるベルドリクス家に意味もなく喧嘩ふっかけるとか貴族としてどうなの? 人脈作り下手くそか? まあ繋がってないけど。


 こんなんだから王位を狙ってないゼルギウスさんにつく派閥が作られちゃうんだよ。


「わたくし父方に似たもので……」


 ニコリと微笑み返す。


 興味なさげにフンッと鼻を鳴らし、ゼルギウスさんへの文句を始めたので私は黙って横にいる。


 しかしこれが継承権第一王子か。酷いな。




 ――シグルド=カーグランド、才能は凡庸。


 戦時でなければそれなりの政治をして中継ぎをする程度の能力はある、王としては並。


 弟のゼルギウスの才能を皆が褒め称え、激しい嫉妬の末、弟に毒を飲ませ殺した。



 ゼルギウスへの嫉妬で我を忘れ王子に相応しくない行動を繰り返し、王にも期待をされなくなるという悪循環にハマっている。



 ゼルギウスを殺した後、ゼルギウスの婚約者のソフィアと結婚し、ギルヴィードを側近にした。


 ソフィアのことが好きだったとか、そういう設定は作らなかった。


 ちょい役の設定を盛るのも容量が勿体ない……っていうのもあるけど、純粋にゼルギウスへの執拗な執着感を出したかった。


 シグルドはゼルギウスに執着し、ゼルギウスになりたがっていた。



 ゼルギウスが大切にしていたものを全て奪い、ゼルギウスに成り代わったかのように振る舞い親友面して自分を側に置くシグルドにギルヴィードの心はどんどん死んでく。


 まあギルヴィードおじ様有能だから宰相にして大正解なんだけどね。そのおかげで国がもってたようなものだ。


 ゲームでは戦闘にもゼルギウスが得意な戦法を使って失敗しまくる。



 ジグルドの死亡セリフは「ギルヴィード! なんとかしろ! ギルヴィード!」で、ギルヴィードのシナリオでは死んだ親友のゼルギウスがよく「ヴィードがなんとかしてくれるだろ」と無茶振りをして振り回されていた話をしてくれる。


 彼はゼルギウスになりたかった、死してなお亡霊を追いかけてる可哀想な人だ。


 そう考えるとちょっとは救ってあげたい気持ちはあるが、とは言ってもこの人はゼルギウスさんを殺すのだ。大人しく玉座に座っててくれないのなら引き摺り下ろすしかない。




 ボーっとものを考えていたらいつのまにかシグルドの悪口の応酬は終わり、去って行っていた。


 ゼルギウスさんは好青年というか……ちょっと前向きすぎるところがあるので、何を言っても前向きに捉えてくる。


 悪口の言い甲斐もないだろう。



「ごめんな、兄上は人と接するのあんまり得意じゃなくてさ」


 ああ〜〜そう受け取るのか。


 これを嫌味なく言ってしまうからゼルギウス信者も生まれるのだろう。見様によっては究極のにぶちんだけど……


 いや、ある程度は嫌われているのはわかってるんだろう、少しの羨望も感じたりして邪険には扱えないのかもしれない。


 兄弟の上下逆だったらいい兄弟だったのかな。



 なんて、解決策を模索しているとゼルギウスさんはさっきまでの悪口を世間話の続きのように


「そうそう、ソフィアっていうのは俺の婚約者なんだ。今度紹介するよ」


 器の大きさが違いすぎる……。








 午後はシルメリアお祖母様からマナーのレッスンを受ける。


 シルメリアはお祖母様と定義で呼んではいるがとても若くにギルヴィードおじ様を生んだからかとても若い。


 現実世界で言ったら全然若いおば様だ。下手したら私がお母様と言っても信じる者はいるだろう。


 その為お祖母様と呼ぶのは心苦しいと言ったら喜ばれたが「呼び方は貴方が誰の家族であるかを皆に認識させる為にあるのです。気にしないで」と微笑まれた。



 その優しい微笑みでマナーは超絶厳しい。


 やっぱり昨日の夕食はお目溢しをもらっていたにすぎなかったんだ……。


 最初は庶民にしてはナイフやフォークがわかってたり、食べ方がそれなりに形になっていることを褒められた。



 しかしそこから優雅に食べたり相手を気にしたりする要素が入ってくると現実世界の常識は通用しなくなる。


 使用人への合図の仕方、御招きする際の事前の打ち合わせ……。


 ああ〜〜こんなことなら貴族のマナーはそこまで厳しくないとか設定に書いとけばよかった! 雰囲気丸潰れか……。



 手掴みでもむしゃぶりついても上品にみえるとかそういうチートないの〜!?


 ……はい、ゆとりですね。ちゃんと頑張ります。



 メイド長さんは9歳にしては素晴らしいと慰めてくれたけど、シルメリアお祖母様の合格値には達していないし、なにより外の世界では成人済だったんですよね……。


 こういうのは日々の努力ということで、徐々に頑張っていこうということになった。とほほ……。



 あっ 年齢は架空の母親の年齢なども考えると出来るだけ低めの方が良いだろうと9歳で落ち着いた。


 学校もないし、年齢は然程の問題じゃない。


 年表も日本の歴史以上に読み込んでるから歴を見れば何年に何が起きるかなど把握できる。



『聖女勇者』は最初成人指定ゲームだったからヒロインの年齢はあやふやで、『一応成人』とか『この世界では成人』ですよって感じにしていた。


 ヒロインの設定は少ない方が感情移入出来るしね。




 乙女ゲー愛好家にも色々あって、自分ではなくちゃんと設定のある主人公である『ヒロインちゃん好き』層もいる。


 自分とではなくヒロインちゃんと攻略キャラのラブストーリーを映画やアニメのように楽しみたいわけだ。


 ここは制作側もとても悩んだ。


 だがしかしウチは元々美少女ゲー畑の人間、下手に自我のあるヒロインを作ったらコレジャナイ男性向けヒロインを作ってしまう可能性があった。


 それに乙女ゲーにしてはRPGと国取りと純愛、逆ハーと……かなり自由な要素があるので『自分だけのヒロイン』がつくれることを売りにし、ヒロインはあやふやな存在になった。




 ヒロインちゃん雑談はここまでにしておくとして、夕方は夕飯までギルヴィードおじ様とゼルギウスさんを王様にする会議だ。


 形式的には私の能力を高める研究や訓練をしていることになってる。


 ギルヴィードおじ様の部屋は何というか……魔術資料の博物館みたいだ。


 魔術に関しての資料だろうものが沢山並んでいる。


 でもキッチリ片付けられてあって『出来る男』って感じの部屋だ。



「マリア。念の為、防音のバリアを張っておけ」


 なるほど、と誰にも聞こえないよう防音バリアと祈った。



「ふむ、やはりバリアはオレが張るよりマリアの方が質が高いな」


 いや、この攻撃特化の世界でバリアが使えるのも普通は相当なんですけど……。


「シグルド殿下にお会いしましたが、ゼルギウスさんをとにかく気にしてましたね」


「ああ。シグルドは器量が狭すぎる」



 おじさま辛辣ぅ……。まあなんだかんだ言ってゼルギウス過激派代表みたいな人だからなこの人……


「で、どう追い落とす気だ? 調略か、暗殺か、ゼルの評判を落とすのは良くない。できれば穏便に済ませてえが」


「物騒すぎますよ!」


 まだ原作ストーリーが起きてもいないのにほんとシグルド殿下嫌いだな。



 私は静かに姿勢を正しギルヴィードおじ様に向き直る。


「……お祖父様も仰ってましたが近い将来……シグルド様の統治あたりの時代に、この大陸は戦乱がおきます」


 ギルヴィードおじ様の眉間がピクリと動く。そういうとこお祖父様と似てますね。


「この地は大陸のど真ん中、沢山の国と隣接している、しかも大陸の中でも派閥に属していない随一の小国だ。戦乱になれば真っ先に狙われるだろうな」


 そのように私が作りましたので存じております……。



「私の知る物語ではどの話でもシグルド殿下では防ぎきれませんでした。万が一の可能性に賭けるならゼルギウスさんしかないと思っています」


 本当はシグルド縛りプレイとかでクリアしてる人はいるけど、その場合聖女である私がAIなども利用した神采配の綱渡りプレイをしないといけないわけで、リセットも出来ないこの世界で私に出来る筈がない。


 平時だったら和解してもらってシグルド殿下を支えるゼルギウスさんで全然いいと思うし、ゼルギウスさんも其れが望みなんだろう。


 それを言ったらギルヴィードおじ様には「それをするにはゼルは動き過ぎてる。周りからの評価など気にせず好奇心で動き回るからなアイツは」ともう軌道修正は厳しいとの評価をしていた。


 正義のヒーローごっこや人当たりの良い社交家はさぞかし人気も高いだろう。



「それなら、ゼルギウスさんを王座を獲得する気にさせてシグルド殿下と正々堂々戦っていただいて、王になってもらいましょう」


「しかしアイツは王になるなどと言って国を荒らす気などさらさら無いぞ」


「それは……戦火に巻き込まれる話をして……」


 ギルヴィードおじ様はふうとため息を吐く。



「自分や兄や国や民の人生を変える為の選択にはおめえの夢物語は非現実的すぎる」


 確かに…… グッとスカートを握り手詰まりを感じていると更に呆れたようにギルヴィードおじ様が続ける。


「とりあえずはゼルの気持ちを変えるところからだな」


「……はい!」


 心強い味方を手に入れたことに笑顔が隠せない。


 実際は私がギルヴィードおじ様の味方をしている筈なのだが……。



「戦火の件は具体的にわかったら陛下にもお伝えしなくてはならねえからな。父も母も協力してくれるだろう」


「はい。私も何か出来ることがあれば……」


 腕を組んで考え込む。


 穏便に、まだその気のないゼルギウスさんが有利になるようなこと……



「あっ!」



 自分の発想にわなわなと身慄いしていたらギルヴィードおじ様が不思議そうに話しかけてきた。


「? 何か良い案でも浮かんだのか?」


 私はギルヴィードおじ様の肩をガシッと掴み





「……おじ様、私に先行投資する気はありますか?」


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