077 ヒューガ国と食道楽
◇
辺りはざわざわと騒めき始めた。
ヒューガ国出身の猛者カムイが、聖女マリアの護衛を勤めているのは皆が知るところだったが、その経緯は大きく語られていない。
勿論カムイの濃い追っかけをしている女の子達なら知ってるような開示された情報ではあるが、こんな各国が揃った場で説明するのは初めてだ。
ヒューガのマスメディアの人達は知っているのか「ウチのカムイが聖女に選ばれカーグランドの貴族にまでなった」と我が物顔だったが、その言葉を聞いて青褪めはじめていた。
◇
私はカムイを見て、頷くとカムイが静かに語り始めた。
「……ヒューガ国には、取引の際『自分の子を差し出し担保とする』風習があります」
ヒューガ国から遠い国は知らないであろう風習なので、少しざわつく。
「愛しい我が子を差し出すほどの固い契約、何よりの契約の証。そう言ったヒューガ国ならではの美しい風習であります」
ここでギルヴィードおじ様とカムイと話合ったのは、今後のヒューガ国との関係を加味して「ヒューガ国を完全に悪者にしないこと」だ。
「勿論それがキチンと作用している領もありますが……法の抜け穴として使っている貴族も、確かに存在しておりました」
「わたくしはある時ヒューガ国の作物を気に入り、お祖父様にお願いして……とある領と貿易を行いました」
話の流れが見えてきたのか、一気にざわつく。これは特ダネだ……とばかりに顔つきが変わった記者もいた。
「その貿易の信用の証に預けられたのが、このカムイでした」
「それが今もまだマリア嬢のお側にいるということは、その取引はどうなったのでしょうか?」
記者が突っ込んだ質問をしてきた。
「破棄されました」
そう私が言うと、周りは「おお~~っ!」と声を上げる。
お話みたいな話だからだろう。
私に代わって次はカムイが話し始めた。
「私には兄弟がたくさんいましたが、今どこで何をやっているのかわかりません」
記者たちは行間を読んで、カムイの家が子供を預けて取引を踏み倒す、法の抜け穴な取引をやっていたと気付いているだろう。
「私は幸いにも飢えることもなくマリア=ベルドリクス様に引き取られ、ここまで育てて下さいました」
うんうん。私は計画通り進む台本に心の中で順調と呟いた。
「私に今があるのはここにいる聖女、マリア=ベルドリクス様のおかげであり、私に与えられる名誉は全てマリア=ベルドリクス様あってのこと」
ん?
「私の才能を見出して下さったのもマリア=ベルドリクス様で、マリア=ベルドリクス様は私に生きる意味をお与えくださいました」
ちょっと待って?
「このヒューガ国に似せた和装もマリア=ベルドリクス様が私が故郷を離れ寂しくないかと心配し用意して下さりました。殺されてもおかしくない状況でマリア=ベルドリクス様は私のお心にまで寄り添い考えて下さった、本当に素晴らしい――……」
「ちょ、ちょっとカムイ。その辺で…………」
聖女信者であるカムイが熱の入ったマリア論を展開しかけたところで、服を引っ張り引き止める。
こほん! と咳払いをし場の空気を直したところで軌道修正をする。
「わたくしがこの会見を開いたのは、もうカムイのような子が出ないよう……そう言った事例があるのだと、皆さまに知って、関心を持って欲しかったのです」
昔いじめられていた芸能人やスポーツ選手が、有名になって「いじめやめよう!」というのと同じようなものが出来ないかと思ったのだ。
「カムイ、辛い話だったと思います。話してくれてありがとう」
そして私の自己満足に付き合わせたカムイにもお礼を言った。
カムイは少し泣きそうな顔で笑い返してくれた。
そうしてこのカムイの貴族称号授与発表の会見は終わった。
「今日も一面はカムイさんに関してですね~」
フィンスターはいつものように感慨の無い声でもらってきた新聞を眺めていた。
どうなってるか気になって集めてもらったはいいものの、小心者な私は自分の記事とか怖くて読めなかったのだ。
ギルヴィードおじ様に頼んで圧力をかけてもらっていたので記事は概ねゴシップにならない程度に抑えられていた。
「他国に反ヒューガだって写ってないといいんだけど~~」
私のせいで国同士が険悪になったら怖い~~とうう~んと怖がる私に「ならやらなきゃよかったじゃないですか」とフィンスターが当たり前の返しをしてくる。
「でもあのヒューガ文化だけは放置したままにはしておけないと思ってたからさぁ……」
カムイを助けて後は良いやと放置するのもなんか気が引けるというか……
う~ん、うう~んと唸っている私にフィンスターは笑って軽く返してくれた。
「まぁ……聖女様のお目に入ったのが運の尽きでしたね~」
◇
時を少し遡るが、ヴァンデミーア軍とカーグランド軍がぶつかる少し前……
「モノリスにはもう何もない、ヴァンデミーアから逃げるにも逃げる場所もない。どうすれば……」
モノリス国で串焼き屋を営んでいたコリン一家は彷徨っていた。
このままモノリス国にいたらやって来たヴァンデミーアにいい様にされてしまう。
近くに住んでいた年頃の娘たちは連れて行かれたと聞いた。
娘のアニーは元々男っぽい服が好きなのが幸いして兄の服を着せて男と偽らせてもバレずにやり過ごせた。
しかしこのまま彷徨っていたら逃走兵あがりの山賊に襲われてしまうだろう。
一家は身を寄せ合い逃げ惑うことしか出来なかった。
「見つけた」
「ひぃ! ……ってアンタ!」
「徳の高い顔の常連さん!」
アニーは元気にそう言った。
串焼き屋を営んでいた時よく来ては大量に買い込んでいってくれたお得意様だ。
創造主様に顔が似てると街でも評判の旅人だった。
「店主よ。もう串焼き屋は営まないのか?」
こんな異常事態になにを言っているのか。
しかしこんなおかしいことを言ってのけるマイペースなところがこのお客さんだった。
少し日常を思い出せたようでコリンは嬉しかった。
「出せるもんなら出したいですが、国がこんな状態じゃあ……」
がっくりと肩を落とし子供たちを抱きしめていたコリンに創造主によく似た青年は言った。
「ならカーグランドで営めば良い。そこでなら店を開く手伝いをしてくれると約束をしてもらっている」
いきなり何を言うんだこの人は
「か、カーグランドって次ヴァンデミーアが攻める国じゃないですかい…………」
「大丈夫だ」
そう言って微笑む姿は、外見も相まってまるで神様の様だった。
「…………アンタ、この人のこと信じてみようじゃないか」
ここで山賊で襲われて死ぬよりよっぽどマシさと妻のアーリンが言う。
「しかしカーグランドに行く通行料なんて…………」
略奪された者たちは一銭も持っていないのだ。
「大丈夫だ。俺が持っている」
「昔、俺の顔が知ってる顔と似ているから何度か無償でくれただろう? それを貸しというのだと、学んだ」
貸しは返さなければな。と創造主そっくりの顔でいう青年に神様を重ねて目に涙が溜まった。
そしてカーグランドはヴァンデミーアにまさかの大勝利。
戦争が落ち着くまで待っていろと紹介された宿屋に現れた提供者というのが…………
「初めましてコリンさん。ラフィちゃんからよく串焼きをもらって美味しいと思っていたの。カーグランドで出店してくれて嬉しいわ」
よくブロマイドで見かけた聖女様。
コリン一家はあんぐりと口を拡げた。
カーグランド……創造主に愛された聖女様……創造主そっくりの顔…………まさか…………
創造主そっくりの顔の青年に向かってポツリと呟いた。
「ら、ラフィエル……様?」
「なんだ」
そう事も無げに応えた青年は確かに創造主ラフィエルだった。
◇
ラフィちゃんの紹介してくれたモノリスから来た串焼き屋の一家にはベルドリクス家が大家として家を一つ貸し与え、その家で串焼き屋を営んでもらうこととなった。
市民権や店の費用の料金も肩代わりし、軌道に乗ったら返してもらう感じでお願いした。
モノリスでも行列のできる有名店だったらしいし、タレを一から作り直すのは大変だろうけど、また美味しい串焼きをつくってほしい。
他にもアリアーナ国の美味しい肉まんを作る一家も拾ってきて同じように住まわせている。
ヴァンデミーアでも閉める予定の店をまわってはお気に入りを見つけて引っ張ってきている。
ベルドリクス家でそこの道を全部買い取っているので是非ラフィちゃんの食道楽コレクションにでもしてほしい。
まさかの不動産業まで始めることになるとは…………。
テナント募集中どころかラフィちゃんのテナントスカウトだ。
神に愛された食たちだ、きっと大流行りすることだろう。
「マリア。ヴァンデミーアに行ってみた感想だが…………」
あっ 一応覚えてたんだ。偵察。
「民の笑顔が少ないように感じた。『不満をもらすと殺されるから気を付けろ』とも注意されたな」
「ず、随分と物騒だね…………」
ヴァンデミーア貴族は借金が当たり前な世界で、金払いの良さがステータスだ。
しかし戦争にはお金がかかる。そんな借金だらけの貴族にそんな金あるはずもなく、その負担は平民たちにのしかかる。
他国侵略の戦争賠償や略奪で一旦は景気を取り戻したが、今回カーグランドに負けたことにより、カーグランドへの賠償金で更に酷い事になっているらしい。
「よくそんなことまで調べられたね?!」
ラフィちゃんにそんな能力があったとは……!
「革命軍……? とかいう家に連れて行ってもらい、教えてもらった」
テロ活動やーーーん!!!
「も、もうそんな組織が出来始めてるの……」
これはヴァンデミーア、相当まずいな。




