080 お忍び訪問
凱旋報告式の内容がまとまるまで待機な私たちは、今のうちにヴァンデミーア遠足を敢行。
レヴィンとカムイの三人パーティで行くことになった。
「カムイ、貴族になる準備で忙しいのに、付いて来てもらってごめんね」
「いえ、お気になさらずに」
式典には私もドレスやらなにやら用意しなくてはいけないわけだが、女子力が死んでる私としては全てお任せで着るだけである。
美少女って何着ても似合うから楽でいいな……。完全に美少女というチートに胡座をかいた姿勢だ。
リーベに会いに行くときいたゲルベルグさんも同行することになって、仲間になったけどパーティには入っていないというRPGあるあるな仲間としてついてきている。
お忍びな為、全員変装をした。
マーカチス家を手助けしに来たのにカーグランドの者と内通しているみたいな噂を流されでもしたらまずい。
目立つので黒竜のジェノスもお留守番だ。リーベに会いたいだろうが、申し訳ない。
「しかし……本当に行くのですか?」
いままで敵も敵、戦争していた国同士である。護衛のカムイとしては私の行動はあぶなっかしくて心配だろう。
「レヴィンがいればマーカチス家の皆さんは話を聞いてくれるかもしれないし、無理だったら別の手を考えるよ」
一か八かという突撃訪問ではあるが、荒れ放題なヴァンデミーアの内情を聞いている限り、手遅れになってしまっては遅い。
(特に死亡フラグのあるレオンハルトね)
「今回の目的はあくまでマーカチス家との接触。敵同士だけど、なんとか内密に話し合いが出来るまで持ってきましょう」
そう目的を提示して私たちは転移魔法でマーカチス領まで飛び、らくらく不法入国をした。
◇
転移魔法はやはり、実に便利だ。
一瞬で敵国にだって忍び込める……あとは座標が安定出来たら良いんだけどなぁ。
人が居なそうなところへワープしてちょっと歩かねばならない。
しかしカムイとレヴィンは身体強化が使える為、私とゲルベルグさんを抱えて長距離移動なども簡単にこなしてしまう。
つかまって揺さぶられてるだけの私の方が息切れしてたくらい……体力つけよ……。
やってきたマーカチス領の領主の住む土地は、貴族社会という都会なイメージのヴァンデミーアからは随分と逸脱していた。
小麦畑が一面に広がり、家畜の動物たちが伸び伸びと放牧され、子供たちの楽しそうな遊び笑う声が聞こえていた。
町並みはどの家もとても綺麗で、決して田舎な雰囲気ではないのだが……
なんというか……
「のどかだね」
「そうですな」
ヴァンデミーア内部が一触即発なんて雰囲気は一切感じられない。
こんな中で育ったからリーベもドロドロなヴァンデミーアの中で清涼剤の様に綺麗なのだろう。
「……まあ、無事なのは良い事だ」
レヴィンは少しホッとしたような顔をして、勝手知ったるマーカチス領を迷わず歩いた。
所々農業をしている村人に「レヴィン!? 久しぶりだねえ! 元気だったかい?」と話しかけられては物を渡されそうになっていた。
「しっ、今は仕事でお忍びなんだ……俺が来ていることは内密にしていてくれ」
変装までしているというのにバレバレとは、レヴィンはこの町で非常に愛されていたんだろう。
「……とても良い領ですね」
自分のいたヤマシロ領と比べているのだろうか、どこか眩しいものを見る目でマーカチス領を見ていた。
「そうね……」
私たちのベルドリクス領も良い領だとは思うけど、圧倒的に軍事なのよね。と話を逸らすとカムイは「そうですね」と笑ってくれた。
「……変わってなければあの丘を越えたところが領主の館になってるはずだ」
レヴィンの案内で真っ直ぐに歩いていく私たち一行だが、レヴィンはまだ私の目的がないことを訝しんでいるようだ。
しかし一応は信じてくれているようでちゃんと案内はしてくれている。
フィンスターと話している時にスカウトと言っていたし、リーベを仲間にしたいというのはわかりそうなものなのだが――ああ、レヴィンがリーベと別れた時は随分と子供だっただろうし、今も私と同じ歳くらいの13、14歳なら戦力にしたいと言われてもピンとはこないか。
なんとか警戒心の強い野生のレヴィンにも懐いてもらいたいところだな~と思案しながら歩いていたら、見えてきた領主の屋敷から不自然な煙が上がっていた。
「な、何事なの!?」
「あれは……襲撃されてます!」
目を身体強化したカムイが私に報告するとほぼ同時にレヴィンは身体強化を足に付けて走り出していた。
「支援します! カムイも行って来て!」
「はっ!」
即座に支援を送りレヴィンにもギリギリ届いたと思われる支援魔法をカムイにもかけ、二人に先行してもらい私とゲルベルグさんは走った。
「ええ~っ!? マリア神、これなんの襲撃イベントですか~~!?」
「こんなイベントないよ! 多分話が変わってってる影響!!」
領主屋敷の近くに居た民たちは一同に小屋へ逃げて行っているが怪我はなさそうだ。
やはり私たちと同じくレオンハルトをどうこうする為リーベを誘拐しに来たのだろう。……いや! 私たちはリーベ誘拐じゃなくて保護! 保護だけど!!
もうこんなのどかな土地にまで他貴族の攻撃が来てるなんて~~! ヴァンデミーアはやっぱり世紀末だ!!
やっと着いたなかなかに大きな屋敷の一つの窓から煙が上がっており、窓から侵入し煙玉か何かを投げて煙幕にしたようで火事にはなっていないようだ。
逃げられた使用人は外に出てきているが、屋敷の主とみられる人間はそこにはいなかった。
「いかがしましょうマリア神……素人の私どもが入ってもお邪魔になるだけでは……」
入口で悩んでいると窓が割れる豪快な音が鳴って人が飛び出して……いや蹴り出されて来た。
「とりあえずあの男は捕縛しましょう! 縄はありますかー!?」
「ゲルベルグさん……たくましいよ……」
外に投げ出された男は貴族の護衛には見えない、しかもマスクをしていることからどう見ても襲撃側だ。
しかしまだ破壊音が室内から鳴っており、乱戦中のようだ。
と、いうことは、まだ敵は目標を達成出来ていない。屋敷の人たちは生きている。
「……私、行ってきます!」
「マリア神!」
私は自分自身にバリアを張れば実質無敵なのを良いことに盾役として使えるかもしれないと屋敷に飛び込んだ。
怖くても完全ガードなら怖くないもん!
そう思っていたらなんと煙幕までバリアで跳ね返せ、バリアの万能性を感じる。
しかしバリアから外は煙幕で視界が悪い。先ほどのように敵だけがマスクをして見える状態なら苦戦をしているだろう。
「……そうだ!」
私は支援魔法として異常状態を防げる魔法を持っている。煙幕効果を消したり出来るかもしれない。
誰も見ていないことを良いことに異常状態を治す支援魔法を広範囲エリア魔法として唱える。
派手なエフェクトと共に煙幕は消え、屋敷の様子が一気に見えるようになってくる。
「あっ! カムイ!」
「姫! やはり姫でしたか!」
煙幕中でも倒していたのか襲撃犯グループを制圧していたカムイと合流する。
「この辺りの襲撃犯たちは一掃しましたが、家主は見つかっていません。まだ音が鳴ってる先かと」
「向かいましょう!」
レヴィンはこの屋敷に詳しいからか一直線に襲撃犯が狙うであろう場所に辿り着いたようでこの辺りにはいなかった。
階段を上っていると護衛や襲撃犯が転がっている。
「う……うう……」
「待ってカムイ! この護衛の人まだ意識があるわ」
私は咄嗟に回復魔法を唱え、スリープで眠らせる。
「ごめんお待たせ。行きましょう」
「はっ」
その後も前をカムイが歩きながら怪我人にポーションを投げ奥へ進んだ。
心臓はドクドクと早まり襲撃犯らしき人間が転がる異質な空間に恐怖もあるが、それよりも自分が行くことで助かるかもしれないという気持ちの方が強かった。
「っらあ!!」
大きな音と同時に吹き飛ぶ襲撃犯を目印にそちらへ行けば、レヴィンと思われる声が聞こえてきた。
「レヴィン! だいじょう……うわっ!!」
「……お嬢さん……」
煙幕の中、後ろの人物を守っていたのだろうレヴィンは至る所に怪我を負っていた。
私に見せないようにだろうか、少し右に体を傾けた辺り、特に右側に深手を負っているのかもしれない。
「レヴィ……っ!」
泣きそうな声でレヴィンを呼ぶのはレヴィンの後ろに居た少年、リーベだった。
「レヴィ大丈夫か! 直ぐにポーションを……!」
そうレヴィンを気遣う男性はこの屋敷の家主、マーカチス侯爵だろう。隣には夫人と思われる女性もリーベを抱え座り込んでいた。
(良かった。みんな生きてた……)
安堵する暇もなく私は杖を両手に持ち「今からすることは内緒にしておいてくださいね」と言い構えた。
私が祈り始めるとレヴィンの周りに光が溢れ、傷口が塞がっていった。
「これは……」
驚く侯爵一家の前で淑女の礼をし、おくばせながら挨拶をする。
「申し遅れました。わたくし、マリア=ベルドリクスと申します」
◆
我が家は回復ポーションの生産地なので回復ポーションは余るほど持っている。
そのポーションを傷付いたマーカチス侯爵家の護衛兵たちに渡しながら、それでも治らなそうなものはこっそりと回復魔法で治した。
突然の敵国だったカーグランド貴族来訪にマーカチス侯爵たちは驚きつつも、助けてくれたことで信用してくれたようで介抱を手伝うことに関して咎めもしなかった。
「この度はご助力大変助かりました。貴方のおかげで助かった兵も多い。感謝致します」
「いいえ、気にしないでください」
レヴィンが傭兵業務で偶々訪ねてきたら襲われていたという体にさせていただいて、丁寧にお礼まで言われてしまった。
部屋の片付けは使用人や回復した兵がするとのことで、私たちは比較的無事な応接室へ通された。
「とんだお忍び訪問になってしまいましたなあ」
「ホントだよぉ……でも来れてよかったあ~……」
ゲルベルグさんに相槌を打ちながら私はタイミング良く助けに来られたことを心の底から安堵した。
「……ああ。お嬢さん、感謝する」
レヴィンからもお礼を言われたが助けたのはレヴィンなのでお礼を言われるのはなんだかおかしいのだけれど……まあいいか。
「よかったね。レヴィン」
「…………」
そうほっこりとしていたら急に扉が大きく開いた。
「ッ! レヴィ!」
「はうわっ!」
レヴィと愛称で呼んで駆けてくるのはキラキラの正統派王子様がリーベ=マーカチス、侯爵家末弟その人である。
あとその後の唸り声はリーベに会う為に来たゲルベルグさんです。
「リーベ坊ちゃん……」
「レヴィ! ああ、本当に傷が治ってる……よかった…… あっ! 着替えの服持ってきたんだ。昔着ていた服で悪いけれど、あっお風呂も無事みたいだからよかったら」
丁寧な口調の優し気なボイス。成長前で幼いがやはりリーベだ。
「ジェノスは?」
きょろきょろと周りを見渡す動作をする。
「今日はお忍びで来ましたので……置いてきた」
そんなリーベにレヴィンが気安く返せばリーベは「可哀想に」といいつつ、ふふと笑う。
生リーベは想像していたよりも原作より昔の世界軸の為か、かなり幼く映る。
そして大変キラキラとしていた。綺麗な水で育った天然美少年だ。
優れた血を大切にする選民思想の強いヴァンデミーアでは基本貴族同士の結婚を推奨しており、顔のDNAも大変優れている者ばかりだ。
なのでヴァンデミーア貴族は公式美形設定が付いている。
リーベも公式美少年であればノアストティも公式美形、そしてリーベの兄のレオンハルトお兄様も公式美形なのである。美形のオンパレードだ。
「傭兵でワイルドなレヴィンと綺麗なお坊ちゃんなリーベの対比が……!! 最高……ッ」
ゲルベルグさんは完全に中身が出ていた。
「しかも10歳以上差もある逆・歳の差、主従……!」
ブルブルと呟くように私のうしろでブツブツと呟いていた。怖いよ。
私とカムイの後ろでブツブツと言っているゲルベルグさんには気を止めず、リーベはカムイの方を見てお風呂に誘った。
「そちらの方も少し汚れていますから、よろしければ一緒にどうですか」
「えっ ちょ、私も……」
「ゲルベルグさんは汚れてないでしょ! 待機!!」
私たちの問答にリーベは笑顔を取り戻し、ふふっと愛らしく笑った。
――ヴァンデミーア国の初期攻略キャラクター、リーベ=マーカチス。
貴族社会で厳しいヴァンデミーアの中でも勝ち組の一流侯爵貴族の息子で、コンセプトは『甘く優しい王子様キャラ』である。
真っ黒いものが渦巻くヴァンデミーアの中の清涼剤とも言える心優しい性格で、一流貴族であるが平民にも優しい。
元ゴロツキのレヴィンに懐いて護衛にしてたくらいだからね。
もちろん零番隊にも気に入られてた。
だからこそヴァンデミーア国スタート時にヒロイン、リーベ、ジークベルト、ノアストティの四人でパーティが組めるのだ。
絶え間ない愛を受けてすくすくと育った最年少の末っ子属性のせいか、プレイの仕方によっては極悪ヒロインになるヒロインより聖女キャラ……と言われることがあるくらいには心が清らかだ。
なのでアダルトルートも、ものすんごい甘いが無茶な事はしないし無理矢理も無い。
比較的仲間にして問題ないタイプだと言える。
しかし、前にも言った通り、リーベの憧れの兄、レオンハルトはリーベを庇って死ぬのだ。
幸せに育ってきたリーベにとって、相当な衝撃であり、ヒロインにも癒せぬ傷となっていた。
攻略キャラ毎に何かしら戦争の爪痕がある『聖女勇者』シナリオだが、ギルヴィードおじ様と同じく、リーベはまだ間に合う。
(助けなきゃな)
リーベの笑顔を見て『守りたい、この笑顔』というキャッチフレーズが浮かんだ。




