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076 フィンスター先生と称号授与

 ◇


 心地よい眠りの中から頭を撫でられている感覚で目が覚める。


「ん……う……? ぎる?」


 リルムは眠気まなこをこすり愛しい相手の名前を呼んだ。



「…………起きたか」


 目の前には元気になったギルヴィードの姿を見つけ、よかったと抱き着く。


 それを軽く受け止めるが、もう痛いトコはないのか? もう大丈夫なのか? と、リルムがした質問にあまり多くを語らなかった。


 ただしっかりと腰には手をまわしてくれていたのでリルムはそれだけで嬉しかった。



「まだフィンは寝てるのか」


 子犬の姿のままギルヴィードの反対側の肩の辺りで丸まっている。



「コイツのMPは相当な量なはずだからな。それが切れたってことは相当なんだろう」


「よっし、オレがフィンのMPを回復してやろう!」


 フィンスターの頭をわしゃわしゃと撫でながら「大好きだぞ~」と声をかけていた。


「こーかんどの高さで回復量が変わるってこれでいいのかな」


「オレに聞くな」


 リルムが子犬フィンスターをわしゃわしゃと撫でていたら、暇を持て余したギルヴィードはリルムの髪を触っていた。



「……髪」


「あ? 随分めちゃくちゃになってんな。あとでフィンに切り揃えてもらうか」


「元の長さが良い」


「え?」


「元の長さが良い」


 ギルヴィードは同じ言葉を繰り返した。



「……んなの、オレに言われたって、どうやったらそうなるかとか……わかんねえし……」


 もごもごと口ごもるリルム。


 サキュバスとして三流のリルムは自分の身体を相手好みに自由自在に変えるということは出来なかったが、いつのまにかギルヴィードに言われたように変わっていることは何度かあった。


「や、やってみるけどよお……出来なくても怒るなよ?」


 足をぱたぱたとさせながら恥ずかしそうに言った。


「おう」


 ギルヴィードはそう言ってリルムの頭にキスした。



 あまりに慣れないことにリルムは一瞬固まった。


「ぎっギルって……こ、このくらいの長さの髪の女が好きだったんだな……」


 顔を真っ赤にしながらリルムはソワソワとしている。


「ああ」


 随分とふわふわとしたギルヴィードに怪我をした後遺症や頭を打ったのかな、などと少し心配をした。








 ◇








「すみません! 随分お休みしてしまって」


 おかえりフィンスター!!!


 フィンスターが目覚めるまでカーグランドは超情弱!!


 いや密偵はちゃんといるんだけど、フィンスターが有能すぎてフィンスターなしでは生きていけない!


 どれだけ頼ってたかが良くわかる!!



 しかも使用人も居なくなってたからギルヴィードおじ様とそれにべったりのリルム二人のお世話をする人がおらず、長年勤めていて口の固いメイド長に部屋に入ってもらい、他言無用と銘打って世話してもらった。


 メイド長にはメルフィアちゃんが誰と誰の子かバレバレだろうな……。


 ギルヴィードおじ様もどこか上の空だし……


 もう私がハラハラしてしまった。



 そのギルヴィードおじ様だが、今は王宮に行っていて、いない。


 最近は一人でベルドリクス領へ両親に会いに行ったり、ゼルギウス陛下と密談したりと色々戦後の調整をしているようだった。ちゃんと仕事しているようでなによりだ。


 神獣がカーグランドにいるということで、やっぱりクレルモンフェランがいちゃもんをつけてきたりしていたし、それに対しての返事とかもあるだろう。



「大体はギルヴィードさんに指示されて調べに行ってますがマリアさんは気になるところはありますか?」


「えっと、まずはヴァンデミーアの近況とか……」


「今はボロボロみたいですね。責任の擦り付け合いがおきてます。国内はかなり荒れてて、内乱すら起きそうなので、もうカーグランドどころじゃない状況です」



「ノアストティは……」


「戦犯を零番隊に擦り付けられないようにノアストティが巧みに逃げている状態ですね。貴族内の争いで、かなり立ち位置に困っている感じです。同じくサキュバスどころじゃない状況ですね」


 貴族の相手となると平民集団の零番隊では相手をできるのはノアストティしかいない。


 上記の理由で多忙なので、ノアストティがこちらに向くことはないとのこと。



「零番隊も無事だといいけど……」


「……マリアさん。零番隊は戦争していた敵なんですよ」


 聖女然とするのは結構ですが、相手を考えて下さいと真剣な声色のフィンスターに叱られる。


 もっともな意見にすみません……と謝るしかない。



「……零番隊はヴァンデミーアに魔物が大量発生しているらしく、その掃討に駆り出されています」


 やっぱり魔物が出るのには負の感情と関係性があるんだろうな。



「サキュバスの秘密もバラされていない感じ?」


「そうですね。零番隊の中でもかなり上層部しか知らないようです」


 ああ~~~~~これこれ!


 まるでググるかの様にフィンスター先生で検索している気分になる。



 この情報を一気に読み取り記憶できる『人々を見守る神獣』ってホントチート……。



 そのフィンスター先生は現在MP回復の為に、本体は子犬状態のまま愛しのリルムちゃんのお膝の上に乗せてもらいゴロゴロとしていた。


 子犬状態だと思ったよりリルムに可愛がってもらえると学習してしまったのだろう、お膝に乗ったり抱き着いたりペロペロしたりやりたい放題だ。おい神獣。



「起き抜けで申し訳ないんだけど、ヴァンデミーアのマーカチス侯爵家のことも見ておいてくれないかな」


「ああ、前からマリアさんが気にかけていたヴァンデミーア貴族ですね」



 ヴァンデミーアが大敗した今、多分ヴァンデミーアは多かれ少なかれ荒れるだろう。


 先程聞いたフィンスター情報でも内乱とか物騒なワード出てたしね。


 斥候役としても工作兵としても優秀で引っ張りだこなフィンスターに更に頼むのは忍びないのだが、戦争に負けたヴァンデミーアがどう動くのか未知数だ。


 万が一悲惨なことになる前に、マーカチス家族の動向は把握しておくべきだろう。



 仕事に徹して口にはしないがレヴィンも心配してるだろうし。


 原作ゲーム『聖女勇者』ではシステムと容量の都合上、リーベが仲間に入らなければレヴィンはマーカチス家のマの字も出さない寡黙な仕事人。傭兵らしからぬヒロインを気遣う繊細な気配りがギャップ萌えなのだ。


 粗雑な傭兵の見た目で一流貴族の護衛騎士並の扱いが出来るって、いいよね……。



 そんな萌えだったりお助けキャラシステムの製作側の都合でリーベの護衛だった設定になったのだが、ここは現実。


 レヴィンがマーカチス侯爵家を愛しているのは紛れも無い真実なのだ。



「ってそのレヴィンは今どこにいるの!?」


「レヴィンさんならブリザベルト様に気に入られてベルドリクス領に連れていかれてますよ」


「いつの間に!?」


 レヴィンの何が大物貴族を惑わすんだ!?


 アニキ!? アニキなのか!?






 戦争に勝って、カーグランドはお祭りムードだ。


 上層部はカーグランドの民達に勝利を宣言し、説明する凱旋報告式……という殆ど祭の調整でてんやわんやしてる。


 ギルヴィードおじ様もその調整で色んな場所を飛び回ってる状態だ。


 確かに大きい戦だったし、どう民に説明するかは悩むよね。



 流石に少女の私が口を挟むことも出来ないし、そもそも外交とか国の体勢とか難しいことはちんぷんかんぷんだ。


 大人しく沙汰を待ってる間、私に出来る事は……



「やっぱりマーカチス侯爵家を助けることだよね」


 ヴァンデミーアにいる主要キャラクターは他国より多いのだが、零番隊は仲間に出来るキャラクターではなかったのでスカウトするタイミングが難しい。


 それと同時に、我がベルドリクス家……ひいてはカーグランドに一番手痛い一撃を与えている零番隊副隊長ノアストティを仲間にしたいなど、言える雰囲気じゃない。


 フィンスターにノアストティを気にかけるような台詞を言うだけで絶対零度の冷たい目が飛んでくるのだ。


 リルム誘拐の件だけじゃなく戦争を仕掛けた黒幕や、シグルド派閥をけしかけたのもノアストティであり、着々と仲間フラグを折り敵キャラの様相を見せてきている。



 今現在は内の敵に手一杯なようだし打つ手がない零番隊は置いておいて、リーベ=マーカチスからどうにかしてしまおう。




 とは言ってもいつもの頼れるメンバーは大忙しだ。



 ザックベルの無事生き残った兵は全員癒してザックベルに送還した。


 そんなわけでエリウッドはもういないのだが……ギルヴィードおじ様も忙しそうだし、リルムも情報主力のフィンスター先生のMPが回復しきってないので付きっきりで一緒にいてもらわないといけないので無理。


 え? シャルル? シャルルは今からあんまり能力値も伸びない3レベルで育てるのはちょっと辛……ごほんごほんっ!


 凱旋報告式の舞台設備とかの仕事も頼まれてるみたいだし、個性を伸ばしてくれればいいんじゃないかな!!


 シャルルたんは危ない事したらダメだってゲルベルグさんもいってたから! ね!



 となると、頼りになるのはカムイなのだが―……




「もう俺は、姫にお会いする顔がありません……っ!」


 猛省しすぎていた。



「姫を信じ切れず、注意が散漫になり、ギルヴィード様を危機に追いやるなど……!」


「誰もカムイのせいだなんて思ってないから大丈夫だよ!」



 そもそもギルヴィードおじ様がリルム可愛さにバリアをリルムに張ってやられたから、らしいじゃないの。


 無事生きてたわけだしリア充が爆発したと思ってくれればいいんだよ。


 さすがにそれは言えないけど。






 そのカムイだが、今回の活躍や諸々を加味して土地なしではあるがカーグランドでも貴族の位を授与され、貴族として扱ってもらえる運びとなった。


「そ、そんな。今回この様な失態を犯したのにそのような誉れ、頂けません」


 そう委縮するカムイだったがギルヴィードおじ様は「これは決定だ」と返した。



「活躍もそうだが、カーグランドの猛者として知名度が高いからな。それがいつまでも平民扱いじゃカーグランドの評判にも関わる」


「ブロマイドの効果で全国区ですからね」


 追撃とばかりにリルムちゃんのお膝の上からフィンスターが話すとカムイはビクリと震え「そのようなつもりで被写体になったわけでは……」と更に委縮した。



「どうであれカムイの頑張った結果だよ。堂々と受け取っていいんだよ」


「姫……」


 私は出来る限り優しく笑い、心配ないよとカムイを元気づけた。



「それにヒューガ国との友好もある」


 ヒューガ国……カムイの居た国だ。


「カムイがカーグランドで第一線を張って評価されればヒューガ国との関係性は良くなるだろう」


 カムイがヒューガ国出身ということで私に擦り寄ってくるヒューガ貴族は正直かなり多い。



 お国柄なのか、ヒューガ国民はどこに移民してもヒューガ国民という意識があるのか、カムイをヒューガ国民として扱うヒューガ貴族も多かった。


 気にするだろうからカムイには教えてないけど。


 そもそも和装が似合うからって理由でカムイに和装(ヒューガ)に寄せた鎧を作らせたのは私だからね。



「………………」


 カムイは黙った。


 ヒューガ国にあまりいい思い出はないだろう。



「――……おじ様、カムイが表彰されるにあたってお願いがあるのですが……」


「姫……?」


 皆がキョトンとする中で、私は話し始めた……。










 称号が授与されると発表になった当日――。


 女性のアイドル的存在であるカムイが遂にカーグランドの貴族になるということで、涙する平民の女性たちやチャンスがあると意気込む貴族女性……十人十色な感情が渦巻いていた。


 授与式は凱旋報告式の際にやるということでまだ貴族ではないが、確定事項として新聞は号外を出して大賑わいだった。


 凱旋報告式、すぐやりたいらしいんだけどまだ色んな調整があって無理らしい。


 大人の事情ってやつだ。



「その前に明るい話題を小出しにして盛り上げとこうってことなのかな」


「大勝したのにその勝った報告や式典が開かれないのは民も不安になりますからね」


 まだ本調子ではないフィンスターは子犬姿でリルムにベッタリだ。



「そーゆーモンなのか」


 リルムは子犬のフィンスターを膝の上に乗せてモフりながらいつもの調子で人の世を不思議がった。



「マリアさんの狙い通り、カムイさんにインタビューしたいって各国のマスメディアの方たちがアポイントを願いに来てますよ」


「ありがとうフィンスター。一週間後カムイと私で会見をするから、他の来てないマスメディアの人にも伝えてくれる?」


「了解です」


 フィンスターはシュンと影を飛ばしてリルムちゃんのお膝を堪能していた。



「姫……」


 心配そうに私を見つめてきたカムイにしっかりと答える。


「カムイ、私もいつかはやりたいと思っていたの。そしてそれは今が一番のチャンスだよ」


 実年齢ではカムイより年上なのだ。こういう時くらいしっかりしなくては。






 一週間後、フィンスターに伝えた通り、各国のマスメディアの方々が集まってくれた。



「――……多っ!!」



 思った以上に多い。


 開く予定だった会館のホールにいっぱいの人だ。



 遠くの国の人も魔伝書鳩で見て急いできたのだという。


 それだけカムイが全国区だということだ。



 えっ、マジなの? こんなところで会見するの?


 流石に私は青褪めた。



「……姫、大丈夫ですか?」


 カムイにカッコイイとこを見せようと思ったのに逆に心配されてる!


「だ、大丈夫だよ! バッチリ決めてやろうね!」


 私がカチカチになりながらグッと親指を出すとカムイが苦笑してくれた。




「お集まりいただきありがとうございます。わたくし、マリア=ベルドリクスと申します」


「おぉ……! 聖女様だ……!」


「聖女様……!」



 遠くの国の人からみたら聖女も珍しいのだろう、様々なところから声が上がった。


「この度、わたくしの護衛を務めてくれているカムイが貴族の称号を授与される運びとなりました。それについてのご報告に集まって下さり感謝に堪えません」


 カムイはいつものように私の横に立ったまま待機している。


 こういう主張は上司である私から言ったほうが説得力があるからだ。



「――それに及びまして、カムイがわたくしの元で護衛になるまでのお話を、お話ししようと思います」

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